相続で寄付するときに、どのようなことに気を付ければよいでしょうか。
遺産がたくさんあることは良いことばかりではありません。
仲の良かった親族どうしが、遺産相続をきっかけにいがみあうようになる…ということもありますし、高い相続税を払うために遺族が苦労するといったことも考えられます。
遺産をめぐってトラブルが起きることが予想される場合には、財産を寄付してしまうことも一つの選択肢といえるでしょう。
今回は、
- 相続財産を寄付する方法・流れ
- 相続財産を寄付した場合の税金について
- 相続財産を寄付することで相続争いを避けられるのか
についてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説いたします。
この記事が、相続問題にお悩みの方の参考になれば幸いです。
相続に関して詳しく知りたい方は以下のページもご覧ください。
目次
1、相続財産を寄付する方法は「贈与」
相続財産の寄付は、次の被相続人による生前の贈与か、相続人による死後の寄付かのどちらかです。
以下、それら寄付の方法をご説明していきます。
(1)遺言による贈与―遺贈
まずは被相続人が生前にする寄付の方法、遺贈について説明します。
「遺贈」とは、遺言によって贈与することをいいます。
遺贈をすれば、親族以外の人に財産を残したり、法律上のルールとは違った遺産分割の方法を定めたりといったことが可能となります。
遺贈を行うためには、法律上次のような手続きが必要となります。
- ①誰に財産を与えるのかを決める
- ②何を与えるのかを決める
- ③遺言書を作成する
- ④遺言書の保管や管理の方法を決める
- ⑤相続の発生後、遺言執行者によって遺言の執行が行われる
- ⑥財産が引き渡される
特に重要なのが、③遺言書の作成です。
遺言書は法律上のルールに従って作成しないと無効になってしまうこともありますから、不備がないように注意しておきましょう。
「公正証書遺言」という方法を選択すれば、公証人という人が遺言の作成を支援してくれる上、公証役場が遺言書を保管してくれますので検討してみてください。
(公正証書遺言を使えば、生前に誰かに見つかり書き換えられたり、遺言書そのものが発見してもらえなかったりといった心配がありませんし、死後速やかに遺言が執行されるため安心です)
(2)契約による贈与-死因贈与契約
①死因贈与契約
被相続人が生前に寄付するもう1つの方法、それは「死因贈与」です。
死因贈与とは、「私が死んだらこの財産をあげる」というように、将来の相続をきっかけとして財産を与えることを言います。
(1)で見た遺贈と比較すると、財産を渡す相手と相談して贈与の内容を決めることができる点がメリットです。
遺贈の場合には、あなたが一方的に遺言に残すことになりますから、相手がその財産を受け取ることを望まない場合、辞退・放棄をされてしまう可能性があるのです。
この点で、死因贈与契約では相手の同意をあらかじめ得ることができますから、確実に財産を与えることができるでしょう。
死因贈与契約を使う場合は、次のような手続きを経る必要があります。
- ①死因贈与の寄付先を選定する
- ②現金、株、不動産などの贈与対象を決定
- ③贈与相手と相談
- ④贈与額、贈与対象などについて合意を得る
- ⑤死因贈与契約書の作成
- ⑥死因贈与契約書の保管・管理
- ⑦死因贈与契約の履行
- ⑧財産の引き渡し
死因贈与契約書を作成する際には、弁護士等の専門家に委託するのが確実です。
もし契約書の内容に不備があると、契約が履行されない可能性がありますから注意しておきましょう。
契約書の保管や管理が不安な場合は、契約書を公正証書の形で作成するのがおすすめです。
公証役場が契約書を保管してくれますから、契約内容の秘密を秘密にできますし、財産の引き渡しまで確実に履行してもらえます。
②国等に財産を寄付する場合
地方団体や公共団体その他国等へ財産を寄付したい場合は、事前に受け取ってもらえるのかを確認するようにしましょう。
現金であれば問題ないでしょうが、土地や建物などの場合には利用価値がない場合は受け取ってもらえない可能性があるからです。
そして、遺贈で良いのか、死因贈与契約を締結するのかも、確認されることをおすすめします。
(3)相続人による寄付なら「相続財産寄付」
相続が発生した後に、相続人となった人が寄付を行うことを「相続財産寄付」といいます。
遺産を寄付してしまえば遺族どうしの感情的な対立を避けられるかもしれませんし、相続税を納める必要もなくなりますから、場合によっては遺産トラブルを解決する最適な方法となる可能性があります。
相続財産寄付を行うためには、次のような手続きを行います。
- ①国や地方自治体、公共団体などの寄付先を探す
- ②寄付をする
- ③領収書を確実にもらう
- ④相続税の申告をする
- ⑤確定申告でも税制優遇の可能性あり
