刑事裁判と民事裁判の違いはなに?
日本の刑事裁判では有罪率が99. 9%というのは本当?
今回の記事では、そのような疑問にお答えしていきます。
具体的には、
- 刑事裁判とは何か?
- 刑事裁判と民事裁判の違いは?
- 刑事裁判の有罪率99.9%というのは本当?
などの疑問について解説していきます。ご参考になれば幸いです。
刑事事件と民事事件の違いについて知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
目次
1、刑事裁判とは?
刑事裁判とは、犯罪を行ったと疑われている人が、国家権力によって裁かれる裁判のことです。
刑事裁判では、裁判所に訴えるのは検察官と決まっています。
検察官が、「この人は、このような犯罪を行いましたから、処罰してください」と裁判所に訴えることを「起訴」といいます。
訴えられる人は、犯罪を行ったと疑われている人で、「被告人」と呼ばれます。
訴えられている被告人は、一個人です(企業など法人のこともあります)。
これに対して、訴えている検察官は、国家権力を扱う側にいる人です。
そして、これを裁く裁判所も国家権力です。
専門知識のない一個人が、組織的に追及を行う専門家である検察官に対抗することはできないので、被告人には「弁護人」がつけられます。刑事裁判の「弁護人」になれるのは、弁護士だけです。
刑事裁判で争うのは、大まかに2つです。
第一は、その人が本当に罪を犯したかどうかということです。
いわゆる「有罪」か「無罪」かの争いです。
第二に、罪を犯したと認められる場合には、どのような刑罰を与えるべきなのかということです。
これを「量刑」といいます。
2、刑事裁判と民事裁判の違いは?
民事裁判とは、私人間に起こった争いに決着をつけるための裁判です。
貸したお金を返してほしいとか、損害を賠償してほしい、土地を明け渡してほしいというようなことです。
民事裁判では、国や地方自治体を訴えたり訴えられたりすることもありますが、国や地方公共団体が仕事を発注したり私企業が守らなければならない注意義務を怠ったりと私人と同等の法的地位にあることが前提です。
民事裁判では、訴えた方を「原告」、訴えられた方を「被告」と呼びます。
誰でも、「原告」になることもあれば、「被告」になることもあります。
民事裁判は、弁護士に頼まずに、自分で行うこともできます。
弁護士に依頼する場合には、原告も被告も自費で弁護士に依頼しなければなりません。
また、刑事裁判には「裁判員裁判」が導入されていますが、民事裁判にはありません。
3、刑事裁判の有罪率が99.9%は本当?
「日本の刑事裁判の有罪率は99.9%」と言われます。
これは、起訴されると、無罪を勝ち取ることが難しいということを伝えるための例えであって、当然、毎年必ず99.9%というわけではありません。
そもそも、実際には、有罪率が、データとして公表されているわけではありません。
ただ、最高裁判所が公表している司法統計には、毎年何件の刑事事件が終了したかや、何件が有罪で、何件が無罪だったかが公表されています。
例えば、平成27年だと下記のとおりです。
平成27年の統計(http://www.courts.go.jp/app/files/toukei/616/008616.pdf)
- 終了事件74、111件
- 有罪事件53、120件
- 無罪事件70件
上記で、「有罪+無罪」=終了件数とならないのは、事件の終了原因は、有罪と無罪だけではなく、免訴、公訴棄却、管轄違い、併合などが含まれているためです。
特に「その他」とされている終了原因は件数が多く、平成27年には、884件もあります。
ここでは、有罪か無罪かを比べますので、他の終了原因は無視します。
そのうえで、平成27年の第一審の有罪率をおおまかに計算すると下記のように、99.9%にかなり近い値になります。
53、120件÷(53、120件+70件)≒99.86%
なお、第一審で無罪判決が出ても、控訴や上告で有罪になることもありますし、その逆のパターンもあります。
そのため、上記の計算は正確な有罪率を示すものではありません。
また、上記データのうち、他の終了原因をどう扱うかによって、計算結果は変わってきますので、「何が有罪率か」ということは難しいところです。
ただ、それでも、無罪件数は、有罪件数に比べて圧倒的に少なく、無罪を勝ち取るのがかなり難しいことであるということは分かっていただけると思います。
4、刑事裁判の有罪率はなぜ高いのか?
