「離婚して子どもを引き取ることになったけど、将来、子どもが学生になった時の学費も養育費としてもらえる?」
「将来、子どもを私立の学校に通わせたいけれど、養育費を増額できるのかな?」
このような悩みを抱える方は多いでしょう。生活費に加え、学費も必要になるとなると、経済的な面での負担が増えてきます。
養育費は、両親の離婚後に子育てを行うために支払われるお金です。子育てには教育を受けさせることが重要ですので、一定の範囲までは学費も養育費として請求することができます。
ただし、養育費としての学費は、無制限に請求できるわけではありません。
そこで今回は、
- 養育費に学費が含まれるのか
- 離婚後に子どもが大学進学する場合、養育費を増額できる可能性はあるか
- 養育費として学費を支払ってもらうための取り決め方
など、学費と養育費に関する問題について詳しく解説していきます。これにより、あなたの疑問や悩みが解消され、より良い方向に向かう手助けとなることを願っています。
この記事が、離婚後にお子さまの学費でお悩みの方の手助けとなれば幸いです。
目次
1、養育費に学費は含まれる?それとも学費は別に請求できる?
結論として、養育費には一定の範囲で学費も含まれます。
ここではその理由と、養育費としてもらえる学費の相場についてご説明します。
(1)そもそも離婚後の養育費とは
両親が離婚した後も、親権者(監護権者)とならなかった親と子どもとの親子関係は切れません。
離婚後も、子どもを育てるための法的な責任が続きます。
この法的な責任に基づいて、親権者(監護権者)とならなかった親(非親権者)から親権者(監護権者)に対して、子どもを育てるために支払われるお金が「養育費」です。
養育費としてどのくらいの金額がもらえるのかというと、基本的には支払義務者と同程度の生活を子どもが営むことが可能な程度の金額です。
なぜなら、養育費の本質は、直系血族の扶養義務(民法第877条1項)に基づくものだからです。
ただ、自分の生活を犠牲にしてまで親族の面倒を見なければならないわけではありません。
自分と同程度の生活を、親族にも保障できれば足りると考えられています。
したがって、養育費の請求が可能だからといっても、相手の生活状況を無視して無制限に請求できるわけではないことに注意しましょう。
(2)養育費に学費が含まれる根拠
子どもが幼いうちは基本的に学費がかからないため、離婚時に養育費を取り決める際に学費の問題を考えない人もいます。
しかし、子どもが高校生以上になり学費の負担が重くなってくると、学費が養育費に含まれるのかが気になってくるところでしょう。
今の日本では、子どもを育てていく上で学校に通わせて教育を受けさせることは必須です。そのため、基本的な学費は養育費に含まれると考えられています。
(3)養育費に含まれる学費の相場
養育費の相場としては、裁判所が公表している養育費算定表の金額が目安となります。
参照:裁判所|養育費算定表
この養育費算定表の金額には、公立高校までの学費と平均的な諸経費が含まれています。
文部科学省が平成30年度に行った調査によれば、公立高校に進学した場合にかかる学費の平均は年間で45万7,380円とされています。
また、塾や習い事その他の学校外活動費にかかる経費の年間平均は次のとおりです。
- 公立小学校:21.3万円
- 公立中学校:30.6万円
- 公立高校:17.8万円
したがって、概ね以上の金額が、養育費に含まれる学費の相場ということになります。
ちなみに、以下の学費のうち、上記の金額を超える部分については養育費算定表の対象外とされています。
したがって、これらの学費が必要になった場合は、別途請求できるかどうかを検討しなければなりません。
【私立高校に進学した場合の学費】
- 96万9,911円/年
【私立学校に通う子どもの学校外活動費】
- 私立小学校:64.7万円/年
- 私立中学校:33.0万円/年
- 私立高校:25.1万円/年
参考:文部科学省 「平成30年度子供の学習費調査の結果について 」
【大学に進学した場合にかかる学費(4年間)】
