後遺障害等級12級は、交通事故で残存することの多い痺れ・痛み等の神経症状や上肢・下肢の関節の機能障害で認定される可能性のある等級であり、交通事故案件を多数取り扱っていると、認定例をよく目にする等級です。
そこで、今回は、
- どのような後遺障害が12級と認定されるのか
- 12級が認定された場合、どれくらいの賠償額になるのか
- 適切な後遺障害認定を受けるためのポイント
といった点を中心に書いてみました。
ご参考になれば幸いです。
交通事故の後遺障害については以下の関連記事もご覧ください。
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目次
1、後遺障害等級12級の認定を受けることができる後遺障害の症状とは?
(1)後遺障害とは?
後遺障害とは、交通事故と因果関係が認められる障害の状態が症状固定に至っており、かつその障害が自動車損害賠償保障法施行令の等級に該当しているものをいいます。
(2)後遺障害等級認定とは?
後遺障害等級認定とは、被害者又は加害者側の請求に基づき、加害者側自賠責保険会社の依頼によって損害保険料率算出機構(自賠責調査事務所)が、被害者に症状固定時に残存した症状を自賠責法に定められた16等級137項目の等級のいずれかに認定することをいいます。
2、後遺障害等級12級の認定を受けることができるのはどのような場合?
(1)後遺障害別等級表・別表第2
後遺障害等級12級と認定される後遺障害は、以下の通りです。
等級 | 後遺障害 |
12級 | 1、1眼の眼球に著しい調整機能障害または運動障害を残すもの |
2、1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの | |
3、7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | |
4、1耳の耳殻の大部分を欠損したもの | |
5、鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの | |
6、1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの | |
7、1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの | |
8、長管骨に変形を残すもの | |
9、1手のこ指を失ったもの | |
10、1手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの | |
11、1足の第2の足指を失ったもの、第2の足指を含み2の足指を失ったもの又は第3の足指以下の3の足指を失ったもの | |
12、1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの | |
13、局部に頑固な神経症状を残すもの | |
14、外貌に醜状を残すもの |
(2)各号の症状の説明
1号「1眼の眼球に著しい調整機能障害または運動障害を残すもの」
「眼球に著しい調節機能障害を残すもの」とは、調節力が通常の場合の1/2以下に減じたものをいいます。
「眼球に著しい運動障害を残すもの」とは、眼球の注視野の広さが1/2以下に減じたものをいいます。
2号「1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの」
「まぶたに著しい運動障害を残すもの」とは、開瞼時に瞳孔領を完全に覆うもの又は閉瞼時に角膜を完全に多い得ないものをいいます。
3号「7歯以上に歯科補綴を加えたもの」
「歯科補綴(しかほてつ)を加えたもの」とは、現実に喪失又は著しく欠損した歯牙に対する補綴をいいます。
4号「1耳の耳殻の大部分を欠損したもの」
「1耳の耳殻の大部分を欠損したもの」とは、耳介の軟骨部の1/2以上を欠損した状態をいいます。
5号「鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの」
「鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの」とは、裸体となったときに、欠損を含む変形が明らかに分かる状態をいいます。
6号「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」
