生命保険の相続税を節税する場合、どのような点に気を付ければよいのでしょうか。
平成27年から相続税の基礎控除額が引き下げられたため、相続税の申告対象となるケースが増えてしまいました。
そのため、将来の相続税の負担に備えて、さまざまな節税対策を考えている人も多いと思います。
節税に関心の高い人であれば、「生命保険は相続税の節税になる」ということを聞いたことがある人も多いでしょう。
たしかに、生命保険を上手に利用すれば、相続税の節税に効果がある場合があります。
しかし、対応を間違えると、保険料の負担や税負担が重くなってしまうことにもなりかねません。
そこで、今回は、生命保険(死亡保険金)と相続税との関係についてまとめてみました。
相続税の対策に関して詳しく知りたい方は以下のページで紹介してますので、ぜひご覧ください。
1、生命保険の相続税で損したくない!相続における生命保険金の取り扱い
最初に、相続の場面における生命保険(死亡保険)金の取り扱い方の基本的なルールについて確認しておきましょう。
(1)生命保険金は、受取人固有の財産(相続財産ではない)
相続税の対象となる相続財産は、被相続人が死亡したときに所有していた財産(負の財産を含む)が対象となり、保険金についてもこの原則が当てはまります。
たとえば、被相続人が契約者(保険料の支払者)であり受取人でもある生命保険の解約返戻金は、相続財産となります。
しかし、死亡保険金については、相続財産には含まれません。
被相続人は、保険金の受取人となることはできないため、「受取人の固有の財産」として取り扱われることになるからです。
つまり、被相続人Aが被保険人で、その妻であるBが死亡保険金の受取人であるときには、その死亡保険金はB固有の財産となり、遺産分割の対象にもなりません。
仮に、Bが相続を放棄した場合でも死亡保険金の受け取りに影響はありません。
(2)生命保険金は「みなし相続財産」となる
被相続人の死亡保険金は、相続財産とはならないものの、相続税の課税対象となる場合があります。
死亡保険金は受取人固有の財産とはいえ、その基礎となる保険料は被相続人が積み立てていたものです。
つまり、「お金の動き」としては、被相続人の財産を相続で取得したことと変わりがないので、相続税の対象となってしまうのです。
このように、相続財産ではないものの相続税の課税対象となる財産のことを「みなし相続財産」といいます。
生命保険金のほかには、下記の財産がみなし相続財産に該当します。
- 死亡退職金
- 被相続人から生前に贈与を受けて、贈与税の納税猶予の特例を受けていた農地、非上場会社の株式や事業用資産など
- 教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税又は結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税の適用を受けた場合の管理残額
- 相続や遺贈で財産を取得した人が、被相続人の死亡前3年以内に被相続人から財産の贈与を受けている場合(一定の特例を受けた場合を除く)
- 被相続人から、生前、相続時精算課税の適用を受け取得した贈与財産
- 相続人がいなかった場合に、民法の定めによって相続財産法人から与えられた財産
- 特別寄与者が支払を受けるべき特別寄与料の額で確定したもの
【参考】相続税がかかる財産(国税庁ウェブサイト)
(3)生命保険金を受け取った場合の税金
上で説明したみなし相続財産となる場合も含めて、生命保険金を受け取った場合に税金がどうなるのかということについて整理しておきましょう。
死亡保険金の受け取りによって発生する税金は、被保険者・保険料の負担者・保険金受取人の違いによって、相続税・所得税・贈与税にわかれます。それを簡単に整理したものが下の表です。
※国税庁ウェブサイトより引用
つまり、「みなし相続財産」となり相続税の課税対象となるのは、被相続人が自ら保険料を支払っていた場合(被保険者と保険契約者(保険料の負担者)が同じ)という場合になります。
保険契約者が、被相続人以外になっているケースでは、保険契約者と保険金の受取人が同じ場合には所得税、異なる場合には贈与税の課税対象となります。
