「養育費の取り決めは公正証書に残しておくべき!」
この記事をお読みの方は、このような話を聞いたことがあるのではないでしょうか。
離婚後の子どもの養育費は(元)夫婦間の話し合いで決めることができますが、口約束だけで済ませると後で不払いになるケースが多々あります。
しかし、約束した内容を公正証書(執行認諾文言付き)に残しておけば、不払いになった場合には裁判をすることなく強制執行手続きにより相手の財産を差し押さえて養育費を回収することが可能になります。
ただ、養育費の取り決めを公正証書にするには、書き方や作成費用をはじめとして事前に知っておくべきポイントがいくつかあります。
そこで今回は、
- 養育費の公正証書の書き方と作り方
- 養育費の公正証書の作成にかかる費用
- 養育費の公正証書を作成する際の注意点
などについて、離婚手続きに精通したベリーベスト法律事務所の弁護士が分かりやすく解説していきます。
この記事が、養育費の不払いが心配で公正証書の作成をお考えの方の手助けとなれば幸いです。
養育費の基本については以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、養育費の取り決めを公正証書にすべき理由
養育費の取り決めを公正証書にすべき理由は、そうすることで以下のように大きなメリットが得られるからです。公正証書を作成することで得られるメリットを順に確認していきましょう。
(1)合意したことの証拠となる
当事者間の話し合いで養育費を取り決めても、口約束だけで済ませると後で相手から「そんな約束はしていない」、「気が変わった」などと言われて不払いになるケースが多々あります。
約束内容を離婚協議書や合意書にしておけば証拠となりますが、当事者間で作成した書面は内容が曖昧であったり不十分であったりすることも多いため、後日のトラブルを避けられないことも少なくありません。書面を紛失してしまうこともあるでしょう。
その点、公正証書は公証役場で作成される公的書面なので、信用性の高い証拠となります。公証人が正確かつ明確な文言で記載し、当事者の面前で内容を確認しながら作成するため、「言った・言わない」というトラブルを回避することができます。
また、公正証書の原本は公証役場に20年は保管されるので、紛失するおそれもありません。
合意したことを公正証書にすることで、強力な証拠となります。
(2)養育費の確実な支払いが期待できる
養育費の取り決めを公正証書にしておくと、格式のある公的書面を作成したという事実と、約束どおりに支払わなければ強制執行をされるというプレッシャーから、相手に与える心理的拘束が強くなります。
そのため、口約束だけの場合や、当事者間で離婚協議書や合意書を作成しただけの場合よりも養育費の確実な支払いが期待できます。
(3)相手が支払わないときは強制執行ができる
もし、相手が約束どおりに支払わない場合には、公正証書をもって強制執行の手続きができます。
公正証書を作成していなければ、家庭裁判所へ調停または審判を申し立てて養育費を取り決めた上でなければ強制執行はできません。公正証書がある場合には調停や審判をすることなく、すぐに強制執行の手続きに移れるのです。
公正証書で強制執行を申し立てるためには、まず、その公正証書を作成した公証役場で公正証書の「正本」を取得します。通常、公正証書の作成時に当事者に「謄本」が交付されますが、これでは強制執行の申立はできません。必ず正本を取得しましょう。
次に、取得した正本に公証役場で「執行文」を付与してもらう手続きを行います。執行文とは、「債権者は、債務者に対し、この公正証書によって強制執行をすることができる。」という文言のことです。執行文は申請しなければ付与されませんので、この手続きも必要となります。
そして、執行文が付与された公正証書正本を公証役場から相手方へ送達してもらい、「送達証明書」を発行してもらいます。送達証明書も申請しなければ発行されませんので、必ず申請しましょう。
以上の準備ができたら、必要な書類を揃えて地方裁判所へ強制執行の申立を行います。
必要な書類は、以下のとおりです。
- 債権差押命令申立書
- 当事者目録
- 請求債権目録
- 差押債権目録
養育費の強制執行の手続きについては、こちらの記事で詳しく解説していますので併せてご参照ください。
