離婚時に慰謝料が支払われるケースは多くありますが、全ての場合で支払われるわけではありません。あなたが妻であっても、状況によっては逆に慰謝料を支払う可能性もあります。
今回は、
- 離婚時に慰謝料を請求できる条件
- 慰謝料請求に必要な具体的な証拠
- 慰謝料を請求する方法と手続き
について分かりやすく解説します
目次
1、慰謝料請求できる条件を知る前に~そもそも慰謝料とは?
慰謝料といえば、いわゆる「迷惑料」のことだと考えている方も多いのではないでしょうか。
イメージとしては必ずしも間違いではありませんが、法的に認められる慰謝料とは、「他人の不法行為によって被害者が受けた損害に対して支払われる損害賠償金」のことを意味します。
法律の規定としては、民法第709条および第710条に基づいて認められるものです。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
引用:民法
迷惑料のうち、法律上の条件を満たしたものが「慰謝料」に当たるといえます。
2、慰謝料請求できる条件は3つ
先ほどご紹介した慰謝料の定義の中に
- 不法行為
- 権利または法的利益の侵害に基づく損害
という2つの条件が含まれています。
さらに、実際に慰謝料請求が認められるためには、消滅時効(一定の期間行使されなかった権利が消滅する制度)が完成していないことという3つめの条件も必要となります。
この3つの条件について、以下で具体的にご説明します。
(1)不法行為が行われたこと
不法行為とは、故意または過失によって他人の権利や利益を違法に侵害し、それによって相手に損害を与える行為のことをいいます。
故意による不法行為の典型例として
- 暴行や傷害などの犯罪行為
- 過失による不法行為の典型例として交通事故
などを挙げることができます。
離婚の事案でも、例えば不倫や浮気をした場合は、故意によって(状況によっては過失によって)配偶者の「パートナーの貞操を独占できる権利」を違法に侵害し、精神的な損害を与える行為ですので、不法行為に該当します。
これに対して、よくある「性格の不一致」の場合、通常は違法な行為がありませんので、たとえ精神的苦痛を感じていたとしても不法行為には該当しません。
(2)それによって損害が生じたこと
慰謝料の対象となる「損害」とは、精神的苦痛のことを意味します。
配偶者に不貞行為(配偶者以外の人と肉体関係を持つこと)をされると、通常は精神的苦痛を受けると考えられますので、慰謝料の対象となります。
しかし、「不法行為によって精神的苦痛を受けた」という因果関係が必要です。
配偶者が不貞行為をする前にすでに夫婦関係が破綻していた場合は、精神的苦痛を受けたとしても不貞行為との因果関係が否定されるため、慰謝料は請求できません。
(3)消滅時効が完成していないこと
上記の2つの条件を満たせば慰謝料請求権が発生しますが、消滅時効が完成すると請求できなくなります。請求しても、相手が時効の完成を主張すれば慰謝料を受け取れないことになります。
慰謝料請求権の時効期間は、次の2つのうち短い方の期間です(民法第724条)。
- 損害および加害者を知ったときから3年
- 不法行為のときから20年
離婚慰謝料については、損害も加害者(配偶者)も判明しているのが通常ですので、離婚後3年が時効期間となります。
ただし、DVなどでケガをさせられた場合は、その行為のときから5年が時効期間となります(同法第724条の2)。
3、離婚で慰謝料請求できる条件【離婚原因別】
次に、主な離婚原因ごとに、慰謝料請求できる条件をさらに具体的にご説明します。
(1)不倫・浮気
不倫・浮気の事例では、配偶者の「不貞行為」が不法行為に当たります。不貞行為とは、配偶者以外の異性と、自由な意思に基づいて、肉体関係を持つことをいいます。
したがって、不倫・浮気で慰謝料を請求するためには、配偶者が
- 自由な意思に基づいて
- 肉体関係を持ったこと
が必要で、かつ、この2点を証拠で証明する必要があります。
「自由な意思に基づいて」という条件は、強制性交で無理矢理に、あるいは何らかの力関係を利用して有無を言わせず関係を持たされたのではないということを意味します。