なお、課税額それ自体は、相続税・所得税・贈与税の順に多くなります。
したがって、「節税になるから」とやみくもに、家族に生命保険をかけてしまうと、節税効果よりも保険料負担の方が重くなることや、相続税よりも高い課税額となる場合があるので注意しましょう。
2、生命保険による節税対策
「生命保険は節税対策として有効」ということは、耳にしたことがあっても、「なぜ節税対策になるのか」ということまで正確に理解できている人は少ないかもしれません。
たしかに、生命保険は節税として効果的なケースもありますが、保険の契約の仕方によっては逆効果となってしまうこともあるので注意する必要があります。
(1)生命保険金は、相続財産とは別枠の非課税枠がある
生命保険による相続税の節税は、「みなし相続財産の非課税枠」を活用することで行われます。
相続税には、基本となる非課税控除枠がありますが、みなし相続財産については、これとは別枠で非課税枠が設けられている(非課税枠が2つになる)ということです。
みなし相続財産の非課税上限額は、「500万円×法定相続人の数」となります。
つまり、被相続人に配偶者と子(1人)の法定相続人がいる場合には、相続税の基礎控除とは別に、(被相続人が契約者で被保険者の)生命保険金については、1000万円までが相続税非課税ということになるわけです。
なお、みなし相続財産の非課税額は、以下の場合には適用されないので注意する必要があります。
- 法定相続人が相続放棄をした場合
- 生命保険金を法定相続人以外が受け取った場合
たとえば、上のケースにおいて、法定相続人のうち子が相続放棄をした場合には、みなし相続財産に対する基礎控除額は500万円×(2(配偶者・子)―1(相続放棄した子))となるので、500万円となります。
また、この生命保険金の受取人が被相続人の孫や、相続人とは無関係の内縁者になっていたようなケースでは、みなし相続財産に対する課税控除は適用できません。
(2)生命保険を有効に活用した場合の具体例
生命保険による相続税の節税をわかりやすくイメージするために、具体例で解説してみようと思います。
【モデルケース】 ・相続人・・・・・配偶者・長男・長女 (合計3人) ・相続財産・・・・5000万円(不動産・預貯金などの合計額) ・生命保険金・・・2000万円 |
このケースにおけるみなし相続財産(生命保険金)の課税控除額は、「500万円×3人=1500万円」となります。
実際に発生した生命保険金は、2000万円なので、「2000万円-1500万円=500万円」が課税対象額です。
したがって、このケースにおいて、相続税の課税対象となる財産は、不動産などの相続財産5000万円に、上記の500万円分の生命保険金を合計した5500万円となります。
実際の相続税の課税対象額は、ここから基礎控除額(このケースでは、3000万円+(600万円×3人)=4800万円)を差し引いた金額となるので、5500―4800万円=700万円となります。
仮に、被相続人が上記の生命保険金に相当する財産を(保険料として積み立てることなく)現金で残していた場合には、7000万円―4800万円=3200万円が課税対象額となります。
それぞれの場合の相続税の金額は、以下のようになります。
- 2000万円を生命保険金として残した場合:=70万円(税率10%)
- 生命保険ではなくすべてを相続財産として残した場合:440万円(税率20%控除額200万円)
実際の相続税額は、配偶者の特別控除などを適用するので、さらに減額される場合の方が多いのですが、生命保険を上手に利用できれば、相続税をかなり節税できる可能性が高いというわけです。
3、節税に失敗しないための4つのポイント
以上のように、生命保険は上手に活用すれば、相続税の節税に大きな効果がある場合があります。
しかし、「とりあえず生命保険に加入すれば税金が減る」というわけでもありません。
生命保険の入り方を間違えれば、節税効果が全くないだけでなく、保険料負担などとの関係で逆に損をしてしまうことも考えられます。
