どのような場合に公然わいせつ罪が成立するのかご存知でしょうか?
この記事では、公然わいせつ罪について
- 公然わいせつ罪の本質とは
- 逮捕された場合の一連の流れや、逮捕に伴うリスク
について詳しく説明いたします。
目次
1、公然わいせつ罪とは
公然わいせつ罪は、人前で全裸になった、陰部を露出したなどというように、「公然と」「わいせつな行為」を行った場合に成立し得る犯罪です。
刑法174条に規定され、罰則は「6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」とされています。
刑法174条
公然とわいせつな行為をした者は、6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
2、これって公然わいせつ罪?具体的事例をみてみよう
では、具体的にどんな場合に公然わいせつ罪に問われるのかをみていきましょう。
(1)ネット上でわいせつな行為を生配信
近年、逮捕者が続出している事案です。
「公然と」とは、「不特定又は多数の者が認識し得る状態」をいうとされています。実際に認識される必要まではありません。
ネットでの生配信は、不特定または多数の人が見ることのできるものですので、「公然」性があると考えられます。
なお、わいせつ動画を生配信した場合は公然わいせつ罪に当たり得ますが、録画したわいせつ動画を配信した場合は、わいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪ないし、わいせつ電磁的記録送信頒布罪(刑法175条1項)などの別の犯罪に問われ得ると考えられます。
(2)公共のトイレの前で陰部を露出
人がトイレから出てくるのを待ち構えていた、という事案です。
このように特定の人へ向けてわいせつな行為をしているつもりでも、その場所の性質などから行為の「公然」性が認められる場合は、公然わいせつ罪に問われる可能性があります。
(3)公園での性行為
まず、公園は基本的に誰でも自由に立ち入ることのできる場所ですので、そこでの行為には「公然」性が認められやすいといえます。また、性行為が「わいせつな行為」に当たることは明らかでしょう。
あとは故意、すなわち、性行為を「公然と」することについての認識があったか否かが問題となります。
理論上、そのような認識がなければ、故意がないとして公然わいせつ罪は成立しませんが、通常、そこが公園であると分かっていた限りは、性行為を「公然と」行うことについての故意、つまり、不特定または多数の人に見られ得る状態の中で性行為をする認識があったと認められることになるでしょう。
(4)海やプールなどで陰部、乳房が見えそうな水着を着用
このことで処罰された例は聞きませんが、「こういうのって公然わいせつじゃないの?」と疑問に思われる方も多いかと思います。
海やプールでの行為について「公然」性が認められる可能性は高いですが、そのような水着を着用することが「わいせつな行為」といえるかどうかが問題です。
明確な基準はありませんが、判例上「わいせつ」とは、「徒に性欲を興奮又は刺激せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義に反するもの」とされています。
普通の人の立場に立って、人に性的な意味で恥ずかしい思い、不快な思いをさせる行為は、「わいせつな行為」に当たる可能性があります。
なお、仮に公然わいせつ罪に問われなくても、軽犯罪法の身体露出の罪(軽犯罪法1条20号)や、各都道府県の迷惑防止条例違反の罪に問われる可能性があります。
ただし、海やプールなど水着になることが当然という場所では、検挙まではされにくいと思われます。
3、公然わいせつ罪で逮捕されるタイミング
では、公然わいせつ罪に当たる行為をしてしまった場合、どのようなタイミングで逮捕される可能性があるのでしょうか。
(1)現行犯逮捕(準現行犯逮捕を含む)
現行犯逮捕は、公然わいせつ罪を犯した直後、あるいはそれから間もなくして逮捕されるものです。
令状なしに逮捕されるのが特徴です。
現行犯逮捕は、警察官などの捜査機関以外の一般人(私人)でも可能です。
したがって、犯行を現に目撃した被害者や、その被害者から被害を申告された第三者から逮捕されることもあり得ます。
(2)通常逮捕
通常逮捕は、犯行後、裁判官が発する令状により行われるものです。
被害者または目撃者から通報がなされて警察が捜査したような場合は、通常逮捕されることが考えられます。
犯行後どの程度の期間が経ってから逮捕されるのかは、捜査の状況次第です。
ある日突然警察官が自宅にやってきて逮捕、という事態も考えられます。
公然わいせつ罪の公訴時効は3年ですから、行為から3年間は逮捕の可能性があるということになります。
4、公然わいせつ罪で逮捕されたらどうなる?
