終活とは、「人生の終わりのための活動」の略語と言われています。
自分の死後に遺された家族に迷惑をかけないように、事前に身辺整理をしておくのが終活だとお考えの方も多いと思いますが、終活の意義はそれにとどまるものではありません。
終活は、いずれ迎える自分の死と向き合い、これからの人生・生活を充実させて、納得のいく最期を迎えることができるようにするための活動でもあります。
ほんの10年ほど前まで、このような活動を意識的に行うことは一般的ではありませんでした。
しかし、初めてこの言葉が用いられたと言われる2009年以来、多くの人が終活に関心を持ち、急速に社会に普及しました。
とはいえ、「終活」という言葉は知っていても、詳しいことはよく知らないという方が多いことと思います。
そこで今回は、
- 終活とは何をすることなのか
- 終活はいつから始めれば良いのか
- 終活をするための具体的な方法とは
などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
この記事が、終活に興味をお持ちの方のご参考になれば幸いです。
相続について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
目次
1、終活はいつから始めるのがベスト?
結論からいいますと、思い立ったときに始めるのがベストです。
終活に興味は持っていても、「まだまだ先のことだ」、「いずれ機会があれば始めよう」とお考えの方も多いですが、できる限り早めに始めることが望ましいといえます。
なぜなら、死はいつ訪れるものかわからないためです。
おいくつの方でも、突然に死が訪れることがあります。また、身体が不自由になったり、認知症になったりして、思いどおりの活動ができなくなる日が突然に訪れることもあります。
また、終活を行うことで、自分の人生を見つめなおし、その後の人生をさらに充実させられる可能性があります。
そのため、思い立った時に、それがいつでも、終活を始めた方が良いといえます。
とはいえ、何らかのきっかけがないと始めにくいという方も多いことでしょう。
一般的には、以下のような出来事をきっかけに終活を始める方が多いようです。
- 定年退職を迎えたとき
- 家族や身近な人が亡くなったとき
- 自分や家族が大きな病気をしたとき
- 親の介護が始まったとき
- 自分の子どもが生まれたとき
他にも、人によって様々なきっかけがあるはずです。
思い立ったら、できることからでかまいませんので終活に手をつけてみてはいかがでしょうか。
2、終活って何をすること?
次に、終活とは具体的に何をすることなのかについてご説明します。
メインとなる活動は、自分が亡くなるまでにやっておきたいことや、死後のことについて決め、必要に応じて家族など身近な人たちに伝えておくことです。
具体的には、以下のようなことを決めて、伝えることになります。
(1)決める
決めるべき内容は、大きく分けて「自分のために決めるべきこと」と「家族や周囲の人のために決めるべきこと」の2種類です。
① 自分のために決めるべきこと
まずは、自分のこれまでの人生を振り返ってみて、やり残していることや、まだ叶っていない夢や目標などを確認してみます。
その上で、今後の人生でやりたいことや、成し遂げるべきことを考えてみましょう。
ここで決めたことは家族に伝える必要はありませんし、後で変更してもかまいません。
どうすれば今後の人生が充実するかを自由に考えることが大切です。
内容は、どのようなものでも構いません。
例えば、以下のようなものが考えられます。
- 30代のうちにマイホームを持つ
- 50歳までに1,000万円を貯める
- 定年退職までに3,000万円を貯める
- 定年退職後に夫婦で旅行をする
- 70歳までに世界一周旅行をする
- 子どもが巣立ったら、夫婦で小さな家に引っ越す
- 80歳までは健康で体を動かす趣味を持つ
もちろん、以上はほんの一例に過ぎませんので、あなたなりにワクワクすること、最期のときに振り返って納得できるようなことをいろいろと考えてみましょう。
② 家族や周囲の人のために決めるべきこと
老後や死後に、家族や周囲の人が「何をどうすれば良いのか」をあらかじめ決めておくことも終活の重要な要素です。
基本的には自分が「こうしてほしい」と思うように決めていけば良いのですが、家族や周囲の人に過度な負担がかからないように配慮することも大切です。
具体的には、以下のようなことを決めていきます。
- どの財産を誰に渡すか
- 自宅を一定年数は残してほしいのか、すぐに処分してもかまわないのか
- 介護が必要になったときに利用したい施設や費用の支払い方法
- 認知症になったときに成年後見人になってもらう候補者
