離婚時に慰謝料を払いたくない。支払うとしても、夫婦関係に問題もあったので、妻の要求どおりの金額を支払うことには納得できない……。
慰謝料を払わないで離婚する方法はあるのだろうか、と考えている方も少なくないのではないでしょうか。
今回は、離婚慰謝料を払いたくないと考えている方に向けて、
- 離婚慰謝料は必ず支払わなければならないのか
- 離婚慰謝料を払うべきケース
- 離婚慰謝料を払わないとどうなるのか
などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
併せて、離婚慰謝料を減額できるケースと減免を求めるための方法や、離婚慰謝料の減額に成功した事例などについても紹介します。
この記事の内容が、離婚慰謝料を払いたくないと考えている方の手助けとなれば幸いです。
離婚の慰謝料について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
目次
1、慰謝料を払いたくない!離婚慰謝料は支払い必須?
離婚する際には慰謝料がつきものというイメージを持っている人も多いと思いますが、慰謝料の支払いは離婚に必須の条件なのでしょうか。
まずは、そもそも離婚慰謝料とは何か、どのような場合に支払い義務が発生するのかについてご説明します。
(1)離婚の責任が自分にある場合は慰謝料を払う必要がある
慰謝料とは、他人の不法行為によって被害者が受けた精神的苦痛に対して支払われる損害賠償金のことです。
したがって、離婚に至った責任が自分にあり、それが不法行為にあたる場合には、相手方が受けた精神的苦痛を賠償するために慰謝料を支払う必要があります。
もっとも、慰謝料には相場があるので、あまりにも高額すぎる慰謝料請求に応じる必要はありません。その場合には、再度話し合いなどが必要となります。
慰謝料の相場は離婚原因によって異なりますが、不倫や浮気の場合は数十万円~300万円程度です。
(2)慰謝料を払うべきケースとは
離婚に至る原因にはさまざまなものがありますが、慰謝料の支払い義務が発生するのは、自分に法定離婚事由があり、かつ、それが不法行為に該当する場合です。
法定離婚事由とは、夫婦間で離婚の合意がなくても裁判で強制的に離婚が認められる事情として、法律で定められている事由のことです。
具体的には民法第770条1項で5つの事由が定められていますが、その中でも不倫・浮気やDVを行った場合などが、慰謝料の支払い義務が発生する典型的な事由として挙げられます。
以下で、慰謝料の支払い義務が発生する主なケースについて具体的にご説明します。
①不貞行為
不貞行為とは、法律上の婚姻関係にある人が、不倫や浮気によって配偶者以外の異性と性的な関係を結ぶ行為のことです。
夫婦の一方が不貞行為をすると、配偶者の貞操権を侵害する不法行為が成立するため離婚原因となり、慰謝料の支払い義務が発生します。
もっとも、どの程度の性的関係があれば不貞行為にあたり、慰謝料の支払い義務が生じるのかが問題となることもあります。
基本的には肉体関係を結べば不貞行為にあたりますが、必ずしも肉体関係に至っていなくても親密に交際していれば、不貞行為には当たらくても、慰謝料の支払い義務が発生する場合もあるので注意が必要です。
②DV
DVとは、ドメスティック・バイオレンスの略称で、夫婦間における家庭内での身体的暴力のことをいいます。
暴力は刑法上の犯罪にもあたる行為であり、夫婦間の暴力であっても不法行為が成立することは明白です。したがって、DVが原因で離婚に至った場合にも慰謝料の支払い義務が発生します。
もっとも、1度や2度、暴力を振るった程度では慰謝料請求が認められない場合もあります。
慰謝料が発生する典型的なケースは、日常的に、かつ長期間にわたって暴力を振るい続けて配偶者を苦しめていたような場合です。
③モラハラ
モラハラとは、モラル・ハラスメントの略称で、身体的な暴力ではなく、言葉や態度などによる精神的な暴力を加える行為のことをいいます。
夫婦間でも、日常的に暴言を吐く・無視をする・必要以上に束縛するといった行為があると、程度によっては不法行為が成立し、慰謝料の支払い義務が発生します。
④生活費を渡さない