では、逮捕されるとその後の手続はどのように進んでいくのでしょうか。
(1)逮捕後の流れ
逮捕後、勾留決定までは
①逮捕
②警察署内の留置施設等に収容
③警察官の弁解録取
④送致(送検)
⑤検察官の弁解録取
⑥勾留請求
⑦裁判官の勾留質問
⑧勾留決定
という流れで進んでいきます。
法律上、①から④までの手続きは48時間以内に、④から⑥までの手続きは24時間以内にしなければならないとされています。
⑥以後の手続きは、⑥勾留請求された日に行われることもあれば、翌日に行われることもあります。
したがって、①から⑧まではおおよそ3日を要するということになります。
⑧勾留決定以降は、
⑨警察署内の留置施設等に収容
⑩捜査
⑪刑事処分(起訴、不起訴)
⑫(正式起訴の場合)→引き続き拘束(留置施設、拘置所などに収容)
(略式起訴の場合)→略式裁判→略式命令(罰金)→釈放
(不起訴の場合)→釈放
(⑫の正式起訴の場合の続き)
⑬正式裁判
⑭判決(懲役、罰金)→罰金のみ、または執行猶予付き判決の場合は釈放
という流れで進んでいきます。
(2)釈放について
釈放されるタイミングは、
- 逮捕後勾留決定前(①から⑧までの間)
- 勾留決定後起訴前(⑧から⑪までの間)
- 起訴後(⑪以降)
の3つに分類することができます。
①逮捕後勾留決定前
逮捕されても、引き続き勾留する必要がないと判断されれば、そこで釈放されることになります。
弁護人がいれば、勾留する必要がないことを説明し、勾留請求をしないように検察官に働きかけ、勾留請求がされてもその必要がない旨の意見を裁判官に述べていきます。
②勾留決定後起訴前
勾留決定があった場合、勾留は原則10日間までですが、最大でさらに10日間勾留が延長される場合もあります。
弁護人としては、勾留決定や勾留延長決定に対する準抗告、勾留取消請求などを行って早期解放を求めていきます。
不起訴処分や処分保留となった場合はそこで釈放されますので、弁護人は示談交渉を行うなど、不起訴処分を獲得するために活動します。
③起訴後
起訴された場合には、保釈が認められない限り判決の言渡しまで身体拘束が続きますので、弁護人は保釈請求を行っていきます。
保釈が認められないまま実刑判決を言い渡されてしまった場合は、そのまま刑に服することになっていきます。
しかし、無罪判決、罰金のみの判決や執行猶予付き判決を言い渡された場合には、その時点で釈放されます。
弁護人としても当然、本人の立場等に応じて、無罪判決や執行猶予付き判決などを求めて弁護活動を行います。
④釈放のタイミングまとめ
以上が主な釈放されるタイミングですが、身柄拘束の要件(罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれなど)を満たさなくなれば、いつでも釈放される可能性自体はあります。
身柄解放へ向けた活動をどれだけ行えるかが重要になってきます。
公然わいせつ罪で逮捕されてしまっても、勾留決定前に釈放される可能性は十分あります。
平成30年度版犯罪白書(以下、「犯罪白書」といいます)によれば、平成29年度中、公然わいせつ罪、わいせつ物頒布等罪で逮捕された919人のうち147人が送検前に釈放されています。
また、送検された772人のうち182人が勾留請求されずに釈放されています。
証拠が確保されていて罪証隠滅のおそれがなく、身元引受人がいて逃亡のおそれがないことが担保されていると判断できる材料が捜査機関側に十分提供できれば、釈放される可能性が高くなってきます。
釈放後は、在宅被疑者として捜査を受けます。
釈放について詳しい知識は以下をご覧下さい。
(3)起訴、不起訴について
犯罪白書によると、平成29年度中に公然わいせつ罪で刑事処分を受けた人数は、起訴が905人、不起訴が627人でした(ともに身柄被疑者、在宅被疑者を含む)。
起訴は正式起訴と略式起訴に分けられますが、正式起訴された人は179人、略式起訴された人は726人でした。また、不起訴は起訴猶予が514人、起訴猶予以外が113人でした。
そうすると、公然わいせつ罪で検挙されても不起訴となる可能性が十分あり、起訴されるとしても略式起訴となる可能性が十分あると分かります。
罪を認める場合は、被害者と示談できているかどうかも起訴、不起訴(起訴猶予)を分ける鍵となります。
公然わいせつ罪は本来、性秩序や健全な性的風俗を保護しようとするもので、被害者の存在を前提とするものではありませんが、実際上は、行為を直接見せつけられたというような人が被害者として扱われていくことになります。
5、逮捕された場合の不利益
