離婚に伴う家の引っ越し手続きは、具体的にどのような順番で進めるべきでしょうか?離婚による引っ越しは、新たに家賃の支払いが発生する場合があり、また、遠方への引っ越しでは子供の学校や保育園が変わることも考えられます。
適切なタイミングや安心して新しい生活を始めるための注意点について、多くの不安があることでしょう。
この記事では、
・離婚に伴う引っ越しのステップ
・子供がいる場合に必要な手続き
などについて詳しく解説します。引っ越しに伴う変化にスムーズに対応するための情報を提供し、読者の皆様にお役立ていただければ幸いです。
目次
1、離婚による引っ越しについての前に|まずは離婚手続きを進める
離婚を考え始めると、「1日でも早く家を出たい!」と思うあまり、先に引っ越しの準備を整えておきたくなる人も多いかと思いますが、まず取りかかるべきはやはり離婚を成立させるための手続きです。
肝心の離婚届の提出をはじめ、離婚後に名乗る姓の選択、旧姓に戻す場合は各種証明書や預金口座などの氏名変更が必要になります。
子供に自分と同じ旧姓を名乗らせたい場合、家庭裁判所へ「子の氏の変更許可」を申し立てる必要もあります。
詳しくはこちらの記事でリストアップして解説していますので、あわせてご参照ください。
(1)離婚前に引っ越しする場合、婚姻費用が請求できる
基本的には離婚が成立してから引っ越しを行うほうがスムーズですが、DVやモラハラの被害に遭っている場合など、一刻を争うときには離婚前に引っ越しを行ったほうが良いケースもあります。
離婚前であれば、別居している状態でも引っ越し先での生活費(=婚姻費用)を相手に請求することができますので、身の危険を感じたときには迷わず引っ越しを決行しましょう。
(2)離婚前に引っ越すと同居義務違反となることも…
夫婦には元々、民法で定められた「同居義務」があります。
そのため、DVなどのやむを得ない事情がある場合は別として、正当な理由なく一方的に家を出てしまうと、この同居義務に違反したとみなされる可能性があるのです。
このようなリスクを避けるためにも、離婚前に引っ越しを行いたい場合はあらかじめ弁護士に相談し、アドバイスをもらった上で手続きを進めたほうが安心でしょう。
2、離婚による引っ越し手続きの流れ
続いていよいよ、離婚に伴う引っ越しの流れをご紹介していきます。
(1)引っ越し費用や荷物の分け方(処分など)を決めておく
引っ越し前の準備として、主なポイントとなるのは次の2点です。
- 家具や家電、その他の荷物をどう分けるか
- 引っ越し費用の負担
家具や家電など結婚後に2人で購入したものは、引っ越しの際どちらが持って行くのかを相談して決める必要があります。
不要な家具を処分する際にも、粗大ゴミとして出す場合は申し込みから実際の収集まで時間のかかるケースが多いため、早めに話し合っておきましょう。
引っ越し費用については、今の家を引き払ってお互いに引っ越す場合そこまで問題にはなりませんが、どちらか一方だけが引っ越す場合はその費用を本人のみが負担するのか、2人で折半するのかハッキリさせておいたほうがベター。
あとで請求したいと思っても、一般的には離婚時の引っ越しにかかった費用を婚姻費用として請求することは難しく、原則すべて自己負担となります。
とはいえ引っ越しには業者に支払う代金のほか、新しい家の敷金・礼金や仲介手数料など高額な出費が付き物なので、引っ越し費用がない・少しでも節約したいというときには一旦実家に身を寄せるのも方法のひとつです。
(2)引っ越し日を決める|ベストなタイミングとは?