「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」とは、上肢の3大関節(肩関節、ひじ関節及び手関節)のうち、1つの関節において、関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されているものをいいます。
7号「1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」
「1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」とは、下肢の3大関節(股関節、ひざ関節及び足関節)のうち、1つの関節において、関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されているものをいいます。
8号「長管骨に変形を残すもの」
「上肢の長管骨に変形を残すもの」とは、次のいずれかに該当するものをいいます。
- 「上腕骨に変形を残すもの」か「橈骨及び尺骨の両方に変形を残すもの」のいずれかに該当する場合であって、外部から想見できる程度(15度以上屈曲して不正癒合したもの)以上のもの。
- 上腕骨、橈骨又は尺骨の骨端部に癒合不全を残すもの
- 橈骨又は尺骨の骨幹部等に癒合不全を残すもので、硬性補装具を必要としないもの
- 上腕骨、橈骨又は尺骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
- 上端骨の直径が2/3以下に、又は橈骨若しくは尺骨の直径が1/2以下に減少したもの
- 上腕骨が50度以上外旋又は内旋変形癒合しているもの
一方「下肢の長管骨に変形を残すもの」とは、次のいずれかに該当するものをいいます。
- 「大腿骨に変形を残すもの」か「脛骨に変形を残すもの」のいずれかに該当する場合であって、外部から想見できる程度(15度以上屈曲して不正癒合したもの)以上のもの。
- 大腿骨若しくは脛骨の骨端部に癒合不全を残すもの又は腓骨の骨幹部等に癒合不全を残すもの
- 大腿骨又は脛骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
- 大腿骨又は脛骨の直径が2/3以下に減少したもの
- 大腿骨が外旋45度以上又は内旋30度以上回旋変形癒合しているもの
9号「1手のこ指を失ったもの」
「手指を失ったもの」とは、母指は指節間関節、その他の手指は近位指節間関節以上を失ったものとされており、具体的には次の場合がこれに該当します。
- 手指を中手骨又は基節骨で切断したもの
- 近位指節間関節(母指にあっては指節間関節)において、基節骨と中手骨を離断したもの
10号「1手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの」
「指の用を廃したもの」とは、手指の末節骨の半分以上を失い、又は中手指節関節若しくは近位指節間関節(母指にあっては指節間関節)に著しい運動障害を残すものとされており、具体的には、次の場合がこれに該当します。
- 手指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの
- 中手指節関節又は近位指節間関節(母指にあっては指節間関節)の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されるもの
- 母指について、橈側外転又は掌側外転のいずれかが健側の1/2以下に制限されているもの
- 手指の末節の指腹部及び側部の深部感覚及び表在感覚が完全に脱失したもの→なお、このことは、筋電計を用いた感覚神経伝達速度検査を行い、感覚神経活動電位(SNAP)が検出されないことを確認することによって認定するとされます。
11号「1足の第2の足指を失ったもの、第2の足指を含み2の足指を失ったもの又は第3の足指以下の3の足指を失ったもの」
「足指を失ったもの」とは、その全部を失ったものとされており、具体的には中足指節関節から失ったものをいいます。
12号「1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの」
「足指の用を廃したもの」とは、第1の足指は末節骨の半分以上、その他の足指は遠位指節間関節以上を失ったもの又は中足指節関節若しくは近位指節間関節(第1の足指にあっては指節間関節)に著しい運動障害を残すものとされており、具体的には、次の場合がこれに該当します。
- 第1の足指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの
- 第1の足指以外の足指を中節骨若しくは基節骨を切断したもの又は遠位指節間関節若しくは近位指節間関節において離断したもの