夫婦生活に必要な生活費を渡さないという行為も、配偶者の経済的な自由を奪って精神的に追いつめるものであり、経済的DVとも呼ばれるものです。このような行為も不法行為にあたる場合があり、その場合には慰謝料支払い義務が発生します。
夫婦はお互いに協力して生活をする義務(協力扶助義務)を負っています(民法第752条)。
したがって、怠けて働かない場合や、浪費などによる借金があるために生活費を渡せないという場合であっても、夫婦の協力扶助義務に違反する不法行為となり、慰謝料が発生する可能性があります。
⑤セックスレス
夫婦はお互いに貞操義務を負う反面で、夫婦間においては適度に夫婦生活に応じる義務があると考えられています。
そのため、配偶者からの夫婦生活を拒絶する状態が長期間続くと、相手方の性的自由を奪う不法行為として離婚原因となり、慰謝料の支払い義務が発生することがあります。
2、慰謝料が発生してないなら支払い拒否を
自分に法定離婚事由がない場合や、何らかの責任があったとしても不法行為とまではいえない場合には、慰謝料は発生しません。
離婚において、特に女性は必ず慰謝料がもらえると思い込んでいる人も多いですが、慰謝料が発生していない場合は支払いを拒否できます。
慰謝料が発生していないのに配偶者から慰謝料を請求されたら、次のように対処しましょう。
(1)離婚協議では支払いを拒否する
まず、離婚協議の話し合いでは、きっぱりと支払いを拒否することです。
配偶者は拒否されてもすぐには引き下がらないことが大半ですが、そんなときは「どうして?」と聞いてみましょう。もちろん、あなたに責任があっての離婚であると主張されると思いますが、大切なのはそれが法律上の「不法行為」なのかどうかということです。性格上の行き違いなどにより妻が夫に愛想を尽かしたケースの大半では、「不法行為」とは言えないしょう。配偶者が引き下がらない場合には、「弁護士に相談してみたら?」「どうしても請求するなら裁判をしてください」と伝えることも有効です。
慰謝料が発生していない場合、配偶者は先に進めないので、慰謝料請求を諦めて離婚を進める可能性があります。
(2)裁判されたら証拠に基づいて反論する
自分は慰謝料が発生していないと思っていても、配偶者は発生すると考えて実際に裁判を起こしてくる場合もあります。
裁判になったら、まずは、相手方が提出した証拠によって慰謝料の発生原因が証明できているかどうかを確認しましょう。
裁判では、慰謝料を請求する側がその根拠となる事実を証明しなければなりません。十分な証拠を提出できていない場合は請求が棄却され、被告勝訴の判決が言い渡されることになります。
ただ、相手方の主張が真実と異なるとしても、一応の証拠によって「もっともらしい」と裁判官に判断されると、慰謝料請求が認められてしまう可能性もあります。そのため、相手方の主張に対して細かく反論することも必要です。
裁判官にこちらの言い分を信用してもらうためには、反論を裏づける証拠も可能な限り提出しましょう。
3、慰謝料を払いたくない!離婚慰謝料を払わないとどうなる?
慰謝料が法律上発生していても、「払いたくない!」という場合もあることでしょう。では、支払うべき慰謝料を支払わないと、どのようなリスクを負うのでしょうか。
(1)裁判を起こされ強制執行される
まず、相手方が証拠をつかんでいる場合には裁判を起こされ、こちらが敗訴してしまう可能性が高いです。
判決で慰謝料の支払いを言い渡されても払わないでいると、強制執行の手続きによって財産を差し押さえられることがあります。その場合、主に給料や銀行口座が差し押さえられることになります。
給料が差し押さえられた場合は裁判所から勤務先に対して書類が届けられるため、離婚して慰謝料を支払っていないことが会社にバレてしまうというリスクもあります。
銀行口座が差し押さえられた場合は、預金残高の中から銀行が相手方に対して直接、慰謝料相当額を支払うことになります。そのため、必要な引き落としができなかったり、生活費が足りなくなったりするおそれがあります。
(2)離婚できない場合がある
相手方が離婚を望んでいない場合、慰謝料を請求する裁判を起こしてくるのではなく、「慰謝料を払わないのなら離婚はしない」という対応に出てくることがあります。
