国選弁護人とは、刑事事件の被疑者や被告人が経済的な余裕がない場合、裁判所が選定する弁護士のことです。
この制度は、弁護士費用を国が負担してくれるため、多くの方に支援されています。
しかし、国選弁護人制度に対してさまざまな不安や疑問を抱える方も少なくありません。
今回は、
- 国選弁護人とは何か
- 私選弁護人との違い
などについて解説していきます。
さらに、国選弁護人が適しているケースや私選弁護人を選ぶ場合のメリットについてもお伝えします。国選弁護人制度について知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
弁護人について詳しく知りたい方は、以下の関連記事もご覧ください。
目次
1、国選弁護人制度とは|対象事件や費用、依頼方法は?
国選弁護人制度とは、憲法で保障されている弁護人選任権を経済的な余裕がない人にも実質的に保障するために、国の費用で弁護人を付してもらえる制度のことです。
なお、刑事事件で逮捕・勾留された場合に初回無料で弁護士を呼べる「当番弁護士」という制度もありますが、これは国選弁護人制度とはまったく別のものになります。
当番弁護士についてはこちらのページをご覧ください。
以下、国選弁護人制度がどういうものかについて詳しくみていきましょう。
(1)制度の趣旨
憲法は、刑事被告人が弁護人に依頼する権利を基本的人権として保障しています(憲法第37条3項前段)。
この人権を実質化するために、刑事訴訟法でも被告人と被疑者の弁護人選任権が認められています(刑事訴訟法第30条1項)。
刑事事件の容疑がかけられると、警察署や検察庁で取調べを受けることになります。
また、起訴された場合、刑事裁判にかけられることになりますが、刑事裁判においても検察官や裁判官から被告人質問と呼ばれる手続において、事件についての質問を受けることになります。
警察官や法律に精通している検察官といった国家権力に対して、個人で対応するには限界があります。
検察官は、犯罪事実があったことを証明する責任を負っており、被疑者、被告人は「自分が犯人でない」、「疑いをかけられたようなことを行っていない」ことなどを証明する必要はないものの、かけられた容疑に対して適切に反論できなければ、えん罪が発生したり、有罪の場合でも犯した罪に見合わないような不当に重い刑罰が科せられたりするおそれがあります。
このように適切な反論ができないことで警察官や検察官によって不当に人権が侵害されることを防ぐために、また、不当な判決を受けることがないように、刑事手続において被疑者・被告人が法律の専門家である弁護人のサポートを受けるために、弁護人選任権が保障されています。
ところが、自分で弁護人を依頼する経済的余裕のない人にとっては、弁護人を選任する権利だけを与えられても意味がありません。
このような場合のために、裁判所が弁護人を選任するという国選弁護人制度が設けられたのです(刑訴法36条、同法37条の2)。
(2)国選弁護人の選任を請求できる対象事件
まず、起訴されて「被告人」となった場合は、すべての刑事事件において国選弁護人の選任を請求することができます(刑訴法36条)。
以前は国選弁護人の選任を請求できるのは起訴後の被告人段階だけでしたが、刑事訴訟法が順次改正され、平成18年10月からは、一定の重大事件に限られていたものの、起訴される前の被疑者段階で勾留請求後にも国選弁護人の選任を請求できるようになりました。
その後、平成30年1月からは勾留請求をされたすべての刑事事件で国選弁護人の選任を請求できるようになっています(刑訴法37条の2)。
上記のとおり、勾留請求後に国選弁護人の選任を請求することができますが、実際に国選弁護人が選任されるのは、裁判官による勾留決定後になります。
より正確にいうと、裁判官から勾留決定を受けたすべての刑事事件が被疑者段階での対象事件ということになります。
勾留請求とは、逮捕から72時間以内に、検察官が裁判官に対してする10日間の身柄拘束を求める手続きです。
勾留請求は、検察官が、被疑者について、①証拠を隠滅するおそれがある、②逃亡の恐れがあると判断したときなどに行います。
