契約社員とは、雇用期間が定められている「有期労働契約」の労働者のことを言いますが、そのうち、パートタイム労働者(短時間労働者)でなくフルタイムで働く人を指すことが一般的でしょう。
20代30代などの若い皆さんでは、契約社員として働いている人が増えています。
正社員になりたかったがやむなく契約社員になった、ライフスタイルを考えて積極的に契約社員の道を選択、など、動機は様々ですが、契約社員ゆえに不測の損害を被ったと感じたとき、「契約社員っていったいなんなんだろう」とその存在意義に立ち戻る人もいるかと思います。
この記事では、契約社員とは何か、正社員と比べての違いをわかりやすく解説します。
この記事が、ご自身の働き方の選択についてお役に立てれば幸いです。
正規雇用と非正規雇用の違いについて知りたい方は以下の関連記事もご覧ください。
目次
1、契約社員とは
(1)契約社員の増加の背景
①契約社員が生まれた背景
契約社員は、もともと「専門能力を保有する即戦力の人材を必要な期間だけ雇用する」という雇用側のニーズから生まれたものでした。
②契約社員の現状
ところが現在では、「専門能力を有する即戦力」という趣旨とは全く違う意味で契約社員を採用する会社は多いもの。
「仕事内容は正社員と特段変わらない」とか「正社員のサポートを担う」といった労働者が、有期労働契約であるために「契約社員」と呼ばれ、正社員と区別されています。
なぜこのようなことになったのでしょうか。
それは、企業側のニーズと、労働者側の状況の落ち着きどころがここだった、ということができます。
企業は、長引く不況の中で正社員の採用を絞り込まなければならなくなり、契約社員やパートアルバイトなどで労働力を確保する必要が出てきました。
一方、労働者も就職氷河期時代に正社員として採用されるのが難しく、やむなく契約社員として働くこととなった人が多いようです。
女性では結婚、子育てなどのために、いったん退職し、子育て後に再就職しようとしても正社員の口が少なく、また社員として採用されても長時間労働などの問題で子育てが難しい、といった事情もあります。
また、高年齢者雇用の促進が進む中で、定年後再雇用の高齢労働者はフルタイム有期契約の契約社員が一般的です。
他方では、自分のやりたい仕事が別にある(例えば俳優など芸術家)とか、正社員と違って業務の内容や勤務地を限定しやすい、といった積極的動機で契約社員を選ぶ人も多くみられます。
このように、両者のニーズがあいまったところが現状に落ち着いている、ということが言えるでしょう。
(2)契約社員の実態
①契約社員の数
厚生労働省の統計では、次のようになっています。
(出展)厚生労働省「非正規雇用」の現状と課題
②契約社員を選ぶ理由
厚生労働省の統計では「正社員として働く機会がなく、非正規雇用で働いている人(不本意非正規)」の割合は、非正規労働者のうちの12.8%です。
案外少なく見えます。
とはいえ、25歳から34歳の層では2割近く、一方で65歳以上層が9%弱など、年代層で大きな違いがあります。
(出展)厚生労働省「非正規雇用」の現状と課題
非正規雇用者がなぜ非正規を選んでいるか、次の統計をご覧ください。
ワークライフバランス重視(都合のよい時間、家事育児両立、通勤時間、体調との関係)が全体では一番大きな理由です。
正社員なら残業を拒めませんが、非正規ならご自分の都合に合わせて、残業なしで、育児との両立も容易、などとうかがわれます。
病気治療との両立などから非正規を選ぶ人も多いようです。
なお「専門的技能を生かせる」という人も案外多く、単独の理由としてはトップです。
正社員なら、辞令ひとつでどんな仕事にでもつかなければいけません。
これを嫌い、自分の専門技能に自信を持ち実力一本で頑張っている人も案外多いようです。
(出典)リクルートワークス「定点観測日本の働き方」>「不本意非正規」
2、契約社員と正社員との違い
契約社員と正社員とでは待遇面など様々な違いがあると考えられていますが、案外、誤解も多いようです。
現在の正社員と契約社員の間でどのような待遇差があるか、それぞれのメリット、デメリットを確認しましょう。
(1)業務の内容・責任の範囲・異動(部署異動、転勤、出向、転籍)昇進