以下では、生命保険を活用しての節税に失敗しないために重要な4つのポイントについて解説していきます。
(1)保険商品を正しく選択する
一口に生命保険といっても、実際にはさまざまな保険商品があります。
そのため、生命保険それ自体の選択を間違えると「節税効果がほとんどない」というケースもないわけではありません。
たとえば、死亡保険であっても、「定期死亡保険」であれば、保険期間満了後は死亡給付金の給付を受けられません。
また、定期付き終身保険や、養老保険(年金型の保険)の場合には、定期給付金の保障が厚い分、死亡給付金は低く設定されるのが一般的となるので、節税効果は低いといえます。
(2)死亡保険金の額を正しく設定する
(1)と似たような問題ですが、「節税を目的」に生命保険に加入するのであれば、死亡保険金の金額にも注意する必要があります。
相続人が受け取る死亡保険金の金額が大きくなりすぎる(基礎控除額を超える)と「節税効果」もその分だけ小さくなるといえるからです。
特に、「相続税をゼロにする」という目的で生命保険に加入するケースであれば、自分のケースでの相続税控除額をきちんとシミュレートした上で、契約する必要があるでしょう。
(3)生命保険金の受取人を正しく指定する
「生命保険金の受取人の指定ミス」も節税に失敗してしまうパターンとしてよく知られています。
生命保険金の受取人が「法定相続人以外」の場合には、みなし相続財産の課税控除を利用することができないからです。
たとえば、「生命保険金の受取人を孫」にしたことで節税に失敗してしまうというケースが多いようです。孫が受取人の生命保険金は、みなし相続財産の課税控除の対象とはならないので、孫に残した生命保険金は「全額」が相続税の課税対象となってしまいます。
そのため、高額な生命保険金を残してしまえば、それによって相続財産総額が相続税の基礎控除を超え、(保険金の受取人とはならなかった)他の相続人の相続税を引き上げてしまう可能性すらあり、まさに逆効果となってしまいます。
さらに、孫は1親等の親族ではないので、「相続税も2割加算」となります。
どうしても孫に生命保険を残して節税をしたいというときには、「孫と養子縁組する」ことで対応することが可能となります(実子がいない場合には2名、実子がいる場合には1名までの養子は、みなし相続財産の基礎控除の対象に加えることができます)。
(4)保険料の支払い方法を正しく選択する
保険料の支払い方法を誤ってしまった場合には、節税効果が薄れてしまうことに注意する必要があります。
たとえば、高齢者が節税目的で生命保険に加入する際に最も多い「一時払い」では、「被相続人が保険契約から短い期間で亡くなった」場合に、その分だけ節税効果が低くなってしまいます。
有期払いと比較した場合に、支払う保険料が高くなってしまうからです。
また、「終身払い」にした場合には、「長生きしすぎる」ことで、節税効果がゼロになってしまうこともあります。
終身払いの場合には、「満期の時点で生命保険を解約」しなければ、保険料総額が受け取れる保険金を超えてしまうので赤字となります。
しかし、「生前の内に解約」してしまえば、生命保険金として相続人に残すこともできないわけですから、「節税効果もゼロ」となってしまうわけです。
特に近年は、男女とも平均寿命が延び、100歳を超えても元気という人も珍しくなくなりましたので、保険料の支払い方にも注意が必要なケースは増えてくるのではないでしょうか。
まとめ
みなし相続財産の課税控除を利用することのできる生命保険は、相続税の節税対策として有効な場合が多いといえます。
しかし、相続税の課税ルールや、それぞれの保険商品の特徴などを正しく理解せずに「生命保険に入っておけさえすれば良い」という対応をしてしまうと、「節税効果が全くなかった」、「保険料の支払いで損をしてしまった」、「逆に税金が増えてしまった」ということになってしまうこともあり得ます。
生命保険は、身近な商品の割には仕組みが複雑で細かい部分を正しく理解できていない人も多いと思います。
相続税やその節税についてわからないことがあるときには、税理士・弁護士などの専門家の相談を上手に活用することが重要です。