離婚原因を作った側(有責配偶者)からの離婚請求でも、相手方との話し合いで合意できれば離婚できますが、裁判で離婚することは難しくなります。
この場合、自分は離婚したいと思っても応じてもらえず、人生を先に進められなくなるというリスクがあります。
4、慰謝料を減額できるケースと減免を求めるための方法
慰謝料が発生していても、減額や免除を求めることが可能な場合もあります。
以下で、具体的にご説明します。
(1)慰謝料を減額できるケース
以下のような事情がある場合は、慰謝料が発生するとしても金額は相場よりも低くなる傾向にあります。したがって、相手方の請求額よりも減額できる可能性が高いといえます。
①違法性が軽い
自分に法定離婚事由があり、かつ、それが不法行為に該当するとしても、違法性が軽い場合には慰謝料の減額が可能です。
たとえば、不倫した場合であっても、不倫期間が短く不貞行為の回数も少なかった場合や、職場の上司から誘われて立場上断りにくかった場合などが考えられます。
②相手方にも落ち度がある
相手方にも落ち度がある場合には、交通事故でいう「過失相殺」のような考え方によって慰謝料を減額できる可能性があります。
たとえば、夫が不倫したとしても、妻の拒絶による長期間のセックスレスのために苦しんでいた場合などが考えられます。
DVやモラハラの場合でも、相手方の挑発的な態度が一因となっていた場合は相手方の落ち度として主張できます。
また、夫婦どちらも不倫していた場合には、こちらからも慰謝料請求が可能なので、お互いに慰謝料なしで離婚できる可能性もあります。
③婚姻期間が短い
婚姻期間が短い場合は、長い場合よりも慰謝料が低額となる傾向にあります。
長年、夫婦として連れ添ってきた場合には、安定した夫婦生活を奪われる相手方の精神的苦痛が深刻なものとなりがちですが、婚姻期間が短い場合にはそこまで重大な精神的苦痛は生じないと考えられるからです。
④深く反省して謝罪している
離婚慰謝料の金額は、相手方の精神的苦痛の程度に応じて決められるものです。
そのため、支払義務者が深く反省して謝罪し、相手方もそれを受け入れた場合には、精神的苦痛がある程度軽減されたと考えられるので、慰謝料が減額される可能性があります。
(2)離婚慰謝料の減免を求めるための方法
次に、実際に相手方に対して離婚慰謝料の減免を求めるための具体的な方法をご紹介します。
①まずは話し合う
慰謝料額の減免を求めるために話し合う際に重要なことは、誠実に話し合うということです。
離婚慰謝料が発生している以上、減額してもらえるかどうかは相手方の気持ち次第となります。そのため、相手方の気分を害するような話し方は避けるべきです。
まずは、自分の非を詫びることが第一です。上記の慰謝料減額事由を説明するのはその後です。
ただ、誠意を込めて話し合っても、なかなか相手方の理解が得られない場合も少なくないでしょう。そんなときは、時間をかけて話し合うことも考えましょう。
離婚の話し合いには精神的に大きな負担がかかりますので、相手方としてもできれば早期に打ち切りたいと考えるはずです。話し合いが長引くと相手方も疲労してくるので、早期解決のために妥協して減額に応じてもらえる可能性があります。
②調停や裁判が有効なこともある
自分に法定離婚事由がある場合、離婚調停や離婚訴訟で勝つことはできませんが、妥当な着地点を見つけるためには調停や訴訟が有効なこともあります。
上記の慰謝料減額事由がある場合には、その事由を的確に主張・立証することで、相場よりも慰謝料を減額することができます。
特に減額事由がない場合でも、調停では折り合いをつけるために、調停委員が相手方に対して譲歩するように説得してくる可能性もあります。
また、裁判でも判決前にお互いが譲歩する形で和解が成立するケースは多くあります。
③自己破産を検討する
最終手段として、自己破産をすることで慰謝料の支払い義務から免れることも可能です。慰謝料も、基本的には自己破産による免責の対象となるからです。
悪意で加えた不法行為による慰謝料は免責されませんが、これに該当するのは著しい身体的暴力があった場合や、ことさらに配偶者を苦しめる目的で不倫をした場合などに限られます。
通常の不倫や浮気では、ここにいう「悪意」は認められませんので、自己破産をすれば支払い義務を免除されることになります。
