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親権争いで裁判になった場合に注意すべき8つのポイント

親権 裁判

未成年の子どもがいる夫婦が離婚する際には、どちらか一方を親権者に指定しなければなりません。

当事者間の話し合いで合意できる場合はよいですが、お互いに親権を譲らない場合は裁判に発展することもあります。
最終的には判決で親権者が指定され、その結果には強制的に従う必要があります。

そのため、親権争いで裁判になったら、裁判を有利に進めるためのポイントを知り、十分な対策をした上で裁判に臨むことが重要となります。

今回は、

  • 裁判で親権はどのような基準で決められるか
  • 裁判で親権を獲得するためのポイント
  • 裁判で親権を獲得できなかった場合の対処法

などについて、数多くの離婚問題や親子の問題を解決に導いてきたベリーベスト法律事務所の弁護士が解説していきます。

この記事が、親権の裁判を控えてどうしても子どもを手放したくないという希望をお持ちの方の手助けとなれば幸いです。

面会交流調停に関して詳しく知りたい方は以下のページもご覧ください。

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1、離婚の際に親権者を決める方法|裁判は最終手段!?

離婚の際に親権者を決める方法|裁判は最終手段!?

未成年の子どものいる夫婦が離婚する場合には、どちらか一方を親権者に指定しなければ離婚届が受理されません。
つまり、親権者を決めるまでは離婚できないのです。

親権とは、身上監護権と財産管理権の2つの要素からなります。

身上監護権とは、子供を監護保護し、教え育てる義務が持てる権利を指しています。

対して財産管理権は子どもに代わって財産を管理する権利のことで、財産に関する法律行為を子どもに代わって行使ことができます。

では、離婚の際にどのように親権者を決めるのでしょうか。

(1)話し合い

基本的には、夫婦間の話し合いによって、どちらが親権を持つのかを決めます。

民法でも、協議離婚をする際には、父母の協議によってどちらか一方を親権者に定めなければならないとされています(同法第819条1項)。

話し合いの結果、お互いが合意すれば、どちらでも自由に決めることができます。

(2)調停

しかし、離婚すること自体や財産分与などについてはすんなり合意できても、親権については双方が譲らないというケースも多々あります。

その場合には、話し合ってもいつまでも平行線のままの可能性があります。

親権が決まらない限り離婚は成立しないので、決まらない場合には、次のステップに移行しなければいけません。

それが「調停」です。

当事者だけで話し合って決まらなかった親権は、家庭裁判所に調停を申立てて決めることになります。

調停では、家庭裁判所の調停委員が間に入って、親権の話し合いが進められていきます。調停委員という第三者の意見を聞きながら、双方が冷静になって、子どもにとってどうする方が幸せなのかという観点から親権を決めていくことになります。

また、親権が争いになる場合は、調査官と呼ばれる人も参加することがよくあります。その場合は、これまでの監護状況等について、心理学や教育学、社会学などに基づいた専門的な調査が行われます。

調停委員はその調査結果を参照した上で、どちらが親権者になるのが子どもにとって望ましいかを判断し、当事者双方に助言や説得を行い、合意を目指します。

なお、親権を争う調停の申立てに必要な主な書類は、下記のとおりです。

  • 夫婦関係調整調停申立書
  • 夫婦の戸籍謄本
  • 事情説明書
  • 子どもについての事情説明書
  • 進行に関する照会回答書
  • 連絡先等の届出書

