「父親が逮捕された」と知ったとき、あなたは何を考えどう行動すると思いますか?
今回は
- 逮捕後の流れ
- 父親(家族)の逮捕により受ける影響
- 接見の際の注意点
- 弁護士に刑事弁護を依頼するメリット
についてご紹介したいと思います。
目次
1、父親が逮捕された!逮捕後の手続きの流れ
逮捕のような身柄拘束は、国家権力による国民への人権侵害の代表例といえます。
もし国家権力が好き勝手に国民の人権を侵害できるとすれば大変なことになりますから、日本では、このような国家権力による人権侵害を、憲法や法律によって制限し、人権を保障するという仕組みが採られています。
例えば、逮捕のような捜査機関による身体拘束については、刑事訴訟法が厳格なルールを設けています。
本項では、逮捕後の流れについてご紹介いたします。
(1)逮捕から送致まで
犯罪の犯人だと疑われる人を逮捕する場合、裁判所から逮捕状をあらかじめ取得した上で、警察官が本人を逮捕する方法があります。
この場合の逮捕を通常逮捕と言います。
そして、逮捕された本人は「被疑者」と呼ばれることになります。
通常逮捕の場合、警察官は必ず何の犯罪の犯人として疑われているかを被疑者に告げて逮捕しなければなりません。
また、弁護人を選任する権利があることも被疑者に告知しなければなりません。
その上で逮捕されると、警察官はまず「弁解録取」という手続きを行います。
これは、被疑者から自分は犯人ではないといったような弁解(言い分)を聴くというものです。
また、逮捕の方法は通常逮捕だけではありません。
目の前で犯罪が行われている場合などに行われる現行犯逮捕や逮捕状を取得している時間がない場合に行われる緊急逮捕が行われることもあります。
被疑者の弁解を聞いた上で、警察官は釈放するか否かを判断し、釈放しない場合は、逮捕から48時間以内に、検察官に被疑者を送致する手続きを取ります。この間、警察官は取調べなどを行うこともできます。
(2)送致から勾留請求まで
被疑者の送致を受けた検察官も被疑者から弁解を聴く必要があるため、まず送致後に行われる手続きが、検察官の「弁解録取」という手続きです。
そして、検察官も、被疑者の弁解を踏まえた上で釈放するか否かを判断し、釈放しない場合には、被疑者の送致を受けたときから24時間以内に、被疑者の勾留請求の手続きを取ります。
(3)勾留請求から勾留決定
勾留請求を受けた裁判官も、まずは被疑者の弁解を聴く必要があるので、「勾留質問」という手続きで被疑者から弁解を聴きます。
そして、もし勾留質問で被疑者の弁解を聞いた裁判官が、勾留の要件を欠くと判断すると、被疑者の勾留を認めずに釈放します。
釈放しない場合には、裁判官は勾留決定という決定を出し、勾留状という令状が発布されます。
この勾留状に基づいて、被疑者は指定された場所に勾留されることになります。
勾留期間は、原則として10日間ですが、例外的に10日間の延長が認められていますので、勾留期間の最長は20日間ということになります。
20日間も自由が奪われてしまうことは、一般人にとっては大変な負担となりますから、とにかくこの勾留を防ぐということが弁護人の第一の使命と言えるでしょう。
(4)捜査
勾留期間中は、警察や検察にとっては裁判を行うにために証拠を収集する期間といえますから、本格的に警察や検察の捜査が始まります。
被疑者には、取調べ、実況見分や捜索への立会い、証拠物の確認などを求めてくるでしょう。
長時間の取調べや威圧的な取り調べは違法ですから、被疑者は違法な取り調べがあった場合にはノートやメモを録っておくなど、客観的な記録を残しておくことが重要です。
(5)起訴
被疑者を裁判にかけるかかけないかを決めるのは検察官です。
裁判にかけることを起訴といい、裁判にかけないことを不起訴といいますが、検察官は捜査の過程で収集された証拠を精査し、起訴か不起訴かの処分を決めます。
証拠の中には、被疑者にとって不利な証拠もあれば有利な証拠も含まれます。
検察官はこれらの証拠を総合的に勘案して処分を決めます。
(6)裁判(公判)
検察官が起訴をすると、被疑者は「被告人」と呼ばれることになります。
といっても、起訴されればすぐに裁判ということにはなりません。
裁判も準備が必要ですから、起訴されてから裁判が開かれるまで少なくとも1ヶ月は必要となります。
そして、その後に開かれる裁判の回数や期間については事件の難易度によって異なってきます。
例えば、軽微でかつ被告人が罪を全面的に認めているような争点が少ない事件であれば、裁判の回数は1回のみで結審することが多いです。
この場合、判決は最初の裁判から1週間ないし2週間程度でなされることが多いです。
逆に、重大な犯罪でかつ被告人が罪を認めていないような争点が多い事件は、何回も裁判が開かれることにより、判決が出るまでに1年以上かかることもあります。
2、父親の逮捕~息子・娘への影響は?
