アスペルガー症候群を抱えるパートナーとの難しい関係が離婚を考えさせることもあるでしょう。
この記事では、アスペルガー症候群と離婚に焦点を当て、コミュニケーションの工夫やカウンセリングの利用、そして調停や裁判への対応方法を探ります。
アスペルガー症候群を持つ配偶者との健全な関係維持や改善策についても詳しく解説します。
パートナーとのより良い未来のために、この記事がお役に立てれば幸いです。
目次
1、アスペルガー症候群とは
そもそもアスペルガー症候群は、「発達障害」という大きなくくりの中のひとつで、先天的に脳の一部がうまく機能しないことから生じる障害です。
知能には問題がなく、むしろ一般のレベルより高いIQを発揮する人も多いため、子供の頃には周囲が障害に気付かないことも珍しくありませんが、アスペルガー症候群には主に次のような特徴が見られます。
(1)社会性の障害
アスペルガー症候群の人は、とにかく「空気を読む」のが苦手です。
そのため「それくらい言われなくても分かるでしょ?」というような事柄もなかなか察することができず、怒られても何が悪いのか分からなかったり、とんちんかんな受け答えをしてしまったりすることがあります。
(2)言語コミュニケーションの障害
相手の言葉を文字通り解釈してしまうことも特徴のひとつで、周囲からは「冗談が通じない人」と思われがちです。
相手の話に耳を傾けることも苦手なので、一方的に自分の話をまくし立てます。
(3)想像力の障害
決まった手順通りに物事を進めていくことにこだわり、予定外のハプニングにはうまく対応することができません。
興味のあることには驚くほどの集中力を発揮しますが、気持ちの切り替えをスムーズに行うことができないため、周りからは頑固で融通のきかない人に見えるでしょう。
2、アスペルガー症候群持ちの人は離婚率が高い
夫婦のどちらかがアスペルガー症候群の場合、その離婚率は80%を超えるとも言われています。
日本では夫婦全体の離婚率が3割程度ですから、これは相当高い数字です。
先ほど特徴のところでもご紹介したように、アスペルガー症候群の人は自分の興味のあることに対してはとことんのめり込む傾向があります。
そのため、結婚前のまだ付き合っている段階では好きな相手に対してとことん尽くす=「こんなに一途に想ってくれるのなら…」と、真面目で誠実な人柄に惹かれて結婚を決める人も多いのです。
しかし、いざ結婚してみると「なんだか会話が噛み合わない」「趣味に没頭しているときは話しかけても無視されてしまう」など、生活の中で様々な違和感が浮上してきます。
はじめは我慢できていた些細な事柄も、積み重なればやがて限界に達し、そのまま離婚に至ってしまうというのが結果的にはよくあるパターンです。
3、アスペルガー症候群の配偶者を持つ人の悩み
アスペルガー症候群の配偶者を持つと、実際にはどのようなところで問題を感じやすいのでしょうか。
結婚生活を送る上での悩みを具体的にチェックしていきましょう。
(1)カサンドラ症候群
カサンドラ症候群とは、アスペルガー症候群の配偶者を持つ人が「夫・妻とうまくやっていけないのは自分のせいなのではないか…」と、配偶者の言動を理解できないことに対して自信を失い、精神的に追い詰められることで発症してしまう疾患です。
アスペルガー症候群の人は、深い関係にない他人から見れば、単に「合理的な人」「愛情表現が苦手でシャイな人」と捉えられていることも多く、夫婦関係の悩みを周囲に相談しても、なかなかモヤモヤとした気持ちを晴らすことができません。
それがさらに「自分が悪いだけなのではないか」という思いに拍車をかけ、悩みをこじらせる原因となってしまいます。
(2)自分の辛さを理解してもらえない
アスペルガー症候群の人は、他人の気持ちを考えたり、想像してみたりすることが苦手です。
みなさんが体調を崩していたり、精神的に参っていたり、そんな心細い気持ちのときに「そばにいてほしい」と思っても、アスペルガー症候群の配偶者がその気持ちを察してくれることはありません。
