夫からの暴力を逃れたい場合、””DVシェルター””と呼ばれる施設が存在することをご存知ですか?
友人や親の家に避難することもできますが、こうした選択では居場所がすぐに特定されてしまう可能性があります。身体や心の安全が脅かされている緊急の状況では、夫に見つからない場所であるDVシェルターへの避難がおすすめです。
しかし、DVシェルターという言葉を聞いたことがあっても、実際にどのような施設なのかを知らない方も多いでしょう。このページでは、DVシェルターの本質、その利点と欠点、利用条件、そして利用方法について詳しく説明します。
1、DVシェルターとは
DVシェルターとは、DV(ドメスティックバイオレンス)の被害者を加害者から一時的に隔離し、保護するための施設です。行政が運営する公的シェルターは各都道府県に一か所以上、民間団体が運営する民間シェルターは全国に100箇所以上あります。
DVシェルターの利用条件や、利用できる期間、子供との入居について詳しくご紹介します。
(1)利用条件
DVシェルターは、DV被害者を緊急一時的に保護するための施設です。
収容できる人数にも限りがあるため、緊急性が認められる場合にのみ利用できるのが実情です。
具体的には、パートナーから日常的に身体的な暴力を受けており、生命や身体への危険があるような場合は緊急性が認められるので、利用条件を満たすと言えます。
ご自身の受けているDVについて言葉で説明するだけではなく、DVを受けている証拠などがあると入居が認められやすくなります。
精神的DVや経済的DVなどもDVの一種ですが、これらの場合は客観的に緊急性が認められにくいため、DVシェルターの利用は困難であることに注意が必要です。
(2)利用できる期間
DVシェルターはあくまでも一時的な保護施設なので、利用できる期間は通常2週間程度です。
中には延長できるケースもありますが、基本的には2週間以内に次の住居や仕事、子どもの学校などを探さなければなりません。
(3)子どもと一緒に入居できるのか
子供を置いて家を出てしまえば子供が被害に遭ってしまう可能性があるため、シェルターを利用する場合は子供も一緒に連れていきたいところでしょう。
場合によっては子連れでもシェルターへの入居は可能ですが、年齢制限がある施設が多いため、必ずしも一緒に入居できるとは限りません。
とくに男児の場合は小学校低学年程度という低い年齢で制限しているシェルターが多いです。
子供が入居できない場合には、母子生活支援施設や児童養護施設の利用を検討してみてください。
2、DVシェルターを利用するメリット
DVによる身の危険を感じる時には、DVシェルターの入居が有用です。
具体的に、DVシェルターを利用するメリットについてみていきましょう、
(1)身の安全を図ることができる
DVシェルターの最大のメリットは、DVから身の安全を図ることができるという点です。DVは悪化すれば命の危険を伴うこともあります。
また、そのまま我慢し続ければ、身体面だけではなく精神面にも被害が現れるようになるでしょう。
シェルターの場所は公開されていないため、暴力を振るう配偶者から逃れることができます。
(2)基本的に無料で利用できる
DVシェルターは、基本的に無料で利用することができます。
民間のシェルターの場合は1日1,000円など少額ながら費用がかかることもありますが、生活必需品は揃っているので安心して避難することができます。
多くの荷物を持って家を出れば、配偶者に家を出ることが発覚してしまう恐れがありますが、生活する上で必要な物はシェルターに揃っているため、最小限の荷物で家を出られます。
また、食事も提供されるため、シェルター利用中の生活費などの心配もないと言えます。
(3)自立した生活の実現を支援してもらえる
DVシェルターでは、自立した生活を実現するためのサポートをしてもらえます。
弁護士や福祉事務所、カウンセラーなどさまざまな専門家と連携しているため、入居中に相談しながら支援を受けられるのです。
シェルターに避難したことで収入がなくなってしまう場合には、生活保護の受給手続きのサポートを受けられます。
また、新しい住居探しや就職活動、離婚手続きなど新生活に向けた準備を行えます。
3、DVシェルターのデメリット
DVシェルターにはメリットばかりではなく、デメリットも存在します。
シェルターへ入居すればゆっくりと過ごせるというわけではなく、退所後にDVから逃れて自立した生活をするための準備や活動を行わなければなりません。