- 延命治療を受けるかどうか
- 臓器提供をするかどうか
- 葬儀の形式や規模
- 戒名や法名をどうするか
- 埋葬方法
- お墓がまだない場合は希望墓地や購入費用の支払い方法
(2)伝える
決めるべきことを決めたら、家族などの身近な人に伝えることが必要です。
伝え方は、信頼できる人に口頭で伝える方法でもかまわないのですが、間違いが生じないように紙に書いて残しておく方がよいでしょう。
最近は「エンディングノート」を利用するのが一般化しつつあります。
普通のノートに書いた場合も立派なエンディングノートになりますが、専用のエンディングノートが数多く売られていますので、使いやすいものを探してみると良いでしょう。
相続についてのことは、エンディングノートに書いても遺言書とは認められませんので、エンディングノートとは別に遺言書を作成する必要があります。注意しましょう。
伝えるべき内容は、大きく分けて「現状」についてと「将来の希望」の2種類があります。
① 現状を伝える
自分に関する情報で、老後や死後に家族が知らないと困るものがたくさんあるはずです。
以下のような情報は、エンディングノートなどにわかりやすく、はっきりと書いておきましょう。
- 基本的な本人情報:氏名、生年月日、住所、本籍地などの情報の他、健康保険証やマイナンバーカードなど重要な書類の保管場所など
- 関係者や親しい人に関する情報:家族や兄弟、その他の親戚、仕事の関係者、友人や知人などの氏名・連絡先
- 財産に関する情報:預貯金の口座がある銀行支店や口座番号、公共料金などの引き落としに関する情報、クレジットカードの暗証番号など、不動産や株式・保険など保有資産の内容、借金などの債務があれば債権者や残高、貸付金があれば債務者や残高に関する情報など
- 葬儀やお墓に関する情報:宗教や宗派、参列者リスト、お墓がある場合は所在や使用権者・継承者などに関する情報
- 遺言書に関する情報:自宅内に遺言書を保管している場合はどこに置いてあるのか、銀行の貸金庫や専門家の事務所、法務局などに預けている場合は預け先に関する情報
② 将来の希望を伝える
自分の老後や死後の希望も、家族や周囲の人たちに伝わらなければ意味がありません。
事務連絡的なことや法律が絡まない希望はエンディングノートに書きましょう。
相続など法律が絡む事項については遺言書としてのこしておき、その保管場所をエンディングノートに記載するなどして、死後に家族が遺言書の存在にすぐに気づけるようにしておきましょう。
3、終活において重要な「決めて」「伝える」べき大切なこととは?
終活で「決めて」「伝える」ことの中には、重要なことから小さなことまで様々なものがあるはずです。
その中でも特に重要なことは、次の3点です。
(1)相続
相続に関して、遺産をどのように分割してほしいのか、処分してほしいのかを家族に伝えましょう。
そうすることで、遺産分割に自分の意思を反映できるとともに、家族が遺産分割で困らないようにすることができます。
特に以下の3点については、しっかりと検討しましょう。
①プラスの財産を誰に分け与えるか
何も決めておかなければ、家族は法律に従って遺産分割をすることになります。
しかし、「この財産は○○さんに渡したい」「長男の相続分は多くしたい」というように、法定相続分とは異なる形で相続してもらいたいという場合もあるでしょう。
被相続人となるあなたは、自由に遺産分割の方法を決めておくことができます。
ただし、あまりにも偏った内容を決めて伝えると、そのために家族がもめてしまうおそれもあるので注意が必要です。
一定の相続人には「遺留分」といって、被相続人の意思に反してでも取得できる最低限の相続分が保障されています。
それにもかかわらず、「すべての遺産を長男に譲る」としておくと、他の子どもや配偶者が遺留分を主張することによって家族がもめてしまう可能性があります。
家族が遺産分割でもめないように、内容について精査して決めておくことが大切です。
②相続人から廃除する人はいるのか
一方で、自分を虐待した親族や、他の親族に多大な迷惑をかけた親族には遺産を渡したくないこともあるでしょう。
そんなときは、「推定相続人の廃除」という手続きをすることによって、その親族の相続権を剥奪できる可能性があります。
「推定相続人」というのは、被相続人が亡くなったときに相続人となる予定の立場にある親族のことです。
推定相続人の廃除の方法としては、あなた自身が生前に家庭裁判所に請求する方法(民法第892条)と、遺言に基づいて遺言執行者が家庭裁判所に請求する方法(民法第893条)とがあります。
これを行うことによって、他の相続人の相続分を増やすなど、他の相続人を助けることにもなりますので、問題のある推定相続人がいる場合には検討しましょう。