逮捕されると、どのような不利益を背負うことになるでしょうか。
(1)日常生活とはかけ離れた生活を強いられる
逮捕されると留置施設内での生活を強いられ、自由をかなり奪われます。
肉体的にも精神的にも大きな負担です。
(2)逮捕されたことが周囲(職場、家族)に知られてしまう
逮捕されると職場へ出勤できなくなります。
はじめのうちは何とか誤魔化すことができるかもしれませんが、身柄拘束が長引けば長引くほど、誤魔化すことが難しくなっていきます。
事案によっては報道されたり、ネット上に情報が掲載されることも懸念されます。
ネット上に情報が載ってしまうと、釈放後の社会復帰の妨げとなるおそれもあります。
(3)解雇、減給などの社会的制裁を受ける
逮捕が即解雇、減給に結び付くわけではありません。
解雇、減給されるかどうかは、最終的には就業規則等に照らして会社が判断することになります。
ただ、逮捕されたことが会社に知られていない場合でも、逮捕されると職場へ出勤することができなくなりますので、それが就業規則上の「欠勤」に当たると判断されれば、欠勤を理由に解雇、減給の処分を受けることも考えられます。
もし逮捕された場合に会社に解雇されるのか不安な方は以下をご覧下さい。
6、逮捕されてもダメージを最小限に!弁護士へ相談、依頼するメリット
このように、逮捕されると様々な不利益を背負うことになります。
少しでもこれらの不利益を回避するためには、早めに弁護士に相談することが肝要です。
(1)逮捕前に相談するメリット
ご自身の行為が公然わいせつ罪に当たるのか、当たるとしていかなる対応をすべきかを確認することができます。
また、身体拘束回避へ向けたアドバイス、逮捕されてしまった場合に備えたアドバイスや、取調べに対するアドバイスを受けることができます。
(2)逮捕後に依頼するメリット
①接見を通じて、取調べの対応法や事件の見通しなどを知ることができる
捜査官の取調べは想像以上に厳しいものです。
特に、事実を否認した場合、捜査官の追及も厳しくなると考えられます。
弁護士からは、そうした取調べにおいていかなる権利を行使できて、いかに対応すべきかについてアドバイスを受けることができます。
また、どのような処分が見込まれるか、どのような点が争いになっていきそうかなど、事件の見通しについてもある程度知ることができます。
②早期釈放へ向けた弁護活動が期待できる
事実を認める場合には、早期釈放に向けて、捜査機関に被害者と示談したい旨の申し入れをすることが考えられます。
また、ご家族などと連絡を取り合うなどして、釈放後の生活の見通しを立てたうえで捜査機関や裁判所に意見を述べたり、裁判所の決定に異議を申し立てたりすることもできます。
③不起訴処分獲得へ向けた弁護活動が期待できる
事実を認める場合(起訴猶予による不起訴処分獲得を目指す場合)は、主に被害者との示談交渉をしていくことが考えられます。
事実を否認する場合(嫌疑不十分による不起訴処分獲得を目指す場合)は、引き続き取調べに関するアドバイスを受けることができます。
また、場合によっては、弁護士自ら証拠収集を行い、検察官に対して適切な処分を行うよう意見を述べます。
④執行猶予、無罪獲得へ向けた弁護活動が期待できる
事実を認める場合は、執行猶予の獲得へ向けた弁護活動を行います。
この場合の弁護活動は情状立証が主です。
情状立証とは、量刑上被告人にとって有利となる事情を裁判で主張立証することをいいます。
事実を否認する場合は、無罪獲得に向けて弁護活動を行います。
裁判で尋問を行ったり、被告人に有利な証拠を提出したりするなど、裁判官に「有罪とするには合理的な疑いが残る」との心証を抱いてもらうための活動を行います。
⑤ご家族や職場との橋渡し役となる
ご家族の悩みとして、本人と接見できたとしても、時間的な制約などから「なかなか本人に言いたいことを伝えることができない」などということもあるでしょう。
また、身柄拘束中は、ご家族などが本人に代わって職場からの連絡に対応しなければならない場合も考えられます。
そうした場合は、弁護士がご家族や職場との橋渡し役となって調整を図ることができます。
まとめ
以上、公然わいせつ罪や逮捕について解説しました。
公然わいせつは軽い気持ちで行われることも多々ありますし、罰則も比較的軽い部類に入ります。
しかし、逮捕される可能性はもちろんありますし、逮捕されれば様々なリスクを背負うことになります。
もし公然わいせつ罪に当たる行為をしてしまったのではないかと不安をお持ちの場合は、早めに弁護士に相談されることをおすすめします。