家を相続した場合、どうやって遺産分割を行えばいいのだろう……。
- 遺産分割・名義変更・相続税申告…いったい何から手続きを始めたらいいの?
- 相続にデメリットしかないなら相続放棄も検討している。どういう場合に相続放棄すべき?
相続財産に家や土地といった不動産が含まれる場合、遺産分割の方法をめぐって相続人同士のトラブルになってしまうケースが少なくありません。
この記事では、以下のような内容についてわかりやすく解説いたします。
- 複数人の相続人が、1つの相続財産(家)を相続する場合の遺産分割方法
- 家を相続した場合の名義変更手続きの進め方
- 不動産を相続する場合に使える相続税軽減制度の利用方法
- 相続放棄をすべきか、すべきでないかの判断基準
相続トラブルを避けるためには、基本的な遺産相続に関する法律のルールを理解したうえで、弁護士などの専門家のアドバイスを受けるのが適切です。
この記事が、これから遺産相続の手続きにかかわる方の参考になればうれしく思います。
不動産の相続について詳しく知りたい方は以下の記事もご確認ください。
目次
1、家1軒を複数の相続人で相続する方法とは?
相続人が2名以上いる場合に、遺産である1つの家を平等に相続する方法としては、次の3つが考えられます(もちろん、平等にならないことを相続人全員が承知して「1人の相続人が相続する」という協議をするならそれは有効です)。
- 特定の人が相続し、他の相続人へ金銭で精算
- 相続する者全員の共有名義にする
- 売却して全相続人で売却額を相続
以下、それぞれの方法について順番に解説いたします。
(1)特定の人が相続し、他の相続人へ金銭で精算
「家は長男が1人で相続し、次男にはその分を補填するために長男から現金が支払われる」という形の分割方法を、代償分割と呼びます。
代償分を使えば遺族のニーズに合わせた柔軟な遺産分割を行うことが可能となりますが、遺産の現物を相続する人に経済的に余裕があることが条件となります。
①まずは家の「評価額」を計算
代償分割を利用するためには、まずは家の評価額を計算しなくてはなりません。
家の評価額が分かって初めて、遺産を受け取る人から受け取れない人への補填額を計算することが可能となります。
例えば、遺産である家の評価額が1億円で、他の遺産として2000万円の現金があったとしましょう(相続人は長男と次男の2名) 法律上は兄弟が平等の遺産分割を受けるのが原則ですから、本来は長男が6000万円・次男も6000万円というように分割を行う必要があります。 (遺産の総額1億2000万円×2分の1=6000万円です)
この状況で、長男が建物1億円を1人で相続し、次男が現金2000万円を相続した場合に、長男から次男に対して現金4000万円を補填するのが代償分割による遺産分割です。
②評価額の算出方法
代償分割によって遺産分割を行った場合、建物の現物を相続した人と、代償としての金銭を受け取る人の2種類の相続人が生じます。
前者が相続する建物の相続税評価額は、「取得した現物財産-代償となる金銭」で計算します。
※建物現物の相続税評価額は固定資産税評価額となります(毎年4月上旬ごろに届く「固定資産税の納付書」に記載されています)
一方で、金銭による代償という形で遺産を相続する相続人は、交付を受けた代償財産の価額が相続税評価額となります(金銭以外のもので代償を受ける場合は、その財産の相続開始時点での時価です)
(2)相続する者全員の共有名義にする
建物の遺産分割方法として、相続人となる人全員の共有にする方法もあります。
共有とは、簡単にいえば1つの財産の上に2名以上の所有者を設定する方法で、それぞれの所有者は「持ち分」という形で所有権を取得することとなります。
共有を選択すれば一見平等な遺産分割が可能なように見えますが、以下のようなデメリットもあります。
- 共有者全員が同意しないと売却ができない
- 共有者の一部が亡くなった場合に多くの相続人が発生する可能性があり、法律関係が複雑になる
共有による遺産分割は法律関係を複雑にしてしまう可能性が高いですが、基本的にはどうしても分割がうまくいかない場合の次善の策として用いられることが多いでしょう。
(3)売却して全相続人で売却額を相続
1人の人が建物を相続すると、どうしても相続人の間に不公平感が生じてしまうという場合には、その建物を売却してしまい、代金を分け合うという方法も考えられます。
このような方法を換価分割と呼びます。
換価分割では相続人間の公平が保たれやすいというメリットがありますが、建物の売却では簡単に買い手が現れないこともある他、不動産仲介業者に支払う手数料が発生するなどのデメリットもあります。
(4)配偶者居住権を設定する場合
2020年4月1日から、配偶者居住権を設定することができるようになります。
その場合については、こちらのページをご覧ください。
