離婚話は進んでいるのに、財産分与についてなかなか話が進まない…。
そこで今回は、財産分与で調停を利用する際の参考となるよう
- 財産分与を調停で請求するメリット
- 財産分与の調停の申し立て方法と手続きの流れ
- 財産分与の調停を有利に進めるためのポイント
などについて弁護士が詳しく解説していきます。
目次
1、財産分与の調停とは
まずは、財産分与の調停とはどのような手続きであるのかを確認しておきましょう。
(1)財産分与について家庭裁判所で話し合う手続き
財産分与の調停とは、離婚にともなう財産分与について、家庭裁判所において調停委員を介して(元)夫婦が話し合う手続きのことです。
そもそも財産分与とは、夫婦が婚姻中に共同して築いた財産を離婚時(あるいは離婚後)に分け合う制度のことです(民法第768条)。
財産分与として夫婦のどちらからどちらに対していくらの財産を渡すかは、基本的には夫婦の話し合いによって決めていきます。
しかし、財産分与の対象とする財産の範囲や分与の割合についてもめることがよくありますし、そもそも財産分与をするかどうかでもめることも少なくありません。
このように、当事者間での話し合いがまとまらない場合に、家庭裁判所の調停委員を間に入れて話し合うことで合意による解決を図る手続きが、財産分与の調停です。
(2)離婚前と離婚後では調停の種類が異なる
財産分与を求める調停は1種類ではなく、離婚前の人向けの手続きと離婚後の人向けの手続きの2種類があります。
離婚前の人向けの手続きは、「離婚調停」(正式名称は「夫婦関係調整調停(離婚)」)といいます。離婚調停の中で、離婚問題と一緒に財産分与についても話し合うことになります。
一方、離婚後の人は「財産分与請求調停」という、財産分与についてのみ話し合う調停を申し立てることになります。
(3)協議離婚で財産分与についてだけ合意できないときは離婚調停を
上記の2種類の調停は自由に選べるものではなく、離婚前・離婚後でどちらを申し立てるべきかが決まっています。
協議離婚で離婚については合意しているものの、財産分与についてだけ合意できないときは、財産分与請求調停を利用したいと考えるかもしれませんが、離婚調停を申し立てなければなりません。
財産分与は離婚を前提とした問題なので、まだ離婚が成立していない人が財産分与請求調停を申し立てることは認められていないのです。
2、財産分与の調停で話し合えること
状況によっては、財産分与の他にも同時に調停で話し合いたいことがあるという方もいらっしゃることでしょう。
そこで、財産分与の調停の中で何を話し合えるのかについてご説明します。
(1)離婚前なら、あらゆる離婚条件について話し合える
まず、離婚前の人が申し立てる離婚調停においては、あらゆる離婚条件について話し合うことができます。財産分与の他にも、
などについて、離婚調停で取り決めることが可能です。
ただし、婚姻費用(離婚成立前の生活費)の分担を請求する場合は、離婚を前提とした問題ではないので、別途「婚姻費用分担請求調停」を申し立てる必要があります。
(2)離婚後は、財産分与に関することに限られる
一方、離婚後の人が申し立てる財産分与請求調停においては、財産分与に関することしか話し合うことはできません。
養育費や年金分割を請求する場合は、それぞれ、
- 養育費請求調停
- 年金分割の割合を定める調停
を申し立てなければなりません。
3、調停で財産分与を請求するメリット
では、財産分与を請求するために調停を利用することにどのようなメリットがあるのでしょうか。
(1)話し合いがまとまりやすくなる
第一に、当事者だけで協議するよりも話し合いがまとまりやすくなるということが挙げられます。
調停委員という第三者が介入すること冷静に話し合いを進めやすくなりますし、調停委員による専門的なアドバイスや説得によって双方の歩み寄りも期待できます。
そのため、話がまとまりやすくなります。
(2)相手と会う必要がない
財産分与の話し合いをしようと思っても、相手と会いたくないこともあるでしょう。
直接会って話し合うと、感情的な対立がエスカレートしてしまうおそれもあります。
調停では、待合室は申し立てた側と申し立てられた側とで別々に離れた場所に設置されています。
話し合いは、双方が交代で調停室に入り、調停委員とのみ話す形で進められます。
ですので、相手と会わずに話し合いを進めることができます。