離婚調停で親権を獲得するためのポイントについて詳しくは、こちらの記事をご参照ください。

(3)審判

調停でも合意ができなかった場合には、家事審判手続きに移行することもあります。

審判では、調停で明らかになった事情をもとに裁判所が判断を下します。

ただし、審判に不服がある場合は異議を申し立てることができ、異議が申し立てられると審判は無効になります。

したがって、調停が不成立の場合にあえて審判をおこなうことは少なく、通常は裁判(訴訟)に移行します。

(4)裁判

離婚協議や離婚調停で親権争いに決着がつかない場合、最終的には離婚裁判(訴訟)によって親権を決めることになります。

裁判では、当事者双方が提出する主張や証拠を裁判官が精査した上で、判決という形で親権者が定められます。

判決に不服がある場合には控訴・上告することができますが、やがて判決は確定します。
確定した判決の内容には、強制的に従わなければなりません。

ただし、裁判まで発展し、徹底的に争うためには、多大な時間とお金を要することになるでしょう。早く離婚したい夫婦には良い策とはいえません。

そして何よりも、子どもの精神的負担も大きくなることを覚えておいてください。裁判で親権を決定することは最終手段とお考えいただき、できる限り夫婦間の建設的な話し合いで親権を決めることが望ましいといえるでしょう。

ポイントは、どちらが親権を持った方が子どもが幸せに過ごすことができ、将来的にも有利になるかです。親のエゴで子どもを振り回さないようにしてください。

なお、離婚裁判を起こすために必要な費用は、収入印紙と切手代です。それぞれの値段は各裁判所に確認してください。

弁護士に依頼する場合には、弁護士費用が別途かかります。訴訟の提起に必要な書類は以下のとおりです。

  • 訴状2部
  • 夫婦の戸籍謄本とコピー
  • 源泉徴収票、預金通帳などの証拠とする書類のコピー

2、裁判における親権の判断基準

裁判における親権の判断基準

では、裁判ではどのような判断基準で親権が決められるのでしょうか。

裁判所が重視する判断基準を知っておくことで、有利に裁判を進めることが可能となります。以下のポイントをしっかりとご確認いただき、裁判に備えていきましょう。

(1)子どもとのこれまでの関わりや愛情の度合い

最も重視されるのは、これまで子どもとどの程度関わってきたのか、どれくらい愛情を注いできたのかという点です。

乳幼児の頃から育児を配偶者に任せきりだった場合には、いきなり親権を得ても養育するのは難しいと判断される可能性が高くなります。

また、子どもと一緒に過ごしてきた時間が長いとしても、親の感情に任せて叱ってばかりという状況では、愛情が足りないと判断されるおそれがあります。

子どもとコミュニケーションがうまくとれていなかったり、不足している場合には不利になりますから注意してください。

(2)今後、子どもと過ごす時間を確保できるか

これまでの養育状況も大切ですが、今後、しっかり養育できるかどうかという点も同じくらい重要です。

例えば、朝から夜中まで仕事をしているケースでは親権者としては不適切だと判断されるかもしれません。

可能であれば、仕事を調整したり、部署異動を申し出たり、あるいは転職するなどによって、今までよりも子どもと過ごす時間を多く確保するのが理想的です。

今が忙しいからと諦める必要はありません。大切なのは今後です。可能な限り子どものために時間を割き、その時間でどのように子どもと向き合っていくのか。子どもの幸せを考えた行動を主張できれば有利になるでしょう。

(3)子育てを手伝ってくれる人がいるか

父親が親権者となる場合はもちろん、母親が親権者となる場合でも、離婚後はどうしても外で働かなければならない方がほとんどでしょう。そのため、どんなに努力しても一人では子育てに手が回らないことがあるはずです。

そんなとき、実家の両親や兄弟姉妹、親戚などで子育てを手伝ってくれる人がいればプラスの判断材料となります。
離婚後、親権者になれるのは一人ですが、何も一人で子どもを育てなければならないわけではありません。協力してくれる人がいるのなら積極的に協力を依頼し、子どもが安心して過ごせる状況を作りましょう。

(4)今後の居住環境や養育環境が整っているか

子育てにかかる時間や人手の他にも、物理的な居住環境や養育環境が整っているかという点も重要です。

この点においては、父親の方が有利となるケースが多いです。
子どもが父親の元に戻れば、離婚後に子どもが引っ越しや転校をする必要がないケースが多いからです。

裁判所が親権を決める際には、「継続性の原則」というものが重視されています。
簡単にいうと、子どもの養育環境は離婚後もできる限り変更しない方が望ましいと考えられているのです。

