
看護師は業務上、緊急対応が必要なこともあり、「残業代」の観念が他の業種よりも特殊になりがちです。
役職が上がれば上がるほど、所定時間外での仕事が増えてきます。
「残業代は固定給に入っている」
「一定の役職者には残業代は出ない」
などの説明を受けていませんか?
本当に残業代が出ていない場合なのか、一緒に考えてみましょう。本当はもらえるはずの残業代が未払いの事案も考えられます。
今回は
- 看護師が残業・サービス残業する理由
- 看護師の残業の実態
- 看護師が残業代を請求するために必要なこと
などについてご紹介します。
明日からの患者さんを全力でケアしていくためにも、働いた分の対価は支払ってもらいましょう。
目次
1、看護師が残業する理由
看護師が残業する主な理由をまとめてみました。
あなたの理由もあるでしょうか。
(1)患者の状態に左右されること
患者の状態によっては、時間に退勤できないケースがあります。
担当する患者は1人ではないので、ナースコールで呼ばれたり、患者の容体が急変したりするなどの事情があれば、対応に追われて退勤時間が遅れてしまいます。
緊急事態以外であっても、患者から何か頼まれて対応する場合等、予定していた退勤時間が遅れることもあります。
(2)看護記録や引き継ぎに時間がかかること
患者の状態について、1人の看護師が24時間看ていられる訳ではないので、引き継ぎが必要です。
また、回復、悪化の状態を明確にするためにも看護記録も必須です。
実際に患者のケアだけでなく、これらの事務作業も大切な仕事です。
これらの事務仕事を時間内にこなすことは至難の技でしょう。
(3)時間外に行われる勉強会
医療は日々進化しています。最新の情報を取り入れるためには、勉強も大切です。
日々の業務を空けるわけにはいきませんから、勉強会は時間外に実施されることがあります。
仮に、自由参加であっても、医療の実務上必要な知識に関する勉強会の場合もあります。
勉強会の名目であっても、実際は看護実務に関連していて、事実上出席が強制されている場合であれば、賃金が発生すると考えられます。
2、看護師の残業の実態
看護師の残業の実態を見ていきましょう。
看護師でサービス残業をしている人の割合は、2017年の日本医療労働組合の調査結果によると68.6%です。
(1)看護師の残業時間
2008年に日本看護師協会が実施した調査によると、看護師の1ヶ月の残業時間は10時間以内が一番多く34.1%で、10時間から20時間は25%という結果です。
残業時間が多くなるほど割合は低くなりますが、中には60時間以上も残業をしている方が4.3%もいる結果になっています。
(2)看護師がサービス残業をしている割合
上記の2017年の日本医療労働組合の調査結果によると、看護師でサービス残業を10時間以上行っていると回答している人は16.4%もいて、30時間以上サービス残業を行っている人は2.6%もいます。
中には50時間以上サービス残業をしている看護師も0.5%程度いるようです。
このことから、看護師の全体的な残業時間はそれほど多いものではなくても、サービス残業を行っている割合は高いことがわかります。
3、看護師がサービス残業をする理由
では、看護師のサービス残業が多い理由を見ていきましょう。
日本看護協会の調査によると、以下の理由が挙げられています。
(1)自主的な残業
看護師は明確に残業してくださいと上司から指示を受けることは少なく、自主的にカルテの整理をしたり、患者の世話をしたりすることも多いのが現状です。
現場での明確な指示がないので、「勝手に残業したのだから、残業代は貰えない」と考える方も多く、結果としてサービス残業となっているのです。
(2)残業代が出ると思っていないこと
年俸制、固定残業代があること、みなし残業代制や師長(管理職)等の理由で、残業代が出ないと思っている方はいませんか?
これらの勤務雇用形態でも、事案によっては残業代を請求することができる可能性があります。
お近くの弁護士に相談してみてください。
4、看護師の残業代に関する法的規制
看護師も、一般的な労働基準法の残業規制の適用があります。
そもそも労働基準法36条1項に基づく協定(いわゆる「36協定」)の締結・届出をしなければ、残業をさせてはいけないことになっています。
しかしながら、看護師の特殊性から、未だに36協定の締結・届出すらしていない病院も残っています。
36協定の締結・届出を未だしていないのに、残業をされている場合には、労働基準監督署や弁護士にすぐに相談するべきです。
5、看護師が残業代を請求する方法
次に、残業代の請求方法について、順を追って説明していきます。
(1)残業時間の証拠の準備
残業代を請求するためには、時間外労働をしていたこと示す証拠が必要です。
タイムカードや、それに代わる出退勤のチェックシステムがあれば十分です。
タイムカードや病院の退館記録が記録化されたものをコピーしたり、写真に撮ったりしておきましょう。
時間外労働が分かるものであれば、メールの送信やパソコン起動の履歴も保存しておきましょう。
(2)実際に会社に請求する場合
残業代に関する証拠を集めた場合でも良いですし、集める前でも大丈夫ですので、まずは弁護士にご相談することをお勧めします。
弁護士であれば、資料や口頭での説明をもとに残業代が発生しているのかどうか、その金額はいくらなのか見通しを立てることができます。
弁護士に相談すれば、今後の病院との交渉の方針も立てることができます。
6、看護師の残業代請求の相談は弁護士にしましょう
残業代の請求権は時効により2年で消滅するので(労働基準法115条。2020年4月から民法改正に伴い3年に延長されます)、迅速に対応する必要があります。
消滅時効の進行を一度止めるためには、残業代の請求をする必要があります(民法147条1号)。
残業代を請求したという証拠を残すためには、書面による内容証明郵便を利用する方法が一般的です。
実際に内容証明郵便を作成したことがある方も少ないですし、この請求の場面から不安がある方が多いかと思います。
弁護士名でする請求の効果は大きいでしょう。
迅速かつ確実に対応したい場合は、弁護士へ相談するのが一番です。
弁護士はあなたの味方です。
弁護士に依頼しておけば、病院が残業代の支払に対応してくれなかった場合でも、労働審判や訴訟に対応することができます。
まとめ
看護師が残業をしているにもかかわらず、残業代を適切に請求できていないケースは少なくありません。
看護師は、もともと業務量も多く勤務時間も不規則な職業です。
残業代が曖昧になってしまっても不思議はありません。
しかしながら、患者のために働いた対価は正当に受け取る権利があります。
ですので、諦めずに残業代を請求していきましょう。
ご自身で思っているよりも高額な残業代となる場合もあります。
自分では請求できない場合や、計算できない場合などは、迷わず弁護士に相談してください。
あなたの頑張りが正当に金額に換算されて手元に入れば、更なる仕事のモチベーションアップに繋がることでしょう。