(4)財産調査の手続も利用できる
強制執行を申し立てるためには、差し押さえるべき財産を特定しなければなりません。しかし、相手の財産が分からないという場合も多いことでしょう。その場合には、裁判所を通じた財産調査手続を利用します。
裁判所を通じた財産調査手続きは、以前は使いにくいものでしたが、法改正によって2020年4月以降は使いやすくなっています。
具体的には、相手方から裁判所へ財産を開示させる「財産開示手続」は、以前は裁判所の調停や審判、裁判で債権が確定した場合にしか利用できませんでした。しかし、現在では公正証書で養育費の合意をした場合でも利用できるようになっています。
また、裁判所が役所や法務局、金融機関などから相手の財産に関する情報を取得できる「第三者からの情報取得手続」も新設されました。この手続きを利用することによって、相手の勤務先や所有不動産、銀行口座や有価証券などを調べることが可能です。
これらの手続きを活用して相手の財産を突き止めた上で、強制執行によって養育費を回収しましょう。
2、養育費の取り決めを公正証書にすることにはデメリットもある
一方で、養育費の取り決めを公正証書にすることには以下のようなデメリットもあります。事前に頭に入れておきましょう。
(1)費用がかかる
まず、公正証書を作成するには手数料がかかります。具体的な金額は後ほど「5」でご説明しますが、最低でも数万円はかかるとお考えください。
この費用をどちらが負担するかも相手と話し合わなければなりません。相手が負担を拒否する場合は、ご自身で負担しなければならないこともあります。
(2)手間がかかる
公正証書の作成には、意外に手間がかかります。
相手との話し合いで養育費を取り決めた後、文面を検討し、公証役場に予約を取った上で公証人と事前の打ち合わせを行い、その上で当事者双方が公証役場へ出頭する必要があります。
(3)2人で公証役場に出頭する必要がある
公正証書を作成する際は、当事者双方が公証役場に出頭して、公証人の面前で公正証書の内容を確認する必要があります。つまり、離婚した相手と同席しなければならないということです。
もっとも、弁護士などに公正証書の作成を依頼すれば、代理人が出頭することによって公正証書を作成することも可能です。この場合には、事前に公正証書の文面をしっかりと固めておき、間違いがないことを確認しておくことが重要となります。
3、養育費の公正証書の作り方
それでは、養育費の公正証書の作り方を解説していきます。
(1)まずは話し合いで養育費を取り決める
まず前提として、公正証書に書くべき内容を決めなければなりません。相手との話し合いによって、養育費を取り決めることになります。
金額はお互いが合意すれば自由に決めることができますが、養育費には相場がありますので、相場を参照して適切な金額に決めるようにしましょう。
(2)公正証書に記載する内容
養育費について公正証書に最低限記載すべき内容は、以下のとおりです。
- 1ヶ月あたりの金額
- いつからいつまで養育費を支払うのか
- 振込口座
- 振込手数料をどちらが負担するか
- 強制執行認諾文言
強制執行認諾文言とは、債務者(養育費の支払義務者)が、もし約束どおりに支払わない場合には強制執行手続きに服することを認める旨の文言のことです。この文言が記載されていなければ、その公正証書では強制執行を申し立てることができません。
その他にも、まだ子どもが幼い場合で、後に増額を予定している場合にはその旨も記載しておいた方がよいでしょう。この場合、「必要に応じて別途、誠実に協議する」と記載するのが一般的です。
離婚協議書を公正証書で作成する場合には、
- 離婚の合意
- 慰謝料
- 財産分与
- 親権
- 面会交流
- 年金分割
など、養育費以外の離婚条件も記載するのが一般的です。もっとも、親権や面会交流などについては公正証書で取り決めても強制執行ができるわけではありません。そのため、公正証書に記載するのは金銭に関する事項だけでも構いません。
(3)公正証書の書き方【雛形付き】
ご参考までに、養育費の取り決めを公正証書に記載する際の雛形をご紹介します。
もっとも、公正証書は公証人が作るものですので、完璧な文面を作成する必要はありません。公証人との打ち合わせに備えて、下書きを作ることになります。