離婚後に子どもが引っ越しや転校を余儀なくされて、養育環境がガラリと変わってしまうと、どうしても子どもの精神面に大きな負担がかかってきます。

母親が親権を求める場合でも、できる限り同じ校区内で引っ越すか、あるいは小学校への入学、中学への入学といった区切りのタイミングで離婚するのが望ましいといえます。

ただし、裁判で親権を争う場合には離婚する時期を特定のタイミングに合わせるのは難しいのが現状です。

どうしても遠方への引っ越しが必要な場合には、他の条件をしっかりと満たすように努めましょう。

(5)子どもを養う経済力はあるか

子どもを育てるには、ある程度の経済力も必要です。定職についていなかったり、預貯金が全くないといった場合は不利になるでしょう。

しかし、高収入を得ることや多額の資産を有していることなど、裕福であることが求められるわけではありません。無理に長時間働いて、子どもと一緒に過ごす時間を擬制にするよりは、公的支援を利用するなどして上手に生活していく工夫をすることの方が大切でしょう。

もっとも、収入が少なくても、相手方から受け取る養育費も合わせれば十分子どもを養っていけるのであれば、親権争いで不利になることはありません。

(6)親の健康状態は心身ともに良好か

意外に思われるかもしれませんが、親権者になるためには心身ともに健康であることも大切です。

子育ては重労働ですので、体が健康でなければ十分に対応できないこともあるでしょう。
うつ病など精神の病でも、親権者としてふさわしくないと判断されるおそれがあります。
心身のどこかに不調がある場合は、早めに医師の手当を受けて、「子育てに支障なし」という状態にしておきましょう。

(7)子どもの年齢・性別

裁判所が親権を決めるときには、子どもの年齢・性別も考慮されます。

子どもの年齢が低いほど、身の回りの世話をきめ細かく行う必要があるため、母親が親権者となる方が望ましいと考えられています。
この考え方のことを「母性優先の原則」といいます。

また、男の子よりも女の子の方が母性優先の原則がより強く働き、母親が有利となる傾向にあります。

(8)兄弟姉妹の存在

これまで一緒に育ってきた兄弟姉妹がいる場合は、離婚後もできる限り引き離さずに、一緒に育てる方が望ましいとされています。そのため、兄弟姉妹がそれぞれ別々の親になついている場合でも、原則として親権者は別々とせず、父母のどちらかが子ども全員の親権者に指定されます。

(9)子どもの意思

裁判所は、親権を決める際に子どもの意見も聴き、子どもの年齢に応じてその意思を尊重します。

子どもが15歳以上の場合は本人の意見を確認することが法律で義務づけられています。15歳以上の子どもの意思は最大限に尊重され、基本的に本人が選んだ親が親権者に指定されます。なぜなら、子どもも15歳以上になると物事を合理的に判断する意思能力があると考えられているからです。

15歳未満でも、おおむね10歳以上の子どもの意思はある程度尊重されます。10歳未満の子どもについても、本人の意見は聴かれますが、その意思は参考程度にとどめられます。母性優先の原則や継続性の原則が重視されて、母親が有利となる傾向にあります。

(10)相手との面会交流を認めるか

離婚後に元配偶者と子どもとの面会交流を認める親は、認めない親よりも親権争いで有利となります。

面会交流とは、離婚して親権を失った親と子どもが継続的に会って親子の交流を図ることをいいます。

子どもが成長していくためには、両親それぞれから愛情を受けることが望ましいことはいうまでもありません。
離婚後も面会交流を行うことでそれが可能となるので、面会交流は子どもの成長のために重要なものです。そのため、面会交流を認めない親よりは認める親の方が親権者にふさわしいと判断されます。