「肉体関係」とは、性交渉および口淫等の性交類似行為のことを指します。キスやハグ、手をつなぐなどの身体的接触は、それだけでは肉体関係に当たりません。
(2)DV・モラハラ
DV・モラハラの事例では、物理的な暴力で身体を攻撃する行為や、暴言・嫌がらせなどで精神的に追い詰める行為などが不法行為に当たります。
したがって、DV・モラハラで慰謝料を請求するためには、配偶者がこれらの行為を行ったことと、そのことを証拠で証明することが必要となります。
(3)悪意の遺棄
悪意の遺棄とは、夫婦の同居義務やお互いに協力し合って生活する義務に正当な理由なく背く行為のことです。
具体的には以下のような行為が考えられ、これらの行為が不法行為に該当します。
- 生活費を渡さない
- 正当な理由なく別居する
- 浮気相手の家で寝泊まりして帰ってこない
- 配偶者を家から追い出す
- 働けるのに働かない
- 家事をほとんどしない
したがって、悪意の遺棄で慰謝料を請求するためには、配偶者がこれらの行為を行ったことと、そのことを証拠で証明することが必要となります。
(4)セックスレス
セックスレスとは、日本性科学会の定義では「病気など特別な事情がないのに1ヶ月以上性交渉がないこと」とされています。
ですが、離婚や慰謝料請求が認められるためには、次の3つの条件を満たす必要があります。
- 誘いかけたのに拒否された
- セックスレスの状態が長期間続いていること
- 性交渉が困難な事情がないこと
したがって、セックスレスで慰謝料を請求するためには、配偶者がこれらの行為を行ったことと、そのことを証拠で証明することが必要となります。
こちらから性交渉を誘いかけても相手が拒否する行為が、不法行為に該当します。ただし、相手が病気などのために性交渉に応じられない場合は、故意も過失もありませんので不法行為は成立しません。
「長期間」という条件はケースバイケースですが、概ね1年以上は必要と考えられます。
4、不倫・浮気の相手方に慰謝料請求できる条件
配偶者が不倫・浮気をしたときは、その相手にも慰謝料を請求できる可能性があります。ここでは、不倫・浮気の相手方に慰謝料請求できる条件を解説します。
(1)婚姻関係にあったこと
第一の条件は、婚姻関係にある夫婦の一方が不倫・浮気をしたことです。
法律上の婚姻関係だけでなく、内縁の婚姻関係も含まれます。内縁の夫婦も法律上の夫婦に準じて、お互いに対して貞操を守る義務があります。そのため、他の異性と肉体関係を持つことは不貞行為(不法行為)となるのです。
これに対して、恋人間では貞操を守るべき法的な義務がないため、他の異性と肉体関係を持っても不貞行為(不法行為)にはなりません。したがって、恋人が浮気をしても慰謝料請求はできません。
(2)肉体関係を持ったこと
配偶者に対して慰謝料を請求できるのが他の異性と肉体関係を持った場合に限られるのと同様に、不倫・浮気相手に対して慰謝料請求できるのも、あなたの配偶者と肉体関係を持った場合に限られます。
肉体関係とは、先ほどもご説明したとおり、性交渉および口淫等の性交類似行為のことです。
したがって、
- 2人でデートをした
- キスやハグをした
- 手をつないだ
といった行為にとどまる場合は、相手方に対して慰謝料請求はできません。
ただし、肉体関係がなくとも、社会通念上「友人関係」と考えられる程度を越えた男女交際が行われ、そのために夫婦関係が破綻した場合は、慰謝料請求が認められることもあります。
この場合には、男女交際をしたことが、平穏な夫婦生活を送り権利を侵害する不法行為に当たると評価されるからです。ただ、肉体関係があった場合よりは慰謝料額は減額される傾向にあります。
(3)自由意思に基づく行為であったこと
不倫・浮気相手に慰謝料請求するときも、「自由な意思に基づいて肉体関係を持ったこと」が一つの条件となります。不倫・浮気相手に慰謝料請求すると、「あなたの配偶者が立場上の力関係を利用して関係を迫ってきたから、断れなかった」という反論をされることがよくあります。
男性上司と女性部下との関係で女性部下が「今後の仕事のことを考えると、断れなかった」というケースもあれば、男性でも「女性の方から執拗に誘ってきたので、断れなかった」というケースもあります。
