
養育費を裁判手続きで請求するには、どのような点に気を付ければよいのだろう……。
配偶者と離婚の話し合いを進めているけれど、養育費に関する話がまとまらずに悩んでいるという方は多いのではないでしょうか。
また、すでに離婚しているが、養育費に関する話をせずに別れてしまった……という方もいらっしゃるかもしれません。
いずれの場合でも、裁判手続きによって養育費を請求することが可能です。
しかし、裁判手続きによる養育費の請求では、気を付けるべきポイントがあるので注意が必要です。
今回は、
- 養育費を請求できる裁判手続きの種類
- 裁判手続きで養育費を請求するメリット・デメリット
- 離婚前・離婚後に養育費を裁判手続きで請求する流れ
などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
他にも、養育費の裁判手続きの結果に納得できない場合の対処法や、養育費請求の裁判手続きを弁護士に依頼するメリットについても紹介します。
この記事が、裁判手続きで養育費請求を考えている方の手助けとなれば幸いです。
目次
1、養育費を請求する裁判手続きは3種類ある
「裁判」というと、訴訟をイメージする方が多いと思いますが、養育費を請求するための裁判には次の3種類の手続きがあります。
(1)調停
調停とは、家庭裁判所において男女1名ずつの調停委員を介して相手方と話し合う裁判手続きのことです。
調停では、調停委員が中立・公平な立場でアドバイスや説得を交えて話し合いを進めてくれます。
当事者だけで話し合うよりも、合意に至りやすくなるのがメリットです。
当事者が合意に至ると調停が成立し、合意内容が記載された調停調書が作成・交付されます。
養育費の金額については、当事者が合意できれば自由に決めることができるのが通常です。
もっとも、多くの場合は調停委員のアドバイスによって、裁判所の「養育費算定表」に掲載されている金額の範囲内で決められています。
すでに離婚した方が調停で養育費を請求する場合は、「養育費請求調停」を申し立てます。
これから離婚する方の場合は、「夫婦関係調整調停」(いわゆる「離婚調停」)を申し立て、その中で養育費についても話し合いましょう。
なお、離婚問題については「調停前置主義」といって、まずは審判や訴訟の前に調停で話し合わなければならないというルールがあります。そのため、これから離婚する方はいきなり離婚訴訟を提起することはできず、夫婦関係調整調停を申し立てる必要があることにご注意ください。
関連記事 関連記事(2)審判
審判とは、当事者が提出した主張や証拠、家庭裁判所調査官による調査結果などを踏まえて裁判所が相当と考える解決方法を命じる裁判手続きのことです。
養育費請求調停で話し合いがまとまらず、調停不成立となった場合は、自動的に審判手続きへ移行します。
離婚調停で話し合いがまとまらなかった場合、審判手続きに移行させることは可能です。
しかし、多くの場合は、当事者がしっかりと争うために次の離婚訴訟へ進むことが選択されています。
関連記事(3)離婚訴訟
離婚訴訟では、家庭裁判所で離婚問題について、通常の訴訟と同じルールのもとに当事者が主張や証拠を出し合います。
最終的に、裁判所が判決を言い渡す裁判手続きです。
養育費を請求するためだけの訴訟手続きはありません。
訴訟で養育費を請求できるのは、これから離婚する人が離婚訴訟を提起し、その中で養育費も請求する場合に限られます。
離婚訴訟の判決で養育費が認められるのは、離婚を求める側が勝訴したときだけです。
養育費の金額は、やはり「養育費算定表」に掲載されている金額の範囲内で決められることがほとんどです。
なお、離婚訴訟の途中でも適宜話し合いが行われるので、和解で解決することもよくあります。
関連記事2、養育費を裁判手続きで決めるメリット
養育費の請求で、裁判手続きを利用するか決断するためには、メリットとデメリットを知っておくことが大切です。
本項ではまず、養育費を裁判手続きで決めるメリットをご紹介します。
(1)相手方との合意が不要
相手方との任意の話し合いで、養育費について取り決めることができれば、何の問題もありません。
