
遺産相続では配偶者と子供たちで遺産を分けるというイメージが強いためか、子供なし夫婦の場合は配偶者が全財産を相続できると考えている方もいます。
しかし、誰が相続人となるかは民法で定められており、子供がいないからといって配偶者が全財産を相続できるとは限りません。
場合によっては、思ってもみなかった相続人が現れて、配偶者の生活に支障をきたしてしまうケースも少なくありません。
そこで今回は、
- 子供なし夫婦で配偶者の他に相続人がいるケースとは
- 他の相続人よりも配偶者が優先的に相続できる対応方法とは
- 子供なし夫婦の相続で不安がある場合はどうすればいいのか
といった問題について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説していきます。
お子様がいらっしゃらないご夫婦で、一方が先立たれた後の相続が気になる方のご参考になれば幸いです。
法定相続人について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
関連記事目次
1、子供なしの夫婦なら相続人は配偶者だけ?
確かに、子供がいないご夫婦の一方が先立たれたとき、配偶者だけが相続人となる場合もあります。
しかし、確率的にそうなるケースは少なく、多くの場合は配偶者の他にも相続人が存在します。
それでは、配偶者の他にいったい誰が相続人となるのでしょうか。
(1)相続の順位とは
誰が相続人になるかは民法で定められています。民法に定められた相続人のことを「法定相続人」といいます。
具体的には、配偶者の他に子、直系尊属(父母や祖父母)、兄弟姉妹が法定相続人とされています。
法定相続人のなかでも、被相続人との身分関係に応じて優先順位が定められています。
そこで、ケースごとに親族のなかの誰が相続人となるのかをご説明します。
①配偶者
被相続人の配偶者は、常に相続人となります(民法第890条)。
常に相続人となるというのは、他に相続人がいてもいなくても、配偶者がいれば相続人となるという意味です。
子、直系尊属(父母や祖父母)、兄弟姉妹が相続人となるには優先順位がありますが、配偶者は優先順位に関係なく相続人となります。
配偶者以外に子、直系尊属(父母や祖父母)、兄弟姉妹のいずれかがいればその人と配偶者とが相続人となります。
では、優先順位を見ていきましょう。
②第1順位:子
配偶者を除く法定相続人のなかで最優先に相続人となるのは、子です。
被相続人に配偶者と子がいる場合は、配偶者と子のみが相続人となり、父母や兄弟姉妹は相続人となりません。
相続開始前に子が先に死亡している場合は、その子(被相続人の孫)が代襲して相続人となります。
③第2順位:直系尊属(父母や祖父母)
この次に優先順位が高い法定相続人は、父母や祖父母などの直系尊属です。
被相続人に子がおらず、父母がいる場合は父母が相続人となります。父母が既に死亡していて祖父母がいる場合は、祖父母が相続人となります。
配偶者もいる場合は、配偶者と直系尊属が相続人となります。この場合、兄弟姉妹は相続人となりません。
④第3順位:兄弟姉妹
優先順位が最も低い法定相続人は、兄弟姉妹です。
被相続人に子も直系尊属もいない場合に限り、兄弟姉妹が相続人となります。
配偶者もいる場合は、配偶者と兄弟姉妹が相続人となります。
(2)配偶者以外にも相続人がいるケース
結局、子供なし夫婦の相続で配偶者のみが相続人となるケースは、被相続人に子も直系尊属も兄弟姉妹もいなかった場合だけです。
それでは、配偶者以外にも相続人がいるケースを1つずつ具体的にみていきましょう。
①被相続人の親が生きている
子供なし夫婦の一方が先立ったとき、被相続人の親が生きていれば配偶者と親が相続人となります。
この場合の相続分は
- 配偶者が3分の2
- 親が3分の1
です。
両親とも生きている場合は
- 父親が6分の1
- 母親が6分の1
となります。
両親とも死亡していて祖父母が生きている場合は祖父母が、祖父母も死亡していて曾祖父母が生きている場合は曾祖父母が相続人となることにもご注意ください。
②被相続人に兄弟姉妹がいる
被相続人の直系尊属が全員死亡していて兄弟姉妹がいる場合は、配偶者と兄弟姉妹が相続人となります。
この場合の相続分は
- 配偶者が4分の3
- 兄弟姉妹が4分の1
です。
兄弟姉妹が複数人いる場合は、「4分の1」を均等に分割します。
兄弟姉妹が死亡している場合でも、その子(被相続人の甥・姪)がいる場合はその子が代襲相続します。
ただし、兄弟姉妹の代襲相続は一代限りなので、甥・姪も亡くなっている場合は甥・姪に子がいても相続人となりません。
③前婚での子どもがいるケース
法定相続人としての「子」は、被相続人の死亡時に婚姻していた夫婦間の子に限られません。
被相続人に離婚歴があり、前婚での子がいる場合はその子が第1順位の相続人となります。
他に、被相続人が認知した子や養子縁組をした子も同様に第1順位の相続人となります。
2、ほかに相続人がいても、子供なしの配偶者が優先して相続する方法は?