相手方の自由意思が完全に制圧されていた場合は、相手方にとって不可抗力ですので不法行為が成立せず、慰謝料請求はできません。しかし、多くの場合は断ろうと思えば断れるものです。上記の2つのケースも、自由意思が制圧されていたとまではいえない可能性が高いです。
その場合には不法行為が成立し、慰謝料請求が可能です。ただし、断りにくかったという事情があるため違法性は低く、慰謝料は減額される傾向にあります。
(4)相手に故意・過失があったこと
不倫・浮気相手の「故意・過失」とは、交際相手が既婚者であることを知っていた(故意か、通常の注意を払えば知ることができた(過失)ことです。不倫・浮気相手から、あなたの配偶者のことを「独身だと思っていた」と反論されることもよくあります。
本当にそう信じていたとしても、通常の注意を払えば知ることができたといえる場合には過失が認められるため、慰謝料請求が可能です。
例えば、
- 休日には会ってくれない
- 泊まりのデートには応じてくれない
- 一緒に写真を撮るのを嫌がる
- 自宅には呼んでくれない
- 自宅の連絡先を教えてくれない
といった事情がある場合は、交際相手が既婚者ではないかと疑うべきといえるので、不倫・浮気相手の過失が認められる可能性が高いです。
ただし、あなたの配偶者が独身だと偽って関係を持った場合は、相手の違法性が低いため、慰謝料額は減額される傾向にあります。
(5)婚姻関係が破綻していなかったこと
離婚前でも、婚姻関係が破綻した後に不倫・浮気をされた場合は、慰謝料請求はできません。不貞行為によって婚姻関係が破壊されたという因果関係が認められないからです。
ただ、本当に婚姻関係が破綻していたかどうかの判断は難しいケースも少なくありません。
たとえ別居や仮面夫婦の状態であっても、一方が婚姻の継続を望んでいる以上は完全に夫婦関係が破綻しているとは認められず、慰謝料請求が可能なケースもあります。
別居が長引いている場合(概ね5年以上)や、夫婦がお互いに離婚を考えていて離婚条件の話し合いをしていたような場合は、完全に夫婦関係が破綻していると認められる可能性が高いといえます。
5、慰謝料請求するには証拠も重要~必要な証拠と集め方
ここまでは、主に法的な理論上の「慰謝料請求できる条件」を解説してきました。
しかし、実際に慰謝料請求するためには証拠を確保しておくことも重要です。証拠がなければ、相手が事実を否定した場合に話し合いを進めることができないからです。裁判をする場合も、証拠の裏付けがない主張は認められません。
そこで、主な離婚原因ごとに、必要な証拠と集め方をご紹介します。
(1)不倫・浮気の証拠
不倫・浮気で慰謝料を請求する場合は、肉体関係があったことを証明できる証拠が必要です。有力な証拠として、以下のものがあります。
- 2人でラブホテルに出入りする写真
- 性交渉の模様を撮影した画像や動画
- メールやSNSのやりとりで、肉体関係があったことが分かるもの
- 配偶者や不倫相手が不倫・浮気を認めた発言の録音または書面
- 領収書
- クレジットカードの利用明細
- GPSの記録
証拠の集め方としては、
- 配偶者を尾行する、
- 携帯やスマホに保存された動画像やメッセージを撮影する
- 家の中にある領収書やクレジットカードの利用明細を保管する
- 車などにGPSを設置する
などが考えられます。
決定的な証拠を押さえるためには、相手に気づかれずに証拠収集を進めることがポイントとなります。
ただ、不倫・浮気は内密に行われるため、証拠集めは難しい場合も多いです。配偶者といえども携帯やスマホを勝手に見ることはプライバシー侵害となるという問題もあります。
自力で証拠を集めるのが難しい場合は、プロの探偵に調査を依頼することも検討してみましょう。
(2)DV・モラハラの証拠
DV・モラハラで慰謝料を請求する場合は、DV・モラハラ行為が行われたことを証明できる証拠が必要です。
相手が暴力を振るったり、暴言を吐いたりしている場面を録画または録音しておくと、強力な証拠となります。
相手の行為によってケガをしたり、精神的な不調をきたした場合には、
- ケガの状況の写真や
- 医師の診断書
- 病院の領収書
などを保管しておきましょう。
これらの証拠がない場合は、
- 日々、どのような行為を受けたのか