(3)調査嘱託で財産調査が容易になる
調停を申し立てると、相手の財産の調査がしやすくなるというメリットもあります。
夫婦共有財産を2分の1ずつに分けたつもりでも、相手が財産隠しをしているとこちらの取り分が少なくなってしまいます。
そのため、財産分与の前提として相手の財産を調査することは非常に重要です。
相手が任意に全財産を開示しない場合、調停では「調査嘱託」を申し立てることによって、家庭裁判所を通じて財産調査を行うことが可能な場合があります。
この制度があることで、相手の財産隠しをある程度は防止できます。
(4)強制執行ができるようになる
調停で話がまとまると、調停調書が作成されます。
調停調書には確定した判決と同じ法的効力がありますので、もし、相手が約束どおりに財産を渡さない場合には、強制執行を申し立てて相手の財産を差押えることができるようになります。
そのため、強制的に財産を回収することが可能です。
4、財産分与を請求するための調停の申立て方法【雛形ダウンロード可】
次に、実際に財産分与の調停を申し立てる方法をご説明します。
離婚調停の申立て方法は以下の記事で詳しく解説していますので、ここでは財産分与請求調停の申し立て方法をご紹介します。
(1)申立てに必要な書類
申立てに際して、まずは必要書類を用意しましょう。
具体的に必要なものは以下の通りです。
- 調停の申立書およびその写し1通ずつ
- 離婚時の夫婦の戸籍謄本
- 財産目録
- 夫婦双方の財産に関する書類(退職金の明細、給与明細、預金通帳写し、不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書等)
書類を準備する段階までに相手の財産をしっかりと確認しておき、その財産に関する書類を集めることが重要です。
(2)調停の申立書ダウンロードと記載例
調停申立書の作成は、雛形を用意して、記入例を参照しながら記入すれば完成しますので、それほど難しいものではありません。
申立書の雛形と記入例は、以下のテキストをクリックすればダウンロードできます。
財産分与請求調停と離婚調停の両方の書式を用意しましたので、ぜひご利用ください。
①申立書の雛形ダウンロード
②記入例ダウンロード
(3)申立てにかかる費用
次に、申立てにかかる費用は以下の通りです。
①収入印紙 1,200円分
収入印紙は郵便局で購入することができます。
②連絡用の郵便切手 800円分程度
裁判所によって金額や切手の種類の組み合わせが若干異なりますので、申し立てされる家庭裁判所へ確認してください。
(4)申立て先の裁判所
原則として相手方の住所を管轄する家庭裁判所となります。
例外として、どこの家庭裁判所で手続きするかを相手方との合意で決めた場合は、そちらに申し立てることもできます。
5、財産分与の調停の流れ
財産分与の調停の申し立てが受理されると、以下の流れで手続きが進められます。
(1)調停期日の指定
まず、家庭裁判所において担当裁判官と調停委員が選ばれた上で、第1回調停期日が指定されます。
その後、当事者双方に「調停期日通知書」(呼出状)が送付されます。
通知書が届くのは、申し立てが受理されてから10日~2週間後ころとなります。
第1回調停期日は、申し立ての受理から1ヶ月~1か月半ほど先の日時が指定されるのが一般的です。
(2)調停期日当日の流れ
指定された調停期日に当事者が出頭すると、調停委員を介して話し合いが行われます。
通常、まずは申立人と調停委員が話し、それから交代で相手方も調停委員と話します。
以降、申立人と相手方が交互に調停委員と話す形で話し合いが進められ、徐々に合意に向かって進んでいきます。
1回に話す時間はおおよそ30分程度、1回の調停にかかる時間は2~3時間程度が一般的です。
1回の調停で合意できるケースもありますが、多くの場合は次回期日が指定され、調停が続行されます。次回期日の日程も、1ヶ月~1か月半ほど先となることが多くなっています。
(3)調停の終了
話し合いを重ねて、当事者が一定の内容で合意すると、調停成立となり、手続きは終了します。
当事者の意見の対立が激しくて合意に至る見込みがないときは、調停不成立として手続きが終了します。
(4)調停調書の発行
調停が成立した場合は、家庭裁判所で調停調書が作成されます。
調停調書には、調停で当事者が取り決めた内容が記載されます。