養育費に関する条項は、一般的に次のように記載します。ご自身のケースに応じてアレンジしてご使用ください。
第〇条(養育費) (1)甲は乙に対し、丙の養育費として、令和〇年〇月から同人が満20歳に達する日の属する月まで(ただし、丙が大学等の高等教育機関に進学した場合は令和〇年3月まで)、毎月末日限り、金〇万円を、乙の指定する銀行口座(△△銀行・△△支店、普通、口座番号×××××××、口座名義〇〇〇〇)に振り込む方法により支払う。振込手数料は甲の負担とする。 (2)甲と乙は、丙が高校、大学等に進学した場合の入学金、授業料等の学費の負担、病気、事故等による特別の負担については別途、誠実に協議するものとする。 |
この文面において、「甲」は養育費の支払義務者である元配偶者、「乙」は養育費の請求者であるあなた、「丙」は未成年の子どもを指します。
強制執行認諾文言については、公証人が定型の文章を記載しますので、特に下書きを準備する必要はありません。
なお、養育費以外の離婚条件も盛り込んだ離婚協議書の雛形はこちらの記事からダウンロードできますので、ぜひご利用ください。
(4)公証役場の予約をとる
以上の準備ができたら、公証役場の予約をとります。いきなり公証役場へ出頭しても対応してもらえませんので、予約が必要です。
養育費や離婚協議書の公正証書は全国どこの公証役場で作成しても構いませんので、お近くの公証役場へ電話やメールで予約をとるとよいです。
(5)公証人と面談して打ち合わせを行う
予約をとった後、実際に公正証書を作成する前に公証人と面談して打ち合わせを行います。
この打ち合わせにおいて公正証書の文面の素案が固められますので、(3)で作成した文面を持参しましょう。
打ち合わせでは、公証人から参考のためにさまざまな事情を聞かれることがあります。しかし、これは正確な公正証書を作成するために質問されるだけです。公証人が「養育費の金額は〇万円にした方がいい」「子どもが大学を卒業するまで養育費を求めた方がいい」といった内容面のアドバイスをしてくれることはありません。
内容に不安がある場合は、事前に弁護士に相談して検討しておくべきです。
(6)当事者双方が出頭して公正証書を作成する
打ち合わせが終了したら当事者が出頭する日時が指定され、その日時に当事者双方が出頭します。
公証人が当事者それぞれに対して最終の意思確認を行った後、公正証書を記載し、当事者の面前で文面を読み上げます。
当事者双方が内容に間違いがないことを確認したら、それぞれ署名押印をします。最後に公証人が署名押印をして、公正証書が完成します。
通常、当事者にはその場で謄本が交付され、原本は公証役場で保管されます。
4、養育費の公正証書を作るベストなタイミングは?
養育費の公正証書をいつ作ればよいのかという疑問をお持ちの方もいらっしゃることでしょう。
理想としては、離婚前に作成することです。離婚前に夫婦間で養育費を取り決めて、離婚協議書を公正証書で作成し、その後に離婚届を提出するという流れがベストです。
もっとも、公正証書は離婚後に作成することもできます。養育費の取り決めをせずに離婚してしまった方や、相手のDVやモラハラから逃れるために公正証書を作らず離婚を優先させた方も、心配はいりません。
ただ、取り決めをする前の過去の養育費は請求できませんので、離婚後は早めに養育費を取り決めて公正証書にした方がよいでしょう。
5、養育費の公正証書を作成するためにかかる費用
次に、養育費の公正証書を作成するためにどれくらいの費用がかかるのかをご説明します。
必要な費用としては、公正証書の作成そのものにかかる費用と、弁護士に依頼する場合の費用の2種類があります。
(1)公正証書の作成そのものにかかる費用
公正証書を作成する際には、公証役場へ手数料を支払わなければなりません。手数料は、以下の表のように公正証書に記載する法律行為の目的価額に応じて定められています。
目的価額 | 手数料 |
100万円以下 | 5000円 |
100万円超~200万円以下 | 7000円 |
200万円超~500万円以下 | 11000円 |
500万円超~1000万円以下 | 17000円 |
1000万円超~3000万円以下 | 23000円 |
3000万円超~5000万円以下 | 29000円 |
5000万円超~1億円以下 | 43000円 |