配偶者の他に相続人がいるとしても、特段の交流がなかった場合は遺産を渡すことに納得できないこともあるでしょう。
また、配偶者が高齢の場合は今後の生活を守るためにも、少しでも多くの遺産を取得したいところです。
配偶者が優先して相続するためには、以下の方法を活用するのがおすすめです。
(1)遺言を残す
遺産分割では、基本的には前項の(2)でご紹介した相続分(法定相続分)に従って遺産を分けることになります。
しかし、遺言で遺産分割方法を指定しておけば、遺言書による指定が優先されます。
したがって、被相続人としては配偶者に多くの遺産を相続させる内容の遺言を残しておくとよいでしょう。
ただし、父母や祖父母などの直系尊属には遺留分があるので注意が必要です。遺留分とは、遺言や遺産分割協議によっても侵害できない最低限の相続分のことです。
配偶者と直系尊属が相続人となる場合、直系尊属には法定相続分の2分の1の遺留分があります。
つまり、被相続人が全ての財産を配偶者に相続させる内容の遺言書を残したとしても、直系尊属が相続人となれば遺留分を渡すように請求されることがあり、この請求を拒否することはできません。
6,000万円の遺産があったとすれば、直系尊属の遺留分は1,000万円(6,000万円×法定相続分1/3×遺留分1/2)です。
相続トラブルを避けるためには、遺留分を侵害しないように気をつけて遺言書を作成した方がいいでしょう。
なお、兄弟姉妹には遺留分はありません。したがって、相続人が配偶者と兄弟姉妹のときは、配偶者に全ての財産を相続させる内容の遺言を残しても、遺留分の問題は発生しません。
関連記事(2)生前贈与をする
子供なし夫婦で残される配偶者の生活を守るためには、持ち家を生前贈与することが有効です。
従前は、持ち家の生前贈与にはデメリットもありました。
生前贈与は基本的に遺産の先渡しとして取り扱われるため、遺産分割の際に配偶者が新たに取得できる財産が少なくなり、その後の生活費を確保することが難しかったからです。
しかし、相続法の改正により今では婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用建物やその敷地を生前贈与または遺贈する場合に限り、遺産の先渡しとして取り扱う必要がなくなりました。
つまり、配偶者としては持ち家を生前贈与で取得しつつ、遺産分割の際には残った遺産を法定相続分に従って取得できるようになっているのです。
ただ、生前贈与には贈与税がかかります。仮に3,000万円の持ち家を配偶者に生前贈与すれば、1,195万円もの贈与税がかかってしまいます。
贈与税が支払えない場合は、遺贈の形をとることがおすすめです。
遺贈は贈与税ではなく、相続税の対象となります。相続税には1億6,000万円の配偶者控除があるので、配偶者に相続税がかかることは滅多にありません。
遺贈の形をとる場合は、被相続人の死亡後に確実に手続きが行われるように、遺言書のなかで遺言執行者を指定しておくとよいでしょう。
関連記事(3)生命保険を利用
被相続人が配偶者を受取人とする生命保険をかけていた場合、その死亡保険金は遺産分割の対象にはなりません。
つまり、配偶者は死亡保険金を満額受け取った上に、遺産を法定相続分に応じて取得することができます。
死亡保険金があれば、生前贈与をせず、遺言書も様式不備などで無効となった場合でも配偶者はずいぶん助かります。
例えば、遺産として3,000万円の持ち家と900万円の預貯金があり、配偶者と父母で法定相続分に応じて遺産分割をする場合、配偶者は2,600万円(法定相続分3分の2)の遺産しか取得できません。
この場合に配偶者が持ち家を取得するためには、差額の400万円を代償金として父母に支払わなければなりません。
こんなとき、死亡保険金があればそのなかから代償金を支払うこともできるでしょう。
関連記事(4)配偶者居住権はある
以上の対策を何もとっていなかったとしても、被相続人名義の持ち家があれば、配偶者居住権によって配偶者の生活を守ることはできます。
