子供が成人した後で離婚を考えているけれど、慰謝料の額が気になる方も多いようです。
未成年の子供がいる場合、独りで育てるためには大変な苦労が伴います。
また、必ずしも親権を得られるという保証もありません。子供の幸せを考えるなら、親として一緒にいたいというのは当然の思いでしょう。
そこでこの記事では、子供が成人後に離婚した場合、慰謝料が支払われるケースや相場、財産分与の注意点などについて解説します。
将来のために離婚を考えている方のご参考になれば幸いです。
目次
1、子供が成人したら離婚!慰謝料は必ずもらえるの?
離婚時に慰謝料がもらえるかどうかは、ケースバイケースです。子供が成人してから離婚する場合でも、その前に離婚する場合でも、この点は同じです。
以下で、慰謝料をもらえるケースともらえないケースを確認していきましょう。
(1)もらえるケース
慰謝料がもらえるケースは、「離婚協議で慰謝料の支払いについて合意した場合」と「パートナーに不法な離婚原因がある場合」の2つです。
不法な離婚原因とは、婚姻関係が破綻する原因を作った場合のうち、その行為が法律の規定に反することをいいます。
パートナーの不法行為によって婚姻関係が破綻し、不当な精神的苦痛を受けたと認められる場合に、損害賠償金として慰謝料を請求できるのです。
慰謝料請求が可能な離婚原因は、主に以下のようなものです。
- 不倫や浮気(不貞行為)
- DV
- モラハラ
- 悪意の遺棄
- セックスレス
(2)もらえないケース
離婚時に慰謝料がもらえないのは、上記のような事情がないケースです。
また、パートナーに不法な離婚原因がある場合でも、慰謝料請求権が時効にかかった場合には基本的に慰謝料がもらえなくなります。
慰謝料請求と時効の問題については、後ほど「3、子供が成人するまで離婚を待っていては慰謝料がもらえなくなることもある」で詳しく解説します。
また、自分が不法な離婚原因を作った場合には、逆に慰謝料を支払わなければならないこともあります。
2、子供が成人してから離婚したケースにおける慰謝料の相場
では、慰謝料がもらえるケースでは、どれくらいの慰謝料がもらえるのでしょうか。
離婚時にもらえる慰謝料額については、離婚原因の種類ごとにおおよその相場が形成されています。
実際に慰謝料額を決める際には、相場を参照しつつ、さまざまな事情を考慮して増額または減額していくことになります。
慰謝料が増額される要素のひとつとして、「婚姻期間が長い」というものがあります。長年築いてきた平穏な夫婦生活が侵害される場合は、結婚して数年で離婚するようなケースよりも精神的苦痛が大きいと考えられるため、慰謝料も高額化する傾向にあるのです。
子供が成人してから離婚する場合には婚姻期間もそれなりに長くなっていますので、相場の上限に近い金額や、場合によっては相場を超える金額が認められることもあります。
以下で、離婚原因ごとの相場をご紹介していきますが、この点に留意してお読みください。
(1)DV・モラハラの場合
パートナーのDVやモラハラが原因で離婚する場合の慰謝料額は、数十万円~三百万円程度が相場です。ケガをさせられるなどの実害がない場合は、数十万円~百万円程度に収まるケースが多くなっています。
しかし、心身に不調をきたし、うつ病やPTSDなどの精神疾患を発症した場合には上記の相場を超える慰謝料が認められるケースも多く、まとまった金額の慰謝料が認められることもあります。
(2)不倫・浮気の場合
パートナーの不倫や浮気が原因で離婚する場合の慰謝料額は、数十万円~三百万円程度が相場です。その中でもボリュームゾーンとしては、二百万円前後となっています。
(3)セックスレスの場合
セックスレスで離婚する場合の慰謝料額は、数十万円~三百万円程度が相場です。
ボリュームゾーンは数十万円程度ですが、セックスレスに悩んで精神疾患を発症したような場合は、相場を超える慰謝料が認められることもあります。
(4)悪意の遺棄の場合
パートナーから悪意で遺棄されたことが原因で離婚する場合の慰謝料額は、数十万円~三百万円程度が相場です。
ボリュームゾーンとしては数十万円程度ですが、病気などのために一人で生活することが困難であるにもかかわらず置き去りにされたような場合には、相場を超える慰謝料が認められることもあります。