③マイナスの財産をどのように処理するか
借金などのマイナス財産がある場合は、それをどのように処理すれば良いのかを決めて伝えましょう。
プラスの財産で借金を十分に支払える場合は大きな問題にはならないかもしれませんが、家族が借金の存在に気付かなければ、後で重大な問題になるおそれがあります。
そのため、借金があれば必ず、借入先の情報や残高などを伝えるようにしましょう。
プラスの財産よりもマイナスの財産の方が大きい場合は、負債の額にもよりますが、家族は相続放棄を検討しなければなりません。
あるいは、家族がどうしても残したいプラス財産がある場合には、借金も相続した上で家族が債務整理をする必要があるかもしれません。
これらの手続きには専門家によるサポートが必要な場合も多いので、すでにあなたが相談している専門家がいる場合には、その連絡先を伝えるようにしましょう。
場合によっては、あなた自身が生前に債務整理をしておくのも終活のひとつです。
(2)事業承継
あなたが事業を営んでいる場合は、死後に事業をどのように承継してもらうかを決めて伝えることも重要です。
最も重要なのは誰に事業を継いでもらうのかという点ですが、その他にも決めておくべきことはいくつかあります。
ある程度の規模の企業の場合はM&A(企業の合併・買収や業務提携)を検討した方が良い場合もあると思います。
家族間で事業を承継する場合には相続税が発生することが多いので、節税対策を検討することもよいでしょう。
代々にわたって事業を承継する場合には、「事業承継税制」を利用することで相続税が免除される場合がありますので、検討してみましょう。
(3)認知
妻以外の女性との間に子どもがいる場合は、認知をしなければ法律上の親子関係は認められません。
しかし、自分が生きている間には家族の手前、どうしても認知できないという場合もあるでしょう。
そんなときは、遺言で認知することもできます(民法第781条2項)。認知を内容とした遺言書を作成することになります。
このとき、認知をするとその子にも相続権が発生することにご注意ください。
妻や妻との間の子どもとのトラブルができる限り起こらないように慎重に配慮して、遺産分割の内容も遺言書で決めておきましょう。
4、財産関係の整理における終活で使える技とは?
財産関係の整理については特に意思を貫きたい方が多い一方で、何もしないでいると死後にコントロールを及ぼすことはできません。
死後において、少しでも自分の意思を実現する方法としては、以下のものが考えられます。
(1)遺言書
財産関係の整理方法を決めて伝える方法として、最もポピュラーで有効な方法は遺言書の作成です。
エンディングノートは法的にはただのメモ書きと同じであり、相続人に対する拘束力はありません。
しかし、遺言書には一定の法的拘束力があるので、自分の意思を死後にもある程度貫くことが可能になります。
相続関係については、必ず遺言書を作成しておきましょう。
ここで注意しなければならないのは、有効な遺言書を作成するためには、法律に定められたルールを守らなければならないということです。
遺言書には以下の3種類があり、それぞれルールが異なりますので、注意しましょう。
①自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、その名の通り、自分で記載して作成する遺言書のことです(民法第968条)。遺言者が全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押して作成します。平成31年1月13日改正相続法施行により、添付する財産目録については自書不要になりました。
相続開始後に、検認手続(家庭裁判所で遺言の状態を確認する手続き)が必要です。
なお、令和2年7月10日より、自筆証書遺言を法務局で保管する制度が運用開始となっています。法務局で保管した場合は、この検認手続が不要です。
自筆証書遺言は、手軽に作成できて、費用もかからないというメリットがあります。
ただし、誰にも見せずに1人で作成する場合、形式面に不備があって無効になったり、内容面の偏りによって残された親族間の相続トラブルを招くことも少なくありません。したがって、作成に当たっては、弁護士にご相談されるとよいでしょう。
②公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証役場において遺言者が公証人に遺言の内容を伝えて、その内容を公証人が書面化して作成する遺言書のことです(民法第969条)。
公証人が作成するため、形式の不備で遺言書が無効になるという心配はありません。