養育費の場合は、取り決めた養育費の総額が目的価額となりますが、支払い期間が10年を超える場合には10年分の金額で手数料を計算します。
例えば、養育費の金額を月5万円と取り決めた場合、10年分の金額は600万円です。したがって、手数料は1万7000円となります。
強制執行を申し立てる際には、このほかに「執行文の付与」「正本の送達」「送達証明書」などで合計5000円程度が必要なります。
そのため、公正証書の作成費用としては数万円かかると考えておくとよいでしょう。
(2)弁護士に依頼する場合の費用
養育費の合意書あるいは離婚協議書の公正証書の作成のみを弁護士に依頼する場合の費用は、5万円~10万円程度が相場です。
ただし、公証役場へ出頭する際の日当としてさらに3万円~5万円ほどかかる事務所もあります。
公正証書の作成だけでなく、離婚そのものを弁護士に依頼した場合にはさらに費用がかかります。
具体的な金額は事案の内容や依頼する弁護士によっても大きく異なりますが、おおまかな相場としては、協議離婚の場合で
- 着手金として20万円~30万円程度
- 報酬金として20万円~30万円程度
でしょう。
弁護士費用は依頼する弁護士によって大きな幅がありますので、複数の事務所に相談して見積もりを取り、比較することをおすすめします。
6、養育費の取り決めを公正証書にするときに注意すべきポイント
養育費の取り決めを公正証書にするときには、他にも注意すべきポイントがいくつかあります。ここで、まとめて解説します。
(1)記載事項に不備がないか?
記載事項に不備があると、せっかく公正証書を作成しても強制執行の申立てができません。
よくあるのが、「子どもが高校に進学したら養育費を増額する」といった抽象的な記載です。この文言では実際に子どもが高校に進学しても、いくら増額するのかが具体的に取り決められていないため、強制的に増額を求めることはできません。
子どもが小さい場合には、将来の増額については「別途、誠実に協議する」としておくのが一般的ですが、数年後に進学を控えているような場合には、いつからいくら支払うのかを明確に特定しておいた方がよいでしょう。
例えば、「子どもが高校に進学した場合は、令和〇年4月から月〇万円を支払う」というように、具体的に取り決めましょう。
(2)公正証書の作成後に内容の変更はできない?
いったん公正証書を作成すると、原則として訂正はできません。明らかな誤記や脱字については訂正可能な場合もありますが、内容を変更することは認められていません。
養育費の金額を増額または減額したり、支払い期間を延長または短縮するなどといった内容の変更を求めたい場合は、相手と再度協議をした上で、新たに公正証書を作成することになります。
公正証書を作成する際には、取り決めの内容を事前に再度確認した上で、公証人の面前でも内容をしっかりと確認することが大切です。
(3)取り決めた内容は適正か?
「早く離婚したい」「早く養育費を支払ってほしい」という気持ちにとらわれていると、不利な条件で取り決めた内容で公正証書を作成しかねません。実際のところ、相場よりも低い金額で養育費が取り決められているケースは多々あります。
公正証書を作る前に、誤字や脱字のチェックだけではなく、内容面でも本当に納得できるのかをしっかりと検討しておく必要があります。
7、養育費の取り決めを公正証書にするなら弁護士へ相談を
養育費の公正証書の作成はご自身でも可能ですが、後悔しないためには弁護士に相談することをおすすめします。
プロの弁護士に見てもらえば、取り決め内容が適正かを的確に判断してもらえます。もし適正でなければ、相手方との再交渉も依頼できます。
適正な内容で養育費の取り決めができたら、公正証書の下書きの作成や公証人との面談も弁護士に代行してもらえますので、正確な公正証書の作成が可能になります。
公証役場へは弁護士が代理人として出頭してくれるので、相手方と顔を合わせる必要もありません。
弁護士のサポートを受けることで、安心して養育費を獲得することが可能となるでしょう。
まとめ
離婚後に子どもを育てていくためには、(元)配偶者から養育費を支払ってもらうことがとても大切です。
相手と養育費を取り決めたら、確実に支払ってもらうために、ぜひとも公正証書を作成してください。
分からないことやお困りのことがある場合は、弁護士に相談してプロのサポートを受けましょう。