- 中足指節関節又は近位指節間関節(第1の足指にあっては指節間関節)の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されるもの
13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」
「頑固な神経症状を残すもの」とは、残存した神経系統の障害が神経学的検査結果や画像所見などの他覚的所見により、医学的に証明できるものをいいます。
14号「外貌に醜状を残すもの」
「外貌」とは、頭部、顔面部、頚部のごとく、上肢及び下肢以外の日常露出する部分をいいます。
外貌における「醜状を残すもの」とは、原則として、次のいずれかに該当する場合で、人目につく程度以上のものをいいます。
- 頭部では鶏卵大面以上の瘢痕または頭蓋骨の鶏卵大面以上が欠損している状態
- 顔面部では、10円銅貨大以上の瘢痕、長さ3センチメートル以上の線状痕がある状態
- 頚部では、鶏卵大面以上の瘢痕がある状態
(3)むち打ち症による痛み・しびれについて
交通事故による後遺障害のうち、最も多いのは、頚椎捻挫後の頚部痛・手のしびれ、腰椎捻挫後の腰痛・足のしびれ等の症状が残存してしまうという障害です。
同じ「頸椎捻挫」、「腰椎捻挫」という傷病名でも、実際に後遺障害等級認定の申請をしてみると、「非該当」、「14級9号」、「12級13号」と結論が分かれてしまうことはよくあります。
「非該当」であれば保険会社が提示する示談金額はせいぜい50~60万程度ですが、「14級9号」が認定されれば裁判所・弁護士基準で300~400万円程度の金額になることも珍しくなく、「12級13号」が認定されれば800~1000万円程度の金額になることもあります。
このように、同じ頚椎捻挫・腰椎捻挫と診断され、症状が残ってしまった場合でもどう認定されるかによって、損害賠償の金額に随分と大きな違いが生じてしまいます。
後遺障害別等級表・別表第2において、12級13号は上記のとおり、「局部に頑固な神経症状を残すもの」とされており、14級9号は「局部に神経症状を残すもの」とされていますので、「頑固な」が付くか付かないかの違いしかありません。
そこで、認定基準の説明を見ると、12級13号は「神経系統の障害が他覚的所見により医学的に証明されるもの」をいい、14級9号は「神経系統の障害が医学的に推定され、説明のつくもの」をいうとされています。
すなわち、症状固定後にも残存する痛みやしびれ(神経系統の障害)について
- 医学的証明がなされている場合→12級13号
- 医学的証明はなされていないが説明はつく場合→14級9号
- 医学的証明がなされておらず、かつ、説明もつかない場合→非該当
ということになります。
もっとも、これだけでは、具体的にどのような場合にどのような等級が認定されるのか、あるいは、非該当と判断されるのか理解できないのではないかと思います。
ただ、この点については、絶対的な基準が公表されているわけではないので、多くの後遺障害認定理由結果を分析して、ある程度の傾向を把握していくしかありません。
- 非該当と判断される事例を分析していくと
- 事故態様が軽微である
- 医療機関への通院実績が乏しい
- 症状が一貫・継続していない
- 症状が重篤でない
- 症状に常時性がない
- 画像所見・神経学的所見に乏しい
といったケースが多く見られます。
そしてこれらの非該当と判断される要素をクリアしていればしているほど、14級9号の認定を受けられる可能性は高くなっていきます。
もっとも、これらの要件をすべて備えていても、「頸椎捻挫」・「腰椎捻挫」との診断名では、ほとんど14級9号にとどまるのが実情です。
その中でも、ごくまれに12級13号の認定を受けられる場合があります。
12級13号と14級9号の違いは、上記のとおり、残存した神経系統の障害について、医学的「証明」がなされているか、それとも「説明」できるにとどまるかです。
「証明」と「説明」…非常に相対的な概念に思えますが、具体的な分水嶺はどこでしょうか。
結論から言うと、自覚症状と整合する「画像所見」があるか否かです。これに尽きるといっても過言ではありません。
すなわち、むち打ち症で12級13号の認定を受けるには、MRI画像に、椎間板のヘルニア変性、脊柱管狭窄などによる神経根の圧迫といった異常所見が明確に映し出されていることが不可欠といえます。
そして、当該神経の支配領域に痛みやしびれの症状が生じていなければならないのです。
さらに、画像上明確な異常所見があっても、それだけでは足りず、その異常所見が事故によって生じた外傷性のものである必要があります。