自分が辛いときにその状況を分かってもらえない、感情の共有ができないというのは、夫婦の信頼関係を築いていく上で致命的なハードルにもなり得るでしょう。
(3)怒るポイントが分からない
あらゆる物事に対して自分なりのこだわりがあり、そのこだわりを否定されたり邪魔されたりすることに対して強い憤りを覚えるのがアスペルガー症候群の特徴です。
しかし、そうでない人からすれば突然怒り出したように見えることも多く、地雷がどこにあるのか分からず困惑してしまいます。
なるべく怒らせないように…と思うあまり、相手の顔色を伺うことがクセになり、そんな生活に疲れ果ててしまう人も少なくありません。
(4)気に入らない食事は一切口にしない
臨機応変に対応する、ということができないところもアスペルガー症候群の厄介なポイント。
1度気に入ったものをとことんリピートする一方で、気に入らないものにはそれがたとえ妻の手料理であろうと一切手を付けようとはしません。
自分の気分に合わない食事でも、「一生懸命作ってくれたんだし」と感謝して挑戦するのが普通じゃないの?と考える人も多いかもしれませんが、アスペルガー症候群の配偶者にその考え方は通用しないのです。
(5)自分の親や近所の人に礼儀知らずな態度を取る
アスペルガー症候群の人は、他人とコミュニケーションを取る上で適切な距離感をつかむのが苦手です。
そのため、目上の人に対してやけに馴れ馴れしい態度で接してしまったり、「この関係性でそこまで突っ込んだ話をするのはおかしくない?」と感じるような会話も平気で展開してしまったりします。
基本的なあいさつができないケースもあり、第三者を交えて話している最中には「見ていてハラハラする」「恥をかかされた」と思うことも多いでしょう。
4、配偶者のアスペルガーを理由に離婚はできるの?
相手の気持ちや空気を読むことができないアスペルガー症候群の人は、配偶者が大変なときにその状況を理解できず通常通りの家事や育児を要求する、相手が傷付くような言葉を平気で放つなどの言動をしてしまいがちです。
そんな利己的な振る舞いに、「もう夫婦としてはやっていけない!」と離婚を決意する人も多いですが、相手が離婚に同意せず裁判へと発展した場合、配偶者がアスペルガー症候群であることだけを理由に離婚することは難しいのが現実です。
裁判では、民法第770条に定められている以下の離婚事由(法定離婚事由といいます)に該当するかどうかが離婚できるかどうかのポイントになります。
- 不貞行為(浮気・不倫)
- 悪意の遺棄(生活費を渡さないなど)
- 3年以上の生死不明
- 強度の精神病にかかり、回復の見込みがない
- その他婚姻を継続し難い重大な事由がある
このうちアスペルガー症候群は、一見「強度の精神病にかかり、回復の見込みがない」に当てはまりそうにも思えますが、実際には「強度の精神病」とまでは言えないということで、離婚が認められたケースはほとんどありません。
ただ、夫婦間の愛情がなくなりすでに関係が破綻していると考えられる場合は、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」の項目が適用され、離婚も認められます。
どういうときに夫婦関係が破綻していると言えるのか、気になる方は次のポイントを目安にしてください。
【夫婦関係の破綻が認められやすいケース】
- 別居している
- 過去に離婚に関する具体的な話し合いを行ったことがある
- 同居していても夫婦間の接触がない
また、お互い離婚に同意している場合は、法定離婚事由に当てはまらなくてもすぐに離婚が可能です。
必要な準備や手続きについてはこちらの記事が参考になりますので、離婚を考えているみなさんはぜひ1度目を通してみてください。
5、アスペルガー症候群の配偶者と結婚生活を続ける場合のコツ
「相手との生活に疲れていることは事実だけど、本人のことを嫌いになったわけじゃない」
「できればこれからも夫婦でいたい」
ここからは、そんなみなさんが少しでもストレスなく結婚生活を継続できるよう、アスペルガー症候群との向き合い方のコツをご紹介していきます。
(1)具体的な説明を心がける