ただし、公証役場に行く、公証人と文書のやり取りを行うなどの手間と、手数料などの費用がかかります。
また、公証人は遺言内容の相当性についてはアドバイスしてくれないので、相続トラブルを招くリスクは残ります。内容については、弁護士にご相談されることをおすすめします。
③秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言の内容を誰にも知らせずに作成し、遺言者が亡くなるまで封印して秘密のままにしておく遺言書のことです(民法第970条)。
作成方法は、まず遺言者が自筆証書遺言と同じ方法で遺言書を作成し、それを封筒に入れて、遺言で用いた印で封印します。
その封筒を公証役場に持参し、公証人と2人以上の証人の前で自己の遺言であることと氏名住所を申述すると、公証人がその申述と日付を封筒に記載します。
その後は、自分で遺言書を保管することになります。
相続開始後に、検認手続(家庭裁判所で遺言の状態を確認する手続き)が必要です。
秘密証書遺言には、自分が亡くなるまで遺言の内容を誰にも知られずに済むというメリットがあります。
しかし、形式の不備で遺言書が無効になったり、内容が偏っていて相続トラブルを招くリスクがある点は自筆証書遺言と変わりません。
それにもかかわらず、自筆証書遺言よりも手間と費用がかかります。そのため、秘密証書遺言はあまり利用されていません。
以上の3種類の遺言書についてさらに詳しくは、以下の記事をご参照ください。
(2)生前贈与
特定の人に財産を渡したい場合は、生前贈与をすることで確実に渡すことができます。
また、生前贈与によって遺産を減らしておけば、相続税の節税対策にもなります。
しかし、注意しなければ、かえって贈与税として多く負担しなければならなくなる可能性があります。
また、いったん財産を渡しても、自分の死後に他の親族が遺留分や特別受益の持ち戻しを主張したりして、相続トラブルが起こることも考えられます。
実際に実行される際は、弁護士や税理士にご相談されることをおすすめします。
生前贈与について詳しくは、以下の記事をご参照ください。
(3)生命保険
特定の人に遺産を渡したいのなら、生命保険を活用することもできます。
死亡保険金の受取人に特定の人を指定しておけば、一定の金額を確実に渡すことが可能になります。
死亡保険金は、保険契約に基づいて、受取人が受け取るものですから、遺産分割の対象とはなりませんので、他の相続人から遺留分の主張をされたとしても、受取人は何も支払う必要はありません。
また、他の相続人が特別受益の持ち戻しを主張した場合も、原則としては、何らかの支払いをする必要はありません。
なお、死亡保険金の非課税枠は「500万円×法定相続人の数」であり、これを超えた場合には、相続税が課されます。
5、遺産が多い場合には相続税の節税を検討する
遺産が一定の範囲を超えると、相続税がかかります。
せっかく財産を残すなら、相続税はできる限り抑えたいところでしょう。
遺産の中に不動産が多く現金や預金が少ない場合には、家族が相続税を支払えずに苦しむことも考えられます。
そのため、遺産が多い場合には相続税の節税も検討するとよいでしょう。
節税対策には数多くの方法がありますが、あなたの財産の状況や家族構成などに応じて最適な方法を考えることが大切です。
詳しくは以下の記事で解説していますので、ご参照ください。
6、遺言や生前贈与で迷うことがあれば弁護士へ相談を
遺言や生前贈与を上手に活用できれば、自分の意思を家族に伝えられるだけでなく、相続トラブルを防止し、相続税の節税にも役立ちます。
ただし、正しく活用するためには知っておかなければならないルールが数多くありますし、それぞれのルールも細かくて複雑なものが多いです。
ルールがわかったとしても、どのように遺言や生前贈与を活用するのが最適なのかは、状況によって1人1人異なります。
迷うことがあれば、弁護士に相談して専門的なアドバイスやサポートを受けることをおすすめします。
まとめ
終活を適切に行えれば、自分の死後に家族が助かるとともに、自分に残された人生を充実させることに役立ちます。
ただ、遺産分割や相続税など法律の問題が絡む事項もたくさんあります。
悩んでいると終活がスムーズに進まないまま、健康問題などによって自分で終活を勧めるのが難しくなりかねません。
お困りのときは、気軽に弁護士に相談してみましょう。
ベリーベスト法律事務所には、相続案件の経験が豊富な弁護士が多数在籍しているだけでなく、グループに税理士・司法書士その他相続問題に関連する専門家も在籍しており、あらゆる問題にスムーズに対応することができます。
お困りのこと、ご心配なことがあるときには、お気軽にお問い合わせください。