- 国公立大学に進学した場合:748.1万円
- 私立大学文系に進学した場合:965.7万円
- 私立大学理系に進学した場合:1,070.4万円
参考:日本政策金融公庫「子ども1人当たりにかける教育費用(高校入学から大学卒業まで)が減少 」
2、私立学校や大学等の学費、塾や習い事等の費用が養育費とは別に認められるケース
養育費算定表の金額に含まれるのは公立高校までの学費と平均的な諸経費に限られますが、それを超える私立学校や大学等の学費、塾や習い事の費用等は一切請求できないのかというと、そういうわけではありません。
子どもの教育にどのくらいの学費を使うかは、家庭によってさまざまです。小・中学校から私立の学校に通わせる家庭もあれば、高校から私立に進学させる家庭もあります。今では大学に進学する子も多く、さらに大学院に進学したり海外に留学したり子も少なくありません。
また、塾や習い事の費用についても、積極的に通わせる家庭もあれば、そうでない家庭もあります。
これらにかかる費用について、養育費算定表の金額とは別に請求できるかどうかは、各家庭の事情によって異なってきます。
以下では、どのような場合に私立学校や大学等の学費、塾や習い事等の費用が養育費とは別に認められるのかについてご説明します。
(1)支払義務者が承諾している場合
養育費は両親の話し合いによって合意ができれば、養育費算定表にとらわれず自由に金額を決めることができます。
したがって、支払義務者が承諾する限り、養育費算定表の金額を超える学費についても無制限に養育費に含めることができます。
(2)両親の収入や学歴・地位などから見て不合理でない場合
両親(特に支払義務者)が子どもの頃から塾や習い事に積極的に通って高学歴を有し、高収入が得られる地位についているような場合は、子どもにも希望に応じて同程度の教育の機会を保障すべきといえます。
したがって、両親の収入や学歴・地位などから見て不合理でない範囲内においては、私立学校や大学の学費の請求が認められる可能性が高いということになります。
高額な塾・習い事や大学院の学費、留学費用などは一般的には養育費に含まれませんが、両親の収入や学歴・地位などによっては請求が認められる可能性もあります。
ただし、離婚時にこれら学費等を既に想定して養育費を取り決めたと考えられる場合には、増額を請求することは難しいので注意が必要です。
(3)事情の変更を理由に養育費の増額が認められる場合
離婚時に養育費の金額を取り決めても、その後に事情が変われば養育費の増額も認められることがあります。
例えば、離婚時には公立高校への進学を想定して養育費を低めに取り決めていたものの、思いのほか子どもの成績が伸びて、私立の進学校への進学を希望する場合もあるでしょう。
あるいは、離婚後に親権者が居住する地域によっては、公立の学校へ通わせるのが困難であったり、私立の学校へ通わせるのが一般的であったりすることもあるでしょう。
ただし、離婚時に子どもがすでに中学生くらいになっていて、私立高校へ進学する可能性を想定できたような場合には注意が必要です。
このような場合には私立高校へ進学することを想定して養育費を設定すべきなので、後から増額できる可能性は低くなります。
3、養育費として学費の請求が実際に認められた判例
裁判所では基本的に養育費算定表に従って養育費の金額が定められますが、子どもの学費のために養育費の増額が認められた例も少なくありません。
ここでは、特徴的な判例を2つ紹介します。
(1)養育費支払期間を「22歳になってから最初の3月まで」に延長された事例
離婚当初は、子どもが成人に達するまで父親が養育費を支払うとされていました。
しかし、子どもが私立大学へ進学したため、養育費の支払期間が22歳になってから最初の3月までに延長された事例があります(東京高等裁判所平成29年11月9日決定)。
東京高等裁判所は、子どもは成人後も大学を卒業するまでは自分で生活するだけの収入を得ることができないことから未成年者と同視できるとして、養育費の支払期間の延長を認めたのです。