3、子供が成人するまで離婚を待っていては慰謝料がもらえなくなることもある
慰謝料請求権には、消滅時効があります。そのため、慰謝料請求が可能な事由が発生したとしても、子供が成人するまで離婚を待っていると、もはや慰謝料がもらえなくなることもあります。
(1)慰謝料請求権の時効は3年
慰謝料請求権の時効期間は、基本的に3年です(民法第724条1号)。
したがって、パートナーが不倫をしたとしても、慰謝料を請求せずに3年が経過すると慰謝料をもらえなくなってしまいます。
もっとも、時効期間は「損害および加害者を知ったとき」からスタートします。そのため、パートナーが不倫したことを知らない間は、時効期間は進行しません。ただ、損害や加害者を知らないままでも20年が経過すると、慰謝料請求は認められなくなります(同条2号)。
なお、「生命または身体を害する不法行為」による慰謝料請求権の時効期間は5年となります(同法第724条の2)。例えば、パートナーからのDVなどによって身体にケガを負わされた場合は、そのときから5年間は慰謝料請求が可能です。
(2)話し合いによって慰謝料をもらえる可能性はある
慰謝料請求権の消滅時効期間が経過してしまった場合でも、慰謝料請求が一切できなくなるわけではありません。
消滅時効は、請求される側が時効を「援用」することによって確定的に請求権が消滅することとされているからです(民法第145条)。そのため、パートナーに対して慰謝料を請求し、「援用」されなければ慰謝料をもらえるということになります。
また、そもそも話し合いで合意ができれば、法的な根拠とは無関係に慰謝料を支払ってもらうことも可能です。そのため、慰謝料を支払ってもらうためには、パートナーとじっくり話し合うことも大切といえます。
あなたがパートナーに不倫をされても子供のために長年我慢してきたことや、それにもかかわらずパートナーが時効を援用するのはフェアではないことなどを訴えて話し合うとよいでしょう。
4、子供が成人してから離婚する場合は財産分与も高額化しやすい
離婚時にパートナーからもらえるお金は慰謝料だけではありません。子供が成人してからの離婚で高額化しやすいものとして「財産分与」もあります。
離婚を考えるときには、慰謝料だけにこだわるのではなく、財産分与も含めてトータルでどれくらいもらえそうか検討してみるとよいでしょう。
(1)夫婦共有財産が多いほど財産分与も高額化する
財産分与とは、夫婦が婚姻中に共同で築いた財産を、離婚時に分け合う制度のことです。基本的に夫婦共有財産を2分の1ずつ分け合うことになります。
専業主婦であっても、家事労働によって財産の形成・維持に貢献していますので、原則として2分の1の分与を請求できます。婚姻中に築いた財産を分け合うわけですから、婚姻期間が長い夫婦の方が、財産分与でもらえる財産が多くなる傾向にあります。
現金や預貯金の他、不動産や自動車、家具・家電、株式などの有価証券をはじめとして、結婚後に取得したものは基本的にすべて、どちらの名義で取得したかにかかわらず、夫婦共有財産となります。
ただし、以下のものは夫婦が共同して築いたとはいえないため、財産分与の対象にならないことにご注意ください。
- 結婚前から所有していた財産
- 婚姻中でも相続や贈与によって取得した財産
- 夫婦が別居した後に取得した財産
また、パートナーが住宅ローンなどの借金を抱えている場合には、借金の残高がプラスの財産から差し引かれることにも注意が必要です。
もっとも、子供が成人した後なら、住宅ローンを完済している場合も多いでしょうし、残っていたとしてもあと少しという場合が多いので、財産分与で高額の分与が期待できるでしょう。
(2)退職金も財産分与の対象となる
パートナーの勤務先から支払われる退職金も、財産分与の対象となり得ます。
ただし、まだ退職金を受け取っていない場合で、退職までの期間が10年以上ある場合には、退職金を受け取ることが確実とはいえないため、財産分与としての請求が認められない可能性が高くなります。
若い夫婦の場合、退職予定は数十年後となりますので、退職金は財産分与の対象とならないのが通常です。
それに対して、子供が成人した後なら、パートナーが50代に差しかかっていることも多いでしょう。したがって、退職金が財産分与の対象として認められる可能性が高くなります。