正社員か契約社員の違いは、本来は契約期間の無期・有期の違いに過ぎません。
それでも次のような違いが見られます。
①業務の内容
業務の内容等は会社によって異なります。
総じて、大企業では正社員に基幹業務を担当させ、契約社員に補助業務を行わせることが多く、中小企業では、正社員、契約社員を問わず同様の業務に従事していることが多いようです。
②責任の範囲・異動・昇進
正社員は職務内容や勤務場所の変更が行われ、転居を伴う転勤もある。
それらを通じて幅広い業務経験を積んで昇進していく、というのが一般的です。
業務が多忙なときの残業や、万一のトラブル時には休日でも駆けつける、といった責任も担っています。
これに対して、契約社員は同じ業務を継続して担当し、勤務場所も変更がない、残業や非常事対応などの責任も、正社員に比べて軽い、と考えられています。
そのようなことが前述「非正規雇用者の理由別仕事満足度」のグラフに表れているようです。
ワークライフバランスの充実や自分の専門を生かせる、といった理由です。
(2)給与・年収などの待遇(「同一労働同一賃金」でどのように変わるか)
正規、非正規の労働者では賃金の水準も昇給の具合も大きく異なります。
(1)に示した長期的に担う業務の違いや責任・異動などの違いが理由とされます。
若年労働者では賃金に大きな違いがありませんが、年齢を重ねると賃金格差が大きくなっていきます。
下のグラフで「一般労働者(正社員・正職員以外)」(おおむね契約社員に該当)は、年齢に伴う昇給がほとんどありません。
なお、60歳から64歳の人の賃金が急に高くなって見えますが、60歳定年退職後に契約社員として再雇用される人が賃金カーブを押し上げているものと思われます。
個々の賃金項目ごとにイメージを確認してみましょう。
これが同一労働同一賃金(不合理な待遇差の是正)により、改められていく方向も示します。
①基本給
正社員と比べて低い賃金から始まり、勤続年数が長くなってもあまり昇給しません。
②賞与
正社員は基本給の○か月分などと決められますが、契約社員などは寸志などとして、形ばかりの金額が支給される場合が通例です。
賃金総額での正社員との大きな格差の原因になっていると考えられます。
③諸手当
正社員には支給されるが、契約社員などには支給されないとか、正社員よりも低い金額であることが多いようです。
④残業代(割増率)
時間外や深夜休日労働の割増率について、正社員と契約社員などとで差をつけている場合が見受けられます。
⑤退職金
正社員には勤続年数などに応じた退職金テーブルが整えられ、多額の退職金となる場合が多いが、契約社員などは形ばかりの支給になっている場合がしばしば見られます。
⑥福利厚生
食堂、休息室、更衣室などの利用も正社員には認めるが、契約社員などには認めないといった会社も見受けられます。
慶弔休暇や病気休職制度や法定の有給休暇を超えた会社独自の休暇制度も、正社員にだけ認めているところも多くみられます。
⑦教育訓練
正社員には充実しているが、契約社員などには不十分ということも多いようです。
しかし、同一労働同一賃金(不合理な待遇差の是正)が大企業では2020年4月から、中小企業でも2021年4月から適用されます。
同一企業・団体での正社員(正規雇用労働者・無期雇用フルタイム労働者) と非正規社員(契約社員(有期雇用労働者)、パートタイム労働者(短時間勤務労働者)、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。
これによってどう変わるか、簡単にまとめました。
「正社員だから」「契約社員だから」というだけの理由での、不合理な待遇差は許されなくなります。
あなたが契約社員の道を選ぶか正社員を目指すか、今後の制度の変更も含めて考え直してみてください。
項目 | 基本的な考え方 |
①基本給 | 正社員と非正規社員問わず、労働者の能力経験、業績、勤続年数などの実態に応じて決定。昇給も能力の向上に応じて行われるなら、実態に応じて決定。 |
②賞与 | 会社の業績への貢献に応じて支給されるものは、貢献度合いに応じて支給。 |
