- 近い将来、事業承継税制を使って息子に事業を継がせる予定。手続きはどうやってやればいい?
- 手続きの大まかな流れやかかる期間について知りたい。
- 税理士に依頼したら税理士報酬はどのぐらいかかる?費用相場は?
事業承継税制は、事業を後継者に引き継ぐときに発生する贈与税や、相続税の負担を大幅に減らすことができる制度です。
節税メリットの極めて大きい制度である一方で、事業承継税制を利用するための手続きはとても複雑で、手続きを利用するためには時間がかかります。多くのケースで、税理士などの専門家のアドバイスを受けながら手続きを進めていくことになるでしょう。
この記事では、事業承継税制の手続きの流れについて簡単にわかりやすく解説するとともに、税理士に対して支払う必要のある税理士報酬の費用相場について紹介いたします。これから後継者への事業承継を検討しているオーナー経営者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
1、事業承継の2つの方法
事業承継税制は、現在の経営者が持つオーナー株式を、後継者となる経営者に渡す場合に発生する税金を猶予してもらえる制度です。
オーナー株式を後継者に渡す方法には、「贈与」と「相続」の2つの方法があります。
「贈与」は生前に渡す場合で、「相続」は亡くなったと同時に渡す方法です。
いずれの場合も手続きの流れはほぼ同じですが、申告の期限が異なりますので、注意しておきましょう。
2、事業承継税制の手続きの流れ
事業承継税制の手続きの流れをおおまかに説明すると、以下のようになります。
- 特例承継計画を作成する
- 認定経営革新支援機関に所見を記載してもらう
- 贈与を行う
- 都道府県に対して認定の申請を行う
- 税務署で贈与税の申告を行う
- その後5年間は毎年報告を行う
- 6年目以降は、3年に1回税務署に継続届出書を提出する
それぞれの手続きの内容について、順番に解説いたします。
(1)特例承継計画を作成する
事業承継税制によって贈与税や相続税の猶予措置を受けるためには、まずは「特例承継計画」を作成する必要があります。
※事業承継税制には厳密にいうと「一般措置」と「特例措置」の2種類があるのですが、事業承継税制の手続きを行う場合には、より有利な扱いとなる「特例措置」の適用を目指すのが一般的です。
特例承継計画には、以下のような項目を記載して作成します。
- 会社の事業内容や従業員数について
- 特例代表者について
- 特例後継者について
- 承継までの経営計画について
- 承継後5年間の経営計画について
特に、承継後5年間の経営計画については、かなり具体的な実施内容を記載する必要があります。1年目の経営計画・2年目の経営計画…といったように、後継経営者としてどのような施策を実行していく予定であるのか記載しなくてはなりません。
事業承継税制の利用にあたっては、従業員の雇用を事業承継後5年間にわたって8割以上維持するという要件があります。都道府県側に「この経営計画なら雇用維持の要件を満たせる」と判断してもらえるだけの具体的な内容が必要になります。金融機関からの融資を受ける時と同様に、相手を説得するつもりで詳細な内容を記載するようにしましょう。
難しいと感じる場合には、必要に応じて顧問税理士その他の専門家からアドバイスを受けるようにしてください。
(2)認定経営革新支援機関に所見を記載してもらう
特例承継計画には、「認定経営革新支援機関」に所見を記載してもらう必要があります。
認定経営革新支援機関というのは、商工会議所などの経営支援団体のほか、地域の金融機関、税理士や公認会計士・中小企業診断といった専門家が含まれます。
中小企業経営者であれば、税務顧問を依頼している税理士や公認会計士に依頼するのが便利でしょう(所見記載や相続税・贈与税申告書作成については、通常の顧問料や決算料と別料金となっているのが普通です)
(3)贈与実行または相続発生
特例承継計画の前後において、贈与や相続によってオーナー株式の所有権移転が行われます。
贈与の場合には時期を任意に選択することが可能ですが、相続の場合には予期しない時期に経営承継が必要となるケースもあるでしょう。