実は、医学的には、椎間板や椎体の変性は、加齢によって生じるケース(いわゆる「年齢変性」「経年性」)がほとんどで、交通事故によって椎間板や椎体の変性が生じる可能性は低いと考えられています。
しかし、事故の衝撃の大きさや、受傷機転次第では、椎間板や椎体の変性が生じることもあるとされています。
では、椎間板や椎体の変性が外傷性のものと言えるのはどのような場合でしょうか。
通常、人は30歳を超えた頃から脊椎には何らかの加齢による異常が生じてきます。
そして、椎間板についていえば、複数箇所に変性や膨隆が生じていればそれは「年齢変性」「経年性」のものと捉えられるのです。
逆に言えば、椎間板の変性・膨隆の箇所が1か所か2か所程度であれば、それは「年齢変性」「経年性」のものではないと推測することができるのです。
他にも、MRI画像からその椎間板の変性がかなり前から生じていたものなのか、比較的最近になって生じたものなのかで外傷性であるかを判断することができる場合もあります。
事故以前にMRIを撮影していてその画像には椎間板の変性が写っていないようであれば、事故後に生じた変性は事故によるものと考えることができるでしょう。
12級13号の認定を受けるためには、上記のとおり、画像上明確な異常所見の存在が不可欠ですので、事故後なるべく早い段階で精度の高いMRI撮影をしてもらいましょう。
また、後遺障害等級認定手続が書面審査であることには変わりありませんので、医師に有意な画像所見(画像上捉えられる病変及びそれが外傷性のものと判断されるのであればその根拠)や自覚症状と整合する神経学的所見を後遺障害診断書に記載してもらうことも非常に重要となってきます。
3、後遺障害等級12級認定の場合に獲得できる損害賠償額について
(1)損害賠償総額の計算方法について
傷害事故の場合に加害者側に請求できる費目については、以下に挙げるものが一般的です(『民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準』(公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部発行。表紙の色から「赤い本」と呼ばれています。)参照)。
治療関係費 | 治療費や入院費です。後遺障害が認定された場合、「後遺障害診断書作成料」も請求できます。 |
看護料 | 入院付添費:近親者付添の場合、1日につき6500円通院付添費:1日につき3300円 |
入院雑費 | 入院中に必要になった日用雑貨や電話代など、入院中に発生した雑費のことです。入院1日につき1500円で算定します。 |
通院交通費 | 通院に要した交通費です。 |
その他 | 将来介護費や装具購入費、ケガのため進級が遅れた場合の学費などです。 |
休業損害 | 原則として「休業損害証明書」に基づいて算定します。 |
傷害慰謝料 | 入通院期間に基づいて算定します。 |
逸失利益 | 後遺障害が認定された場合に請求します。 |
後遺障害慰謝料 |
相手方に請求できる金額の算定方法ですが、まず、上記各損害項目の金額を合計し、総損害額を求めます。
次に自身の過失分を控除し、過失相殺後損害額を求めます(当然ですが、加害者過失割合が100%であれば過失相殺はしません)。
最後に既払金を差し引いて「請求金額」を算定します。
(2)後遺障害等級12級が認定された場合の慰謝料の金額について
①2種類の慰謝料
・入通院慰謝料(傷害慰謝料ともいいます。)
交通事故によって傷害を負い、症状固定時までの間入院や通院をさせられたことにより被った精神的損害に対して支払われる金銭です。
・後遺障害慰謝料
症状固定時以降将来にわたって残存する後遺障害を負ったことによる精神的損害に対して支払われる金銭です。
②入通院慰謝料の算定方法について
裁判所・弁護士基準での入通院慰謝料の計算は、上記の「赤い本」を用いて行います。
「赤い本」は、損害額算定のためには必須ですので、ご自身で解決してみたい方は、図書館で借りるなどしてください。
また、裁判所・弁護士基準での損害額算定には、『交通事故損害額算定基準』(公益財団法人日弁連交通事故相談センター本部発行。表紙の色から「青本」と呼ばれています。)を用いることもあります。
「赤い本」は日弁連交通事故相談センターの東京支部発行、「青本」は同センターの本部発行で、一応赤い本は東京の基準、青本は全国の基準と説明されることがあります。
しかし、東京以外の地域の事故でも、赤い本を用いて示談を行うこともありますし、何より青本に記載されている基準は幅のある基準(「○円~○円」といった記載)であるのに対し、赤い本の基準は「○円」と明確に記載されているため、赤い本を用いた方が計算しやすいといえるでしょう。
