嫁は、義親の相続人になれるのでしょうか。
実は法改正によって、お嫁さんにも遺産の一部を請求できる権利が与えられることになりました。
これまでの苦労が報われる可能性が出てきたのです。
ここでは、
- お嫁さんが相続する方法
- 争族を回避する方法
をご紹介します。
合法にもめることなくこれまでの苦労が報われるように、事前に知識を得ておきましょう。
法定相続人について詳しく知りたい方は以下のページもご覧ください。
目次
1、嫁は義父・義母の相続人にはなれない?
養子縁組をしているケースを除き、お嫁さんは夫の親の法定相続人ではありません。
相続権のある相続人は民法で規定されています。詳しい相続人についてはこちらの記事をご覧ください。
もっとも、相続においてはさまざまな手法が法定されています。
お嫁さんが遺産の一部でも受け取れるような手法はないでしょうか?
以下、一緒にみていきましょう。
(1)夫の代わりに相続することはできないのか-代襲相続ってなに?
夫の親の遺産について、夫は子の立場ですので相続人です。
夫が生きている場合、そのお嫁さんが義親の遺産を相続できないのは当然ですが、夫が既に他界している場合はどうでしょうか。
夫が生きていれば相続できたはずなのですから、なんとかならないか考えるのも当然でしょう。
この場合、「代襲相続」はどうでしょう?
相続人が死亡している場合、その相続人の代わりに相続する規定です(民法第887条第2項)。
しかし、代襲相続は相続人の「子」のみです。
配偶者である妻は代襲相続することはできません。
(2)療養看護で負担した金額ももらえないのか-寄与分
例えば、被相続人(亡くなった方)と同居し生活費を負担していたり、療養に関する費用を全て負担していたという場合、「寄与分」として相続財産から優先的に受け取ることができます(民法第904条の2)。
ただし、「寄与分」の請求できる者は「相続人」に限られるのです。
お嫁さんは、相続人ではありませんので、民法第904条の2に定める寄与分をもらう権利はありません。
2、約40年ぶりの遺産相続に関する法改正によりどう変わったのか
心を尽くして介護に取り組んでいるお嫁さんの中には、現在の法律ではあまりにも不公平に感じられた方もいることでしょう。
そこで、2019年7月1日に法改正が行われました。
新民法1050条、新家事事件手続法216条の2~216条の5関連には、「相続人ではない親族が無償の療養看護や労務の提供をした場合に、相続人に金銭の支払を請求できるようにする」と明確に示されています。
(1)法改正の内容|旧制度との違い
具体的にわかりやすく新民法と旧法の違いについて見ていきます。
①旧制度
旧制度では、「1」でご説明した通り、寄与分制度は相続人に限られていました。
相続人であれば、介護など療養看護をしたことにより寄与分が相続財産から控除され、寄与分のある相続人にその取得が認められます。
しかし、お嫁さんにはこれが当てはまらず、お嫁さんが介護で苦労してきたことへの労いは、もっぱら被相続人からの働きかけによるしかありませんでした。
つまり、被相続人が、嫁に財産を譲る旨の遺言を書いたり、嫁を生命保険の受取人にしたり、生前贈与などをするなどをすればお嫁さんにも一定の財産は入るものの、これは被相続人によるアクションです。
親身に介護をしていたお嫁さんであればあるほど「私に遺贈していください」とは言いづらく、どこまでも被相続人の行動に頼る他ないという現実。
お嫁さん自身からアクションできる権利がまったくない、ということが問題でした。
②新制度
新制度では、寄与分制度の範囲が広がります。
特別の寄与という形(「特別寄与分」と言います)で、お嫁さんにも遺産がもらえる可能性が出てきました。
相続人はこれまでと変わらずに血縁者に限られてはいますが、お嫁さんは、他の相続人に対して金銭請求ができるようになったのです。
