贈与税とは贈与をした際に課される税金ですが、これは贈与を受けた人(財産をもらった人)が支払わなければなりません。
夫婦であればお金の管理が一緒になっているなど互いのお金のやり取りが曖昧なことも多いでしょうから、夫婦間の贈与税は発生しないと考える方も多いかもしれません。
実際、夫婦間の全てのお金のやり取りに贈与税がかかるわけではありません。
しかし、夫婦間でも贈与税が発生するケースがあるため注意が必要です。
そこで今回は
- 夫婦間で発生する贈与税の具体例
- 贈与税の配偶者控除
などについて解説していきます。
本記事がお役に立てば幸いです。
非課税となる贈与税については以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、夫婦間で贈与税が発生するケースとは
夫婦が生活していく中では、お金のやり取りやプレゼントなどが日常的に行われるため、贈与税はかからないだろうと思い、全く気にされたことがないという方も多いのではないでしょうか。
しかし、夫婦でもお金やその他の財産(不動産や株式など)をあげたりもらったりすれば、原則として贈与税が発生します。
具体的にどのようなケースで贈与税が発生するのか確認していきましょう。
(1)夫婦間で高額なプレゼントをした場合
夫婦間でのプレゼントはよくあることと思いますが、これも贈与税の対象です。
ただし、
贈与税には基礎控除というルールがあり、年間にもらった財産の総額が110万円以下ならば贈与税は発生しません。
1年間にもらったプレゼントの合計が110万円を超えると、超えた金額について贈与税が発生します。
贈与税は、贈与の総額から110万円を差し引いた金額に税率を乗じて計算します。
税率は、基礎控除額を控除した金額によって異なります。
例えば、結婚記念日などのお祝いで120万円の宝石を贈った場合には、基礎控除額110万円を差し引いた10万円が贈与税の課税対象となります。
課税価格が200万円以下の場合の贈与税の税率は10%のため、贈与税は1万円です。
(2)夫婦の口座間で多額の預金移動があった場合
夫婦間の口座でお金を移動させるようなことは日常的にあるでしょう。
少額の預金移動であれば生活費とみなされるため問題ありませんが、高額の預金が移動された場合には贈与とみなされる可能性があります。
数百万円などの高額な預金移動は贈与税の対象になる可能性があるので注意が必要です。
贈与税を申告していなかった場合、贈与税がかかることを知らなかったと主張しても認められないため、延滞税などが課される恐れがあります。
(3)保険料を負担していない保険金を受け取った場合
養老保険や学資保険などで満期保険金を受け取れるタイプの保険があります。
これらは掛金を支払った人と満期保険金を受け取る人を別に設定できる場合があります。
例えば掛金を支払ったのは夫、満期保険金の受取人は妻の場合、妻が満期保険金を受け取った際には贈与税が課税されます。
保険の契約時には保険料負担者と受取人が同じだった場合でも、途中で受取人を変更すれば贈与税が発生することになります。
そのため、保険の契約時や契約内容の変更時には注意しましょう。
(4)所有する不動産の名義を配偶者名義に変更する場合
相続を見越してなど、夫婦の一方が所有している不動産の名義を配偶者に変更するということもあるでしょう。
この場合も原則として贈与税が課されます。また、不動産を購入する際に、資金は妻がすべて出したけれど、名義は夫にしたという場合にも、贈与税が課されます。
2、夫婦間における贈与税の発生を防ぐには?贈与税が発生しない3つのケース
夫婦間でも原則として贈与を受けたすべての財産に対して贈与税が発生するため、金銭やその他の財産の受け渡しには注意が必要です。
例外的に贈与税が発生しない場合がありますので、以下ご説明します。
(1)生活費や教育費
日常生活に必要とされる「生活費」や「教育費」として財産の移動をした場合は贈与とはみなされません。
国税庁は以下は贈与に該当しないとしています
夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるもの
引用:国税庁
生活費とは、通常の日常生活に必要な費用であり、
- 治療費
- 養育費
- その他子育てに関する費用
なども含みます。
また、教育費は、
- 学費
- 文具費
などが該当します。
ただし、生活費や教育費という名目で贈与を受けた場合であっても、それを預金したり株式や不動産など生活に必要のない高額なものの購入資金に充てられるなどした場合には贈与税がかかります。
(2)110万円以下の財産
贈与税には「基礎控除」と呼ばれる非課税枠が存在します。
贈与税の基礎控除は年間110万円と定められており、贈与された財産から110万円が差し引かれた額に対して贈与税が発生します。
この基礎控除のルールは夫婦間でも適用されるため、年間110万円以下の財産の受け渡しであれば夫婦間においても贈与税は発生しません。
そのため、夫婦間でプレゼントなどを行う場合には、1月1日から12月31日までの1年間で贈与した金額が110万円以内に収まるように注意しなければならず、超えてしまった場合には贈与税がかかります。
3、贈与税の配偶者控除を受ける要件や方法とは?
夫婦間の不増産の贈与については、特別な配偶者控除の制度があります。
「おしどり贈与」とも呼ばれる制度であり、一定の要件を満たしていれば利用することができます。
不動産の贈与について贈与税の配偶者控除を受ける要件や方法についてご紹介します。
(1)おしどり贈与とは?