この理屈は、他のケースにも広く一般化することができます。
ただし、大学卒業まで自立できないというだけで、養育費の延長が認められるとは限らないことにご注意ください。
この事例では、次の点も考慮されました。
- 父親が子どもの大学進学に反対はしていなかったこと
- 父親の学歴が大学卒であって審判当時は高校教師としての地位を有していたこと
- 父親の年収が900万円以上あること
このように、子どもの進学に関する相手方の意向や学歴、社会的地位、収入などによっては、養育費の延長も認められやすくなるといえます。
(2)私立大学に進学した子の学費について増額すべきと認められた事例
父親は子どもの大学の学費を負担することを拒否したものの、母親からの請求によってその一部を負担すべきとして養育費の増額が認められた事例があります(大阪高等裁判所平成27年4月22日)。
この事例では、もともと子どもは国立大学への進学を目指しており、両親ともそのことを認識していました。
ただ、実際には私立大学へ進学することになりました。
両親の収入のみでは学費のすべてをまかなうことは困難であり、子ども自身も奨学金やアルバイトによって学費の一部をまかなうことが両親と子どもの共通認識であったという事情もありました。
これらの事情から裁判所は、学費の負担は父親・母親・子どもで三等分することとしました。
なお、父親の負担する分については、国立大学の学費相当額を前提とすると判断をしました。
私立大学に進学した子どもの学費のうち、父親には国立大学の学費相当額の3分の1を負担するようにと命じたのです。
この事例のポイントはやはり、父親が国立大学への進学には反対していなかったことと、学費の3分の1の限度では負担することを想定していたという点にあるでしょう。
なお、この事例でも養育費の支払期間は22歳まで認められています。
4、養育費として学費を獲得する方法
では、養育費として学費を支払ってもらうためにはどうすればいいのでしょうか。
ここでは、(元)パートナーに子どもの学費を請求し、確実に獲得するための具体的な方法を説明します。
(1)話し合い
まずは、相手方に対して直接、要望を伝えて話し合うことです。
家庭裁判所の手続きでは、基本的に養育費算定表の枠内で金額が決められてしまいます。
前項でご紹介した判例もありますが、実際のところ、養育費算定表の金額を超える学費を調停や審判で獲得することは容易ではありません。
したがって、できる限り話し合いで相手方の承諾を得るのが理想的です。
とはいえ、相手方にとっては支出が増えると今後の生活や人生設計にも関わるので、簡単に要望を受け入れてもらえるとは限りません。
請求する側としては、学費が高いけれど子供の将来のためには是非にも必要であることと、自分の資力だけではどうしても足りないので協力が必要であることをしっかりと伝えましょう。
相手方との話し合いがスムーズに進まない場合は、養育費の増額を請求する旨の内容証明郵便を送付して、様子を見るのも一つの方法です。
話し合いで合意できた場合には必ず離婚協議書や合意書を作り、できる限り公正証書にしておきましょう。
(2)子どもが小さいうちに離婚するときは「協議条項」を取り決める
離婚時に養育費を取り決める際のコツですが、「協議条項」というものを離婚協議書や合意書の中に盛り込むことが有効です。
協議条項とは、養育費の金額を変更する必要が生じた場合には改めて協議することを約束する条項のことです。
子どもが小さいうちは、将来必要となる学費を具体的に算出するのは難しいものです。
そこで、「子どもの学費については、追って誠実に協議することとする」といった条項を離婚協議書や合意書に記載しておきましょう。
(3)大学に進学することを想定して金額を取り決める
ただ、請求する側としては、やはり最初から大学に進学することを想定して金額を取り決める方が望ましいといえます。
協議条項を盛り込む方法では、実際に学費が必要となった際に総額を請求する必要がありますが、簡単に増額に応じてもらえるとは限りません。