2、家(建物)を相続したら必ず名義変更を(登記)
遺産である家を相続したら、法務局で相続登記の手続きを行う必要があります。
(相続を原因とする不動産の名義変更手続きのことを、相続登記と呼びます) 相続登記を行うことは必ずしも法律上の義務ではありませんが、相続した不動産(建物や土地)を登記せずに放置してしまうと、法律トラブルに巻き込まれてしまうリスクが高くなります。
以下では、家を相続した場合の名義変更手続きの方法についてくわしく見ていきましょう。
(1)相続登記の方法
相続登記の方法には、大きく分けて以下の3つがあります。
- ①遺産分割協議に基づく相続登記
- ②遺言に基づく相続登記
- ③法定相続分での相続登記
相続登記の手続きは法務局という役所で行いますが、登記申請時に何を証拠に登記を行うのかがチェックされることになります。
①では遺産分割協議書が、②では遺言書(家庭裁判所の検認済み証があるもの)が必要です。
(2)登記をしないリスク
遺産分割によって取得した財産は、必ずしも相続登記を行う法律上の義務はありません。
しかし、登記をせずに不動産を放置してしまうと、法律トラブルに巻き込まれてしまう可能性が高くなることから、遺産分割完了後はすみやかに相続登記を完了するケースがほとんどです。
具体的には、遺産相続後に登記をしていないときに、他の相続人が勝手に財産を売却してしまったような場合に、取引の第三者に対して取引の無効を主張することができなくなってしまう可能性があります。
(3)登記によってかかる税金と費用
相続登記を行うためには、法務局に対して登録免許税という税金を納めなくてはなりません。
相続登記の場合の登録免許税の金額は以下の計算式で計算します。
相続登記にかかる登録免許税=遺産相続した不動産の評価額×1000分の4 建物の場合に、不動産の評価額は固定資産税評価額となりますので、例えば固定資産税評価額3000万円の建物の相続登記をする場合には、
3000万円×1000分の4=12万円
の登録免許税を納めなくてはなりません。
また、相続登記の手続きを法律の専門家に依頼した場合には、その専門家に支払う費用が別途発生することにも注意しておきましょう。
専門家に支払う相続登記の手数料は、戸籍取得などの費用を含めて10万円程度が相場です。
3、家相続の必須知識!相続税対策「小規模宅地等の特例」とは
日本の税法では、一定額以上の遺産を相続した場合には相続税の負担義務が生じるルールになっています。
ここでいう「一定額以上」とは、具体的には3600万円が目安となります。
(相続税には基礎控除として非課税部分が設けられており、「その金額は3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されるためです。法定相続人が1人の場合は、基礎控除は3600万円となります。)
家を建てるために使っている土地などは評価額が高額になることが多いですから、不動産がからむ遺産相続では多くのケースで相続税の負担が生じてしまいます。
(1)小規模宅地等の特例を使えば、宅地の相続税評価額は最大8割引になる
このような場合に有効な相続税対策として用いられるのが「小規模宅地等の特例」です。
小規模宅地等の特例は、簡単にいえば「住宅を建てるために使っている土地(宅地)の相続税評価額を最大で80%減額してもらえる特例」ということができます。
具体的には、以下のような区分に従って宅地の相続税評価額を減額してもらうことができます。
- 被相続人(※)の自宅の宅地:限度面積330㎡で最大80%の減額が可能
- 被相続人が事業用に使っていた宅地:限度面積400㎡で最大80%の減額が可能
- 被相続人が賃貸物件として使っていた宅地:限度面積200㎡で最大50%の減額が可能
※被相続人とは、亡くなった人のことです。
(2)小規模宅地等の特例を適用した場合の計算例
例えば、被相続人が自分の家を建てるために使っていた評価額5000万円の宅地400㎡(約120坪)があったとすると、小規模宅地等の特例適用後の相続税評価額は以下のように計算できます。
- もともとの宅地の評価額:5000万円
- 小規模宅地等の特例適用後の宅地の評価額:5000万円-(5000万円×80%×330㎡÷400㎡)=1700万円
このように、小規模宅地等の特例は遺産に不動産(宅地)が含まれる場合に非常に効果が高い相続税対策の方法といえます。
なお、小規模宅地等の特例を利用するためには、相続税申告を行う際に遺産分割がすでに完了していることが条件となります。
(※未分割の場合には、とりあえず「申告期限後3年以内の分割見込書」を税務署に提出して納税を行い、後で遺産分割が完了してから「更正の請求=相続税申告のやり直し」によって払い過ぎた相続税の還付を受けるという方法もあります)
4、故人に借金あり!故人の家(住居)の相続はどうする?