相手が子どもを虐待しているような場合は別として、特段の事情がない限り、離婚後の面会交流には適度に応じる意思を示した方がよいでしょう。

3、親権の裁判で実際に聞かれること

親権の裁判で実際に聞かれること

実際の裁判(調停で調査官が入る場合は調査官調査)で、どのようなことを聞かれるのかは気になるところでしょう。

裁判を有利に進めるためには、どのようなことを聞かれるのかを知り、あらかじめ適切な回答を準備しておくことが大切です。

親権の裁判で聞かれる内容は、事案の内容や裁判の流れに応じて多岐にわたりますが、必ず聞かれるのは以下のような事項です。

  • 離婚後の生活環境全般について。住居の間取りや家賃、ローンなどの有無。子どもの転校の可能性があるのかなど。
  • 離婚原因と子どもに離婚原因を話しているのかなど。
  • これまでの育児経験や子どもへの愛情度合い。積極的に誕生日祝いは欠かさなかった、参観日や運動会を楽しみに参加していたかなど。
  • 仕事の忙しさや子どもと接する時間が確保できるのかなど。
  • 昼間(勤務中)養育できる大人がそばにいるのかなど。
  • 心身の健康状態について。既往歴など。
  • 子どもの普段の生活の様子。日頃何をしてあげているか。

最も大切なことは、子どもとの時間を持てるかどうかです。

といっても、長時間そばにいることだけが求められているわけではありません。

ともに過ごせる時間をどのように過ごしていきたいか、そしてそれが子どもの成長に必要で十分なことなのか、です。

もちろん、子どもへの愛情も問われます。

裁判では、どちらが親権者となった方が子どもの幸せにつながるのかが判決の決め手です。子どものことを優先した答弁ができると裁判官への心証も良くなります。

4、親権の裁判では母親が有利?

親権の裁判では母親が有利?

日本の裁判では、親権争いにおいて母親の方が圧倒的に有利なのが実情です。なぜなら、親権争いでは以下の3点が特に重視され、いずれの点においても現実的に母親の方が適しているケースが多いからです。

  • 母性優先の原則
  • 監護継続性の原則
  • 子の意思尊重の原則

もっとも、母親でなければこれらの原則に叶わないというわけではありません。

母性優先の原則で重視されるのは「母性」であり、「母親」優先の原則ではありません。父親であっても、子どもの身の回りの世話を細やかに行えるのであれば、母性が認められる可能性はあります。

また、実際にこれまで父親が中心となって子育てをしてきたのであれば、監護継続性の原則は父親に有利に働くことになります。

子の意思についても、前記「2」(9)でご説明したように、子どもがおおむね10歳以上になれば父親を選んでもらえる可能性も十分にあります。

日本の現状では、父親は普段外で勤務し、母親が四六時中子どもの面倒を見ている家庭が多いため、結果として親権争いで母親が有利となっているに過ぎません。
父親が「どうせ母親には勝てない」と思って諦めているケースも少なくありません。

しかし、父親であっても上記3つの原則に叶うように本気で努力すれば、親権を獲得することは可能です。裁判で父親が親権者に指定された事例も、割合的には少ないですが実際にあります。

父親が親権を獲得する方法について詳しくは、こちらの記事をご参照ください。

5、裁判で親権獲得を実現するためのポイント

裁判で親権獲得を実現するためのポイント

それでは、裁判で親権を獲得するためにはどうすればよいのでしょうか。

最も重要なことは、上記「2」でご紹介した各ポイントをできる限り満たすように、子どもとの関わり方や生活状況を改善することです。
そうして、ご自身が親権者としてふさわしいという実態を作ることが何よりも重要です。

その上で、裁判ではあなたが親権者としてふさわしいという実態を立証することが求められます。そのためには、以下のポイントに注意して裁判を進めていきましょう。

(1)調査官による調査を求める

家庭裁判所には、事案を解決するために必要な調査を行う「家庭裁判所調査官」という人がいます。

親権を争う事案では、調査官が当事者双方の家庭や子どもの保育園・幼稚園、学校などを訪問して詳しい調査を行うことができます。

調査官は調査結果をまとめた「報告書」を作成し、どちらが親権者となるのが望ましいかという意見も記載して家庭裁判所に提出します。

ほとんどの場合、裁判官は調査官の意見に従って親権者を指定することになります。
したがって、調査官の調査は非常に重要です。

自分の方が親権者にふさわしい実態が作れているのであれば、調査官に調査をしてもらうことによって、親権を獲得できる可能性が高くなります。

通常は調停段階で調査が行われていることが多いですが、離婚訴訟においても調査官の調査を求めることができます(人事訴訟法第33条、第34条)。

もし、調停段階の調査で不利な結果が出ていた場合は、裁判までに状況を改善した上で、改めて調査を求めるとよいでしょう。

(2)自分が親権者としてふさわしいという証拠を提出する

調査官の調査とは別に、自分が親権者としてふさわしいという証拠を裁判所に提出しておくことも重要です。
なぜなら、親権について最終の決定権を持っているのは裁判所だからです。