しかし、意見が食い違って合意に至らなければ、いつまで経っても養育費をもらうことはできないでしょう。
裁判手続きを利用すれば、相手方との合意は不要になります。
裁判手続きを利用する場合、最初は調停手続きで話し合う必要があります。
調停で合意できない場合は、審判または訴訟によって、裁判所が判断を下すのです。
そのため、いつまでも結論が出ないという問題を回避することができます。
(2)合理的な金額を獲得できる
養育費について相手方ともめる場合、払う・払わないという問題だけでなく、いくら払うのかで意見が食い違うことも多いものです。
任意の話し合いにおいては、相手方から「○万円しか払えない」といって、ごく低い金額しか提示されない場合も多いことでしょう。
裁判手続きでは、「養育費算定表」を参照して金額が決められます。
養育費算定表には、子どもの年齢や人数、養育費算を支払う側ともらう側のそれぞれの年収に応じて、相当と考えられている金額が掲載されています。そのため、合理的な金額を獲得することが可能になるのです。
(3)相手方が支払わない場合は差押えができる
裁判手続きを利用する大きなメリットとして、決められた養育費を相手方が支払わない場合、相手方の給料や預金などの財産を差し押さえることができる点です。
調停成立時に作成される「調停調書」や、審判における「審判書」、離婚訴訟における「判決書」「和解調書」には、いずれも法的拘束力があります。
以上の書類に記載された内容を相手方が守らない場合には、強制執行手続きをとることができるのです。
任意の話し合いで作成した離婚協議書も、公正証書で作成した場合には以上の書類と同じ法的効力があり、差押えが可能です。
公正証書を作成するためには、基本的に相手方と一緒に公証役場へ出頭して所定の手続きを行わなければなりません。
相手方の協力が得られない場合には公正証書の作成が難しいということは、覚えておかれた方が良いでしょう。
関連記事3、養育費を裁判手続きで決めるデメリット
次に、デメリットもご紹介しておきますので、十分にご確認ください。
(1)養育費を獲得するまでに時間がかかる
まず、裁判手続きにはそれなりの時間がかかるという点が挙げられます。
調停が成立する場合でも、申し立ててから成立までに、おおよそ4ヶ月~6ヶ月ほどかかるのが平均的です。
その後、審判や離婚訴訟に進むとすれば、さらに時間がかかります。
最終的な結論が出るまでに、1~2年かかることも珍しくありません。
審判や訴訟が係属している間は法的な判断が下されないため、基本的には養育費を受け取ることはできません。
(2)相場以上の金額を獲得するのは難しい
前項の「(2)」で、裁判手続きを利用すれば、合理的な金額の養育費を獲得できるというメリットをご紹介しました。
しかし、この点を逆に言えば、相場以上の金額を獲得するのは難しいというデメリットにもなります。
「養育費算定表」は裁判所が作成して公表しているものですから、家庭裁判所はどうしても算定表の基準に拘束されがちです。
算定表の基準を超える金額が認められるケースはあまりありません。
通常の生活をしていれば養育費として足りるはずの金額が掲載されてはいますが、家庭によっては不足する場合もあるはずです。
例えば、子どもを塾に通わせたい、私立の学校に入れたい、大学に進学させたいという希望をお持ちの方も多いことでしょう。
しかし、裁判手続きではこれらの希望を十分に満たすだけの金額が認められるとは限りません。
(3)弁護士に依頼した場合は費用がかかる
裁判手続きで養育費を請求するには、相応の費用がかかります。
裁判手続きそのものにかかる費用はさほどの金額ではありませんが、弁護士に依頼した場合には、数十万円の費用がかかってしまいます。
調停と審判の申し立て手続きは、一般の方がご自身で行うことも可能です。
離婚訴訟は手続きが複雑なので、ご自身で行うのは難しいでしょう。
調停や審判でも納得できる結果を得るためには、弁護士による専門的なサポートが重要になります。