特例承継計画には「株式を承継する時期(予定)」についての記載項目がありますので、相続または贈与が発生した具体的な時期について記載します。
なお、贈与については必ず贈与契約書を2通作成し、贈与を行う人(現経営者)と贈与を受ける人(後継者となる経営者)の双方で保管しておくようにしましょう。
贈与契約書には贈与対象物の金額に応じた収入印紙の貼り付けを行い、署名捺印は印鑑登録を行った実印で行うのが適切です。
契約の客観性をより高めるなら、公正証書のかたちで贈与契約書を作成しておくのもおすすめです。
(4)都道府県に対して認定の申請を行う
特例承継計画の作成が完了し、贈与や相続が実行されたら、都道府県庁に対して事業承継税制の認定申請を行います。
認定申請の期限は、贈与・相続の場合でそれぞれ以下の通りです。
- 贈与の場合
贈与を行った年の10月15日〜翌年1月15日が期限
- 相続の場合
相続が発生した日の翌日から起算して8ヶ月以内
認定の申請にあたっては、上で作成した特例承継計画を添付します。
都道府県で審査が行われ、問題がなければ「認定書」が交付されます。
(5)税務署で贈与税または相続税の申告を行う
都道府県に対して事業承継税制の認定を行った後、税務署に対して贈与税または相続税の申告を行います。
税務署に対して提出する贈与税または相続税の申告書には、都道府県から交付を受けた事業承継税制の認定書の写しを添付しなくてはなりません。
贈与の場合、申告期限は贈与が行われた日の属する年の、翌年2月1日〜3月15日が期限になります。
例えば、2020年8月1日に贈与を行った場合には、2021年2月1日〜3月15日のタイミングで申告を行います。
相続の場合、相続税の申告期限は相続発生から10ヶ月以内です。
相続税の申告を行うためには、その前提として遺産分割が適切に行われている必要があります。
遺産分割は遺族全員の同意のもとに遺産分割協議書を作成するか、遺言の執行によって行います。亡くなった人が作成した遺言書がある場合には家庭裁判所で検認の手続きも必要になります。
事業承継税制がからむ相続税申告は手続きのスケジュールがかなりタイトになりますから、可能な限り早いタイミングで専門家に相談を行うようにしましょう。
(6)その後5年間は毎年報告を行う
贈与税または相続税の申告が完了した後は、毎年、事業承継税制の適用要件を満たしているかどうかを役所に対して報告しなくてはなりません。
ここで行う「報告」とは、以下の2つです。
- 都道府県に対して「年次報告書」を提出する
- 税務署に対して「継続届出書」を提出する
それぞれ年に1回、下記の申告期限に間に合うように提出を行いましょう。
- 年次報告書(都道府県)
「報告基準日」の翌日から起算して3ヶ月以内
- 継続届出書(税務署)
「第一種基準日」の翌日から起算して5ヶ月以内
第一種基準日というのは、相続税や贈与税の申告期限の翌日から起算して、1年が経過する日のことをいいます。つまり、法人税や消費税の申告を毎年行うのと同じように、毎年事業承継税制に関する報告を行う必要があるということです。
①年次報告を怠ったらどうなる?
もし、これらの報告を怠ってしまった場合には、提出期限の翌日から2ヶ月以内に、納税猶予を受けていた贈与税または相続税を納税しなくてはならなくなります。
本来の納税期限日を起算日とする利子税も負担する必要がありますから、これは相当に大きな負担です。注意しておきましょう。
②雇用維持に関する報告について
事業承継税制の適用要件として、「従業員の雇用を5年間にわたって8割以上維持する」ことがあります。
事業承継後5年間の間に、もしこの要件を満たすことが難しくなったときには、「実績報告」を作成して都道府県に提出し、認定支援機関の指導助言を受ける必要があります。
最終的に都道府県知事からの確認書の交付を受けることができない場合、贈与税や相続税の納税猶予が継続できなくなる可能性が考えられますから、注意が必要です。
(7)6年目以降は、3年に1回税務署に継続届出書を提出する
5年間の事業継続期間が完了したら、その後は3年に1度の頻度で税務署に対して「継続届出書」の提出が必要です。
なお、これ以降は都道府県への報告は必要ありません。
3、誰に相談すべきか?
