未婚で子どもができたにもかかわらず、パートナーが認知をしてくれない場合には、裁判所の調停手続きを利用して認知を求めることができます。
認知調停の手続きは、一般的な裁判手続きに比べてそれほど複雑なものではありませんので、自分で行うことも可能です。
しかし、実際に調停で認知を求める場合には、パートナーとの間でさまざまなトラブルが生じ、弁護士の力が必要となるケースも少なくありません。
そこで今回は、
- 認知調停の申し立て方法や手続きの流れ
- 認知調停がうまくいかなかったときの対処法
- 認知調停を弁護士に依頼するメリット
などについて解説していきます。
この記事が、パートナーに認知を拒否されてお困りの方の手助けとなれば幸いです。
目次
1、認知調停とは
まずは、認知調停とはどのようなものなのか、どのような場合に認知調停を申し立てるべきなのかをみていきましょう。
(1)定義
認知調停とは、未婚の母が、子どもの父親に対して認知を求めるために家庭裁判所で行われる話し合いの手続きのことです。
この手続きで認知が認められると、子どもの出生のときにさかのぼって、父と子の間に法律上の親子関係が発生します。
実の父親と婚姻関係にない母親から生まれた子ども(婚外子)は、そのままでは父親と法律上の親子関係が認められません。
このような婚外子と父親との法律上の親子関係を設定するための制度が「認知」です(民法第779条)。
認知は、父親が自分の意思で行う場合には、役所に戸籍の届出を行うだけで手続きが完了します。この方法による認知のことを「任意認知」といいます。
しかし、父親が認知を拒否する場合には裁判所の手続きを利用した強制的な手段が必要となります。
この方法による認知のことを「強制認知」といいます。
強制認知には2種類があり、そのうちのひとつが認知調停による「調停認知」です。もうひとつは裁判(訴訟による)「裁判認知」です。
強制認知を行うときは、いきなり裁判(訴訟)を起こすことはできず、まずは認知調停を申し立てなければならないことになっています(調停前置主義)。
なお、認知は子どもがまだ生まれていない妊娠中の段階でも行うことができます。
ただし、その場合には母親の承諾が必要です(民法第783条1項)。
子どもが胎児の段階で行う認知のことを「胎児認知」といいます。
胎児認知は、任意認知と調停認知でのみ可能であり、一般的に裁判認知は認められません。
そのため、パートナーに胎児の認知を拒否された場合には、調停認知で決着をつけるか、子どもが生まれた後に裁判(訴訟)を起こすことになります。
(2)認知調停を申し立てるべきケース
次のような場合で、パートナーが任意認知をしてくれないときは、認知調停を申し立てるべきといえます。
①養育費を請求したい場合
法律上の父親は、子どもに対して養育費を支払う義務を負います。
しかし、たとえ実の父親であっても法律上の親子関係がなければ、法的には養育費の支払い義務はありません。
そのため、認知をしてもらえない限り、養育費の支払いを強制することはできません。
どうしても実の父親であるパートナーに養育費を請求したい場合は、法律上の親子関係を設定するために認知調停を申し立てる必要があります。
②父の財産を子に相続させたい場合
相続権も、法律上の親子関係がない限り発生しません。
そのため、養育費を払ってもらっているとしても、認知してもらえないままパートナーが亡くなると生活に困ってしまうということもあるでしょう。
そこで、認知調停を申し立てて法律上の親子関係を設定しておく必要があるといえるでしょう。
③「300日問題」で子が前夫の戸籍に入ってしまう場合
母親が離婚後に子どもを産んだ場合には、いわゆる「300日問題」に直面してしまうことがあります。
300日問題とは、離婚後300日以内に出生した子どもは、実の父親が離婚した前夫でなくても、出生届をすると前夫が法律上の父親となり、その戸籍に入ってしまうという問題のことです。
この問題は、民法で離婚後300日以内に出生した子は前夫の子どもであると推定される(同法第772条2項)ことから生じる問題です。
実の父親であるパートナーを父親として出生届を提出しても受理されません。
前夫の戸籍に入ることを回避しようとすると、子どもが無戸籍になってしまい、さまざまな行政サービスを受けられないという問題にもつながってしまいます。
このような場合にも、パートナーと法律上の親子関係を設定するためには認知調停を申し立てる必要があります。
認知調停によって認知が認められると、子どもが生まれたときにさかのぼって実の父親との法律上の親子関係が生じるため、前夫との法律上の親子関係の推定を破ることができます。
なお、なお血縁上の父による認知の前提として、前夫との法律上の親子関係を消滅させる必要があります。
その方法としては、前夫から嫡出否認の訴えを起こしてもらう方法と、母親から親子関係不存在確認調停を申し立てる方法があります。
しかし、前夫が長期の海外出張、受刑、別居等で子の母親との性的交渉がなかった場合など、母親が前夫の子を妊娠する可能性がないことが客観的に明白である場合には、前夫の子であるとの推定を受けないことになるので、そのような場合には、認知調停のみを申し立てれば足ります。
2、認知調停で使われる「証拠」とは?