借金の返済に追われていて慰謝料の支払いが難しいという場合は、自己破産を検討してみるのもよいでしょう。
5、慰謝料はできるだけ払いたくない…離婚慰謝料の減額に成功した事例
ここでは、実際に慰謝料の減額に成功した事例をいくつかご紹介します。これから慰謝料減額を求めたいという方にとって、参考になると思います。
(1)離婚協議で支払いを拒否して慰謝料減額に成功した事例
夫が不倫をして妻から300万円の離婚慰謝料を求められましたが、離婚協議によって50万円に減額できた事例があります。
このケースでは、妻が約3年前から夫婦生活を拒否していたため夫が悩んでおり、不倫の期間も3か月と比較的短期間でした。
夫から依頼を受けた弁護士から妻に対して、裁判になれば慰謝料が減額される可能性が高いことを説明して粘り強く交渉しました。最終的には妻が譲歩して、大幅に減額した慰謝料額で離婚が成立しました。
(2)裁判で証拠に基づいた反論をして慰謝料減額が認められた事例
妻から不倫を疑われた夫が裁判で300万円の離婚慰謝料を請求されたものの、的確に反論して30万円の支払いで済んだ事例があります。
このケースでは、夫が会社の同僚である女性と頻繁に2人で食事をするなどの交際をしていましたが、性的関係はありませんでした。
裁判で妻が提出した探偵の調査報告書を見ると、2人が飲食店等でデートをしている写真はあったものの、ラブホテルに出入りするなど不貞行為を証明できるような写真はありませんでした。
夫から依頼を受けた弁護士は、夫本人と相手の女性、さらに会社の同僚複数名の陳述書や法廷での尋問によって、不貞行為がなかったことを立証しました。その結果、裁判所も「不貞行為なし」という心証を持ったようでした。
ただ、妻が不貞行為を疑うほどに夫が他の女性と親しくしていたことには責任の一端があるので、多少の慰謝料を支払うことで和解してはどうかと勧められました。
依頼者である夫も早期かつ円満な解決を希望したため、慰謝料30万円を支払うことで離婚するという和解が成立しました。
(3)減免や分割払いを交渉して慰謝料減額に成功した事例
3つめの事例は、すでに離婚訴訟で夫が慰謝料200万円を支払うべきとする判決が言い渡されて確定していました。しかし、夫には借金があって財産は特になく、一括で支払うことはできませんでした。
妻からは「早く支払わないと給料を差し押さえる」と言われており、困った夫は弁護士に相談しました。
このケースで弁護士は、慰謝料の減額と分割払いを求めて妻と交渉しました。
弁護士から妻に対して、夫の借金は婚姻中の夫婦の生活のために作ったものだから慰謝料を減額してほしいことと、仮に給料を差し押さえても長期の分割払いと同じような結果となることなどを丁寧に説明し、粘り強く交渉しました。
最終的に、判決で認められた200万円から1割を減額した180万円について、毎月3万円ずつの分割払いで合意することができました。
6、慰謝料を払いたくないときは弁護士へ相談を
慰謝料を払いたくないという場合、まずは慰謝料の支払い義務が法律上発生するのかどうかを判断した上で、発生する場合には話し合いや調停・裁判によって減免を求める必要があります。
このような対応には専門的な知識やノウハウが必要となりますので、1人で適切に対処することは難しいでしょう。
そこで、こまったときは弁護士へ相談することをおすすめします。
離婚問題に詳しい弁護士に相談すれば、慰謝料が発生するかどうかや発生する場合の金額、支払い拒否や減免を求めるための方法について専門的なアドバイスが得られます。
対応を弁護士に依頼すれば、相手方との交渉は弁護士が代わりに行ってくれますので、自分で相手方とやりとりする必要はなくなります。
調停や裁判になったときも弁護士の全面的なサポートが受けられますので、慰謝料の減免を実現できる可能性が高まります。
まとめ
離婚時に「慰謝料を払いたくない!」と思うとき、その主張が正当な場合もあれば、正当ではないこともあります。
どちらの場合も、相手方が慰謝料の支払いを求めている以上は、慰謝料を支払わずに、あるいは減額して離婚するためにはそれなりの対策が必要です。
対処に困ったときはひとりで悩まず、早めに弁護士に相談した方がよいでしょう。