実際のところは、調査官の意見書で結論が決まるといっても過言ではありません。
ただ、相手方が調査時にうまく取り繕い、調査官が実態に反した意見を出してしまうこともなくはありません。

あらかじめ「動かぬ証拠」を提出して実態を証明しておけば、調査官もその事実を頭に入れて調査に臨むので、有利な調査結果が出やすくなります。

(3)弁護士に依頼して裁判に臨む

裁判を有利に進めるためには、やはり専門的な知識やノウハウが求められます。
そのため、離婚問題と親権問題に詳しい弁護士に依頼して裁判に臨むことをおすすめします。

弁護士に依頼すれば、複雑な裁判手続きはすべて任せることができますし、証拠集めもサポートしてもらえます。

調査官による調査への対応についてもアドバイスが受けられるので、万全の態勢で裁判に臨むことが可能となるでしょう。

弁護士の選び方や弁護士費用については、こちらの記事でご確認ください。

6、子どもの連れ去りは親権の裁判にどう影響する?

子どもの連れ去りは親権の裁判にどう影響する?

親権を争っている夫婦の間で、子どもの連れ去りが行われるケースがしばしばあります。

子どもを連れ去った場合、あるいは連れ去られた場合、親権の裁判にどのような影響があるのでしょうか。

(1)連れ去りは犯罪行為

実の親子であっても、場合によっては配偶者に無断で子どもを連れ去る行為は「未成年者拐取罪」(刑法第224条)に該当する犯罪行為になりえます。
民事上も、100万円~数百万円の慰謝料を請求される可能性が高いです。

また、このような悪質な行為を行う親は、親権者としてふさわしくないと判断されることになります。

いくら子どもと離れたくなくても、連れ去りは決して行ってはいけません。

(2)親権の裁判に影響することは少ない

もっとも、連れ去りが行われても、実際に警察が動くケースは少ないのが実情です。
基本的には家庭内の問題であるため、警察も「話し合ってみてください」と言って動かないケースが多いのです。

特に、母親による連れ去りは父親による連れ去りよりも問題になりにくい傾向にあります。
このようなケースでは、不法行為に基づく慰謝料の問題は別として、親権争いにおいては事実上、母親が有利となります。

その意味では、母親が子どもを連れ去っても親権の裁判に影響することは少ないといえます。
しかし、これは父親にとっては重大な事態です。

子どもを連れ去られた状態を放置していると、「母性優先の原則」と「継続性の原則」により、親権争いで父親がますます不利になってしまいます。

もし、子どもを連れ去られた場合には、早急に適法な手段で取り戻すことが重要となります。

(3)連れ去られた子どもを取り戻す方法

子どもを連れ去られたとしても、実力行使で子どもを取り戻すことは控えてください。

無理やり子どもを連れ戻す行為は、無断で子どもを連れ去る行為と同様に違法です。
何より、子どもの心に重大な負担をかけてしまいます。
このようなことをすると、親権争いでさらに不利になるでしょう。