勾留請求の後、裁判官が、被疑者との勾留質問を踏まえ、勾留請求を認めるか否かの判断を行います。
勾留されると、勾留請求から10日間の身体拘束を受け長期間にわたって日常生活を送れなくなってしまうという重大な不利益を被ることになるので、被疑者段階で国選弁護人が付されることになっているわけです。
(勾留等、逮捕後の手続きの流れについて詳しくは、こちらのページをご覧ください。)
ただし、被疑者段階で国選弁護人を付してもらうためには、勾留されていることが必要なので、勾留請求されても裁判所が却下して勾留されなかった場合には、国選弁護人の選任を請求していも国選弁護人が選任されないこと、そもそも身柄を拘束されていない被疑者段階の刑事事件では国選弁護人の選任を請求することはできないことには注意が必要です。
なお、国選弁護人制度は刑事事件の被疑者・被告人の人権を守るための制度なので、原則、民事事件は職務の対象になりません。
例外的に、被害者との示談交渉など刑事事件の処理に通常含まれる事柄であれば依頼できます。
ただし、被害者から民事訴訟を提起された場合や、刑事事件とは無関係の事柄については国選弁護人には依頼できず、自分の費用で別途弁護士に依頼する必要があります。
(3)国選弁護人選任請求のための要件
国選弁護人の選任を請求するためには、国が定めた資力要件を満たす必要があります。
その資力要件とは、預貯金などの流動資産が50万円を下回ることです。
流動資産が50万円以上ある場合は、ただちには国選弁護人の選任請求はできません。
その場合は、まず弁護士会に対して弁護人の選任を申し出ます。
申出を受けた弁護士会から紹介された弁護士に私選の依頼をして、拒否されると国選弁護人を依頼できます。
私選の依頼をしなければならないというと費用の準備が必要と思われるかもしれませんが、費用を準備できないことを理由に弁護士が依頼を拒否した場合も国選弁護人を依頼できます。
したがって、実質的には資力要件は有名無実化しているのが現状です。
しかし、国選弁護制度を利用したいがばかりに嘘を書いて発覚してしまうと、虚偽申告の行政罰(10万円以下の過料)を受ける可能性がありますので注意が必要です(刑事訴訟法38条の4)。
なお、死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件については弁護人が選任されていなければ刑事裁判を開けないことになっています(刑訴法289条。必要的弁護事件)。
必要的弁護事件については、資力要件は適用されず、多額の資産がある人でも、刑事裁判の裁判長がただちに国選弁護人を付すことになります。
(4)費用負担の有無と相場
国選弁護人についてはほとんどの場合費用負担はありませんが、例外的に裁判所の判断によって費用負担を言い渡される場合があります。
費用負担を言い渡されるケースとして多いのは、明らかに多額の財産がある場合など被告人に資力があると判断されるときが挙げられます。
支払いを命じられる金額の相場としては、被疑者段階・被告人段階とも10万円前後です。
ただし、被疑者段階で弁護士が接見に来た回数が多かったり、弁護士の活動によって保釈や示談、無罪判決などの成果が出たりした場合は費用が加算されます。
費用負担を命じられても支払う余裕がない場合は、判決確定後20日以内に裁判所へ執行免除の申立てを行うことで支払を免除してもらえることもあります。
(5)国選弁護人の選任請求方法
国選弁護人の選任を請求する方法としては、まず勾留質問の際に裁判官に申し出る方法があります。
逮捕された後に検察官が勾留請求をすると、裁判所に連れて行かれて裁判官による勾留質問を受けます。
このときに裁判官に国選弁護人の選任を請求すると、要件を満たしていれば裁判官が弁護人の選任手続をしてくれます。
勾留質問のときに申し出なくても、要件を満たしている限りはいつでも国選弁護人の選任を請求できます。
留置場の留置係の警察官や拘置所の刑務官に申し出れば依頼書を手渡されます。
依頼書に必要事項を記入し、係官を通じて裁判所に提出すれば国選弁護人が選任されます。
2、国選弁護人はやる気がないってホント?国選弁護人の2つのデメリットとは