配偶者居住権とは、配偶者が持ち家の所有権を相続しなくても、相続開始時にその持ち家に居住していた場合はその後も住み続けることができる権利のことです。
上記のケースであれば、3,000万円の持ち家を父母に相続してもらった上で配偶者居住権を行使すれば、配偶者は逆に代償金を請求することができます。
この場合、配偶者は持ち家に住み続けながら2,600万円の現金を手にすることも理論上は可能です。
配偶者居住権には、終身持ち家に住み続けることができる「配偶者長期居住権」と一定の期間だけ住み続けることができる「配偶者短期居住権」の2種類があります。
遺産分割協議または遺贈によって権利を取得した場合は、配偶者居住権を行使できます。
遺贈されず、遺産分割協議でも権利を取得できない場合でも、相続開始から6ヶ月間または遺産分割協議が終了するときのどちらか遅い方まで配偶者は持ち家に住み続けることができます。
つまり、どのような場合でも最低6ヶ月間は、配偶者が持ち家に住み続ける権利があります。
関連記事3、再婚の予定がなければ自身の相続についても検討を
子供なし夫婦で一方に先立たれた配偶者は、再婚の予定がなければ自身が亡くなったときの相続についても検討してみることをおすすめします。
前記1でご説明したとおり、子供がいなければ親が、親もいない場合は兄弟姉妹や甥・姪が相続することになります。
これらの人たちに相続してもらいたい場合は問題ありませんが、特段交流のない親族よりも、相続人ではなくてもお世話になった第三者に財産を渡したいという場合もあるでしょう。
そんなときも、遺言書を作成するのがおすすめです。
(1)第三者にも遺贈はできる
遺贈とは、遺言によって自分の財産を与えることをいいます。遺贈する相手は相続人以外の第三者でもかまいません。
財産の全部または一定割合を遺贈することもできますし(包括遺贈)、特定の財産のみを遺贈することもできます(特定遺贈)。
遺言書を作成してお世話になった人に財産を遺贈しておけば、相続人が遺産分割を望んでも遺贈の方が優先されます。
(2)遺言執行者を指定しておく
遺言書があっても相続人が法定相続分に則った遺産分割を主張すれば、遺贈した相手が遠慮して遺言書で指定した内容が実行されないおそれがあります。
そんなときのために、遺言書の内容を実現するための手続きを行ってくれる「遺言執行者」を遺言書の中で指定しておくとよいでしょう。
ただ、遺言書の作成にはいくつかの決まりがあり、正しく作成しなければ遺言書が無効となり、自分の意思が相続に反映されなくなってしまいます。
遺言書の作成や遺言執行者の選任に不安があるときは、弁護士に相談することをおすすめします。
4、相続について不安なことは弁護士へ相談を
子供なし夫婦の相続では思わぬ相続人が現れて、残された配偶者が困ってしまうケースが少なくありません。しかし、早めに対策をとっておけば配偶者に多くの財産を残すことができます。
対策が遅れてしまい、相続人との間でトラブルが発生してしまっても、相続問題に強い弁護士に相談すれば配偶者の生活を守る方法についてアドバイスを受けることができます。
具体的なトラブルに巻き込まれる前でも、早めに相談することで解決策の選択肢が多くなりますので、早めに相談しておくとよいでしょう。
弁護士の法律相談は初回無料で受け付けている事務所も多いので、まずはお気軽に無料相談を利用してみてはいかがでしょうか。
関連記事まとめ
子供のいない夫婦の相続で思わぬ相続人が現れても、対処方法を知っていれば配偶者の生活を守ることができます。
しかし、対処方法を知らなければ配偶者が生活費を確保できなかったり、最悪の場合は持ち家から出て行かなければならなくなるおそれもあります。
相続に不安があるときも、相続トラブルに巻き込まれてしまったときも、お気軽に弁護士にご相談の上、最善の解決策を見つけていきましょう。
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