そのため、シェルターを利用する際にはデメリットがあることも理解した上で利用すべきでしょう。
(1)意外に規律が厳しい
DVシェルターは規律が厳しいため、入居して「制限が多い」「自由にできない」と感じることも多いかもしれません。
例えば、配偶者だけではなくそれ以外の外部の誰かに自分の居場所を知らせることは禁じられており、スマホが使用できないという施設も少なくありません。
友人や親などにも連絡を取ることができず、不便だと感じることもあるでしょう。
しかし、こうした規律はDV被害者の身の安全を守るために必要なものです。
また、門限や掃除などのルールなども設けられており、ルールを破れば支援員から叱咤されるだけではなく、退所になることもあります。
こうしたルールはシェルターで共同生活を行う上で必要なだけではなく、今後自立して社会に出ていくためのトレーニングでもあると言えます。
(2)一時的にしか入居できない
DVシェルターはあくまでも一時的な保護施設です。
そのため、長期的に入居してゆっくりとシェルターで過ごすことはできません。入居できる期間は基本的に2週間程度に限られます。
シェルターの利用者数は限られているため、長期的な滞在を許可すれば緊急で助けを求めている人が利用できなくなってしまうという理由が挙げられます。
(3)入居中にやるべきことが多い
DVシェルターの入居期間は2週間前後と短いものの、入居期間中には再出発のためのさまざまな準備を行う必要があります。そのため、入居中はやるべきことが多く、忙しい日々になります。
公的な制度を利用するには住民票の移動が必要になりますが、夫に住民票や戸籍の附票の閲覧を制限できる閲覧制限手続きや、離婚調停の手続き、保護命令の手続きなどDV夫から身を守るための手続きを行わなければなりません。
それに加え、退去後に自立した生活を行えるように就職活動や生活保護の手続き、子供の転園・転校手続きなども必要です。
もちろんシェルターのサポートを受けながら手続きなどを進められますが、自分から取り組んでいく意識が大切です。
4、DVシェルターを利用する方法
いざDVシェルターを利用したいと考えても、どのようにして利用すればいいのか分からないという方も多いかもしれません。
DVシェルターを利用する際には、次の手順で入居のための手続きを進めましょう。
(1)証拠を確保する
DVシェルターを利用するには、シェルターの利用条件である「日常的にDV被害を受けている」ことや「緊急性を要している」ことを満たしていなければなりません。
そして、その要件を満たしていることを証明できる証拠を求められる場合があります。
そのため、まずは証拠集めから始めましょう。DVを証明できる証拠には、次のようなものが挙げられます。
- DVによる負傷の画像
- 暴力や暴言を受けている動画、録音
- 脅迫しているメールや録音
- DV後に散乱した部屋の状況写真
- 医師の診断書
- DVを受けた内容をメモした日記
こうした証拠はDVシェルターの利用時だけではなく、その後の離婚調停や裁判、慰謝料請求などに向けても必要になります。
(2)持ち物を準備する
DVシェルターを紹介してもらおうと思って関連の機関へ相談すると、そのまま入居することになる可能性が高いです。
そのため、相談前に身の回り品や貴重品を準備しておきましょう。
シェルターには生活必需品が揃っているため、多くの荷物は必要ありません。次のような持ち物を準備すると良いでしょう。
- DVの証拠
- 現金
- 預金通帳と印鑑(自分名義や子供名義のもの)
- 健康保険証、母子手帳
- 携帯電話
- 運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなどの身分証明書
- 離婚時の財産分与請求のための財産目録
- ミルクやおむつ、勉強道具など子供に必要なもの
あまりに多くの荷物を準備すれば配偶者に家を出ようとしていることがバレてしまい、DVが悪化してしまう恐れがあります。
荷物は最小限にして、配偶者にバレないように準備を行いましょう。
(3)相談窓口へ相談する
シェルターを利用するには、シェルターへ繋がる機関への相談が必要です。
近隣の配偶者暴力相談センターや女性相談窓口、福祉事務所、警察署の生活安全課などに相談すれば、シェルターを紹介してもらえます。
近隣の相談窓口が分からないという場合は、「DV相談+(プラス)」に電話してください。電話は24時間対応しており、電話をすれば最寄りの相談窓口の紹介をしてもらうことができます。