なお、退職金を財産分与する場合も、支給見込額の全額が対象となるのではなく、パートナーの勤続年数のうち、婚姻期間に相当する部分だけが対象となります。
詳しい計算方法については、こちらの記事で詳しく解説していますので、併せてご参照ください。
(3)扶養的財産分与をもらえる可能性も高くなる
扶養的財産分与とは、夫婦の一方が経済力に乏しいため離婚後に生活に困窮する可能性がある場合に、パートナーから一定の期間、生活費を補助する意味合いで行われる財産分与のことです。
妻が長年専業主婦をしていた場合や、熟年離婚で高齢になっていて、離婚後すぐに自活することが難しい場合によく扶養的財産分与が行われます。子供が成人してからの離婚では、妻から夫に対して扶養的財産分与を請求できる可能性も高くなります。
ただし、熟年離婚の場合でも自動的に扶養的財産分与をしてもらえるわけではありません。まずは離婚時に夫婦でよく話し合い、話し合いがまとまらなければ離婚調停や離婚裁判で請求することになります。
(4)年金分割も忘れずに
離婚時には、離婚原因にかかわらず年金分割を請求することができます。年金分割とは、婚姻中に夫婦が納めた厚生年金保険料の納付記録を分割する制度です。
したがって、パートナーが自営業などで国民年金保険料しか納めていない場合には、年金分割を請求することはできません。あなたが婚姻中に会社で働いて厚生年金保険料を納めていた場合には、逆に年金分割を請求される可能性があることにも注意が必要です。
パートナーが長年会社員として働いており、あなたが専業主婦かパート勤務だった場合は、年金分割を請求することで将来受給できる年金額が大幅に増えることでしょう。
5、子供が成人するまで離婚を待つことのメリット・デメリット
ここまで、子供が成人してから離婚する場合の慰謝料と財産分与について解説してきました。しかし、子供が成人するまで離婚を待つことには、それ以外の面でもメリット・デメリットがあります。
以下の解説でメリット・デメリットを確認されて、早期に離婚した方がよいのか、それとも子供が成人するまで待った方がよいのか、検討してみることをおすすめします。
(1)メリット
子供が成人するまで離婚を待つことのメリットは、主に以下の3点です。
①経済的に安定した状態で子育てができる
両親が離婚するよりは、両親がそろった状態で子育てをする方が、経済的には安定するものです。
離婚後は母親が子供の親権者となるケースが圧倒的に多いですが、たとえ父親から慰謝料や財産分与、養育費をもらったとしても、離婚前と同等の経済水準を維持することは難しい場合が多いのが実情です。
金銭的に困窮すると、子どもが進学を諦めたり、場合によっては食事にも事欠くこともあるかもしれません。経済的に余裕を持って子育てをするためには、やはり両親がそろっている方が望ましいといえます。
②子供に精神的負担をかけずに済む
両親が離婚してしまうと、子供は転校を余儀なくされたり、苗字が変わるなどの要因によって、精神的負担を感じてしまう可能性が高いです。
また、日常生活においても、「友達には皆、ちゃんと両親がいるのに、うちにはなぜお父さん(またはお母さん)がいないのか」というストレスを抱えることにもなるでしょう。
両親がそろっている方が、精神面でも子供に負担をかけずに済みます。
③親権や養育費で争う必要がない
未成年の子供がいる夫婦が離婚する際には、どちらが子供の親権者となるかで争うケースが数多くあります。
親権者が決まったら決まったで、養育費を支払うかどうか、支払うとしていくら支払うのかで争いが続くケースが少なくありません。両親がこのような争いを長期間続けていると、子供の生活や精神面にも大きな負担がかかるでしょう。
子供が成人するまで離婚を待てば、このような争いを回避することができます。
(2)デメリット
一方で、子供が成人するまで離婚を待つことには、以下のようなデメリットもあります。
①離婚原因によっては深刻な被害を受けるおそれがある
パートナーからDVを受けている場合は、黙って我慢しているとケガをさせられたり、場合によっては命に危険が及ぶおそれがあります。このような場合には、早急に別居した上で、離婚を検討した方がよいでしょう。