相手方が弁護士に依頼した場合には、こちらも弁護士に依頼しなければ不利になってしまうことは否定できません。
4、これから離婚する人が裁判手続きで養育費を請求する流れ
では、実際に裁判手続きで養育費をするにはどうすればよいのでしょうか。
これから離婚する人の場合と、すでに離婚した人の場合とに分けて説明します。
これから離婚する人の場合は、調停・審判・訴訟の3つの手続きを利用できますが、利用するには以下のように順番があることにご注意ください。
(1)離婚調停を申し立てる
養育費というのは、離婚後に未成年の子どもの親権者となった親が、元配偶者に対して請求できるものです。
つまり、離婚後の問題ということになりますので、これから離婚する人は養育費だけを請求することはできません。
離婚問題と合わせて主張していくことになります。
最初に行うべき手続きは、離婚調停(夫婦関係調整調停)の申し立てです。
離婚問題については、まず調停を申し立てなければならないこととされているので、いきなり審判や離婚訴訟を起こすことはできません。
(調停前置主義)
第二百五十七条 第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。
引用元:家事事件手続法
(2)調停がまとまらない場合は離婚訴訟に進むのが一般的
離婚調停がまとまらない場合は、離婚審判の手続に移行させることもできますが、一般的には離婚訴訟に進みます。
なぜなら、審判に移行した場合は、調停委員から勧められた調停案どおりの(または近い)内容の審判が下る可能性が高いからです。
調停案に納得できない当事者が、自分の主張を裁判所に認めてもらうためには、強力な証拠を提出するなどして徹底的に争う必要があります。
調停で決裂した場合には、訴訟に進むのが一般的です。
(3)訴訟に進む場合は婚姻費用を調停または審判で決めておこう
訴訟に進むと、養育費の問題が決着するまでに時間がかかってしまいます。
判決が出るまでに、1年以上かかることも珍しくありません。
判決が出るまでの間、まったく養育費をもらえなければ、生活が苦しいという方も多いことでしょう。
訴訟に進む場合には、「婚姻費用分担請求調停」を申し立てておき、婚姻費用についてだけは、調停または審判で早期に決めておくことをおすすめします。
婚姻費用とは、夫婦間で分担すべき生活費のことです。ご自身が子どもを連れて相手方と別居している場合には、生活費と子どもの養育費とを含めて、「婚姻費用」として支払いを請求できます。
婚姻費用のみを調停や審判で早期に決めておくことで、離婚そのものや慰謝料などについては離婚訴訟でじっくり争うことができます。
5、すでに離婚した人が裁判手続きで養育費を請求する流れ
すでに離婚した人が、養育費を請求するための訴訟はありません。
調停または審判を利用して、養育費を請求することになります。
(1)調停を申し立てる
まずは、「養育費請求調停」を申し立てましょう。
養育費の請求は、調停前置主義の対象ではないので、いきなり審判を申し立ててもかまいません。
しかし、いきなり審判を申し立てても、ほとんどの場合は「まずは話し合ってみましょう」という家庭裁判所の判断で、調停に付されることになります。
「まずは調停を申し立てる」と考えておいた方が良いでしょう。
(2)調停がまとまらなければ審判に移行する
養育費調停を申し立てた場合は、調停がまとまらなければ、自動的に審判の手続きへ移行します。
審判では、調停段階で当事者が提出した主張や証拠、家庭裁判所調査官による調査結果などに基づいて、裁判所が相当と考える解決方法を命じます。
新たに主張や証拠を提出することもできるので、できる限り提出するようにしましょう。
6、養育費の審判の内容に納得できないときの対処法
審判は、家庭裁判所が強制的に判断を下すものですので、納得できない内容となる場合もあります。
審判の内容に納得できない場合には、以下の手段によってさらに争うことが可能です。
(1)異議申し立てをする
審判書を受け取ってから2週間以内に、「異議申し立て」をすることができます。
異議申し立てに理由があると裁判所が判断した場合は、すでに下された審判は取り消され、改めて審判が行われます。