調停は話し合いの手続きですので、一般的には当事者が一定の内容で合意すれば調停が成立します。
しかし、認知調停の場合は、たとえ両親が合意したとしても、それだけでパートナーと子どもとの親子関係を裁判所が認めるわけにはいかず、「証拠」が要求されます。
その証拠として、通常はDNA鑑定を行うことになります。
DNA鑑定とは、パートナーと子どもからそれぞれの細胞を採取して、専門の機関においてDNAの塩基配列のパターンを分析・比較することによって、生物学上の親子関係が認められるかどうかを判断するものです。
細胞を採取する方法は、綿棒で口内の粘液をかすり取るのが一般的ですが、髪の毛やつめなどもDNA鑑定に用いることができるとされています。
認知調停におけるDNA鑑定は、通常、パートナーが親子関係を認めた後に、裁判所が手配した専門機関において行われます。
鑑定費用をどちらが負担するかは当事者の話し合いによりますが、申立人(母親)側が負担せざるを得ないケースが多くなっています。
費用を抑えるためには、事前に自分で見つけた業者を利用してDNA鑑定をしておくことも考えられます。
しかし、裁判所がその鑑定結果の信用性が十分でないと判断した場合には、調停において改めてDNA鑑定を行わなければならない可能性があることに注意が必要です。
3、認知調停を申し立てる方法
それでは、認知調停を申し立てる方法を具体的にご説明します。
認知調停の申し立ては原則として子ども自身が行いますが、子どもが未成年者の場合は母親が法定代理人として申し立てることができます。
(1)必要な書類
申し立ての際に必要な書類は、以下のとおりです。
- 申立書
- 子の戸籍謄本
- 相手方の戸籍謄本
- 子の出生証明書のコピー(離婚後300日以内に出生した子について出生届未了の場合)
- 母の戸籍謄本(同上)
なお、事案によっては裁判所から追加書類の提出を求められることもあります。
その場合は指示に従いましょう。
DNA鑑定は、前記のとおり調停中に行われるのが一般的ですので、申し立ての段階で鑑定書は必要ありません。
申立書については、こちらの裁判所のページから雛形と記入例をダウンロードできます。
参考:裁判所|認知調停の申立書
(2)準備すべき費用
認知調停には、以下の費用が必要となります。
- 収入印紙 1,200円分
- 連絡用の郵便切手 960円分:切手については、裁判所によって金額と組み合わせが異なります
- DNA鑑定費用 10万円程度
この金額は、あくまでも相場です。DNA鑑定費用は、話し合い次第ではパートナーに負担してもらうことも可能です。
(3)申立先
原則として相手方(パートナー)の住所地を管轄する家庭裁判所です。
ただし、当事者の合意がある場合には別の家庭裁判所に申し立てることもできます。
4、認知調停の流れ
認知調停は、以下のような流れで行われます。
(1)調停委員を介した話し合い
まずは、パートナーが子どもとの親子関係を認めるかどうかについて、話し合いをします。
当事者が同席して話し合うのではなく、申立人と相手方がそれぞれ交代で調停委員と話をする形で話し合いが進められていきます。
調停委員が双方から詳しい事情を聞いて、親子関係が認められる可能性があると考えた場合は、パートナーに対して親子関係を認めるように説得することもあります。
パートナーが説得に応じない場合でも、とりあえずDNA鑑定をしてみてはどうかと説得してくれることもあります。
(2)DNA鑑定の実施
話し合いで当事者が合意するか、パートナーがDNA鑑定の実施に同意した場合は、裁判所が手配した専門機関によるDNA鑑定が実施されます。
(3)話し合いがまとまれば審判が下る
DNA鑑定で親子関係が認められた場合は、当事者が合意していることを前提として、「審判」という形でパートナーと子どもとの法律上の親子関係が設定されます。
