夫婦が離婚する理由で最も多いのが「性格の不一致」です。夫婦が話し合いによって離婚する場合には、特に離婚理由が問われることはありませんので、どのような理由であっても離婚をすることができます。しかし注意点として、離婚裁判では、法律上の離婚事由が必要になりますので、性格の不一致だけでは裁判所に離婚を認めてもらうことが難しいケースもあります。
今回は、
- 性格の不一致と財産分与の関係
- 性格の不一致による離婚の財産分与の流れ
- 性格の不一致による離婚で「住宅」を財産分与する方法
- 性格の不一致による離婚におけるその他の財産の分与方法
などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
この記事が、離婚を検討している方々のご参考になれば幸いです。
目次
1、性格の不一致による財産分与について知る前に|「性格の不一致」とは
性格の不一致による財産分与について説明する前提として、以下では、性格の不一致と離婚との関係について説明します。
(1)離婚原因に多い「性格の不一致」
毎年多くの夫婦が離婚をしていますが、離婚をする理由で最も多いのが「性格の不一致」での離婚です。お互いの価値観が合わない場合や一緒に生活をしてみてさまざまな点でズレがあるなども性格の不一致に含まれます。不貞やDVなど明確な離婚理由がない場合を性格の不一致と表現することも多いようです。
このように性格の不一致とは、夫婦のどちらか一方が悪いというわけではなく、お互いの考え方や性格が合わないことが原因で婚姻生活を継続することが難しくなった状態と理解するとよいでしょう。
(2)「性格の不一致」は法律上の離婚原因ではない
夫婦が話し合いによって離婚をすることを「協議離婚」といいます。協議離婚では、夫婦が離婚届に記入をし、市区町村役場に提出するだけで離婚が成立しますので、離婚の理由を問われることはありません。そのため、「性格の不一致」が離婚理由であったとしても、特に問題なく離婚をすることができます。
しかし、協議によって離婚をすることができなかったときには、家庭裁判所に調停を申し立て、最終的には離婚裁判によって解決を図ることになります。離婚裁判において離婚を認めてもらうためには、民法が規定する以下の法律上の離婚事由が存在することが必要になります(民法770条1項)。
上記の規定からも明らかなように「性格の不一致」は法律上の離婚事由としては認められていませんので、「性格の不一致」だけでは裁判所に離婚を認めてもらうことはできません。
2、性格の不一致と財産分与の関係
性格の不一致を理由に離婚をする場合には、財産分与はどのような影響を受けるのでしょうか。
(1)性格の不一致による離婚の財産分与は原則「2分の1」
「性格の不一致」それ自体は、法律上の離婚事由として認められてはいませんが、性格の不一致を理由に離婚をする場合でも財産分与を請求することはできます。
財産分与は、婚姻生活中に夫婦が築いた財産を清算する制度ですので、離婚理由によって財産分与の可否や内容が変化することはありません。そして、財産分与の対象財産をどのような割合で分与するかについては、原則として2分の1とされています。
性格の不一致による離婚であってもこの原則は変わりませんので、2分の1の割合で財産分与を行うことになります。
もっとも、夫婦が話し合いによってこれと異なる財産分与の割合を決めること自体は禁止されていませんので、6対4、8対2というような財産分与割合を定めることも可能です。
(2)財産分与の対象となるもの
財産分与は、夫婦の協力によって築いた財産を分ける制度ですので、財産分与の対象となるのは、婚姻生活中に夫婦が協力して築いた「共有財産」の部分に限られます。どちらの名義であったかではなく、婚姻期間中に築いたものかどうかが判断のポイントになります。
なお、共有財産にあたる財産としては、以下のものが挙げられます。
- 現金、預貯金
- 株式や投資信託などの有価証券
- 不動産
- 保険の解約返戻金
- 退職金
(3)財産分与の対象とならないもの
婚姻前に築いた財産や婚姻期間中に築いた財産であっても夫婦の協力とは無関係に築いた財産については、「特有財産」として財産分与の対象外です。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 独身時代の現金・預貯金
- 親から相続した財産
- 住宅購入時に親から受けた援助金