また、こちらの記事でもDV被害の相談窓口をまとめていますので、参考になさってください。
5、DV問題を解決する方法
DV問題を解決するには、根本の原因であるDVから逃れなければなりません。DVシェルターを利用するほどの状況であれば、離婚を検討する必要があると言えます。
あなたの身の安全を確保しながらDV問題を解決するには、次の手順で離婚まで進めていきましょう。
(1)安全な別居先を見つける
DVは命の危険に繋がるものなので、まずは安全な別居先を見つけることが大切です。
DVシェルターを利用しながら別居先を探すこともできます。
就職先や子供の転校先なども視野に入れながら新しい住まいを探しましょう。
両親や親戚の家などで生活の基盤ができるまで住むという方法もありますが、配偶者に見つけられてしまう恐れがあるため注意が必要です。
(2)保護命令を申し立てる
身の安全を確保するには、保護命令の申立てをすることが重要なポイントになります。
保護命令とは、裁判所によって出される身を守るための命令であり、相手が保護命令に違反すれば逮捕されて刑事罰が科せられることになります。
保護命令には次のような種類があります。
- 接近禁止命令(本人の身辺や住居、勤務先につきまとうことの禁止)
- 退去命令(申立人の家から退去させる命令)
- 電話等禁止命令(面会要求や緊急時以外の電話、嫌がらせ、名誉基礎に該当するような行為などを禁止する命令)
- 子供への接近禁止命令
- 家族等への接近禁止命令
どのような保護命令が必要なのか検討し、必要な保護命令を裁判所へ申立てましょう。
保護命令に関する詳しい内容については、こちらの記事をご確認ください。
(3)弁護士を通じて離婚を申し出る
安全な別居先を見つけ、保護命令の申立てを行えば、安全に離婚が進めやすくなります。
ただし、DV夫(妻)と直接話し合うことは危険です。離婚の専門家である弁護士に依頼し、離婚の申し出を行いましょう。
相手が離婚に合意しない場合でも、DVを立証できれば裁判で離婚をすることが可能です。弁護士に依頼していれば協議や離婚条件の交渉だけではなく、裁判へ移行した場合もそのまま全て任せられます。
6、DV夫(妻)との離婚手続きの進め方
DV夫(妻)と離婚手続きを進める際には、依頼した弁護士のアドバイスに従って進めていくことになります。
「離婚協議」「離婚調停」「離婚訴訟」というステップで離婚を進めますが、それぞれのステップの注意点をご紹介します。
また、離婚が成立するまでは婚姻費用を請求できるので、離婚手続きと併せて婚姻費用請求も行っていきます。
(1)離婚協議
離婚協議とは、裁判所を介さずに当事者同士で離婚に向けて話し合いを行うことです。
双方が離婚に合意すれば離婚を成立するので、離婚条件に固執しなければスムーズに離婚を成立させられる可能性が十分にあります。
ただし、離婚条件を譲歩しすぎれば、離婚後に後悔してしまうこともあるでしょう。
そのため、離婚条件については弁護士と十分に相談しながら決めることをおすすめします。
(2)離婚調停
協議で離婚が成立しなければ、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。
離婚調停は、調停委員会が双方の意見をまとめて和解を目指す方法です。
離婚調停を申し立てる際には、相手方に住所や連絡先を知られないようにする「秘匿申出」も行うことができます。
また、裁判所は加害者と接触を防止するために出廷時間に時間差を設けるなどの取り組みを行っているため、相手と顔を合わせることもありません。
(3)離婚訴訟
離婚調停でも合意に至らなかった場合には、訴訟で離婚を争うことになります。
離婚訴訟であれば判決によって必ず結果が出るため、離婚が成立するようにDVの証拠を提出する必要があります。
裁判の期日は月に1度程度なので離婚成立までには時間がかかりますが、全て弁護士に任せることができます。
まとめ
配偶者からのDVで身の危険を感じるような場合には、DVシェルターに避難することができます。
DVシェルターは身の安全を守ってくれるだけではなく、退去後に自立して生活するためのサポートも行ってくれます。
DVシェルターを利用するほどの緊急事態であれば離婚も視野に入れることになるため、弁護士にも相談しながらDV問題の解決を目指しましょう。
まずはご自身の身の安全を確保することが大切なので、専門機関へ相談する勇気を持ってください。