「転売ヤー」という言葉をよく目にするようになりました。マスクや消毒用アルコールがメルカリで高額で取引され、社会問題になったことは記憶に新しいところです。転売は、なにやら儲かるらしいけれど、悪者扱いされているし、やっていいかどうかわからないという方も多いのではないでしょうか。
そこで、今回は
- 転売の違法性について
- 転売に関係する法令について
- 安全に転売を行うための注意点
などを中心に、実際に転売で違法とされた事例なども取り上げてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説していきます。
不正転売禁止法については以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、転売とは
転売とは、商品を安く購入して高く売り、その差額で利益を得ることをいいます。人気が高く品薄になりやすい商品や、希少性がある商品などは、高い代金を払ってでも手に入れたいと思う人たちがいるため、転売によって利益を得ることができます。転売にもさまざまな類型があります。
(1)せどり
いわゆる「せどり」には明確な定義はありません。以前は中古本を安く買って高く売ることを指す言葉でしたが、最近では本以外の商品の転売や、新品の商品の転売なども含めて使われている言葉です。反復継続してせどりを行うには、後述の「古物商許可証」が必要です。
(2)輸入転売
輸入転売とは、日本より物価の安い国から商品を安く輸入して、日本国内で販売して利益を得ることをいいます。中国などでは、物価は日本に比べるとまだ安く、国際配送料や関税などのコストを考えても利益が出るケースが多くあります。輸入する商品によっては、輸入に関する法令で規制される場合もあり、法律や関税に関する知識が必要になります。
海外から直接買い付けた商品の場合は、古物商許可は不要です。日本の代行業者を使った場合や、日本国内に住む外国人から買う場合には、許可が必要になる場合があります。
(3)修理転売
修理転売とは、そのままでは正常に動作せず使えない「ジャンク品」を安く購入し、修理して正常に動くようにして売ることをいいます。PCやゲーム機、スマホ、プリンター、カメラなどの修理について知識とスキルがあれば、手間や時間はかかりますが、利益が見込めます。
修理転売の場合にも、古物商許可が必要になります。古物商許可は、古物を転売目的で買い取る場合に必要になります。これは、盗品が古物として取引されることを防止するためです。そのため、無料で引き取ったジャンク品を修理して転売するだけの場合には、古物商許可証は不要です。ただし、この場合にも、産業廃棄物収集運搬業許可や一般廃棄物収集運搬業許可などが必要になる可能性もあるので注意が必要です。
2、転売の違法性について
買ったものを売るという転売行為そのものに違法性はありません。ただし、違法になる転売もあるということに注意が必要です。以下で解説していきます。
(1)転売は基本的に合法
転売は、基本的には合法です。コロナ禍では、マスクや消毒液などの高額転売が社会問題になり、利益を目的とした「転売」はルール違反であるという印象が広まりました。しかし、小売店で購入した商品を購入した金額よりも高い金額で売るという行為そのものは、原則として違法なものではありません。
(2)無免許営業や脱税をしていたら違法性あり
転売そのものは違法ではありませんが、古物商許可を得ないで繰り返し転売により利益を得ることや、転売によって得た利益を正しく申告せず脱税をしていた場合は違法となります。
なお、古物商許可がないまま転売を繰り返した場合は、古物営業法違反として、3年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられることがあります。脱税の罰則は各種税法に定められていますが、基本的に10年以下の懲役、1000万円以下の罰金、またはその両方が科されることがあります。また、脱税額を限度として、罰金が増額される可能性があります。
(3)転売したら違法になる商品について
取り扱う商品によっては転売が違法になる場合もあります。以下で具体例をあげて説明しましょう。
①チケット転売
チケットについては、2019年6月に施行された「チケット不正転売禁止法」と呼ばれる法律で転売の禁止が定められています。違反した場合は、1年以下の懲役、100万円以下の罰金、またはその両方が科せられることがあります。
ただし、禁止されているのは特定のチケット類の転売で「利益を得ること」であり、定価やそれ以下の価格で転売することは認められています。
②イミテーション商品の転売
イミテーション商品・コピー商品・模倣品・海賊版などさまざまな呼び方がありますが、これらの知的財産権を侵害した商品を転売することは違法になります。ファッションアイテムやコスメなどをコピーした偽ブランド品や、違法にコピーされたCD・DVDなどもこれに含まれます。イミテーション商品と知らずに転売したとしても、取引した点数が多い場合や、ある程度の利益を得ている場合には罪に問われることがあるので注意が必要です。
③酒類の転売
そもそも酒類を販売するには酒税法で定められた「酒類小売業免許」を取得する必要があります。酒類の転売も販売と同様に免許が必要です。違反した場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられることがあります。
④その他国内で単純所持や使用が禁止されているもの
国内で、所持することや使用することが違法とされているものは、転売することはできません。具体的には、拳銃、指定薬物、児童ポルノなどがこれにあたります。
(4)車両の転売は違法性はないが…
車両の転売も、転売という行為そのものには違法性はありません。中古車は他の商品と比べて価格が高いので、1回の転売でも大きな利益が期待できる商品です。
他方で、他の商品と同様に古物商許可が必要という点には注意が必要です。また、新車・中古車を問わず車両を購入するときには、管轄の警察署で車庫証明書(自動車保管場所証明書)を取得することや、運輸局での登録手続きなど、車両の購入に必要な手続きがあることにも注意しましょう。
3、【メルカリ出品】フリマサイト転売は違法になるの?