前置きが長くなりましたが、入通院慰謝料は、入通院期間を以下の表にあてはめて算定することになります。
[表の見方]
- 入院のみの場合は、入院期間に該当する額(例えば入院3か月で完治した場合は145万円となる。)
- 通院のみの場合は、通院期間に該当する額(例えば通院3か月で完治した場合は73万円となる。)
- 入院後に通院があった場合は、該当する月数が交差するところの額(例えば入院3か月、通院3か月の場合は188万円となる。)
- この表に記載された範囲を超えて治療が必要であった場合は、入・通院期間1月につき、それぞれ15月の基準額から14月の基準額を引いた金額を加算した金額を基準額とする。例えば別表Ⅰの16月の入通院慰謝料は340万円+(340万円-334万円)=346万円となる。
入通院慰謝料については、原則として入通院期間を基礎として別表Ⅰを使用します。
通院が長期にわたり、かつ、不規則である場合は、実日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることがあります。
むち打ち症で他覚症状がない場合は、別表Ⅱを使用します。
この場合、慰謝料算定のための通院期間は、その期間を限度として、実治療日数の3倍程度を目安とします。
12級が認定される場合には、他覚症状があるということですから、基本的には別表Ⅰを使用することになります。
③後遺障害慰謝料について
後遺障害慰謝料についても赤い本に以下の基準が示されています。
第1級 | 第2級 | 第3級 | 第4級 | 第5級 | 第6級 | 第7級 |
2800万円 | 2370万円 | 1990万円 | 1670万円 | 1400万円 | 1180万円 | 1000万円 |
第8級 | 第9級 | 第10級 | 第11級 | 第12級 | 第13級 | 第14級 |
830万円 | 690万円 | 550万円 | 420万円 | 290万円 | 180万円 | 110万円 |
したがって、12級が認定された場合の裁判所・弁護士基準の後遺障害慰謝料は、290万円ということになります。
(3)後遺障害等級12級が認定された場合の逸失利益について
逸失利益とは、後遺障害が残ったことによって失われた利益のことです。
労働能力の低下によって得られる収入が減ることから、これを補償するために支払われます。
逸失利益の算定方法は、以下のとおりです。
逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
①基礎収入
基礎収入額は1年あたりの金額(年収)で考えます。
原則として事故前の現実の収入額を基礎とします。
②労働能力喪失率
労働能力喪失率は下記の表のように後遺障害等級別に決まっており、裁判でも多くの場合はこの喪失率が採用されています。
後遺障害等級 | 労働能力喪失率 | 後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
1級 | 100/100 | 8級 | 45/100 |
2級 | 100/100 | 9級 | 35/100 |
3級 | 100/100 | 10級 | 27/100 |
4級 | 92/100 | 11級 | 20/100 |
5級 | 79/100 | 12級 | 14/100 |
6級 | 67/100 | 13級 | 9/100 |
7級 | 56/100 | 14級 | 5/100 |
したがって、12級の労働能力喪失率は、基本的には14%ということになります。
③労働能力喪失期間
労働能力喪失期間は、原則として症状固定から67歳までの年数です。
ただし、神経症状の場合は、次第に馴化していくものであるという経験則から、12級で10年程度、14級で5年程度に制限する例が多く見られます。
④中間利息控除
逸失利益は「将来の損害」(将来取得するはずだったのに後遺症のために減ってしまう収入)について今まとめて支払うというものなので、その利息分を差し引いて(控除して)支払うことになります。
その中間利息控除係数として、ライプニッツ係数が使われます。
(4)損害計算シミュレーション
以上を踏まえ、12級が認定された場合の損害賠償額について、具体的な事例を用いてシミュレーションしてみましょう。
【事例】
被害者:男性、事故時及び症状固定時38歳、営業職、事故前年収入500万円
事故日時:平成24年3月1日午後0時ころ
事故態様:被害者バイク。加害者自動車。