ちまたでは「国選弁護人はやる気がないから私選弁護人を依頼しないと後悔する」といわれることがあります。
そのため、国選弁護人の選任を請求することに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
実際には国選弁護人だからといってやる気がないとは限りませんが、デメリットがあることも事実です。
国選弁護人を依頼する前に知っておく必要があるデメリットを2つご紹介します。
(1)弁護活動のスタートが遅くなる
国選弁護人の選任を請求できる時期は、最も早くて裁判官との勾留質問時、又は、勾留決定をしたときです。
つまり、逮捕されて取調べを受けている間は国選弁護人の選任を請求することはできません。
しかし、勾留決定の前、逮捕されてから検察官が勾留請求するまでの間こそが、早期の身柄解放のために重要なタイミングなのです。
勾留請求が認められるためには、それなりに容疑が固まっている必要があります。
そのため、警察官や検察官72時間以内に被疑者の取調べ等を通じて証拠を得ようと長時間に及ぶ取調べがされることもあります。
また、勾留請求がされ、裁判官が勾留を認めると10日間の身体拘束がされますが、その却下率は、法務省が公表している犯罪白書(令和元年版)によれば、平成30年で4.9%と低い数字にとどまっています。
却下率が低い数字にとどまっている理由の一つとして、勾留請求前の段階で国選弁護人がついていないため、勾留請求の却下に向けた弁護活動ができていないことが挙げられています。
会社員や学生など早期の身柄解放が必要な方にとって、勾留請求の却下に向けた活動は、身体拘束が3日にとどまるか、13日に及ぶか、といった違いは大きいものとなってきます。
このように勾留請求前のタイミングは、弁護人によるサポートの必要性が高いのに、裁判官が勾留決定をするまで国選弁護人は選任されないのです。
日本では、過去に長時間に及ぶ厳しい取調べの末、虚偽の自白をしてしまい、えん罪事件が発生しています。
自白を得るために厳しい取調べが行われてしまうことは日本の司法制度の問題点の1つです。
それを未然に防止するうえでも、逮捕段階で私選弁護人を選任することが重要になってくるわけです。
私選弁護人なら逮捕中でも依頼してすぐに来てもらうことができます。
弁護活動のスタートが遅くなることは、国選弁護人制度の大きなデメリットといえるでしょう。
(2)弁護人を変更できない
国選弁護人制度では、弁護士を自由に選ぶことができません。
大多数の弁護士は国選でも私選の場合と同等の弁護活動をしてくれますが、なかには国選弁護の報酬が安いことを理由に最低限の弁護活動しかしない弁護士も一定数います。
やる気がないわけではなくても、多忙のために国選弁護の活動は後回しになってしまう弁護士も実際には存在します。
また、刑事事件に詳しくない弁護士が選任されることもあります。
ベテランの弁護士を希望しているのに若手弁護士が選任されたり、女性弁護士を希望しているのに男性弁護士が選任されるケースもあります。
その他にも、性格的に弁護士との相性が合わないなど、選任された弁護士との関係が上手くいかないケースは少なくありません。
国選弁護人の選任手続において、被疑者・被告人の意思が反映されることがないためです。
しかし、いったん選任された国選弁護人を変更することはほとんど不可能です。
国選弁護人を解任する手続もありますが、刑事訴訟法に定められた解任事由が必要であり、選任された弁護士と相性が合わないという理由では解任は認められません。
確実に国選弁護人を解任できるのは、私選弁護人を選任したときです。
選任された国選弁護人を変更したい場合は私選弁護人に依頼するのがよいでしょう。
3、国選弁護人のメリット
国選弁護人制度には以上のような見逃せないデメリットもありますが、原則として費用負担なく刑事弁護を受けられるという大きなメリットもあります。
また、選任請求さえしてしまえば、自動的に弁護人が選任されるので、弁護人を探す手間がかからないというメリットもあります。
4、国選弁護人をふまえて|刑事事件に詳しい「私選弁護人」に依頼したい!