メルカリに出品して転売することは違法ではありません。ただし、古物商許可を取らずに反復継続して転売で利益を得ることは古物営業法に違反するため、違法になります。
また、メルカリのようなプラットフォームでは、利用者間のトラブルや違法行為を防ぐための利用規約があり、独自の監視体制を整えています。利用規約とは、利用開始時にメルカリと利用者の間で取り決めるルールであり、これに違反するとアカウントが停止される場合もあります。転売行為そのものは利用規約においても禁止されてはいませんが、利用規約に則って取引を行う必要があります。
4、フリマサイトで実際にあった違法事例
ここでは、フリマサイトなどで実際にあった転売による違法事例をご紹介します。
(1)マスク
2020年5月、インターネットで購入したマスクを転売した男性が、国民生活安定緊急措置法違反の疑いで書類送検されました。マスクの転売で摘発された最初の事例です。この男性は、1枚あたり約80円で購入した使い捨て不織布マスク1000枚を、自身が経営する衣料品販売店で5枚セット770円、10枚セット1320円で転売していました。
国民生活安定緊急措置法では、2020年3月15日よりマスク、同年5月26日よりアルコール消毒製品の高額転売を禁止し、違反した場合、1年以下の懲役、100万円以下の罰金、またはその両方を科していました。なお、2020年8月29日、市場におけるマスク・アルコール消毒液などの供給量が回復したとして、この転売規制は解除されています。
このように、最新の法令について知らないと、気づかないうちに違法な転売をしてしまう可能性もあります。
(2)古物商許可証なく古着を転売
2020年5月、古着3点をネットオークションで転売した男性が古物営業法違反(無許可営業)容疑で書類送検されました。ネットオークションで古着を売買することそのものは違法ではありませんが、この男性はネット上での古着の転売を繰り返しており、約3年間に約450点を転売し、合計200万円を超える利益を得ていました。警視庁は、この売買回数や利益額などから男性の行為を「営業」にあたると判断しました。
参考 日本経済新聞|その出品、違法かも フリマアプリで摘発相次ぐ
転売が営業にあたるかどうかの判断が難しい場合は弁護士に相談してアドバイスをもらいましょう。自分では営業ではないと思っていても、売買回数や利益の大きさから営業と判断されることがあります。無許可営業は、3年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられことがあります。
(3)緊急避妊薬をフリマアプリで転売
こちらは、医薬品転売の決済にフリマアプリを悪用して逮捕された事例です。2019年1月、国内未承認のインド製緊急避妊薬を転売し、フリマアプリを利用して決済した男性が、医薬品医療機器法違反容疑で逮捕されました。
参考 日本経済新聞|フリマアプリに偽装出品 違法取引の決済に悪用
医薬品を販売するには、医薬品販売業の許可が必要になります。違反した場合は、3年以下の懲役、300万円以下の罰金またはこれらの両方が科されることがあります。
個人輸入した医薬品や医療機器を販売する場合にも同様に許可が必要です。国内製の医薬部外品(サプリメントや化粧品など)については、医薬品販売業の許可なしでもフリマなどに出品・転売ができます。
5、転売時に適用される可能性のある3つの法令について
転売そのものは合法でも、転売時に適用される法令によって違法とされる場合があります。ここでは、転売に関係している3つの法令について解説します。
(1)古物営業法
古物営業法とは、盗品の取引を防止することを目的として、古物(中古品など)の売買を規制するための法律です。古物営業法が対象とするものは一般的な中古品に限らず、未開封の新品が含まれる場合があることにも注意しましょう。転売するために小売店から購入したものは、新品であっても「古物」に該当し、それを売買する場合は個人・法人を問わず「古物商許可」が必要になります。
(2)迷惑防止条例
「迷惑防止条例」とは、公衆の迷惑となる行為を禁止する条例で、各都道府県がそれぞれに定めています。そのため、規制内容は全国で統一されているわけではありません。例えば、入場券などのチケットを高額で転売するいわゆる「ダフ屋行為」は多くの都道府県で規制されていますが、青森県などではダフ屋行為を規制していません。お住まいの都道府県の迷惑防止条例の内容を確認しておきましょう。
(3)刑法(詐欺罪)
詐欺罪とは、人をだまして金品などを得る犯罪で、刑法(第246条)に規定されています。詐欺罪が成立するには、「人をだます」という要素が必要になります。転売の場合には、例えば中古品であるのに、新品未使用であると表示して販売したりすれば、詐欺罪に該当し得ます。
6、安全に転売を行うためには
安全に転売を行うためには、あらかじめ古物商許可証を取得しておきましょう。
古物商の許可申請は、管轄の警察署(公安委員会)で申請します。許可申請書(警察署でもらうか、ホームページからダウンロードして入手できます)に記入して、必要な添付書類を集めて提出します。費用は、ご自身で手続きをするなら2万円程度です(添付書類を取得する費用を含みます)。申請から古物商許可を取得するまで、順調にいけば約40日程度かかります。添付書類に不備や不足がある場合にはさらに日数がかかることがあります。
古物商許可証を取得したら、標識を見やすい場所に掲示する、取引記録を保存するなどの古物商のルールを守って営業しなければいけないということにも注意しましょう。
まとめ
転売という行為そのものは違法ではありません。しかし、古物商許可証がない場合や取り扱う商品によっては違法になる場合があり、逮捕されるケースもあります。ビジネスとして転売により利益を得るのであれば、あらかじめ古物商許可証を取得し、関係する法令をよく知った上で、適切に転売する必要があります。