また、モラハラや不倫、セックスレスなど他の離婚原因がある場合でも、あまりにも我慢を重ねすぎるとストレスで心身に不調をきたすおそれがあります。
そうなると子育てにも支障が出るでしょうし、子供にも精神的な負担をかけてしまうでしょう。
子供のために離婚を延期するのもよいですが、自分自身が壊れてしまっては元も子もありません。我慢のし過ぎにはご注意ください。
②子供に精神的な負担をかけるおそれもある
先ほどは、「子供に精神的負担をかけずに済む」というメリットをご紹介しましたが、それは(少なくとも表面的には)円満な夫婦を演じきることができた場合です。
子供が両親の不仲に気付いてしまうと、多大な不安感を抱くことになるでしょう。「両親の仲が悪いのは、僕(私)がいるからだ」と自分を責めてしまう子もいます。
子供が成人するまでは離婚しないというのなら、少なくとも子供の前だけでは夫婦が仲良くして、円満な家庭を築いていく覚悟が必要となります。
③再婚が難しくなる可能性がある
離婚するときの年齢が高くなればなるほど、離婚後に再婚相手を見つけるのは難しくなっていきます。
もちろん、50代でも60代でも再婚できる可能性はありますが、もし再婚できなかった場合に、「子供のために離婚できなかったからだ」というような恨み言は決して言うべきではありません。
「再婚できなくなるとしても、子供が成人するまで離婚を待てるか」を、自分の心に問いかけてみましょう。
不安になるようなら、無理をせず、早期の離婚を検討した方がよいかもしれません。
6、「子供が成人したら離婚」が損か得かはケースバイケース!弁護士に相談しよう
子供が成人したら離婚しようと考える人は、パートナーに対する愛情が残っているかどうかは度外視して、子供のために耐えようとお考えのことでしょう。そこには、「その方が得だ」という損得勘定も入っているはずです。
しかし、子供が成人するまで離婚を待つことにはメリットもデメリットもあるのですから、損か得かはケースバイケースです。
ご自身のケースでどちらが望ましいのか、迷う場合には弁護士に相談することをおすすめします。
離婚問題に詳しい弁護士に相談すれば、豊富な経験と法律知識に基づいて、あなたにとって最善の解決方法を一緒に考えてくれます。
子供が成人するまで離婚を待つことになれば、離婚時にもらえる慰謝料の見通しや、そのときがくるまでの注意点についてアドバイスも受けられます。
早期に離婚することになったら、離婚するための具体的な方法や、離婚条件を決める際の注意点等についてアドバイスが得られます。依頼すれば、弁護士が心強い味方となり、離婚手続きを全面的にサポートしてくれます。
どのようなケースでも、弁護士はあなたの味方として最善の道に導いてくれるはずです。悩んだときは、一人で抱え込まず弁護士に相談してみましょう。
子供が成人したら離婚したい場合の慰謝料に関するQ&A
Q1.慰謝料がもらえるケースとは?
慰謝料がもらえるケースは、「離婚協議で慰謝料の支払いについて合意した場合」と「パートナーに不法な離婚原因がある場合」の2つです。
Q2.子供が成人するまで離婚を待っていては慰謝料がもらえなくなることもある?
- 慰謝料請求権の時効は3年
慰謝料請求権の時効期間は、基本的に3年です(民法第724条1号)。
したがって、パートナーが不倫をしたとしても、慰謝料を請求せずに3年が経過すると慰謝料をもらえなくなってしまいます。
Q3.子供が成人するまで離婚を待つことのメリットとは?
- 経済的に安定した状態で子育てができる
- 子供に精神的負担をかけずに済む
- 親権や養育費で争う必要がない
まとめ
子供が成人してから離婚する場合の慰謝料の問題についてまとめますと、慰謝料請求が可能なケースでは婚姻期間が長くなっている分、相場よりも高額の慰謝料が期待できるケースが多くなります。
その一方で、時効によって慰謝料がもらえなくなる可能性もあります。
そして、そもそも慰謝料請求が可能なケースに該当するかどうかは、子供が成人するまで離婚を待つかどうかとは無関係であり、パートナーに法定離婚事由があるかどうかによって決まります。
いずれにせよ、将来の慰謝料請求について考える場合には、今すぐ離婚して慰謝料を請求する場合よりも、さらに高度な法律知識が要求されます。