国選弁護人は自分の意思で特定の弁護士に依頼することはできません。
後悔しないよう刑事事件に詳しい弁護士に依頼したい場合は、私選弁護人を依頼することが必要です。
(1)私選弁護人とは
私選弁護人とは、自分で費用を負担して被疑者などから直接刑事弁護の依頼を受けた弁護士のことです。
国選弁護人は被疑者・被告人本人からのみ選任の請求をすることができますが、私選弁護人は本人だけでなく家族や一定範囲の親族も選任することができます(刑訴法30条2項)。
(2)私選弁護人のメリット
私選弁護人に依頼するには費用がかかりますが、そのデメリットを上回る大きなメリットが私選弁護人にはあります。
①自分で弁護士を自由に選べる
国選弁護人制度ではどの弁護士が選任されるかは機械的に決まりますが、私選弁護人は自分が希望する弁護士を自由に選任することができます。
弁護士の年齢や性別にこだわりがある場合も自由に選べますし、話しやすい・元気をもらえるなどの性格によって弁護士を選ぶこともできます。
勾留されていると外部とのコミュニケーションは非常に限られたものになってしまうので、相性の合う弁護士を選ぶことは非常に重要です。
もちろん、弁護士の人柄を問わず、とにかく刑事弁護の技術が高い弁護士を選ぶことも自由にできます。
②不起訴に向けた活動を早期にはじめることができる
国選弁護人は勾留決定後にしか選任されませんが、私選弁護人はいつでも選任できるので、弁護活動のスタートが早くなります。
長時間に及ぶことも多い身柄拘束中の取調べも弁護人に接見に来てもらいアドバイスを受け適切な対応をとることで、真意に基づかない自白を防止することができます。
被害者との示談交渉なども早期に進めてもらうことができるので、起訴されることを避けられる可能性が高まります。
起訴されると99パーセント以上の確率で有罪となり、前科がついてしまいます。
起訴を避けることができれば前科がつかないので、早い段階から弁護士のサポートを受けるメリットは非常に大きいといえます。
逮捕される心当たりがある方は、早めに弁護士に相談しておいて、逮捕されたらすぐに接見に来てもらうこともできます。
③刑罰を軽くできるように行う弁護活動も早期に始めることができる
上記のとおり、早期に弁護活動ができるということは、仮に起訴されたとしても、弁護活動の結果、被告人にとって有利な証拠等を準備することが可能です。
被疑者・被告人やその家族・親族から直接依頼を受けると家族の協力を得やすく、連携もとりやすいので、被害者のいる事案での示談交渉だけでなく、更生のための環境整備について家族や関係者と打ち合わせをして、その状況を報告書という形にまとめて提出したり、家族を情状証人として尋問したりして、刑が軽くなるような手立てをとることができます。
(3)私選弁護人の探し方
以上のように大きなメリットがある私選弁護人ですが、刑事事件に詳しい弁護士をどのようにして探せば良いのか分からない方も多いことでしょう。
逮捕される前に自分で探す場合は、まずはインターネットで刑事事件を取り扱っている弁護士を検索してみるのがおすすめです。
この場合の注意点としては、多くの弁護士が刑事事件を取り扱ってはいるものの、そのなかで本当に刑事事件に詳しい弁護士は限られているということです。
事務所のホームページに刑事事件に関する解説記事をたくさん掲載している弁護士であれば、積極的に刑事弁護に取り組んでおり、刑事事件の経験が豊富である場合が多いです。
逮捕・勾留されてしまうと、自分で調べることはできないので家族などに頼んで弁護士を探してもらうことになります。
弁護士を探す上で重要なポイントは、
- 「刑事事件の知識と経験を豊富に有している弁護士かどうか」
- 「早期に対応してもらえるかどうか」
です。
5、国選弁護人をふまえて|私選弁護人の費用負担が気になる方へ
私選弁護人を依頼するためには、着手金・報酬金を合わせて安くても50~60万円、高ければ100万円以上の費用が必要になります。
私選弁護人の費用を少しでも抑えるためには、費用が安い弁護士を探すのが基本になります。
法律事務所によってはホームページに弁護士費用も掲載されているので、インターネットで弁護士を探す際に費用も確認しておきましょう。
費用の分割払いやクレジットカード払いに応じてくれる事務所もあるので、気になる弁護士が見つかったら相談してみましょう。
まとめ
国選弁護人はほとんどのケースで、本当に費用負担なく弁護活動を行ってくれます。
選任された国選弁護人と相性が合う場合や、どうしても弁護士費用を用意できない場合は、国選弁護人に弁護活動を行ってもらうのが良いでしょう。
しかし、国選弁護人制度にはこの記事でお伝えしたようにデメリットもあります。
選任された国選弁護人が気に入らない場合やよりよい結果に向けて最善を尽くしたい場合は、私選弁護人への依頼がおすすめです。
予算や状況などに応じて、ご自分にとって悔いのない選択をすることが大切です。