十字路(信号なし)にて、被害者が直進したところ、加害者の運転する対向右折車が接触し、被害者転倒。加害者過失割合85%
治療状況:右膝高原骨折との診断
平成24年3月1日から同月20日まで、及び同年10月21日から同月30日まで入院(入院期間合計30日)。3月1日から同月6日まで妻が付添い。
症状固定日は平成24年11月30日(実通院日数80日)
休業日数:80日(事故前3か月の収入合計125万円)
事故後の経緯:当初より加害者加入の保険会社が対応。治療費(150万円)及び通院交通費(5万円)は全額支払いを受け、休業損害は60日分のみ支払いを受けた。症状固定後、被害者請求を行い、右膝関節の可動域制限により12級7号の認定を受け、自賠責保険会社より224万円受領済み。
【損害計算】
①治療費 150万円
②通院交通費 5万円
③入院付添費 3万9000円
6500円×6日=3万9000円
④入院雑費 4万5000円
1500円×30日=4万5000円
⑤後遺障害診断書作成料 1万500円
⑥休業損害 111万1120円
1日当たり収入1万3889円(事故前3か月の収入合計125万円÷90日)
1万3889円×80日(休業日数)=111万1120円
⑦入通院慰謝料 164万円
赤い本・別表Ⅰ参照
入院1か月、通院8か月=164万円
⑧逸失利益 1059万8770円
基礎収入500万円×0.14(12級の労働能力喪失率)×15.1411(29年間のライプニッツ係数)=1059万8770円
⑨後遺障害慰謝料 290万円
⑩総損害額 1789万4390円
※①ないし⑨の合計です。
⑪加害者過失割合 85%
⑫過失相殺後損害額 1521万232円
1789万4390円×0.85=1521万0232円
⑬既払金 462万3340円
治療費 150万円
通院交通費 5万円
休業損害 83万3340円
自賠責保険金 224万円
⑭最終支払金額 1058万6892円
※⑫から⑬を控除した額です。
4、適切な後遺障害等級認定の獲得方法
(1)申請手続は被害者請求で
後遺障害等級認定の申請の方法には、事前認定と被害者請求の2種類があります。
それぞれ以下のとおりです。
①事前認定
事前認定とは、加害者の加入する任意保険会社が後遺障害等級の認定の申請手続を行うものです。
交通事故で負った傷害について継続的な治療が必要な場合、加害者の加入する任意保険会社が被害者の方の治療費の支払の一括対応を行っていることが多いと思います。
この場合に、被害者の方が治療を継続したにも関わらず症状固定時に障害が残存したときには、加害者の加入する任意保険会社がそのまま後遺障害等級の認定の申請手続もしてくれます。
このようにして、加害者の加入する任意保険会社が被害者の方の後遺障害等級の認定の申請手続をしてくれることを事前認定といいます。
②被害者請求
これに対して、被害者が直接加害者の加入する自賠責保険会社に対して後遺障害等級認定の申請をすることを被害者請求といいます。
被害者請求の場合には被害者の方が自ら書類や資料を揃えなければなりません。
そのため、少し面倒だと思われるかもしれませんが、後遺障害等級の認定の申請は被害者請求で行うことをお勧めします。
なぜなら、後遺障害等級の認定の申請においては、必ず提出しなければならない書類は決まっているのですが、基本的には提出してはならない書類は決まっていないからです。
すなわち、事前認定によって被害者の方の後遺障害等級の認定の申請をするのは加害者側の任意保険会社であって、必ずしも被害者の方の痛みを理解してくれているわけではありません。
もっといえば、加害者側の任意保険会社は、自分たちの支払額が減少するため、被害者の方に後遺障害等級の認定が降りない方が良いのです。
そのため、被害者の方の後遺障害等級の認定にネガティブな証拠を添付しないとも限らないのです。
他方で、被害者請求では、自らの痛みを分かってもらうために、被害者自ら積極的に様々な証拠を添付することができます。
よって、後遺障害等級認定の申請は被害者請求の方法で行うのが良いでしょう。
(2)適切な後遺障害等級認定を受けるためのポイント
①後遺障害の認定は事故直後からの対応が重要
後遺障害等級認定の審査は、原則として書面審査のみによって行われます。
事故直後の治療方針が診断書、レセプト、カルテに医療記録として残っていきます。
最終的にこれらの記録を、自賠責保険調査事務所は審査し、等級の認定を行うことになります。
そして、事故直後にどのような症状があったのか、どのような治療が行われたのか、そして最終的にどのような症状が症状固定時に残存したのかということが、整合性を持って医療記録上に現れている必要があります。