国や地方自治体、公共団体に寄付をする場合、相続税が非課税となります。
なお、公共団体とは、教育や科学、医療や福祉などに貢献する事業を行っている公益団体法人や、認定NPO法人、国立大学法人や社会福祉法人などのことをいいます。
相続税の非課税を確実なものにしたい場合は、寄付をした結果として相続税が非課税になるかどうか事前に確認しましょう。
また、相続税の申告の期限である相続してから10か月以内に寄付を完了していなければいけません。
寄付をした事実がわかるように、領収書を補完しておくようにしましょう。
2、相続財産の寄付のメリット
相続財産を生前に寄付しておくことによるメリットは、大きくは以下の3つです。
(1)社会貢献
1つは社会貢献ができることです。
教育を受けるために必要な資金を子どもたちに残せる、医療費を必要とする人に残せるなど、あなたの行いが社会貢献につながるというわけです。
思い入れのある母校などに寄付することで、あなたの名前が後世に引き継がれることもメリットになるでしょう。
(2)相続税の軽減
また、相続財産の種類や金額によっては、相続税の負担が大きくなる可能性がありますから、いっそのこと財産を寄付して遺産相続に関する問題が生じないようにしておくのも1つの手です。
国等への寄付は、寄付に相当する金額については相続財産からはずされ、その分相続税は軽減されます。
(3)相続争いの回避
不動産など1つしかない相続財産がある場合に複数の相続人がいると、やはり懸念されるのは相続争いです。
平等に相続するのは意外と難しく、遺産分割協議の途中で相続人間で仲違いしてしまうことも珍しくありません。
このようなとき、相続人による相続財産寄付は、相続争いの回避の手法として有効な方法となるでしょう。
一方、被相続人が相続争いを回避しようと生前に贈与による寄付を行うことは、相続争いの回避には繋がりづらいと考えます。
こちらについて詳しくは「4」をご覧ください。
3、財産を寄付したとき、税金はどうかかるか
生前・死後に関わらず、寄付した場合は、さまざまな税金を考える必要があります。
メリットとして考えられるのは、相続人の相続税の負担が減ることです。
一方で、寄付によって財産を受け取る側の人(会社なども含む)は、贈与税その他の税金を納める必要が生じることを理解しておきましょう。
財産の寄付によって影響が出る税金としては、次のようなものがあります。
- 相続税
- 贈与税
- 所得税
- 不動産関連の税金
- 法人税
以下、順番に説明します。
(1)寄付をした人の相続税への影響
相続税は、相続が発生した時点で残されている財産(遺産)の金額に応じて課税される税金です。
そのため、生前の寄付によって遺産の金額が減れば、それだけ相続税の負担額も少なくすることができます。
また死後の寄付では、寄付相当額額は相続税が非課税となり、相続税の負担額は減ります。
ただし、生前の寄付(生前贈与)においては、「相続人となる予定の人」に対して行った場合「相続開始前3年以内に行った贈与財産は、相続財産に含めて相続税を計算しないといけない」というルールがありますので注意しておきましょう。
(2)寄付をした人の所得税への影響
財産を残して亡くなった人(被相続人)が個人事業主として活動していた場合、その人の確定申告(亡くなった年分)は相続人が行わなくてはなりません。
この場合の確定申告のことを準確定申告と呼びますが、故人が生前に特定の団体に寄付を行っている場合には、所得税の計算において寄付金控除などの特例措置を受けることができます。
なお、寄付金控除を受けられるのは国や地方公共団体、特定の公益法人などに寄付をした場合のみですので注意しておきましょう。
※「特定の公益法人」とは下記のような団体をいいます。
- 独立行政法人
- 国立大学法人等
- 地方独立行政法人(試験研究、病院事業、社会福祉事業等一定の事業を営むものに限る)
- 公立大学法人
- 自動車安全運転センター、日本司法支援センター、日本私立学校振興
- 共済事業団及び日本赤十字社
- 公益社団法人、公益財団法人
- 一定の学校法人
- 社会福祉法人
- 更生保護法人
- 認定NPO法人
(3)寄付を受けた人が負担する税金①:贈与税
財産の寄付(贈与)を受けた人は、譲り受けた財産の金額が一定額(年間で110万円です)を超える場合には、贈与税を負担しなくてはなりません。
なお、年間110万円までの贈与であれば贈与税は非課税となりますので、数年間をかけて継続的に生前贈与を行っておくことは、相続税の節税対策としてよく選択されます。
例えば、3人の子供に対して年間110万円の贈与を20年間継続したとすると、
年間110万円×3人×20年間=6600万円
を非課税で贈与することが可能となります。
遺産が6600万円減ると相続税の負担額もかなり小さくなりますから、相続の発生が見込まれるタイミングまでかなり期間があるという場合には、生前贈与を使って相続税の節税対策を行うことは有効です。