適法な手段で子どもを取り戻す方法は、家庭裁判所に以下の申立を行うことです。

  1. 監護者の指定・子の引き渡し審判
  2. 審判前の保全処分

1.の審判では、親権者が正式に決まる前に子どもを養育すべき「監護権者」を家庭裁判所が指定するとともに、連れ去られた子どもを監護権者に引き渡すように命じます。

ただ、この審判で結論が出るまでには時間がかかりますので、2.も申し立てることが大切です。

審判前の保全処分が認められると、暫定的に子どもの引き渡しが命じられます。

これらの申立手続きも複雑ですので、迅速に行うためには弁護士に依頼することをおすすめします。

7、親権の裁判が控訴審や最高裁まで行くケースとその対処法

親権の裁判が控訴審や最高裁まで行くケースとその対処法

日本の裁判制度には「三審制」という制度があることをご存じの方も多いことでしょう。

第1審で判決が言い渡されても、不服がある場合には控訴することができます。
控訴審での判決に対しても上告が可能です。

親権の裁判にも三審制は適用されますので、控訴審や最高裁まで行くと、親権争いが長期間に及んでしまいます。

ここでは、親権の裁判が控訴審や最高裁まで行きやすいケースと、その場合の対処法を解説します。

(1)第1審で勝訴しても控訴されやすいケース

一般的に、親権の裁判で第1審の判決に対して控訴されやすいケースは以下のとおりです。

①夫が勝訴したケース

夫が第1審で敗訴すると「やはり無理か」と考えて諦めるケースが少なくありません。

しかし、夫が勝訴した場合には妻が「母親有利のはずなのに」と考えて控訴するケースが多い傾向にあります。

②子どもを連れ去った側が勝訴したケース

子どもを無断で連れ去られた上に親権まで失った当事者は、やはり納得できないため控訴するケースが多くなっています。

③面会交流が認められないか、面会交流の頻度が少ないケース

親権を失っても、面会交流が適切に認められるのであれば、納得して第1審の判決に従うケースが多いです。

しかし、面会交流がほとんど認められないと、子どもに会えなくなるわけですから、控訴してさらに争うケースが多くなります。

(2)控訴審で逆転される可能性もある

一般的に民事・家事の裁判において、控訴審で第1審の判決が覆されるケースは多くありません。

しかし、親権争いの事案に限りませんが、第1審で先進的な判決が出ても、控訴審で保守的な判断がされてしまい、逆転敗訴するケースは少なくありません。

実際にも、第1審の判決で父親が親権を獲得したにもかかわらず、控訴審で逆転して母親が親権を獲得した事例があります。

その事例では、父親は約5年も妻子と別居していたにもかかわらず、第1審では親権者に指定されました(千葉家裁松戸支部平成28年3月29日判決)。

この判決では、父親が充実した面会交流による「共同養育計画案」を提案したことと、母親が別居時に子どもを連れ去ったことや、その後も面会交流に応じていなかったことを理由に、父親の方が親権者としてふさわしいと判断されたのです。

しかしながら、母親は判決を不服として控訴しました。
控訴審では、母性優先の原則や継続性の原則、子どもの意思などを重視し、一転して母親を親権者に指定しました(東京高裁平成29年1月26日判決)。

父親は控訴審判決に対して上告しましたが、平成29年7月12日、最高裁判所は上告を受理しないという決定をしました。

これによって、母親を親権者とする控訴審の判決が確定しました。

このようなケースもありますので、第1審の判決で親権を獲得できても、確定するまで気を抜くことはできないといえるでしょう。

(3)最高裁までいくケースはほとんどない

高等裁判所における控訴審判決に不服がある場合は上告することができます。
しかし、民事訴訟法上、上告が認められるのは控訴審判決に次のような問題がある場合に限られています。