逆に考えてみれば、症状固定時において被害者にある症状が残存し、その症状について等級の認定を求めたいと考えても、治療開始当初の記録上に現れている症状や、治療内容が、残存した症状と整合していない場合には、その症状固定時に現に症状が存在していたとしても、その事故によって生じた後遺障害とは認定されないのです。
事故当初に医師に症状についての見落としがあったり、治療方針の誤りがあったり、症状が出ていても被害者がそれを適切に医師に申告していなかった場合などには、事故当初の医療記録上の症状が症状固定時に残存した症状と整合性がないことになってしまうのです。
そのような理由から、事故と後遺障害との間に因果関係がないとされ、非該当と認定されている事案は枚挙にいとまがありません。
適切な後遺障害等級認定を得るための準備は、事故直後から始めることが重要です。
事故直後に存在する症状をきちんと医療記録に反映させられるよう、医師にきちんと自覚症状を伝える必要があります。
また、事故直後のMRI画像が等級認定の決めてになることも多々あります。
そのことを知らず、漫然と治療を続けるだけでは、本来後遺障害として認定を受けることができる症状が残存していても、適切な認定を得られなくなってしまう可能性があるのです。
書面審査が原則となるため、適切な後遺障害等級認定を受けるためはいかに認定のポイントになる情報を記載した後遺症診断書や資料を提出できるかが重要です。後遺障害等級認定に精通した専門の行政書士や弁護士に早い段階で相談すると良いでしょう。
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②症状固定時における対策
後遺障害等級認定においては、症状固定時に、医師に「後遺障害診断書」を作成してもらう必要があります。
そして、この「後遺障害診断書」の記載内容が決定的な医療的証拠となります。
なぜなら、自賠責損害調査事務所での審査は、直接面談のうえで自分の症状などを訴える機会はなく、「書面審査」が基本となるからです(顔面の醜状痕などについては、直接面談があります。)。
症状固定の時期になったら、まずは、主治医に「後遺障害診断書」の作成を依頼することになります。
繰り返しになりますが、後遺障害等級認定は書面審査が基本ですので、過不足のない後遺障害診断書、すなわち現在の各症状が審査する側に伝わる診断書を作成しなければ、適切な後遺障害等級認定はなされません。
そして、医師はあくまでも「医学的な治療のプロ」であって、「後遺障害診断書作成のプロ」ではありません。
当然、医師はどのような記載内容が過不足のない後遺障害診断書なのかを知らないこともあるのです。
実際に数多くの後遺障害診断書を見てきましたが、医師によって記載内容は千差万別で、その記載内容の良し悪しもマチマチです。
そうだとすると、適切な後遺障害等級認定のためには、どのような内容(具体的な自覚症状や検査結果など)を記載してもらうかなどを、主治医に後遺障害診断書の作成を依頼する前にしっかりと検討しておく必要があるといえるでしょう。
③自覚症状の伝え方
後遺障害診断書を医師に作成してもらう際に気をつけなければならないのは、「どのような症状があるかを正確に医師に伝える」ということです。
後遺障害等級の認定は、原則として書面審査によって行われるため、被害者の方の症状が曲がって医師に伝わってしまうと、そのまま間違った症状が審査の対象となってしまいます。
特に、痛みが残存する種類の症状の方に多いのですが、「天気が悪いと痛くなる」、又は「寒くなると痛くなる」などの訴えをなされる方がいらっしゃいます。
いつもは痛みがなく、本当に天気が悪い時だけ、又は寒くなった時だけ痛みが出ているのなら良いのですが、実はこのような訴えをされる方の中には「いつも痛いけれども、特に天気が悪いと(寒くなると)痛みが強くなる」という症状である方が少なくないと思われます。
他方で、後遺障害とは「常に障害を残すもの」であるとされていますから、「天気が悪いと痛くなる」、「寒くなると痛くなる」などの症状は後遺障害に該当しないとされてしまう危険があります。
このように、症状の訴え一つが後遺障害等級の認定に大きな影響を与えることもありますので、被害者の方は自身の症状を正確に医師に伝えるようにすることが、適切な後遺障害等級認定を受けるための重要なポイントといえるでしょう。
※当事務所でも等級認定サポートをしています。もし、希望通りの後遺障害等級認定が難しい場合、相談は無料ですので、「交通事故サイト」からお気軽にお問い合わせ下さい。