遺産相続は現預金や不動産といったプラスの財産についてのみ生じるのではなく、借金や未払い金といったマイナスの財産についても生じることに注意が必要です。
遺産が借金ばかりで遺産相続をするメリットが何もない…という状況の場合には、相続放棄によって遺産相続にかかわらないことも選択肢として考えられます。
以下では、遺産として故人の住居の他に借金(住宅ローンなど)が残されている場合の判断基準について見ておきましょう。
(1)住宅ローンが残っている場合
通常、住宅ローンには団体信用生命保険が適用されますから、もとの所有者が亡くなった時点で住宅ローンは消滅することが多いです。
一方で、亡くなった人が団体信用生命保険に加入しておらず、住宅ローンも相続人が負担せざるを得なくなった場合には、建物を現物で相続する人が住宅ローンの支払いを継続するケースが多いでしょう。
その際は、建物の評価額から住宅ローン残高を差し引きした後の金額で遺産分割割合を話し合うのが適切です。
(2)相続財産<借金総額 なら相続放棄を
相続する財産よりも、借金の金額の方が大きい場合にはどうすべきでしょうか。
この場合、遺産である建物がどうしても手放したくないものであるといった状況をのぞいて、相続放棄を選択するのがメリットが大きいケースが多いでしょう。
相続放棄を選択した人は、最初から相続には一切関わらなかったという扱いにしてもらうことができますから、遺産に含まれる借金についても支払い義務を免れることができます(その一方、プラスの遺産を相続する権利も失います)。
なお、遺産である建物が借金の担保となっている場合には、債権者側はその担保権(抵当権)を実行してくるのが一般的です。
(3)相続財産>借金総額 なら限定承認を
相続財産が借金総額よりも金額的に大きい場合には、限定承認という方法にメリットがあります。
限定承認とは、簡単にいえば「相続するプラスの財産の範囲内で、マイナスの財産も相続する」という意思表示をすることです。
例えば、遺産として4000万円の借金と3000万円の資産があるという場合に、限定承認を選択すると、3000万円の遺産と3000万円の負債を相続することになります。
5、相続でお困りの際は弁護士へ相談を
遺産に建物や土地といった不動産が含まれている場合には、遺族同士で遺産分割の方法をめぐってトラブルが生じてしまうことも少なくありません。
上では相続税の負担を軽減する特例制度(小規模宅地等の特例)について説明いたしましたが、この制度を利用するためには相続税申告のタイミングで遺産分割が完了していることが条件となることにも注意が必要です。
近い将来に生じる遺産相続でトラブルになってしまう可能性が高いという方は、可能な限り早いタイミングで弁護士や税理士といった法律の専門家にアドバイスを受けることをおすすめします。
まとめ
この記事では、遺産に家や土地といった不動産が含まれる場合の注意点について解説いたしました。
不動産の相続では遺産分割の方法に不公平感が生じるケースが多く、相続人の間でトラブルとなってしまう場合も少なくありません。
こうしたトラブルを避けるためには、遺産相続を専門とする弁護士に相談することもぜひ検討してみてください。