(2)相続人以外の親族とは
ただし、この新法律で定められている特別の寄与を請求できるのは、「相続人以外の親族」に限られています。
例えば、以下のような関係の親族です。
- 配偶者のきょうだい、その子
- 配偶者の父母
- 子の配偶者(これが「嫁」です)
- 孫、ひ孫の配偶者
- 自分のきょうだいの配偶者
- 自分のきょうだいの子の配偶者
よって、療養看護をしてきたヘルパーなどの他人には特別寄与分は認められません。
3、その他にお嫁さんが義父・義母の遺産を相続する方法
他の方法でもお嫁さんが義父や義母の遺産を相続する方法をいくつか紹介します。
ただ、前述の通り、これらの多くは被相続人のアクションに頼らざるを得ないもの。
もし、現時点において義親と相談できる関係であれば、生前に一緒にご検討いただくと良いでしょう。
(1)遺言書を残す
確実に遺産を相続するためには、生前に義父や義母に遺言書を残してもらい、お嫁さんに遺贈すると記載してもらう方法です。
遺言による遺贈でも、相続人の遺留分は侵害できないため注意しましょう。
遺留分については下記記事で解説していますので、参考にしてみてください。
①遺産トラブルへの発展が考えられるときは特定遺贈を
遺産トラブルに発展が考えられる場合には、特定遺贈を考えておきましょう。
特定遺贈とは、「保有する土地を長男の嫁に相続させる」などのように相続する物と人物を特定して遺産を遺すことをいいます。
対して包括遺贈とは、「全財産の30%を長男の嫁に相続させる」など、特定のない包括的した相続内容のこと。
この場合には、他の相続人とトラブルに発展しやすいため、遺贈対象が明確な特定遺贈の方が問題が起きにくいといえます。
また、特定遺贈の場合には、被相続人の借金を譲り受けることはありませんので、確実に利益を得やすいことがメリットです。
特定遺贈はその放棄に期限がないこともポイントになるでしょう。
「特定遺贈」「包括遺贈」の詳しい内容についてはこちらの記事をご覧ください。
②公正証書遺言の利用を考える
遺言は確実に公正証書に残しておく方が後々のトラブルに発展しにくくなります。
お嫁さんなどの曖昧な立場の場合には、「両親を騙して遺言書を捏造した」などと言われかねません。
トラブルを回避するためにも公正証書遺言の活用を検討してください。
公正証書遺言について詳しく知りたい方は書き記事をご参照ください。
(2)養子縁組をする
義母や義父と嫁が養子縁組をする方法もあります。
養子縁組をすることで、実子と同じ権利を得ることになるからです。
遺言書がなくても第一相続人として相当分の遺産を相続することが可能になります。
養子縁組には相続税の節税効果もあります。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(3)義父・義母が加入している生命保険の受取人になる
義父や義母が加入している生命保険の受取人になる方法もあるでしょう。
遺産の相続人でなくても、保険金の受取人になっていれば問題なく生命保険を受け取れます。
なお、生命保険金は一定の相続税がかかります。
(4)生前贈与を受ける
生前贈与は血縁者でなくても贈ることができます。
生前贈与は基本的に贈与税がかかりますが、年間110万円までなら贈与税は非課税です。
その他非課税にする方法がいくつかありますので、詳細はこちらの記事をご覧ください。
(5)孫(嫁の子供)に代襲相続させ「家族」として相続する
夫がもしも死亡していたとしても、その子どもは代襲相続人です。
つまり、お嫁さんには相続権がなくてもその子どもは代襲相続できるということ。
自分の子どもが相続できるならお嫁さんも家族としては相続できる結果になったといえるでしょう。
もしもあなたに子どもがいるなら、この方法で解決したと考えることも一つの手段です。
4、1円でも多くの財産を獲得する方法はあるの?