なぜ、日本の刑事裁判の有罪率が高いのかというと、けっして無理やり有罪にしているというわけではなく、検察官が犯罪の証明ができるかどうかを吟味して起訴しているからです。
ある事件を起訴するか不起訴にするかを決めるのは検察官です。
そして、起訴した場合に、その人が有罪であることを刑事裁判で証明しなければならないのも検察官です。
そのため、検察官としても、今ある証拠できちんと証明できるかということを真剣に検討してから、証明できると判断した事件だけを起訴しています。そのため、起訴された案件が有罪になる可能性はやはり高くなります。
一方、裏を返せば、1年間の無罪件数は70件だとしても、そもそも証拠不十分で不起訴になる人もそれなりにいるということになります。
したがって、検察官が起訴するかどうか迷うようなケースにおいて、証拠が足りないのではないか、起訴して処分することが相当とはいえないのではないか、と感じさせて不起訴になる確率を上げることは非常に重要です。
5、刑事裁判の流れ
ここでは、第一審の刑事裁判の基本的な流れを説明します。
(1)裁判員裁判対象外の事件(通常事件)
まずは裁判員裁判対象外の事件の流れを紹介していきます。
1,起訴
検察官が起訴状を裁判所に提出し、起訴状が、被告人や弁護人に届きます。
2,公判期日
公開の法廷で裁判が行われます。公判の流れは下記のとおりです。(冒頭手続)
3,人定質問
裁判官が、被告人の名前、生年月日、本籍、住所、職業を尋ねて人違いでないか確認します。
4,起訴状朗読
検察官が起訴状を読み上げます。
起訴状には、被告人が、いつ、どこでどのようなことを行い、それが、どの法律のどの条文に違反するのかということが記載されています。
5,黙秘権の告知
裁判官が、被告人に対して、黙秘権があること、この法廷で話すことは自分に有利なことも不利なこともすべて裁判の証拠になるということを説明します。
6,罪状認否
裁判官が、被告人に、起訴状に記載されていることを認めるか、争う場合は何を争うかを尋ねます。
その後、裁判官は、弁護人にも、認否を確認します。
(検察官の主張・立証)
7,冒頭陳述
検察官が、この事件のストーリーを簡潔に述べます。
8,証拠調べ請求
検察官が、冒頭陳述で述べた内容を立証するための証拠を調べることを請求します。
9,弁護人の意見陳述
弁護人は、検察官の証拠調べ請求を認めるか、認めない場合は、異議を述べ、その理由を述べます。
10,物的証拠の証拠調べ
弁護人の意見も踏まえ、裁判官が認めた証拠が調べられます。
11,人的証拠の証拠調べ(証人尋問)
被害者や目撃者などの証人の尋問が行われます(ないこともあります)。
(弁護人の主張・立証)
12,証拠調べ請求
弁護人が立証したい事実に合わせて、証拠調べの請求をします。
13,検察官の意見陳述
検察官が弁護人の請求している証拠についての意見を述べます。
14,物的証拠の証拠調べ
裁判官が認めた証拠が取り調べられます。
15,人的証拠の証拠調べ
被告人に有利な目撃者、情状証人(被告人の家族など)などの証人尋問が行われます。
16,被告人質問
被告人に対する質問が行われます。被告人は、弁護人、検察官、裁判官から質問を受けます。
(最終意見)
17,論告・求刑
検察官が、この事件についての意見を述べ、求刑を行います。
18,弁論
弁護人が、この事件についての意見を述べます。
19,被告人の意見陳述
裁判官が、被告人に最後に言いたいことはないかを確認します。
(判決)
裁判官が、有罪の場合には刑罰の言い渡しをします。無罪の場合には、無罪である旨を言い渡します。
(2)裁判員裁判対象の事件
次は裁判員裁判対象事件の流れです。
1,起訴
検察官が裁判所に起訴状を提出し、起訴状が被告人や弁護人に届きます。
2,公判前準備手続き
起訴されると、まず、公判前準備手続きに付する決定がされます。
そうすると、検察官が証明予定事実記載書面と証拠調べ請求をします。
そして、検察官が証拠調べ請求した証拠が弁護人に開示されます。
弁護人は、信用性判断に関する類型的証拠開示請求や争点に関連する証拠開示請求をすることができます。
その後、被告人側の証明予定事実等の明示や証拠調べ請求が行われます。
以上を繰り返して公判前整理手続き期日において争点と証拠を整理した後に、公判の日取りが決まります。
3,公判期日
公開の法廷で、集中的に審理を行います。
公判前準備手続きによって、争点と証拠が整理されていますので、公判は集中して行われ、公開の法廷での裁判は、一般の刑事裁判と比べると、それほど長い期間はかかりません。
公判期日には、裁判員が参加します。
公判期日の手続きの流れは、通常事件と同じで、「人定質問」から始まって、「被告人の意見陳述」で終わり、最後に、判決の言い渡しがあります。
6、刑事裁判で無罪を勝ち取るためにできること
捜査段階で「自白」をしてしまい、これに沿った供述調書が作成されてしまうと、後から覆すことは難しくなります。
捜査機関も、あなたが犯人だと思っているからこそ、逮捕にまで踏み切るわけですから、単に「話せばわかってもらえる」ということはありません。
自分の話を聞いてくれて、適切なアドバイスをしてくれ、自分に有利な証拠を探してくれるのは、弁護士だけです。
捜査対象になった時点で、すぐに弁護士に相談することが何よりも大切です。
7、刑事裁判で無罪を勝ち取るための弁護士の探し方
医師に専門分野があるように、弁護士にも専門分野があります。
ただ、弁護士の専門分野とは、「この分野しかやらない」という意味ではありません。
法治国家では、あらゆるところに法律があり、法的な問題が発生しています。
その中で、弁護士によって、多く手掛けている分野、得意としている分野がある一方で、あまり経験がない分野もあるということです。
何件もの刑事事件を手掛けている弁護士もいる一方で、民事事件を多く手掛けながら、刑事事件も多少手掛けているという弁護士もいます。
無罪を勝ち取ることは難しいことです。
そこで、刑事事件の経験が多く、刑事事件に精通している弁護士を選ぶべきでしょう。
そのためには、何人かの弁護士に会って、刑事事件の経験や実績を聞いてみましょう。
また、すぐに、被疑者に面会に行ってくれるか?(迅速な行動をしてくれるか)を確認します。
そして、最後に重要なのが、話しやすいか?です。
無罪を争うのは、長い戦いになります。
その間にいろいろな相談をしていく上で、話しやすさや性格等の相性の良さはとても大切な要素になります。
まとめ
刑事事件の有罪率は99.9%に限りなく近いものです。
刑事事件の中でも、通常事件と裁判員裁判対象事件は、弁護活動の内容が大きく変わります。
民事事件は本人でもできますが、刑事事件、特に無罪を争うような事件では、刑事事件に強い弁護士を選びましょう。