③諸手当 | 手当の性質に応じて検討。 1.業務の性質や勤務の実態に基づいて支給されるものは正規非正規で同一とする:通勤手当、食事手当、特殊作業手当、特殊勤務手当等 2.役職手当は、同一の役職・責任ならば同一に、役職・責任に違いがあるなら、違いに応じた手当にする。 |
④残業代(割増率) | 正規非正規で同一。 |
⑤退職金 | 同一労働同一賃金ガイドラインでは取扱いは示されていません。 但し、裁判例で長期勤続している契約社員に退職金を全く払わないのは違法とするものが出ています。 |
⑥福利厚生 | 食堂などの施設の利用、慶弔休暇、病気休職などは基本的には同一。 |
⑦教育訓練 | 現在の職務遂行に必要な教育訓練なら同一とする。 |
(以上はイメージを示すために簡略化しています。)
(3)有給休暇・妊娠出産育児や介護休業などは違いがない
有給休暇や、妊娠出産育児や介護等を支援する法定の制度は、正社員でも契約社員でも適用されます。
「就業規則に書いていないので契約社員には育児休業制度はない。」などというのは間違いです。
(4)社会保険には違いがない
雇用保険、労災保険、健康保険、厚生年金保険などは法定の制度です。
正社員と契約社員とでの相違は基本的にはありません(短時間勤務のパート等には、一定の制約があります)
(5)退職の自由度
無期契約の正社員なら、自分から申し出ていつでも退職可能です。
一方、有期契約の場合には契約期間の途中で退職するのは契約違反になります。
とはいえ、1年を超える有期契約の場合は、契約初日から1年経過すれば、いつでも退職できます。
家庭の事情で遠くに引っ越しするとか、職場のハラスメントに耐えられない、といったやむを得ない事情があれば1年未満でも退職可能です。
3、契約社員のデメリットは?(正社員よりクビになりやすいの?等)
契約社員は正社員よりも賃金その他労働条件が低く、首も切りやすい、などと考えられています。
実際、企業としては、使い勝手が良く、雇用の調整弁として扱うことも多いようです。
以下、詳しくみていきましょう。
(1)契約社員は正社員よりクビになりやすいのか
契約社員は正社員よりクビになりやすい、とは必ずしも言えません。
①契約期間途中の解雇(中途解約の制限)
期間の定めのある労働契約はやむを得ない事由がなければ中途解約できません(労働契約法17条1項)。
「やむを得ない事由」は、無期労働契約の労働者(正社員)の解雇より厳格に考えられます。
契約に期間の定めを設ける以上、期間中はお互いに契約の継続に合意していたはずであり、合意の破棄には相当の理由が必要です。
正社員の解雇は「客観的に合理的な理由と、社会的な相当性」(労働契約法16条)が要件ですが、有期契約労働者の期間途中の解雇の場合は「期間満了を待たずに解雇しなければならないだけの重大な事由」が必要です。
労働者の就労不能、重大な非違行為、あるいは、会社が深刻な経営難に陥って整理解雇せざるを得ない、などです。
②雇い止めの問題
次に、有期契約期間満了時に、会社は契約を更新せずに終了させることが自由にできるでしょうか(いわゆる「雇い止め」)。
これも厳格な制限があります(労働契約法19条)。
有期契約が過去に反復継続し実際は無期契約と同視できる場合とか(同条1号)、契約満了時の当事者の言動などから労働者が契約更新を期待できる場合(同条2号)は、労働者が契約更新を求めれば、会社として拒否できません。
更新拒否には客観的に合理的な理由が必要です。
それがなければ従来の契約の条件のまま契約が更新されたとみなされます。
とはいえ、これらはケースバイケースという面もあります。
会社が契約を更新してくれず、労働者として納得がいかないならば、専門の弁護士等との相談が必要でしょう。
③整理解雇の場合
会社が深刻な経営難に陥って整理解雇せざるを得ない場合には、正社員の雇用を守るために、非正規社員の解雇を先に行う場合があります。
正社員の方が無期契約で雇用継続の期待が大きく、実際に生活への影響が大きい、などの理由によるものです。
(2)契約社員であることによるその他のデメリット
契約社員であることによる実質的なデメリットは、様々考えられます。
①給与賞与福利厚生など様々な待遇面で正社員より劣る?