- それによってどのような気持ちになったのか
を日記などに継続的に記録しておくことが大切です。
その他にも、相談機関や警察などに相談した履歴、相談した友人や両親など第三者の証言も証拠となります。
(3)悪意の遺棄の証拠
悪意の遺棄の行為にはさまざまなバリエーションがあるので、ケースによって集めるべき証拠が異なります。
生活費を渡してもらえないケースなら、相手が給料を受け取っている口座の通帳の写しや、家計簿などが証拠となります。相手が家に帰ってこないケースなら、日々の生活状況を継続的に綴った日記や、相手とのメールのやりとりなどが証拠となります。
相手が浮気相手の家に入り浸っているような場合には、探偵の調査報告書が有力な証拠となることもあります。
(4)セックスレスの証拠
セックスレスで慰謝料を請求するには、こちらから誘っても拒否されたことと、長期間にわたって性交渉がないことを証明できる証拠が必要です。
こちらから誘いかけ、相手が拒否する場面を録画または録音しておくと、有力な証拠となります。
また、日記などに夫婦関係の状況を継続的に記録しておくと証拠として使えます。その日記の中に、
- こちらからどのように誘いかけたのか
- 相手がどのような断り方をしたのか
- 断られて自分はどのような気持ちになったのか
も書いておきましょう。
6、条件がそろったら…慰謝料請求をする方法
慰謝料請求できる条件を満たし、証拠もそろったら、いよいよ慰謝料を請求することになります。
ここでは、慰謝料請求をする方法を簡単にご説明します。
(1)話し合い
まずは、当事者で話し合いをします。その結果、合意できるのであれば金額は自由に決めることができます。
配偶者に対して慰謝料を請求する場合は、離婚協議の中で慰謝料についても話し合うのが一般的です。
不倫・浮気相手に慰謝料を請求する場合は、内容証明郵便で請求書を送るのが効果的です。内容証明郵便を受け取った相手が連絡してきたら、必要に応じて話し合いを始めます。
合意ができたら、約束した内容を書面にして証拠化しておきましょう。
- 配偶者と離婚する場合には離婚協議書
- 不倫・浮気相手と示談が成立した場合は示談書または誓約書
などを作成します。
(2)調停
配偶者との離婚協議がまとまらない場合は、離婚調停を申し立てます。
離婚調停では、家庭裁判所の調停委員が双方から話を聞き、助言や説得を交えて話し合いを進めてくれます。そのため、夫婦だけで話し合うよりも合意に至る可能性が高まります。
調停での話し合いを有利に進めるためには、調停委員に実情を把握してもらうことが大切です。そのためには、実態を分かりやすく説明するとともに、証拠を示すことが重要となります。
(3)裁判
離婚調停がまとまらない場合や、不倫・浮気相手との話し合いがまとまらない場合は、裁判を起こします。
配偶者に対しては「離婚請求訴訟」、不倫・浮気相手に対しては「慰謝料(損害賠償)請求訴訟」を起こすことになります。
裁判では、双方が主張と証拠を提出し合い、最後に証人尋問や本人尋問を行って、どちらの主張がより的確に証明されたかを裁判官が判断します。そのため、裁判をする前に証拠を十分に確保しておくことが必須となります。
7、離婚で慰謝料請求できるか不安なときは弁護士に相談を
慰謝料請求できる条件を満たすかどうかを的確に判断するには、専門的な知識が必要です。不安なときは、弁護士に相談することをおすすめします。
離婚問題に詳しい弁護士に相談すれば、
- 慰謝料請求が可能かどうか
- 可能な場合にはいくら請求できるか
について、的確なアドバイスが得られます。
依頼すれば、相手との話し合いを代行してくれますし、調停や裁判が必要となった場合も全面的にサポートが受けられます。証拠集めもサポートしてもらえますし、探偵を紹介してもらえることもあります。
一人で抱え込まず、弁護士の力を借りて納得のいく結果を目指しましょう。
まとめ
離婚や配偶者の不倫・浮気でつらい思いをしても、必ずしも慰謝料を請求できるとは限りません。
しかし、慰謝料請求できる条件を満たす場合には、適正な金額の慰謝料を受け取りたいところです。
自力で証拠集めや慰謝料請求がうまくいかない場合は、弁護士のサポートを受けることが効果的です。お困りの際は、気軽に弁護士に相談してみましょう。