  • 憲法違反
  • 訴訟手続上の重大な違反
  • 判例違反
  • その他の法令の解釈に関する重要な事項

結果として、最高裁判所で上告が受理されるケースはごく稀にしかないのが実情です。
そのため、「三審制」とはいっても第2審である控訴審が実質的には最終審となります。

「最高裁まで争える」と考えていると後悔する結果となりかねませんので、控訴審では全力を尽くすようにしましょう。

8、万が一、裁判で親権を獲得できなかった場合の対処法

万が一、裁判で親権を獲得できなかった場合の対処法

万全の態勢で裁判に臨んだとしても、親権を獲得できないケースがあるでしょう。

ここでは、そんな場合の対処法を見ていきましょう。

(1)監護権の獲得を目指す

実は、親権の中の二つの権利である「身上監護権」と「財産管理権」は別のものです。

一般的には親権者にこの二つの権利が一緒に付与されることになります。

しかし、身上監護権(一般的には単に「監護権」と呼ばれます。)だけを獲得することも可能です。

例えば、父親が親権者に指定されたとしても、海外赴任で日常的な子どもの監護が不可能な場合には、母親が監護権だけを持つことが考えられます。

その逆もありえます。

母親が親権者に指定されたとしても、夜勤などの多い勤務のために子どもの監護が難しい場合には、父親が監護権だけを獲得するという事例もあるでしょう。

監護権さえ獲得できれば普段子どもと一緒に生活ができます。

親権が取れない場合には、監護権の獲得を目指せば満足できる結果につながるかもしれません。

(2)面会交流を継続的に行う

子どもと会えないのは寂しいと感じるなら、面会交流権を獲得するようにしましょう。

面会交流権は子どもが親に会える権利です。

定期的に子どもに会い、親子の交流を継続することで子育てに関わり、子どもの成長を見守ることができるでしょう。

離婚時の調停や裁判で面会交流権を獲得できなかった場合は、別途、家庭裁判所に「面会交流調停」を申し立てることができます。

詳しくはこちらの記事をご参照ください。

(3)将来、親権者変更調停を起こす

離婚裁判で親権を獲得できなかったとしても、まだ諦める必要はありません。

その後の子どもの利益や福祉の関係で現在の親権者が不適切だと感じられたなら、親権者変更調停を申立てることができます。

例えば、現在の親権者が育児放棄をしてギャンブルに明け暮れている、長期入院で監護が困難だ、などの事情があれば親権者の変更はできるかもしれません。

そのような事情がなくても、子どもの年齢が15歳を超えて、あなたと一緒に暮らしたいと主張するようになれば、親権者の変更が可能になります。

そのためにも、離婚後は面会交流を継続的に行い、親子の絆を深めていくことがとても大切です。

なお、実際に親権者を変更するには当事者同士の合意だけでなく、家庭裁判所における調停の手続きが必要です。詳しくはこちらの記事をご参照ください。

裁判における親権のQ&A

Q1.裁判における親権の判断基準は?

裁判における親権の判断基準は主に以下の10点です。

  • 子どもとのこれまでの関わりや愛情の度合い
  • 今後、子どもと過ごす時間を確保できるか
  • 子育てを手伝ってくれる人がいるか
  • 今後の居住環境や養育環境が整っているか
  • 子どもを養う経済力はあるか
  • 親の健康状態は心身ともに良好か
  • 子どもの年齢・性別
  • 兄弟姉妹の存在
  • 子どもの意思
  • 相手との面会交流を認めるか

Q2.親権の裁判では母親が有利なの?

日本の裁判では、親権争いにおいて母親の方が圧倒的に有利なのが実情です。

なぜなら、親権争いでは以下の3点が特に重視され、いずれの点においても現実的に母親の方が適しているケースが多いからです。

  • 母性優先の原則
  • 監護継続性の原則
  • 子の意思尊重の原則

もっとも、母親でなければこれらの原則に叶わないというわけではありません。

Q3.裁判で親権獲得を実現するためのポイントは?

裁判ではあなたが親権者としてふさわしいという実態を立証することが求められます。

そのためには、以下のポイントに注意して裁判を進めていきましょう。

  • 調査官による調査を求める
  • 自分が親権者としてふさわしいという証拠を提出する
  • 弁護士に依頼して裁判に臨む

まとめ

現在の日本の法律では、離婚後は父母のどちらか一方しか親権を獲得することはできません。

そして、現状では子どもが小さければ小さいほど、母親に親権が与えられるケースが多くなっています。

どうしても親権がほしいなら、決め手は子どもに対する愛情になります。

親側の事情(跡取りが欲しい、自分の親のため、体裁など)はほぼ無関係ですので注意してください。

子どもの利益に叶う実態を作ることができれば、たとえ父親でも親権を獲得することは可能です。

具体的にどうすればよいのか分からないときは、離婚問題と親権問題に詳しい弁護士へのご相談をおすすめします。
弁護士の力を借りて、親権獲得を目指しましょう。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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