自分の父親が逮捕されたとき、あなたへ及ぼす影響はあるのでしょうか?
ここではその疑問にいくつかお答えしていきます。
(1)就職できない職業はある?
ありません。
確かに国家公務員などのある一定の資格を必要とする職については、法律に「ある一定の刑罰を受け、その刑が確定した場合(つまりは前科が付いた場合)は「欠格事由」に当たり、就職することができない、免許を与えることができない」と定めています。
また、民間の場合も、就業規則にそのような規定を設けている企業もあるかもしれません。
しかし、いずれにしても、それは逮捕されたご自身の問題であって、そのご家族には関係ないことです。
ただ、民間企業は誰を雇うかについて自由な裁量を持っていますので、事実上不利益な影響がでることがあるかもしれません。
したがって、父親が逮捕されたことによって、あなたの採用に全く影響がないと簡単にお答えすることはできません。
金融機関や警察などの保安系の職については、職柄上、身内の事情が考慮されることも考えられます。
(2)受験できない試験はある?
ありません。
国家資格の場合は法律や規則などで受験資格が細かく定められています。しかし、そこには「親(家族)が逮捕されたから受験できない」などという定めはありません。
なお、裁判官、検察官、弁護士になるための受験資格は司法試験法 (4条)に、国家公務員になるための受験資格は国家公務員法(44条)及び人事院規則に定められています。
(3)学校の処分(出席停止、停学、退学)は受ける?
受けることはないでしょう。
学校の処分に関する規定は学校の規則に定められています。
したがって、学校の処分を受けるかどうかは、学校の規則の定められている内容によるということになりますが、「親が逮捕されたから、その息子・娘を処分する」という規定はあまりにも不合理であることは明白です。
ですから、そのような規定を定めている学校はまずないと考えていいでしょうし、定めていたとしても違法であるとして裁判で争うことができるでしょう。
(4)結婚は破談になる?
この点は非常に回答が難しいです。
結婚するかしないかは個人の意思によって決まるので、相手の父親が逮捕されたことで結婚を考え直すような人もいるでしょうし、反対に全く気にしない人もいるでしょう。
また、結婚する当事者だけでなく、そのご家族などが意見を言うこともあるでしょう。
したがって、結婚については相手の気持ち次第ということになります。
(5)風評による影響は?
風評による影響はあるかもしれません。
例えば、風評により被害を受ける例として、近所の住民から接触を敬遠されるなどしてその地域に住みづらくなる(そのため引っ越しを余儀なくされる)、引っ越しを余儀なくされた結果学校を退学せざるを得なくなるなどが考えられます。
しかし、社会的に重大だと考えられる事件でない限り、メディアが大々的に逮捕を報道するというようなことはありませんし、プライバシーの観点から事件に関係のない人間が警察に問い合わせをしたところで、警察は安易に逮捕されている事実を教えるようなことはしません。
したがって、自分から教えない限り、周りの人に父親が逮捕されたことが知られる可能性は低いでしょう。
3、面会についての注意点とは
「父親が逮捕された」と聞けば、「一刻も早く会いに行きたい」と思われる方が多いかもしれません。
お気持ちは分かりますが、その前に以下の点に注意する必要があります。
(1)逮捕期間中は原則として面会できない
逮捕から勾留請求の結果が出るまでの間(以下「逮捕期間中」といいます。)は、原則として、弁護人以外の者との接見は認められていません。
(2)接見には様々な制限がある
ご家族など弁護人以外の者による面会には、以下の制限が付きます。
①曜日、時間の制限
土日・祝日の接見はできず、午前9時30分から午前11時、午後1時30分から午後4時までと決められています。
②面会人数の制限
1日1組で、1組は3人(乳幼児を含む)以内と決められています。
③面会の長さ(時間)の制限
接見の長さは15分か20分のどちらかに決めている警察署が多いと思われます。
④面会回数の制限
1日1回などと決められています。
⑤立会人が付く
面会時には立会人(警察官)が付きます。
(3)接見禁止が付いたら面会できない
接見禁止とは、勾留決定が出ている被疑者または被告人に、逃亡又は罪証隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある場合に、勾留されている方とご家族など弁護人以外の者との接見を禁止する決定のことをいいます。
ただし、接見禁止といっても、弁護人以外のすべての者との接見を禁じる全部接見禁止と一部の者との接見を禁じる、あるいは認める一部接見禁止とがあります。
前者の場合には、接見することができませんが、後者の場合、条件によっては(例えば、決定では「~接見を禁じる(ただし、被疑者の配偶者、その子は除く)」などとされている場合)接見できることもあります。
4、逮捕後の弁護活動、弁護士に依頼するメリットとは?