1円でも多くの財産を獲得する方法は、ご紹介した方法を複数個組み合わせる方法です。
なお、方法を検討するにあたり、税金対策も同時に検討すべきです。
(1)生命保険と生前贈与を組み合わせる
生命保険金の受け取りを嫁に指定し、さらに生前贈与を贈るならどちらの受け取りも可能になり、通常の相続人よりも多くの遺産を受け取ることが可能かもしれません。
上手に贈与することで節税にもなりますし、有意義に遺産をお嫁さんに遺せる方法になるでしょう。
(2)養子縁組と生前贈与、遺言、生命保険などを組み合わせる
さらに養子縁組をしておき、生前贈与や遺言、生命保険金の受け取りなども組み合わせれば多くの遺産をお嫁さんに遺せる結果につながります。
ただし、お嫁さんが多くの遺産を引き継げば、相続人間でのトラブルに発展する恐れもあるでしょう。
また、養子縁組をすると相続人になりますので、生前贈与や遺贈を受けた場合、これらは「特別受益」となり、遺産分割の計算時に相続財産に持ち戻すということが行われます。
例えば、養子縁組をしたお嫁さんに1、000万円の生前贈与をしていて、最終的な相続財産が5、000万円だったとします。
この場合、基本的に生前贈与分の1、000万円は相続財産に持ち戻され、5、000万円+1、000万円の計6、000万円がみなし相続財産とされます(寄与分があれば、寄与分相当額については差し引かれます)。
6、000万円の相続財産を、例えば3人の実子と養子であるお嫁さんの計4名で相続する場合、1人1、500万円の相続となり、生前贈与で1、000万円譲り受けていた嫁は、1、500万円−1、000万円の500万円を相続することになります。
ここで、もしこの「持ち戻し」がなければ、5、000万円を4人で分け、1人1、250万円を相続し、お嫁さんは生前贈与分の1、000万円と合わせて総額2、250万円受け取れます。
こちらの方が得であることがお分かりになると思います。
実は、被相続人が、事前に「特別受益の持ち戻し免除」の意思表示をすれば、この「持ち戻し」をしない計算で相続をすることができます。
それには、遺言(公正証書)で「特別受益の持ち戻し免除」の意思を残しておくことです。
養子縁組をした上で特別受益(生前贈与など)も得る場合は、このようなことも起こり得ますのでご注意ください。
5、相続はトラブルに発展しやすい|”争続”を回避する方法
2019年の民法改正は、長年悩みの種だった介護を担うお嫁さんに遺産を相続できる可能性が見える新しい法律です。
しかし、金銭関係はトラブルが起きやすいもの。
これまでよりも遺産相続に関する争族が増加する可能性があります。
できるだけトラブルを回避する方法を見ていきましょう。
(1)遺言書を作成してもらう
相続人や相続分についてなど、民法に規定されていますが、これらは強行法規(守らなければならない法律で、当事者がこれと異なる意思表示をしても無効となるもの)ではありません。
相続は、家族の数だけその形があり、法律通りに相続することがその家族にとって合理的とは限りません。
そのため、事前に対策し、故人が生前に自ら理想の遺産分配に近づけていくことがお勧めです。
遺言は、事前対策の基本です。
故人が遺産をどのようにしたいのかを示すことにより、遺族間での協議の指針となります。
遺留分などの制限はありますが、プラスの財産が多い場合は特に、遺言により遺産の整理をしておくことが、その家族のあり方に沿った相続を行う、最も有効な方法なのです。
もし義親が、お嫁さんであるあなたに遺産を残したい気持ちがあるのであれば、この相続の基本についてお話し、遺言を残してもらうよう伝えてみるべきです。
(2)弁護士に相談・依頼する
遺言のない場合の争族ではもちろん、トラブルを回避する遺言を残すためにも、弁護士への依頼は欠かせません。
相続・受贈した財産を最大限生かすには、相続のさまざまな手法の検討、そして税金対策も必須です。
法律・税務の専門家である弁護士に相談・依頼して、損のない相続をしていきましょう。
まとめ
お嫁さんは、義父や義母の法定相続人ではありません。
しかし、遺言や養子縁組など他の手段で遺産相続ができる方法があります。
そして2019年の法改正によって、さらにお嫁さんでも遺産を獲得できる手段は増えました。
その代わりに親族との金銭トラブルに発展する恐れも増えるかもしれません。
トラブルにならないためにも早めに専門家に相談することをおすすめします。
あなたの苦労が報われますように!