実際のところは、異議申し立てによって裁判所の判断が覆ることはほとんどなく、異議申し立ては却下されてしまうのが通常です。
しかし、自分自身が納得できないのであれば、異議申し立てをしましょう。
(2)即時抗告をする
異議申し立てをしても意味がないのかというと、そうではありません。
異議申し立てが却下されると、「即時抗告」をすることができます。
即時抗告をすると、別の裁判所で再度、審理が行われます。
審判を行った家庭裁判所を管轄する高等裁判所へ事件記録が送られ、改めて審理が行われるのです。
(3)新たな主張や証拠を提出する
即時抗告審では、新たに主張や証拠を提出することができます。
審判書には、家庭裁判所が審判の理由が書かれています。
審判書をよく読み、家庭裁判所の判断を覆せるような主張を考え、新たな証拠を準備することが必要です。
抗告審で家庭裁判所の審判を覆すことは簡単ではないので、弁護士に依頼した方が良いでしょう。
7、裁判手続きで有利に養育費請求するポイント
裁判手続きで養育費を請求しても、必ずしも有利な結果となるわけではありません。
裁判手続きの進行に際して、有利に養育費請求するためには、次のような要素について証拠で明確にしつつ主張していくことが大切です。
(1)相手方の財産・収入を明確にする
養育費の金額は、両親の財産や収入によって、大きく左右されます。
相手方に財産や収入を隠されてしまうと、不当に低い金額の養育費のみしか獲得できません。相手方が言い逃れできないよう、証拠で相手方の財産や収入を明確する必要があります。
具体的には、預金通帳、給与明細、源泉徴収票などを用意しましょう。
以上のような証拠が手元にない場合は、相手方から提出するように調停委員から説得してもらうことも考えられます。
しかし、相手方が調停委員の説得に応じるとは限りません。
具体的な証拠を入手するためには、別居する前にコピーをとっておくのが最も確実な方法です。
裁判手続きで養育費を請求するなら、できるだけ早い時期から証拠集めをしておきましょう。
(2)生活費や学費などの金額を明確にする
相手方の財産や収入を明確にできれば、養育費算定表に従って、相場どおりの金額を獲得することはできるでしょう。
しかし、実際に子育てをしていくには、相場どおりの養育費では足りないケースもあります。
十分な養育費を獲得するためには、子育てにかかる費用を具体的に明確にすることです。
生活費や学費、必要であれば医療費など項目に分けて、何にいくらかかるのかを具体的に算出することが重要です。
子どもが小さい場合、学費をシミュレーションしましょう。具体的に、「どのような学校に進ませたい」「そのためにこのような塾に通わせたい」といったプランを立てて、実際に必要となる金額を計算します。
8、養育費の請求で困ったときは弁護士に相談を
ここまで、裁判手続きで養育費を請求する方法や、有利な結果を獲得するためのポイントなどをご説明してきました。
しかし、養育費を請求する際に最も有効なのは、弁護士の力を借りることです。
裁判手続きでは、相手方との駆け引きだけでなく、調停委員など裁判所との駆け引きも重要になります。
自分の有利に養育費請求を進めるためには、高度な専門知識や交渉術が必要となることも少なくありません。
弁護士の力を借りれば、スムーズに裁判手続きを進めることも可能でしょう。早期に弁護士に依頼すれば、任意の話し合いで解決できる可能性も高まります。相場にとらわれず、有利な養育費を獲得できる可能性もあります。
裁判手続きが不要になれば、弁護士費用も抑えることもできるので、ひとりで悩まず、弁護士に相談してみた方が良いでしょう。
まとめ
今回は、養育費の裁判手続きについて解説しました。
離婚の話を進めているなかで、養育費について相手方との話し合いがまとまらなければ、裁判手続きによって強制的に養育費を獲得できます。
とはいえ、裁判手続きには時間や費用など、手間が大きいので、最終手段と考えておいた方が良いでしょう。
養育費請求でお困りなら、お早めに弁護士に相談することをおすすめします。