逮捕された父親の子供にとって、一番の懸念は、前記2でもご紹介させていただいた影響(特に、風評被害)が自分の身に降りかかってこないだろうかということではないでしょうか?
そこで本項では、風評被害を少しでも軽減するための弁護活動と、弁護士に依頼するメリットについてご紹介いたします。
(1)身柄拘束を回避するための弁護活動
世間では逮捕=有罪というイメージがありますから、風評による被害を抑えるためには逮捕をされないことが一番重要です。
逮捕の可能性がある段階であれば、ぜひ弁護士にご相談ください。逮捕回避に向けて検討します。
逮捕された場合でも諦める必要はありません。
まずは、逮捕の情報源である警察に、不必要な情報の流出は上申書、意見書などを提出することは可能です(もっとも提出したからといって法的効果が生じるわけではありません)。
さらに被害を最小限に抑えるためには、逮捕された方をいち早く自由にすることが必要だと考えます。それには、以下の活動が考えられます。
①逮捕期間中に接見する
既に説明したとおり、逮捕期間中に接見ができるのは、原則として弁護人のみです。
接見をすることは弁護活動の何よりの基本ですから、この期間に接見できる意義は大きいといえます。
②警察官、検察官、裁判官に意見書などを提出する
接見した後は、手続きの進み具合によって、警察官、検察官、裁判官に釈放に向けた意見書などを提出します。
このことによって、逮捕期間中に釈放される可能性も十分考えられます。
③不服申し立てをする
仮に、逮捕期間中に釈放されず勾留されたとしても、勾留に対する不服申し立てをすることができます。
はじめの勾留期間は10日間と決まっていますが、不服申し立てが認められれば10日間を待つまでもなく自由になることがあります。
勾留が延長された場合でも不服申し立てをすることは可能です。
(2)その他の弁護活動
その他の弁護活動としては以下の活動が考えられます。
①示談交渉をする
被害者が存在し、被疑者や被告人が罪を認めている事件については、速やかに示談交渉に入ります。
その姿勢が早期釈放に繋がることもあります。
また、示談を成立させることができれば不起訴処分、執行猶予付き判決などの結果を獲得できやすくなります。
②被疑者・被告人の意見・主張に沿った弁護活動
仮に、釈放されず身柄拘束が続いた場合には、その間に何度も接見を行います。
特に、被疑者や被告人が罪を認めてない否認事件の場合には接見の回数はもっと多くなるでしょう。
そして、被疑者の言い分を聴き、刑事処分を決める検察官に意見書などを提出して不起訴処分獲得に努めます。
裁判になった場合には、被告人に有利となるような書類を提出したり、証人から話を聴くなどして執行猶予付き判決、無罪判決の獲得に努めます。
5、有罪が確定するまでは無罪推定!堂々と生活してください
逮捕=有罪ではありません。
有罪か無罪かはあくまで裁判で決めるものです。
そして、裁判を経て判決で有罪判決が下り、その判決が確定するまでは無罪推定の原則が働いています。
したがって、本来なら父親が逮捕されたという事実のみをもって、ご本人はもとよりそのご家族までもが肩身の狭い思いをして生活しなければならないことは間違っています。
しかし、残念ながら、世間は、とかく逮捕=有罪だと決めつけ、ご本人はもとより、そのご家族までも苦しい思いをしていることが現実としてあります。
まずはご家族を信じ、世間の風評などに振り回されないという自信と覚悟を持つことが必要でしょう。
まとめ
誰しもご家族が逮捕された場合には、不安になることは当然だと思います。
しかし、既に説明したとおり、あらかじめ家族が逮捕されたときに受けるかも知れない影響を理解しておくことで、冷静に対応できるようにしておきましょう。
あなたも辛く、苦しい思いをされていると思いますが、逮捕されたご本人も辛く、苦しい思いをされていることでしょう。
弁護士はお父様とご家族の味方です。どうぞご相談いただき、共によりよい方向に向かっていきましょう。
この記事が少しでもお役に立つことができれば幸いです。