この点は、「2」(2)で示しました。
これまでは正社員より劣っている場合が多かったでしょうが、「同一労働同一賃金(不合理な待遇差の是正)」により、相当に改善が進むと思われます。
②社内での昇進昇格において不利になる
正社員と比べて契約社員は不利な場合が多いでしょう。
正社員を無期契約で採用しているのは、長期的に育成し幹部社員として育てるためです。
契約社員は、一時的な繁忙時の人材確保とか、幹部社員の補助といった役割で採用されることが多く、昇進昇格は容易ではないでしょう。
③社会的な信用が低い
契約社員は正社員より社会的な信用が低い、と一般には見られます。
雇用も不安定というイメージが大きいでしょう。
クレジットカードや住宅ローンの申し込みなどの際に不利に扱われることもあるでしょう。
結婚して世帯を構えたいというときも、例えばお相手のご両親に不安定な身分だと見られるなども考えられるでしょう。
4、契約社員の契約を更新し続けると正社員になれるの?
契約社員は有期労働契約ですが、有期労働契約が更新されて通算5年を超えれば無期労働契約に転換できるルールが施行されています。
長期間にわたって雇用されているのに、会社の都合で雇い止めできるのは不適切と考えられています。
(1)無期転換ルールとは
有期労働契約が更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるルールです。(労働契約法第18条)
(参考)厚生労働省「無期転換ルールのよくある質問(Q&A)」柱書
(2)無期転換したら正社員になれるのか
無期転換ルールは、あくまでも契約期間を有期から無期に転換するルールであり、無期転換後に正社員と同じ待遇になる、ということではありません。
給与や待遇等の労働条件は、直前の有期労働契約と同一となるのが原則です。
ただし、労働協約や就業規則、個々の労働契約で別の定めがあればそれに従います。
契約社員の立場でも、無期転換した途端に正社員扱いになるのは好ましいとは限りません。
職務変更や転勤、長時間の残業が命じられるなら契約社員としてのメリットがなくなります。
無期転換後の処遇がどうなるか、会社にしっかり確認しましょう。
(参考)厚生労働省「無期転換ルールのよくある質問(Q&A)」Q12
(3)無期転換の手続き
契約期間が通算5年を超えた労働者が「申込み」をした場合、無期労働契約が成立します。
会社側は申込みを承諾したものとみなされるので、拒む余地はありません。
なお、仮に自動的に転換されるなら(2)で申し上げたとおり、ご自身にとって不本意な労働条件になりかねません。
(参考)厚生労働省「無期転換ルールのよくある質問(Q&A)」Q2
(4)無期転換できないケース
いったん退職してまた働き出した場合(「無契約期間」がある場合)、それ以前の契約期間は通算対象から除外され(「クーリング」)、無期転換できないことがあります。
通算されるケースの例としては、3年間勤務後、退職し、3ヶ月後に復職の場合、退職以前に勤務していた3年間の契約期間も通算されます(無契約期間前の有期労働契約の契約期間が1年以上あり、無契約期間が6ヶ月未満、という条件に該当)
詳細な条件は次の資料を参照してください。
(参考)厚生労働省「無期転換ルールのよくある質問(Q&A)」Q7
5、契約社員だからと会社から不合理な扱いを受けたなら弁護士へ相談を
企業の中には、契約社員を安価な使い捨て労働力と考えるものも少なくありません。
しかし、様々な判例や法律改正で、労働者保護の仕組みが整えられています。
さらに、国家として多様で柔軟な働き方をサポートし、有期契約の不安定さを解消する仕組みも設けています。
このような国全体の大きな動きが、企業経営者や現場の管理者にはまだ十分に理解されていません。
契約社員として、実際には様々な不合理な問題で苦しんでおられることも多いと思います。
そのようなときには、ぜひ労働問題に詳しい弁護士に相談してみてください。
会社の法律の無知による場合が多く、弁護士との相談で簡単に解決できる場合も少なくありません。
まとめ
これまで、地位が低いかのように思っていた「契約社員」かもしれませんが、この記事を読んでいただき考えは変わったのではないでしょうか。
当初、あまり考えずに契約社員になられたかもしれませんが、もし今そこに疑問を持ったのであれば、今後の生き方、働き方をもう一度考えてみてください。
とはいえ、契約社員を守るための法律制度はとても充実しています。
もしもそれら制度を守らない会社があれば、専門の弁護士の力を借りて、あなたの生き方働き方をしっかりと守り抜いてください。
それがあなたの人生を豊かにし、この国を栄えさせるものともなります。