すでにお話したように、引っ越しのタイミングとしておすすめなのは「離婚届を提出した後」ですが、DVなどがある場合は1日でも早いタイミングを選んだほうが良いケースもあります。
ただ、新しい家の契約や公共料金の支払い手続きなど、引っ越しに伴う手続きは離婚届が受理されて新しい戸籍ができてからのほうがスムーズです。
引っ越しのあとで離婚が成立すると、その際にまた名義変更などの手続きが必要になってしまうので、二度手間を避けたい場合は離婚届を提出してから引っ越し日を決定しましょう。
(3)引っ越し業者を選ぶ
離婚で引っ越しを行う際の業者選びのポイントを、ニーズ別にまとめてみました。
①離婚で引っ越すことを近所の人に知られたくない
やむを得ないこととはいえ、離婚や引っ越しのことをあまりご近所から詮索されたくない…そんなみなさんには、スタッフが私服で作業を行ってくれる引っ越し業者がおすすめです。
業者によっては社名の入っていないトラックを出してくれるところもあるので、見積もりの際に相談してみてください。
②できるだけ引っ越し費用を節約したい
離婚で引っ越しを行う場合、新しい生活のために少しでも多くお金を残しておきたいものです。
引っ越し業者の中には、通常のプランよりもリーズナブルな単身パックや、荷物が少ない方のためのミニプランを用意しているところもあります。
また、時間帯を指定しないフリー便や、土日ではなく平日を選ぶことで料金を抑えることもできるので、こういったポイントにもぜひ注目しましょう。
(4)持っていく荷物をまとめる
離婚の際の引っ越しの荷造りは、通常の引っ越しよりも時間に余裕を持って行うのがおすすめです。
細々とした荷物の分け方で相手に確認を取らなければならないことが出てくるほか、慌てて梱包すると忘れ物も発生しやすくなります。
たとえ円満な離婚であっても、「あれを忘れたから送ってください」とお願いするのは気が引けるものですし、あとから自分で取りに行くのもなかなか難しいと思います。
特に普段使用していない棚やクローゼットの奥などに思わぬ荷物が眠っている場合もあるので、引っ越し日の1ヶ月前~3週間前には少しずつ整理を始めると良いでしょう。
(5)引っ越し(新居への移動)
新居に持っていく荷物をまとめたら、あとは引っ越し当日を待つだけです。
ただ、相手が引き続き今の家に住み続ける場合は、引っ越し業者がどの家具を持ち出すのか分からなくなったり、間違って運ぶべきでない荷物を運んでしまったりする可能性もゼロではありません。
そういったトラブルを防ぐためにも、当日持ち出す荷物に目印を付けておく、運び出す家具のリストを事前に渡しておくなどの対処を行っておくと安心です。
(6)住所変更などの手続きを行う
引っ越し後、なるべく早いうちに住民票を移動させて、銀行の口座やクレジットカード、オンラインショッピングのアカウントなど、利用中のサービスに登録している住所の変更を行いましょう。
住民票を移すには、元住んでいた市区町村で先に転出届を出す必要があります。
遠方に引っ越す場合は特に、忘れないよう手続きを行っておいてください。
3、子供がいる場合に必要な手続き
ここからは、子供がいる場合にチェックしておきたい手続きの内容を詳しく解説していきます。
(1)子供の戸籍と氏に関する手続き
子供の戸籍は、特に何も手続きを行わなかった場合、父親の戸籍に残ったままになります。
母親であるみなさんの戸籍は、離婚届を出した時点で一旦旧姓(両親)の戸籍に戻りますが、希望があればこれまでの姓を継続して名乗ることも可能です。
ただ、その際にも父親の戸籍とはまた別の戸籍が新しく作られることになるため、いずれにせよ子供とみなさんの戸籍は別々の状態になります。
そのため、もし子供を自分と同じ戸籍に入れたい場合は、家庭裁判所で「子の氏の変更」を行いましょう。
少し紛らわしいですが、名字はこれまで通りで、戸籍の変更だけ行いたいときにも上記の手続きが必要です。
詳しくはこちらの記事でもご紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
(2)子供手当に関する手続き
中学生以下の子供がいる家庭では、申請を行うことで児童手当を受け取ることができます。
現在この児童手当を受けている場合は、引っ越し後に忘れず住所変更を行っておきましょう。
また、離婚してひとり親家庭となることで、新たに利用できるようになる制度もいくつかあります。
- 児童扶養手当
- ひとり親家庭等医療助成制度
- 母子家庭のための住宅手当
- 公共交通機関の乗車賃割引
こちらも引っ越し先の市区町村役場や福祉事務所で、申し込み手続きを行ってください。
(3)転園・転校手続き
公立の学校は住所によって校区が定められているため、近距離の引っ越しでも転校が必要になる場合があります。
保育園や幼稚園を転園する場合も、忘れず手続きを行いましょう。
保育園・幼稚園は地域や園によって手続きの内容が異なりますが、公立の小学校・中学校では以下の流れで手続きを進めることができます。
- 現在の学校で「在学証明書」と「教科書給与証明書」を発行する
- 引っ越し先の市区町村に住民票を移し、「入学通知書」を受け取る
- 転校先の学校に「入学通知書」「在学証明書」「教科書給与証明書」を提出する
(4)医療費補助の手続き
中学生以下の子供にかかる医療費の補助や、ひとり親家庭を対象とした医療費の助成制度を利用するためには、市区町村が発行する福祉医療証・医療費受給者証などが必要です。
これらは引っ越し前と後の役場でそれぞれ手続きを行いますので、住民票の移動とあわせてチェックしておきましょう。
(5)手続きではないが、子供の精神的ケアも行う
親の離婚と引っ越しは、子供にとってかなり大きな環境の変化です。
一時的に気持ちが不安定になったり、ストレスを溜め込んだりしてしまうことも珍しくありません。
いつも以上に子供の状態に目を配り、甘えてきたときにはしっかり話を聞いてあげましょう。
4、離婚後、生活費の捻出が難しい場合は生活保護の申請も行う
これまで専業主婦で、離婚してもすぐには仕事が見つからない場合など、当面の生活費にも困るケースでは生活保護の申請を検討するのも方法のひとつです。
(1)一ヶ月あたりどのくらいの生活費が必要?