アスペルガー症候群の配偶者とスムーズなコミュニケーションを実現させるためには、どんな些細な事柄にも言葉を尽くすことが重要です。
他の相手に対してなら「言わなくても分かるよね」と省略したくなるようなことでも、きちんと言葉にして伝えるよう心がけましょう。
その際、「なるべく」「大体」「できれば」というような曖昧な伝え方は避け、「○時までに××を△△してほしい」というように、具体的に説明することも大切なポイント。
抽象的な表現ではそのニュアンスを汲むことができなかったり、誤解が生じやすくなったりするので、客観的に判断しやすい数字などを活用してみてください。
(2)相手の気持ちを理解するのは苦手なのだと心得る
アスペルガー症候群の特徴である「空気が読めない」「他人の感情が分からない」ことを、相手の個性として捉えることもひとつの受け入れ方です。
特に感情の部分については、「私は今怒っている、だから1人にしてほしい」「私は今とても寂しい、だからそばにいてほしい」というように、現在の感情と相手に求めている行動をセットで伝えるようにすれば、だいぶカバーすることができます。
その感情が起こった原因についても「あなたの帰りがいつもより遅いのに連絡がなかったから心配だった」「今朝掃除したばかりのラグにあなたがコーヒーをこぼして、また掃除しなければならなくなったから面倒くさくてイライラした」というように、具体的な説明を心がけることで相手にとっても理解しやすくなるでしょう。
(3)いい意味で相手に期待せず、割り切る
アスペルガー症候群の特徴を個性と捉え、「元々こういう人なのだ」と思えるようになれば、相手に過度な期待をしなくなります。
他の夫婦を羨ましく感じることもあるかもしれませんが、「私が好きになったのはこの人なのだから」「どんな夫婦にも外から見ただけでは分からない悩みがある」と割り切り、お互いがより快適に生活していくにはどうすれば良いのか、前向きに考えていきましょう。
6、一人で抱え込まないで!離婚を考えたときの相談先
それでもやっぱり現状が辛い、離婚をすることでしか解決できないような気がする…というときには、その思いを誰かに相談してみるのが1番です。
1人で抱え込んでいるとさらに状況が悪化してしまうこともあるので、早めに次のような相談先を利用してみましょう。
(1)カウンセラー
カウンセラーは、他人の話や悩みに耳を傾けるプロ。
身近な人には相談しにくいことでも、直接的な関係のない第三者になら素直に打ち明けることができます。
今自分が苦しい・難しいと感じている事柄に対して、楽になれるアドバイスをもらうこともできます。
(2)東京都発達障害者支援センター(TOSCA)
東京都発達障害者支援センターは、発達障害の本人や家族のサポートを行うため、平成14年に開設された専門機関です。
アスペルガー症候群への理解を助けるセミナーなど、家族向けの支援も数多く実施されているので、困ったときにはぜひ足を運んでみてください。
(3)弁護士
相手が離婚に同意してくれない、離婚に関する話し合いがまとまらないときには、弁護士に交渉を依頼するのもおすすめです。
法的な観点から様々なアドバイスを受けることができるのはもちろん、調停や裁判になった場合の手続きや、離婚が成立するまでのサポートを幅広くお願いすることができます。
弁護士を間に挟むことで相手と直接やり取りをしなくても済む、手続きの煩わしさから解放されるというメリットもあります。
離婚に関する精神的な負担をだいぶ軽減することができますので、今後どのように話を進めていけば良いのか分からないときにも1度相談してみましょう。
まとめ
配偶者がアスペルガー症候群であるということだけで法的な離婚を成立させることは難しいですが、その他に夫婦関係の破綻が見られる場合は離婚が認められるケースもあります。
相手の同意を得ることができず、離婚調停や離婚裁判に発展しそうなときには、あらかじめ弁護士に相談しておきましょう。
また、色々考えた結果やっぱりもう少しだけ夫婦として頑張ってみたい…というときには、今回ご紹介した向き合い方のコツもぜひ参考にしてください。