5、弁護士に依頼した方がいい?依頼する場合のメリットとデメリットについて
(1)弁護士に依頼するメリット
弁護士に依頼することで以下のようなメリットがあります。
①慰謝料の金額が上がる可能性がある
弁護士に依頼していないケースでは、保険会社は多くの場合任意保険基準に基づいて賠償額を提示してきます。
これに対して、弁護士に依頼すれば、弁護士は裁判所・弁護士基準で慰謝料を算定して相手方の保険会社に対して請求することになります。
任意保険基準より裁判所・弁護士基準の方が慰謝料の金額は一般的に高額となっていますので、弁護士に依頼することで慰謝料の金額が上がる可能性が高くなります。
なお、慰謝料に限らず、逸失利益などの他の交通事故の賠償金の種類についても弁護士に依頼することで増額できる可能性が高くなります。
例えば、事前認定で後遺障害12級が認定された場合、後遺障害部分(逸失利益と後遺障害慰謝料)について、保険会社は自らの懐が痛まないように、自賠責保険から下りる224万円で済ませようとしてくるときがあります。
しかし、裁判所・弁護士基準では後遺障害慰謝料だけでも290万円とされています。
逸失利益も原則として67歳まで請求できることからすると、224万円という提示がいかに不当であるかが容易にお分かりいただけると思います。
②交渉や書類作成を弁護士に任せることができる
交通事故に怪我を負えば体が痛い、病院に行って治療をしなければならない、と大変な状況になる一方で、保険会社との交渉や必要書類の準備を強いられます。
これでは治療に集中することもできませんし、精神的な負担のために治るものも治らないという状況になってしまいます。
この点、弁護士に依頼していただければ、これらの交渉や書類作成を弁護士に任せることができ、ご自身は治療に集中することができます。
③適切な後遺障害等級認定を受けられる可能性が高くなる
前述のとおり、適切な後遺障害等級認定を受けるためには、事故後の早い段階から準備していくことが重要です。
この点、後遺障害等級認定申請も含めて交通事故案件を多く取り扱う法律事務所であれば、後遺障害診断書の記載方法、提出する画像等について、豊富な認定経験をもとに、一人ひとりの傷病、症状に合わせて有効な戦略を考えてもらえるため、適切な後遺障害等級認定を受けられる可能性が高くなります。
(2)弁護士費用特約に加入していれば弁護士費用はかからない
他方で弁護士に依頼すれば弁護士費用を支払わなければなりません。
そのため、一般的には弁護士費用と上記メリットを天秤にかけていただき、弁護士を依頼するかどうかを決めていただく必要があります。
もっとも、弁護士費用特約に加入していれば弁護士費用がかからない可能性があります。
そもそも弁護士費用特約とは、自動車にかかわる被害事故に関する損害賠償請求のために必要な弁護士費用や、弁護士などへの法律相談費用などを保険金として保険会社が支払ってくれる保険商品のことで、交通事故の被害者が加入している自動車保険に特約として含まれていることがあります。
弁護士費用特約に加入していると、保険会社が一般的には300万円まで弁護士費用を支払ってくれるので、その範囲で被害者は弁護士費用がかかりません。
(3)弁護士の探し方
では、交通事故の損害賠償請求について依頼する弁護士をどのように探したらいいでしょう?
主に以下の方法があります。
①知人経由であたってみる
まずは知人経由で弁護士を探してみましょう。注意しなければならないことは、交通事故事件を解決した経験が少ない(もしくは全くない)弁護士も相当数いるということです。
また、知り合い経由で弁護士を見つけることができたが、その弁護士が交通事故にあまり強くないということもあるでしょう。
そのような場合、その弁護士の知り合いで交通事故に強い弁護士を紹介してもらうのも一つの手です。
②弁護士会・法テラス経由で探す
一般の方が弁護士を探しやすくなるよう、弁護士会や法テラスが弁護士を紹介しています。
・日本弁護士連合会
0570-783-110
・法テラス
0570-078-374
③インターネット経由で探す
インターネットで交通事故に強い弁護士を探す方法もあります。
・弁護士のポータルサイトで探す
以下のような弁護士のポータルサイトで探す方法があります。
・GoogleやYahoo!で検索する
GoogleやYahoo!で「交通事故 弁護士」と検索して探します。
東京や大阪など地域名を掛け合わせてもよいでしょう(「交通事故 弁護士 東京」など)。
まとめ
今回は、後遺障害12級に関するお話を中心に書かせていただきましたが、いかかでしたでしょうか?
ご参考になれば幸いです。