おしどり贈与は不動産の贈与における贈与税の配偶者控除の通称です。
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産等の贈与が行われた場合に、上でご説明した基礎控除110万円のほかに、最高2000万円まで控除されるという制度です。
(2)控除を受けるための要件
おしどり贈与を利用するには、適用の要件を満たす必要があります。
おしどり贈与を受けるための要件は次のとおりです。
参考:夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除|国税庁 (nta.go.jp)
①婚姻関係が20年以上継続していること
婚姻期間が20年以上の夫婦が対象です。20年以上経過した後に贈与が行われている必要があります。
この婚姻期間とは法律婚における婚姻期間を指し、内縁関係(事実婚)では認められません。
②贈与された財産が居住用不動産であること、または居住用不動産購入用の資金であること
「居住用不動産」とは、専ら居住の用に供する土地もしくは土地の上に存する権利または家屋で国内にあるものをいいます。
おしどり夫婦贈与を利用するには、贈与財産が「居住用」であることが必要です。
そのため、
- 別荘
- 収益用の不動産
の場合は認められません。
居住用不動産そのものだけではなく、居住用不動産を購入するための資金を渡す場合も控除の対象になります。
③贈与を受けた翌年の3月15日までに住み始め、その後も住み続ける見込みであること
控除を利用するには対象となる不動産が居住用でなければならないため、贈与を受けた後は実際に住む必要があります。
そのため、「贈与を受けた翌年3月15日までに住み始めること」や「今後も住み続ける見込みがあること」という要件を満たさなければなりません。
④配偶者控除を初めて利用すること
おしどり夫婦贈与は何度も利用することはできません。
同じ配偶者からの贈与で利用するのは一生で1度きりというルールがあります。
そのため、一組の夫婦において初めておしどり夫婦贈与を利用する場合のみが対象になります。
(3)配偶者控除を受けるための手続き
おしどり夫婦控除を利用するには、一定の書類を添付して贈与税の申告をすることが必要です。
スムーズに手続きを行うためにも、手続きの進め方や必要書類について知っておきましょう。
①必要書類を集める
配偶者控除の申請を行うためには、書類集めから始めなければなりません。
手続きを行うには次の書類が必要です。
- 贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍謄本または抄本
- 贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍の附票の写し
- 贈与を受けた居住用不動産の登記事項証明書その他の書類で贈与を受けた人がその居住用不動産を取得したことを証するもの
また、贈与された財産が不動産の購入資金ではなく、居住用不動産だった場合には、次の書類も必要になります。
- 居住用不動産を評価するための書類(固定資産評価証明書など)
②贈与税申告書を作成する
必要書類が集まったら、贈与税申告書を作成します。
贈与税申告書は国税庁のホームページからダウンロードするか、最寄りの税務署の窓口で入手することができます。
この特例の適用を受けるためには贈与税の申告が必要ですので、金額にかかわらず申告しなければなりません。
③期限までに手続きを行う
贈与税の申告は、贈与を受けた人が住む管轄の税務署に申告します。
申告は、必ず申告期限である「贈与を受けた翌年の3月15日」までに行いましょう。
期限が過ぎれば、
- 延滞税
- 加算税
がかかることになるので注意が必要です。
(4)贈与税の配偶者控除を行うことで相続税にはどんな影響がある?
贈与税の配偶者控除を使って生前に居住用不動産や居住用不動産を購入するための資金を贈与することによって、亡くなる際の相続財産の総額を減らし、相続税の負担を軽減するという効果が発生する場合があります。
例えば、夫婦の財産が一方の配偶者に偏っていた場合に、財産を多く有する一方が亡くなって相続が開始すると、他方の配偶者がそれを相続する際に高額な相続税が発生する可能性があります。
これをおしどり贈与の特例を使うことを前提に生前贈与しておくことによって相続税を減らすということです。
相続税の計算には「生前贈与加算」というルールがあり、死亡3年以内に行われた贈与は相続財産に加えて計算されます。
しかし、おしどり贈与を利用していれば、贈与税の配偶者控除である最高2000万円は生前贈与加算の対象にはなりません。
ただし、相続税には最低1億6000万円という大きな配偶者控除がありますし、土地についてその評価額を下げる小規模宅地等の特例の適用もあります。
不動産の金額やその他の財産の状況によって、どの方法をとるのが適切かは異なります。
損することのないよう実行する前に税理士にご相談されることをおすすめします。
4、離婚時の財産分与や慰謝料には贈与税は発生するのか?
夫婦が離婚する際には、財産分与を行うのが通常です。
財産分与とは、婚姻期間中に築いた「共有財産」を離婚の際に分け合うという制度のことで、通常2分の1ずつ分け合います。
また、離婚の原因が一方配偶者にある場合には、慰謝料が発生する場合もあります。
基本的には、財産分与や慰謝料に贈与税は発生しません。
ただし、通常の財産分与割合を大きく超えて財産を分与するなど税金対策として財産を移動したと疑われる場合には贈与罪が課される場合もあります。
5、夫婦間の贈与税にお悩みの方は弁護士に相談しましょう
夫婦間でのお金のやり取りの多くは生活費や教育費であるために贈与税はかかりません。
しかし、場合によっては贈与税が発生することもあるので注意が必要です。
相続税の対策として行った夫婦間の贈与で、結果的に高額な贈与税や相続税などが発生してしまうようなケースも少なくありません。
夫婦間の贈与だから贈与税は発生しないと考えて申告も納税もしていなかったら実は贈与税が発生していたため延滞税や加算税が課されてしまうというトラブルも発生することがあります。
夫婦間の贈与税の悩みや疑問がある場合には、弁護士に相談しましょう。
法律や税法上の問題を踏まえ、適切な対処や判断を行うためのアドバイスを得られます。
まとめ
夫婦間の贈与でも贈与税が発生する場合もあります。
現金やかばんなどのプレゼント、不動産など渡すものによって違いはありません。
ただし、不動産の場合にはそれが居住用であれば配偶者控除を活用することで贈与税を抑えることができます。
夫婦間のよくあるやり取りであっても贈与税がかかるケースもあるので注意が必要です。
贈与税や相続税について対策したい場合や、不安な点がある場合には、専門家に相談しましょう。