調停の最後に裁判官が記載事項を読み上げますので、よく聞いて確認しましょう。
気になるところがある場合は、その場で裁判官に質問してください。
いったん調停調書が発行されると訂正を求めることはできませんので、注意しましょう。
(5)調停にかかる期間の目安
離婚調停の場合、申し立てから終了までにかかる期間は3ヶ月~6ヶ月程度が平均的です。
調停期日の回数としては、平均して2回~4回程度です。
財産分与請求調停の場合は、話し合う内容が財産分与に限られますので、もう少し早期に終了するのが一般的です。
6、財産分与の調停を有利に進めるためのポイント
財産分与の調停をするなら、できる限り有利に進めたいところでしょう。
そのためには、以下のポイントに注意して調停を進めていきましょう。
(1)いくら請求できるかを正確に知っておく
まずは、財産分与としていくら請求できるのかを正しく知っておかなければなりません。
基本は、夫婦共有財産の2分の1です。専業主婦の方も、基本的に2分の1を請求できます。
また、相手名義の財産でも、結婚後に取得した財産は贈与や相続で取得したものを除いて、基本的に夫婦共有財産となることにも注意が必要です。
なお、相手がローンや借金を抱えている場合は注意が必要です。
財産分与はプラスの財産を分け合う制度ですので、原則としてローンや借金は財産から差し引かなければなりません。
例えば、評価額3,000万円の持ち家があるとしても、住宅ローンの残高が2,500万円あれば、財産分与の対象となるのは差額の500万円のみとなります。
また、相手が家族の生活費のために作った借金を抱えていて、プラスの保有資産が借金総額を下回る場合には、分与すべき財産がないということになりますので、財産分与の請求をしても分与が認められません。
(2)財産の形成・維持に貢献したことがあれば具体的に主張する
財産の分与割合は2分の1ずつが基本ですが、事情によってはそうとも限りません。
あなたが財産の形成・維持に特別な貢献をしたと認められる場合には、2分の1を上回る割合で分与を請求できる可能性もあります。
例えば、あなたが会社の経営者や芸術家などで、固有の能力や努力によって財産を築いたといえるような場合などです。
(3)特有財産があれば立証して確保する
また、夫婦2人で使っていた財産であっても、結婚前からあなたが持っていたものや結婚後に得た財産であっても相続や贈与など夫婦の協力で得たとは言えないものは「特有財産」に該当し、財産分与の対象にはならないことにも注意してください。
漫然と財産分与の対象に含めてしまうと、損をしてしまいます。
特有財産に該当するものとしては、以下のものが典型的です。
- 結婚前から貯めていた預貯金
- 結婚前から所有していた自動車
- 結婚前から所有していた不動産
- 結婚後相続で得た預貯金
自動車や不動産の取得時期で争うことは少ないと思いますが、預貯金の存在を証明することは難しい場合もあります。
古い通帳や、銀行から取引履歴を取り寄せるなどして、結婚前の預貯金額を証明するようにしましょう。
(4)相手に全財産の開示を求める
前記「3」(3)でもご説明したように、財産分与の話し合いをするときには、前提として相手に全財産の開示を求めることが極めて重要です。
調停では、まずは調停委員から相手に対して、全財産を開示するように促します。
ただ、相手が財産を開示したとしても、本当にそれですべてかどうかが疑わしい場合もあるでしょう。
そんなときは、調査嘱託を申し立てることによって、家庭裁判所を通じて財産調査を行うことが可能な場合があります。
ただ、調査嘱託は離婚裁判(訴訟)ではスムーズに採用されるものの、調停段階では採用されないことが多いという実情があります。
家庭裁判所は、話し合いの手続きである調停においては、法律に基づく調査手段によって第三者からの回答を求めることはできる限り控えたいと考えているようです。
しかし、調査嘱託の制度はきちんと法律で規定された制度なのですから(家事事件手続法第258条1項、第62条)、調停を適切に進めるためには活用されるべきものといえます。
家庭裁判所が調査嘱託の採用に消極的な場合には、調査のための必要性と重要性を十分に訴えて調停委員を説得したいところです。
その際には、弁護士から意見を述べてもらうことが望ましいでしょう。
7、財産分与の調停がまとまらなかったときはどうする?