あとは、母親が審判書を持参して役所で手続きを行うことで、戸籍にパートナーが父親として記載されます。
5、認知調停を父親が無視、または調停不成立となった場合の対処法
認知調停は話し合いの手続きですので、パートナーが無視して出頭しない場合には、手続きを進めることができません。
パートナーが出頭したとしても、頑として親子関係を認めない場合も、裁判所も調停手続きの中では強制的に親子関係を認めることはできません。
これらの場合、調停は「不成立」となって終了します。
それでもパートナーに認知を求める場合は、家庭裁判所へ「認知の訴え」という裁判(訴訟)を起こすことになります。
裁判(訴訟)では、相手方が事実を争えば、結論が出るまでに半年~1年程度の期間がかかることもあります。
しかし、DNA鑑定書で親子関係が明らかであれば、最終的に認知が認められるケースがほとんどです。
6、認知調停を弁護士に依頼するメリット
認知調停は、冒頭でも申し上げたように自分で行うことも可能です。
しかし、失敗しないためには弁護士に依頼した方が得策であるといえます。
認知調停を弁護士に依頼するメリットは、以下のとおりです。
(1)認知の確実性が高まる
認知調停を成功させるには、相手方が親子関係を認めることと、DNA鑑定で親子関係が証明されることの2点がポイントとなります。
相手方が認めない場合には、DNA鑑定が実施されることもなく認知調停が終了してしまう可能性があります。
弁護士に依頼すれば、調停において弁護士が的確な主張と交渉を行いますので、相手方との合意が得られやすくなります。
(2)早期の認知が期待できる
また、弁護士による主張と交渉によって、認知までの期間を早めることも期待できます。
場合によっては、事前にDNA鑑定を実施して、その結果をパートナーに突きつけることによって任意認知をしてもらえることもあります。
ご自身が選定した業者を利用した場合には鑑定書の信用性が問題となることもありますが、弁護士は信用性の高い業者を熟知していますので、速やかに手続きを進めることが可能なのです。
(3)養育費の請求がスムーズにできる
認知調停によって「強制認知」に成功したとしても、パートナーがすぐに養育費を支払ってくれるとは限りません。
弁護士に依頼すれば、養育費の支払いについてもパートナーと交渉してくれますし、必要に応じて「養育費請求調停」の申し立ても代行してもらえます。
弁護士のサポートによって、本来の目的である養育費の請求もスムーズにできるようになることでしょう。
(4)弁護士費用を柔軟に対応している法律事務所がオススメ
弁護士に依頼するには、費用がかかります。認知調停を依頼する場合の弁護士費用の相場としては、着手金として20万円~30万円程度、報酬金として20万円~30万円程度です。
一度にこれだけの費用を支払うのは難しいこともあると思いますので、弁護士費用について柔軟に対応している法律事務所を探すことをおすすめします。
弁護士費用は事務所によって異なります。
一般的には上記のように着手金と報酬金とに分けて請求されることが多いですが、着手金無料の成功報酬型の事務所もあります。成功報酬型なら、初期費用はかかりません。
また、分割払いが可能な事務所もあります。
弁護士を探す際には、インターネットで離婚問題や親子問題に詳しい弁護士を探しつつ、弁護士費用にも着目して、柔軟な対応をしている法律事務所を選ぶとよいでしょう。
まとめ
認知を拒否するパートナーに認知を求める方法として、認知調停は非常に有効です。
しかし、実際にご自身で認知調停を申し立てる際には、手続きで迷ったり、調停中も相手方の対応に戸惑ったりすることも多いと考えられます。
弁護士の力を借りることで、スムーズに認知を獲得することが期待できます。お困りの際は、ひとりで悩まず弁護士の無料相談を利用してみてはいかがでしょうか。