生活保護は、給与や各種手当を含めたトータルの収入が最低生活費を下回っている場合に受けることができ、この最低生活費は住んでいる地域や世帯人数・家族の年齢などによっても細かく金額が変動します。
たとえば単身で都内に住んでいる場合は8万3,700円程度、それとは別に家賃として5万3,700円程度が生活に必要な最低ラインと考えられており、収入がこれより少ない場合は生活保護の対象となります。
離婚後の生活費について知っておくべきことについては、次の記事も参考にされてください。
(2)具体的な手続き方法
実際に生活保護を受けるためには、月収のほか次の条件をクリアしている必要もあります。
- 預貯金・不動産・車などの財産を持っていない
- 働けない正当な理由がある・働いていても収入が最低生活費に届かない
- 援助してくれる身内がいない
これらすべてに当てはまる場合は、引っ越し後に近隣の福祉事務所まで足を運び、生活保護の申請を行いましょう。
条件に当てはまっているかどうか分からない場合も、福祉事務所ではまず職員との面談が行われますので、そこで相談してみてください。
(3)財産分与、養育費等の取り決めも忘れずに
結婚後にできた財産は、平等に分けることができます(財産分与)。
また、子供がいる場合は養育費の取り決めも忘れないでください。
5、離婚による引っ越しに伴う悩みの相談先
離婚による引っ越しで分からないこと・困ったことが出てきたときには、次の相談窓口を利用するのがおすすめです。
(1)引っ越し料金や業者選びについて
引っ越し料金をなるべく安く抑えたい、どの業者を選んだら良いのか迷う…というときは、複数の業者に一括で見積もりをお願いできる比較サービスを活用しましょう。
相見積もりを取ることで、通常の見積もりよりも安い割引価格を提示してもらえることもあり、お得に引っ越しを行うことができます。
(2)離婚後の生活費の捻出について
離婚後の生活に不安があるなら、まずは市区町村役場の福祉課に足を運んでみましょう。
利用できる公的な制度や手当を紹介してもらうことができ、場合によっては生活保護の相談を行うこともできます。
母子家庭となる場合は、受けられる手当については以下の記事を参考にされてください。
(3)離婚手続き、各種申請手続きについて
離婚に伴う手続きをスムーズに進めたいときには、弁護士へ依頼するのが1番です。
元夫への財産的請求や子の氏の変更許可など、各種申請で分からないことがあるときにも、弁護士に相談すれば適切なアドバイスを受けることができるでしょう。
無料相談を実施している法律事務所も多いですので、活用してみてください。
まとめ
離婚に伴う引っ越しは、離婚届を提出したあとで行うのが基本ですが、DVなどのやむを得ない事情がある場合は、離婚前に引っ越すことを検討したほうが良いケースもあります。
ただ、正当な理由なく家を出てしまうと同居義務違反となり、離婚に際して不利益に扱われる恐れもあるため、離婚前に引っ越しを行いたい場合は念のため弁護士に相談しておきましょう。
今回ご紹介したポイントを参考に、ぜひみなさんも離婚による引っ越しをスムースに進めていってください。