「浪費癖のある配偶者と離婚したい!」
配偶者の浪費癖は夫婦関係に悪影響を与えることがあります。金銭感覚や価値観の相違は、精神的なストレスを引き起こし、将来の生活設計にも影響します。
しかし、相手の浪費に我慢できず離婚を決断するのは容易ではありません。協議離婚や離婚条件の交渉が難しい場合もあります。
そこで今回は、浪費癖のある配偶者と離婚する際の手続きや注意点、専門家に相談するメリットなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が詳しく解説します。配偶者の浪費癖に悩む方々の手助けとなれば幸いです。
1、浪費癖がある人とはもう一緒にいられない!夫婦が離婚するための手続
まずは、夫婦が離婚するときの手続について簡単に確認しておきましょう。
(1)協議離婚であれば離婚の理由は問われない
婚姻は、男女に夫婦となることについての合意がなければすることができません。これと同様に離婚も、夫婦の合意に基づいて行われるのが原則です。
夫婦の合意に基づく離婚の場合を「協議離婚」といいますが、協議離婚の場合であれば、離婚の理由は全く問題になりません。
(2)離婚に同意してくれない配偶者と離婚するための手続
しかし、一方の離婚に反対している場合には、協議離婚をすることはできません。また、離婚することには合意ができても、離婚の条件についての話し合いがまとまらずに協議離婚が進まないというケースも少なくありません。
このような場合に、相手方の反対を押し切って離婚するためには、裁判所の手続によって離婚をする必要があります。
①離婚調停
裁判所の手続で離婚するときには、まずは相手方の住所地を管轄する家庭裁判所(もしくは夫婦で同意のある家庭裁判所)に離婚調停を申し立てる必要があります。離婚調停とは、裁判所に選任された調停委員会が夫婦の間に入って離婚のための話し合いを行う手続です。
裁判離婚は、「調停前置主義」が採用されているため、調停を経ずに離婚訴訟を提起することはできないので注意する必要があります(相手方が行方不明などのやむを得ない理由があるときは調停を経ずにいきなり裁判出来る場合があります)。
- 夫婦関係調整調停(離婚)(裁判所ウェブサイト)
離婚調停は、当事者である夫婦の合意が尊重されますので、一方が離婚に反対している場合には、原則として調停は不成立となります。しかし、調停の結果、裁判所が「夫婦を離婚させた方が良い」と判断した場合には、審判によって離婚が認められる場合もあります(審判離婚)。しかし、どちらかが審判に異議を出した場合には訴訟に移行するため、少しでも争いがある場合には、基本的には利用されません。
②離婚訴訟
離婚調停を実施しても離婚について夫婦間の合意ができなかった場合には、「裁判(判決)による離婚」を求めることができます。
離婚訴訟では、当事者から提出された証拠や裁判所が行った調査によって「離婚原因」があると認められた場合には、「夫婦を離婚させる判決」が言い渡されます。この離婚判決が確定した場合には、確定判決の謄本と確定証明書によって離婚の手続を進めることができます。
- 人事訴訟手続(裁判所ウェブサイト)
2、配偶者の浪費癖を理由に裁判離婚することは可能か?
上で簡単に確認してきたように、夫婦間で離婚について合意できない場合には、「相手方の浪費癖に我慢できない」という場合であっても、協議離婚することはできません。したがって、この場合には、最終的には裁判離婚によって離婚を認めてもらうほかありません(離婚審判は相手方が異議を述べただけで効力がなくなる強制力の弱い仕組みです)。
しかし、「相手方に浪費癖がある」という理由だけでは、裁判離婚が認められない可能性があることに注意しておく必要があるでしょう。
(1)「浪費癖だけ」では離婚原因に該当しない
裁判離婚を認めてもらうためには、夫婦間に「離婚原因」とよばれる事情が存在している必要があります。
この離婚原因は、民法770条に定められていて、具体的には次の5つの事情が該当します。
- 配偶者が不貞行為(浮気)を行った
- 配偶者からの悪意で遺棄された(一方的な別居や生活費を全く負担しないという場合)
- 配偶者の生死が3年以上わからない
- 配偶者が強度の精神病にかかり治る見込みがない
- 上記以外の婚姻を継続しがたい重大な事情がある
たとえば、「相手方配偶者が浮気相手に金品を与えているために金遣いが荒い」といった場合であれば、浪費癖を問題にする以前に「相手方の浮気(不貞行為)」を理由に離婚を求めることができます。
また、配偶者が収入のほとんどを自分の趣味などに浪費してしまって生活費を全く負担してくれないというような場合には、悪意の遺棄を理由に離婚が認められる可能性が高いといえます。
しかし、「相手方配偶者の金遣いが荒いと感じる(お金の使い方が理解できない)」、「浪費癖があり多額の借金があるが他には何も問題がない(浮気や遺棄などの事情がない)」といった場合には、相手方配偶者に浪費癖があったとしても離婚事由に該当するとはいえません。
(2)「婚姻を継続しがたい重大な事由」と相手方の浪費癖
民法は、浮気などの配偶者への背信行為がなかった場合であっても、婚姻生活が破綻している(婚姻を継続しがたい重大な事由がある)ときには、裁判による離婚を認めています。