財産分与の調停がまとまらない場合、そのままでは財産を分けてもらうことはできません。
財産分与を獲得するためには、さらに別の手続きをとる必要があります。
(1)財産分与の調停が不成立となるケース
財産分与の調停は、あくまでも話し合いの手続きですので、当事者双方の意見を調整できず、合意できない場合は「調停不成立」となります。
また、相手が家庭裁判所から何度呼び出しを受けても調停に出席しない場合にも、相手に話し合う意思がないものとみなされて「調停不成立」として調停が終了します。
(2)離婚前なら離婚裁判を起こす
離婚前に離婚調停を申し立てていた場合、調停不成立となれば通常は離婚裁判(訴訟)を起こすことになります。
審判手続きで家庭裁判所の判断を仰ぐことも可能ですが、審判に不服がある当事者が異議を出すと訴訟に移行するため、離婚の審判はあまり利用されていません。
離婚裁判では、当事者双方が主張と証拠を提出し合います。
妥当な主張をして、その主張を裏づける事実を証拠でより的確に証明できた側が判決で勝訴することになります。
離婚を求める側が勝訴した場合には、判決で離婚が認められ、同時に財産分与についても裁判所の判断が示されます。
当事者が判決書を受け取った日の翌日から2週間以内に控訴されなければ判決は確定し、強制執行の申し立ても可能になります。
(3)離婚後なら審判へ移行する
離婚後に財産分与請求調停を申し立てた場合は、財産分与のみを決める裁判(訴訟)手続きはありませんので、調停が不成立になると自動的に審判へ移行します。
審判では、それまでの調停で当事者が提出した意見や証拠に基づいて、家庭裁判所が一定の判断を下します。
審判が下った場合も、当事者が審判書を受け取った日の翌日から2週間以内に即時抗告がなされなければ確定し、強制執行の申し立ても可能になります。
即時抗告すると、高等裁判所で再び審理が行われますが、結論が覆るケースは少なくなっています。
8、財産分与の調停では専門知識が重要!弁護士に相談しよう
財産分与の調停で有利な結果を獲得するには、以下の点がポイントとなります。
- 相手方の全財産を明らかにする
- 自分の特有財産は対象から外す
- 財産分与割合を適切に主張する
- 調停委員に事情を十分に把握してもらう
- 有力な証拠を提出する
- その上で、調停委員を通じて相手と交渉する
以上の各ステップにおいて、専門的な知識や交渉力、事実調査能力などが要求されます。
そのため、法律のプロである弁護士に相談・依頼することで、調停を有利に進めやすくなるといえます。
一人では対応困難なケースでも、弁護士がついていると複雑な手続きはすべて任せられますし、証拠集めもサポートしてもらえます。
調停委員への説明や交渉も弁護士が代行してくれますので、納得できる財産分与の獲得が期待できます。
財産分与の調停に関するQ&A
Q1.財産分与の調停とは?
- 財産分与について家庭裁判所で話し合う手続き
- 離婚前と離婚後では調停の種類が異なる
- 協議離婚で財産分与についてだけ合意できないときは離婚調停を
Q2.財産分与の調停で話し合えることとは?
- 離婚前ならあらゆる離婚条件について話し合える
- 離婚後は財産分与に関することに限られる
Q3.調停で財産分与を請求するメリットとは?
- 話し合いがまとまりやすくなる
- 相手と会う必要がない
- 調査嘱託で財産調査が容易になる
- 強制執行ができるようになる
まとめ
財産分与の請求は、離婚原因とは無関係に認められている権利です。
したがって、調停で適切な主張をして交渉すれば、財産分与を獲得するのはそれほど難しくありません。
ただ、適切な財産分与を獲得するには、財産調査や主張する内容を検討するために専門的な知識が必要となります。
お困りのときは、いつでも弁護士に相談してアドバイスを得て、財産分与の調停を進めていきましょう。