- 別居後に取得したもの
- 浪費やギャンブルのためなど夫婦生活とは関係のない借金
3、性格の不一致による離婚の財産分与の流れ
性格の不一致を理由に離婚をして財産分与を請求する場合の流れは、以下のとおりです。
(1)離婚協議による話し合い
まずは、夫婦が話し合いによって、離婚をするかどうかや財産分与として何を、どのくらい分与するのかを決めます。
性格の不一致は、法律上の離婚事由ではありませんので、離婚裁判では、離婚が認められない可能性もあるため、できる限り協議での離婚を目指すようにしましょう。
話し合いによって離婚をすることが決まった場合には、後日、争いになることを避けるためにも合意した離婚条件を書面に残しておくようにしてください。書面で残す場合には、将来の義務の履行を確実にするためにも、公正証書を作成することをおすすめします。
(2)離婚調停
協議によって解決しない場合には、家庭裁判所に夫婦関係調整調停(離婚調停)を申し立てます。離婚調停は、調停委員2名が間に入って話し合いを進めてくれますので、当事者同士で話し合いをするよりかは冷静に話し合いを進めることが可能になります。
相手方が財産分与の対象財産を隠匿している疑いがある場合には、裁判所の調査嘱託という制度を利用することによって、対象となる金融機関や証券会社などに照会をかけて明らかにすることが可能な場合もあります。
離婚調停も協議離婚と同様に話し合いの手続きですので、当事者が離婚や離婚条件で合意ができない場合には、調停が不成立となり終了します。
(3)離婚裁判
調停が不成立となった場合には、最終的に離婚裁判を起こして解決を図ることになります。
離婚裁判は、協議離婚や調停離婚のような話し合いの手続きではなく、証拠に基づいて自己の主張を立証していく必要があります。
性格の不一致を理由に離婚裁判を起こしたとしても、性格の不一致自体は、法律上の離婚事由ではありませんので、離婚が認めてもらえない可能性があります。そのため、性格の不一致だけでなく、別居が長期間に及んでいるなど「婚姻を継続し難い重大な事由がある」ことを基礎づけるさまざまな事情を主張立証していく必要があります。
離婚裁判は、非常に専門的な手続きにありますので、適切に進めていくためには、専門家である弁護士のサポートを受けながら行うことをおすすめします。
4、性格の不一致による離婚で「住宅」を財産分与する方法
夫婦の共有財産として「住宅」が存在する場合には、どのような財産分与をするかで揉めることがあります。以下では、性格の不一致による離婚で「住宅」を財産分与する方法について説明します。
(1)売却する
住宅が財産分与の対象になる場合の最も簡単な方法は、住宅を売却する方法です。
住宅は、物理的に分割することができない性質の財産であるため、財産分与ではどちらが取得するか、住宅をどのように評価するかで揉めてしまいます。
しかし、住宅を売却してしまえば、住宅は、不動産から金銭という分けやすい財産に変わります。売却後は、夫婦で合意をした財産分与割合に従って売却代金を分ければよいので、非常に簡単です。
(2)売却せずに財産分与
住宅を売却せずに財産分与する場合には、以下の二つの方法が考えられます。
①夫婦の片方が所有する
住宅を売却しない場合の方法の一つは、住宅を夫婦のどちらか一方が所有するという方法です。この場合には、住宅の所有権を取得することになった人が住宅という高額な資産を取得することになりますので、その代償として他方の配偶者に対して金銭などを支払う必要があります。
相手方に高額な現金を支払うだけの金銭的な余裕がなければこの方法は難しいかもしれません。
②住宅に持分を設定して共有する
どちらか一方が住宅の所有権を取得するのではなく、住宅に持ち分を設定して夫婦が共有するという方法も考えられます。共有にすることで双方が資産を取得することになりますので、代償金として多額の金銭を支払う必要はなくなります。
しかし、離婚後も共有状態にしておくことは、将来、住宅を売却する際に共有者の一方の判断だけでは売却することができないというデメリットが生じます。売却を必要とする事情が生じた際に、元配偶者に連絡を取らなければならず、新たな争いの火種になる可能性もあります。
また、共有状態の住宅にどちらが住むのか、住んでいる間のローンの負担はどうするのかなどの複雑な問題も生じる可能性があります。
そのため、住宅を共有にするという方法は、できる限り回避したほうがよいでしょう。