婚姻生活が破綻しているとされる典型例は、「夫婦がすでに長期間の別居生活となっている」場合です。実務的には、「5年以上の別居」というのがひとつの目安とされていますが、夫婦の年齢や子の有無・年齢などのその他の条件も加味して離婚の可否が判断されます。
「配偶者に浪費癖がある」という事情も、実際の具体的な状況によっては、婚姻を継続しがたい重大な事由に該当すると評価してもらえる可能性があります。
(3)証拠の確保が重要性~弁護士のサポートが必要
相手方配偶者に「離婚を考えたくなるほどの浪費癖」があるという場合には、夫婦間には「お金の使い方」のレベルを超えた問題が発生しているケースが多いといえます。
たとえば、過去の裁判例の傾向からは、次のようなケースでは離婚が認められやすいといえます。
- 配偶者が浪費を繰り返し、生活費を使い込んでしまっている
- 配偶者が浪費のために消費者金融などから多額の借金をしてしまい生活が苦しい
- 浪費癖をなおして欲しいと指摘したら暴力を振るわれた
つまりは、相手方に浪費があるということだけでなく、そのほかの間接的な事情を積み重ねていくことで、「浪費によって婚姻生活が破綻している」と裁判所に認定してもらうということが重要なポイントになるということです。
裁判離婚では、裁判所にも事実関係を調査する権限と責任があります(職権探知主義といいます)が、家庭の事情に一番詳しい立場にいるのは、結婚生活の当事者である夫婦です。したがって、協議離婚に応じてくれない配偶者と離婚したいという場合には、「結婚生活の破綻」を認定してもらえるような「証拠」を自ら手でしっかりとそろえることが重要となります。
その意味では、相手方の浪費癖を理由に裁判離婚したいという場合には、浮気のような白黒のつきやすい理由に離婚を求める場合以上に、弁護士のサポートが必須になるといえるでしょう。
なお、浪費癖を治して借金を解決できればやり直しも検討されるという方は、以下の関連記事もご覧ください。
3、浪費癖のある配偶者と離婚条件を定めるときの注意点3つ
浪費癖のある配偶者と離婚をする際には、離婚条件を定める場合にも注意が必要といえます。以下では特に注意すべき3つのポイントについて解説していきます。
(1)財産分与
夫婦が離婚する際には、婚姻中に築いた財産を分与することになります。財産分与は夫婦で折半するのが原則です。しかし、配偶者に浪費癖がある場合には、配偶者名義の借金が多く残っているというケースも多いと思われますので、次の点に注意が必要です。
- 夫婦の財産よりも負債の方が多いときには財産分与はできない
- 婚姻前からの財産(借金)は財産分与の対象外
- 相手方配偶者の個人的な借金(趣味・ギャンブルなどのための借金)は財産分与の対象外
- 生活のための借金は離婚後も夫婦が連帯して返済義務を負う
(2)浪費癖のある配偶者への慰謝料請求
浮気を原因とする離婚の場合のように、夫婦の一方に有責性(落ち度)がある場合には、他方への慰謝料が認められます。
たとえば、相手方配偶者が浪費を原因に多額のカードローンを抱えてしまったために家計が破綻してしまったというような場合には、相手方への慰謝料請求を認めてもらえる余地があるといえます。
協議離婚の場合には、慰謝料についても夫婦の合意で決めることになりますので、相手方が慰謝料の支払いに応じてくれるのであれば、その理由は問題になりません。しかし、一般的には浪費を原因に離婚するケースでは慰謝料は発生しないケースの方が多いといえます。
また、浪費癖のある配偶者からの慰謝料は、その支払いを確保することも重要といえます。離婚時には養育費を支払えるだけの資力がないというケースも少なくないと思われるからです。たとえば、分割払いや財産分与に吸収させて処理するなど、それぞれのケースに見合った現実的な方法で離婚条件を取り決めていくことも重要となるでしょう。
(3)浪費癖のある配偶者からの養育費
子のいる夫婦が離婚をした場合には養育費が発生するのが一般的です。浪費癖のある配偶者に養育費を請求する場合には、通常の離婚の場合よりも不払いのリスクが高くなることにも注意しておく必要があるでしょう。離婚をして単身生活になったことで、浪費がさらに激しくなり養育費を支払えるだけの金銭的な余裕がなくなってしまうことも考えておく必要があるからです。
不払いとなった養育費は、最終的には強制執行(給料の差押え)によって回収することが可能ですが、給料の差押えには、確定判決などの債務名義(権利関係を記した公証された書類)が必要となります。
この点、協議離婚の場合に夫婦で取り決めた離婚条項は、そのままでは債務名義とならないことに注意して必要があります。つまり、当事者間で作成した離婚条項しかない場合には、養育費の不払いがあった場合には元配偶者を相手に裁判(や支払督促手続)を行ってからでないと強制執行することもできないというわけです。
このような手間を回避するためにも、協議離婚の場合には、離婚条項を強制執行可能な公正証書(執行認諾文言付き公正証書)にしておくことをおすすめします。
まとめ
「離婚は、結婚の何倍ものエネルギーが必要」ということは、一般的によく言われることです。相手方配偶者の浪費癖を理由に離婚をする際には、離婚することについて相手方配偶者ともめてしまう可能性が高いだけでなく、離婚の条件の取り決めや、離婚後もトラブルを抱えるリスクを抱える可能性が高いといえます。
その意味では、自己に有利に離婚を進めていくだけでなく、スムーズに離婚後のトラブルを予防するためにも離婚問題に詳しい弁護士のサポートが必須といえます。