しかし、最初から子どもが大学に進学することを想定して、段階的に養育費の金額を取り決めておけば安心できるでしょう。
話し合いの際に、「もし大学に行かないことになったら減額に応じるから」と相手方に伝えて、承諾を得るようにしてみましょう。
(4)調停・審判の申し立てる
相手方が増額の話し合いに応じてくれず、内容証明郵便を送付しても進展が見られない場合、そのままではいつまで経っても養育費として学費を払ってもらうことはできません。
その場合には、家庭裁判所へ調停または審判を申し立てることになります。
調停では、家庭裁判所の調停委員によるアドバイスや説得を通じて相手方と交渉するため、当事者だけで話し合うよりも解決しやすくなります。
ただ、収入や学費、生活費などがわかる資料を提出して、調停委員に対して養育費を増額する必要性と相当性を説得的に伝えることが大切です。
調停委員に実情を理解してもらうことができれば、調停委員を実質的に味方につけることができるので、調停を有利に進めやすくなります。
調停でも相手方と合意ができない場合は、自動的に審判の手続きに移行します。
審判では、裁判官が当事者の言い分や提出された資料に基づいて一切の事情を考慮して、養育費の増額の可否や増額する場合の金額を決定します。
なお、これから離婚する人の場合は「離婚調停(または審判)」を申し立てて、その調停の中で養育費についても話し合うことになります。
離婚後に養育費をもらっており、学費のために増額を求める場合は、「養育費増額請求調停」を申し立てます。
5、子どもの学費のために養育費増額を請求したい!そんなときは弁護士に相談を
ここまで説明してきたように、子どもの学費も養育費として請求することは可能ですが、さまざまな事情を考慮する必要があります。特に、大学や私立高校の学費については、相手方の承諾がない場合には養育費を増額してもらうことは容易ではありません。
養育費の増額を請求したいときには、弁護士に相談するのがオススメです。弁護士に相談することで、増額の可否や、増額を請求するコツなどについて専門的なアドバイスを具体的に受けることができます。さらに、弁護士に依頼すれば以下のメリットが得られます。
(1)相手方との交渉を代行してくれる
依頼を受けた弁護士は、あなたの代理人として、相手方との交渉を代理してくれます。
あなたご自身は、相手方と直接やりとりする必要がありません。
相手方と直接やりとりをすることで懸念される精神的負担が、大幅に削減されるでしょう。
請求する際に相手方へ送付する内容証明郵便も、プロの視点で効果的に書いてくれるので、交渉を有利に進めやすくなります。
話し合いで相手方が養育費の増額を拒んだ場合でも、法的観点から的確な主張をしたうえで、粘り強く交渉してもらえます。
その結果、適切な養育費増額が期待できるでしょう。
(2)調停や審判の手続きをしてくれる
相手方がどうしても増額に応じない場合には、調停や審判が必要になります。
調停や審判には、申立書の作成から証拠書類、その他の必要書類の収集から家庭裁判所への申し立て手続きなどの複雑な手続きがあります。
これらすべてを弁護士が代行してくれるため、あなた自身が苦労する必要はありません。
調停期日では、弁護士が同席して説得的な意見を述べてもらえます。
審判に移行しても、意見書の提出など的確な対応によって万全なサポートが受けられますので、納得できる結果が期待できるでしょう。
まとめ
子どもの将来には、大きな可能性が秘められています。
親であれば誰しも、子どものために十分な教育を与えたいと願うことでしょう。
もし、両親が離婚したために子どもが十分な教育を受けることができず、可能性が狭められるようなことがあれば、悲しいことですよね。
離婚して親権者(監護権者)でなくなった元パートナーも、子どもの親であることに変わりはありません。
相手方の事情も無視することはできませんが、子どものためにこそ、必要であれば養育費の増額を勝ち取りたいところです。
わからないことがある場合や、相手方との交渉でお困りのときは、気軽に弁護士までご相談ください。