(3)住宅ローンが残っている場合の財産分与
住宅ローンが残っている場合には、住宅の評価額から住宅ローンの残額を控除した金額が財産分与における住宅の価値となります。住宅ローンを控除した結果、マイナスになるような場合には、住宅は価値がないものとして基本的には財産分与の対象外となります。
住宅ローンが残っている不動産を財産分与の対象とする場合には、住宅をどちらが取得するかだけでなく、住宅ローンの負担をどうするのかを決めなければなりません。
なお、住宅ローンの支払いを夫婦間で取り決めたとしても、金融機関などの債権者に対しては、その内容を主張することはできませんので注意が必要です。
5、性格の不一致による離婚におけるその他の財産の分与方法
性格の不一致を理由に離婚する場合における住宅以外のその他の財産の分与方法としては、以下のとおりです。
(1)年金
過去には年金も財産分与の対象に含まれていましたが、年金分割制度が設けられたことによって、年金は財産分与ではなく、基本的には年金分割によって対応していくことになります。
なお、年金分割の対象になるのは、2階部分の厚生年金と共済年金に限られます。1階部分の国民年金と3階部分の厚生年金基金等は対象外ですので注意が必要です。
(2)自動車
自動車を財産分与する方法としては、自動車を売却して現金で分ける方法とどちらか一方が自動車を取得して評価額の2分の1を他方の配偶者に支払うという方法があります。
後者の方法では、自動車の評価額をいくらとするかで揉めることがありますので、複数の業者から査定をとるなどして、客観的な金額を算出することが重要です。
(3)保険
生命保険や学資保険など貯蓄型の保険に加入している場合には、当該保険の解約返戻金相当額が財産分与の対象財産となります。
保険の財産分与の方法としては、保険を解約して解約返戻金を夫婦で分ける方法と保険の加入は継続した状態で解約返戻金相当額の2分の1を他方配偶者に支払うという方法があります。
6、性格の不一致による離婚の財産分与で悩んだら弁護士に相談しよう
性格の不一致による離婚の財産分与でお悩みの方は弁護士に相談をすることをおすすめします。
(1)性格の不一致でも離婚する方法をアドバイスしてもらえる
性格の不一致で離婚をする場合には、相手方が離婚に同意してくれなければ離婚を成立させることが難しくなります。
そのような場合でも弁護士に依頼をすることによって、弁護士がご本人に代わって相手方と粘り強く交渉をし、離婚に同意してもらえるように働きかけることができます。このまま長期間別居していてもメリットがないことを説明したり、適切な離婚条件を提示することによって離婚に同意してくれる可能性は高まります。
性格の不一致による離婚は難しいといわれていますが、専門家である弁護士に相談をすることによって解決する場合もありますので、まずは相談をするとよいでしょう。
(2)不利な財産分与にならないようにサポートしてもらえる
財産分与は、対象財産の選別、評価、財産分与割合、財産分与の方法など複雑な問題が複数含まれていますので、自分一人で進めてしまうと思いもよらない不利益を被るおそれがあります。
財産分与で適切な金額を獲得することが、離婚後の再出発にとって重要になりますので、専門家である弁護士のサポートを受けながら進めていくことが重要です。弁護士であれば、法的観点から適切に財産分与の手続きを進めてくれますので、不利な結果になることを回避することができます。
性格の不一致で離婚の財産分与に関するQ&A
Q1.離婚原因に多い「性格の不一致」とは?
性格の不一致とは、夫婦のどちらか一方が悪いというわけではなく、お互いの考え方や性格が合わないことが原因で婚姻生活を継続することが難しくなった状態と理解するとよいでしょう。
Q2.「性格の不一致」は法律上の離婚原因ではない?
「性格の不一致」は法律上の離婚事由としては認められていませんので、「性格の不一致」だけでは裁判所に離婚を認めてもらうことはできません。
Q3.性格の不一致による離婚の財産分与の流れとは?
- 離婚協議による話し合い
- 離婚調停
- 離婚裁判
まとめ
相手方が離婚に同意をしてくれない状況では、性格の不一致を理由に離婚することは難しいですが、粘り強く交渉を続けることによって離婚に同意をしてくれることもあります。
性格の不一致が理由でも財産分与を請求することができますので、離婚に合意してくれない相手との交渉は、財産分与の手続きも含めて弁護士に任せてしまうとよいでしょう。