(4)寄付を受けた人が負担する税金②:譲渡所得税
故人の生前に贈与を受けた人が、その譲り受けた財産をさらに他の人に売却した場合、売却価額よりも取得価額の方が大きい場合には所得税(譲渡所得税)を負担しなくてはなりません。
この場合の取得価額は、贈与を行った人がその財産を手に入れるために必要になった費用をもとに計算することになります。
なお、不動産の贈与を受けている場合(そしてその不動産を他人に売却した場合)には、次の項目で見る不動産取得税や登録免許税を取得費用に含めることができます。
(5)寄付を受けた人が負担する税金③:不動産に関する税金
寄付(贈与)された財産が土地や建物といった不動産である場合、贈与を受けた人は不動産を手に入れたことに付随する税金を負担しなくてはなりません。
不動産を取得した場合には、次のような税金がかかります。
- 不動産取得税:贈与を受けたときに負担します(税率4%)
- 登録免許税 :贈与を受けた不動産を登記するときに負担します(税率2%)
- 固定資産税 :不動産の所有者となった人が毎年負担します(税率1.4%)
(6)寄付を受けた法人が負担する税金:法人税
自分が経営する会社など、親しい間柄にあった会社に財産を寄付したような場合、寄付を受けた会社の側は、寄付を受けた財産について譲渡益を計上する必要があります。
必然的にその分だけ法人の所得が増えますから、法人税の負担額が大きくなる可能性があります。
また、問題となるケースとして、現物出資として財産の寄付を行うケースが考えらえます。
すでに設立が完了している法人に贈与をしたら、その贈与財産に対しては法人税が課税されますが、法人設立時の出資財産として贈与を行った場合には課税がされないため、相続税逃れの方法としてこうした方法がとられたケースが過去にありました。
現在は、相続税法66条4項という法律があり、このようなケースが発覚した際には課税対象になる旨が定められていますから注意してください。
4、相続財産の全額寄付で、遺産争いをなくすことはできるか
「相続財産を全額寄付してしまえば、遺産争いをなくすことができるのでは?」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、結論から言うと、全額寄付したからといって遺産相続争いの可能性がなくなるわけではありません。
以下では、その理由について解説しましょう。
(1)遺族は寄付先に対して遺留分減殺請求ができる
あなたと近しい親族関係のある人(配偶者や子供など)には、「遺留分」という権利が認められています。
「遺留分」とは、簡単にいえば「最低限これだけの遺産は相続させてほしい」と主張できる権利のことです。
もし、あなたが財産をすべて遺贈してしまったとしても、遺留分を持つ親族は、その寄付先に対して「自分には遺留分があるので、これだけの財産を渡してほしい」と請求できるのです。(これを遺留分侵害額請求と呼びます)
相続人がこの権利を行使する場合、財産の遺贈がむしろ争いの火種になるかもしれません。
(2)遺族が遺言や贈与契約の無効を争う可能性がある
あなたが財産を寄付することにより、遺産を受け取ることができなくなった遺族は、その不満を「遺言の無効や贈与契約の無効を争う」という形で解消しようとするかも知れません。
少しの遺言書のミスを見つけては無効を訴えたり、死因贈与の場合には、明確な契約書がないので無効だと訴えたりする可能性があります。
※ただし、遺族の訴えによって遺言書が無効となるケースは非常にまれです。
(3)寄付で遺産争いをなくすことは難しい
このように、寄付という方法で相続争いの可能性を完全になくすことは難しいと考えておきましょう。
とはいえ、遺留分に注意して遺言書を作成しておけば、あなたの希望に沿った遺産相続の形を選択できる可能性はあります。
遺留分にまで配慮した遺産分割の割合や、遺言書の作成方法については専門家に相談するようにしましょう。
5、相続でお悩みのときは弁護士にご相談ください
相続や寄付の手続きについて不安がある方は、遺産相続の専門家である弁護士に相談してみてください。
遺言書や契約書の作成でミスが発生するリスクを最小限にすることができますし、寄付以外にもさまざまな遺産相続対策の方法を手案してもらうことができるでしょう。
まとめ
今回は、相続に当たって財産を寄付する方法について解説しました。
寄付する際には税制に注意して相続人に負担をかけないように工夫をする必要がありますが、相続財産を寄付することで相続に関する悩みを解消できるかもしれません。
ただし、税金逃れとみなされるような寄付のやり方は違法ですので行わないように注意が必要です。
遺族のためにもできるだけ相続財産で争いにはならないように工夫した相続方法を検討しておきましょう。
あなたの財産で社会貢献ができ幸せな世の中になっていくことを願います。