事業承継税制を利用する場合、多くのケースで専門家の支援を受けることになります。
事業承継税制についての相談ができる専門家としては、以下の2つが考えられるでしょう。
- 資産税対策が専門の税理士
- M&A仲介会社
それぞれの専門家を選ぶ時のポイントについて、順番に紹介していきます。
(1)税理士
中小企業の経営者であれば、多くのケースで経理や税務の顧問になってもらっている税理士がいるでしょう。
しかし、すべての税理士が事業承継その他の「資産税対策」を専門にしているわけではありません。
顧問税理士は自社の業務実態についてよく把握しているので安心感がありますが、必ずしも資産税の専門家ではない可能性があります。
資産税に関する分野は、税理士にとっても専門分化が進んでいる業務分野ですから、税理士によっては相談を扱っていなケースがあるのです。
また、事業承継税制は比較的最近になってから始まった制度ですので、手続きを実際に代行した実績のある税理士は、残念ながらまだ多くないというのが現実です。
事業承継税制について税理士に相談する場合には、必ず贈与税対策や相続税対策を専門で扱っている税理士を選択するようにしましょう。
(2)M&A仲介会社
一方で、M&A仲介会社は企業の買収や承継といった法的手続きを専門で扱っている会社です。
こちらは弁護士や公認会計士といった法律資格を持った人が扱っているケースが多いですね。税理士と比較すると料金が高額になる傾向があります。
もっとも、近年では格安で仲介を行う業者も増えてきていますから、両者の差は縮まっているのが実情でしょう。
M&A仲介会社は事業の売却や買収についてのノウハウを多く持っていますので、事業承継後の経営コンサルティングを合わせて提供している会社もあります。
事業承継にあたってどこまでのアドバイスを期待するのか?によって、税理士に相談するか、M&A仲介会社に相談するかの判断を行うようにしてください。
いずれにしても、複数の業者に対して見積もりを依頼した上で、具体的にどのようなサービスの提供を受けられるのかを把握しておくのが適切といえるでしょう。
4、費用はいくらかかる?
上で紹介したいずれの専門家に依頼する場合にも、専門家に対して手続きを代行してもらうための費用が必要です。
専門家に対して支払う費用は、単純に手続きの代行だけを依頼するのか、事業承継後の経営者に対するコンサルティング業務まで依頼するのかによって大きく異なります。
事業承継を行う企業の規模や業種によっては複雑な手続きが必要となるケースもありますから、複数の専門家から見積もりをとって具体的な金額を提示してもらうのが良いでしょう。どこまでの手続きを代行してくれるのか、どこまでが固定費用で、どこまでが成功報酬となるのかについてもよく確認するようにしてください。
特例承継計画の作成や、認定経営革新支援機関としての所見記載のみを依頼した場合には10万円〜30万円程度で済むこともあるでしょう。
一方で、総合的なコンサルティングまで依頼する場合には、数百万円単位の料金が発生することもあり得ます。
いずれのケースでも重要なことは、費用に見合ったリターンを見込めるかどうかです。
単純に手続きの完了だけを期待する場合には格安料金のところを探すのが良いですが、事業承継をきっかけに経営のあり方も見直したい場合には、コンサルティングの利用も検討してみる価値があります。
まとめ
今回は、事業承継税制の手続きの流れと、かかる費用相場について解説いたしました。
事業承継税制を利用にあたっては複雑な手続きが必要になりますが、適用が認められれば、後継者となる経営者が負担する税金を大幅に減らすことが可能となります。
ただでさえ困難なことの多い事業承継直後に、高額な税金をキャッシュで納めなくてはならないのは大変な負担です。スムーズな経営引き継ぎを行うために、ぜひ事業承継税制の活用を検討してみてください。