
熟年離婚の慰謝料の相場はいくらでしょうか?
そもそも「慰謝料」とは精神的苦痛に対する損害賠償ですから、精神的苦痛を受けた側が与えた側から受け取るお金です。例えば夫からのハラスメントを受けてきた、というようなケースで発生します。
では、熟年離婚における慰謝料の特徴とはなんでしょうか。
それは、精神的苦痛が長年に及んでいる、ということです。
そんな場合、慰謝料は高額になるのでしょうか。
今回は、
- 熟年離婚における慰謝料の相場
について、数々の離婚問題の相談を受けてきた、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説していきます。
ご参考になれば幸いです。
「離婚 慰謝料」について詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
目次
1、熟年離婚における慰謝料|慰謝料額は婚姻期間に比例する
慰謝料を左右する要素は「肉体的・精神的被害の大きさ」ともう1つ、「婚姻期間(結婚生活)の長さ」も大きな要素の1つといえるでしょう。
「婚姻期間の長さ」が慰謝料に影響するのは、結婚期間が長いと精神的な苦痛を長く受けたと考えられるからです。
一般的に離婚の際に受け取ることができる慰謝料の相場は、数十万~300万円程度とされていますが、不貞行為を20年継続されたことを考慮されて慰謝料500万円を受け取った事例もあるのです。
2、慰謝料を請求できる3つのケース
実は、慰謝料は離婚したときに必ず請求できるものではありません。
慰謝料とはいわゆる「精神的苦痛」に対する損害賠償です。
離婚においてこのような「慰謝料」を請求できるケースに共通することは、相手方に一方に婚姻関係を破綻させるような非があったときと言えるでしょう。
ではどのような場合に慰謝料を請求できるのか、主に3つのケースで解説していきます。
- 配偶者が不貞行為(不倫・浮気)を行っている場合
- 配偶者に暴力(DV)や暴言(モラハラ)をされている場合
- 悪意の遺棄(生活費を入れない、家に帰らない等)をされている場合
以上の3つのケースのどれかに該当するとき、慰謝料を請求することが可能です。
(1)配偶者が不貞行為(不倫・浮気)を行っている場合
結婚は、肉体関係を配偶者に限るという約束という意味もあります。
これは、日本人の一般的感情に合致したことでもあるでしょう。
そのため、結婚においては肉体関係を他人と築かないという相手への信頼がありますので、信頼を裏切ることによる精神的苦痛が発生すると考えられるわけです。
不貞行為の慰謝料の相場は、裁判例を参考にした場合、数十万~300万が多いと言えます。
(2)配偶者に暴力(DV)や暴言(モラハラ)をされている場合
暴力は基本的に犯罪行為です。
また日常的な暴言は、相手に悪い印象を与えるのみであると言っても過言ではありません。
そのため、暴力や暴言も、慰謝料の対象となります。
暴力や暴言に対する慰謝料の相場は、数十万~300万円と想定していいでしょう。
以下のような客観的な証拠を集めることが重要です。
- 暴力を受けた際の傷跡の写真(念のためご自身の顔がわかるように撮影しておいた方がよいでしょう)
- 医療機関の診断書や通院の記録(通院の回数などがわかるもの)
- 警察や配偶者暴力相談支援センター等への相談記録
- 暴言を記録したボイスレコーダー
特に医療機関の診断書については客観的な証拠として有用です。
また警察や相談支援センターへの相談記録なども客観的な証拠としては充分といえるでしょう。
これらの客観的証拠を何らかの事情で集められない場合は日記を書いておくことも重要です。
暴力や暴言の内容、それに日付など出来る限り具体的に記録しておくことで証拠の一つとなります。
ただし配偶者に見られないよう管理は厳重にする必要があります。
(3)悪意の遺棄(生活費をいれない、家に帰らない等)をされている場合
悪意の遺棄とは、基本的に配偶者や共同生活をないがしろにするような行為のことを指します。
具体的には以下の行為が悪意の遺棄にあたります。
- 生活費を渡さない
- 理由なく同居を拒む。配偶者を家から追い出す。浮気相手の家に入りびたる。
- 健康なのに働かない
結婚は、共同生活です。そのため、故意的に相手への扶助放棄することは相手をおとしめることにつながり、そこから精神的苦痛が発生すると考えられ、慰謝料の対象となり得ます。
悪意の遺棄の慰謝料の相場は、数十万~300万といわれています。
これらの場合も先の2つのケースと同様に証拠を集めることが重要ですが、先ほどのケースと比較すると客観的な証拠が何なのかわかりにくいかもしれません。
悪意の遺棄に該当する場合に用意できる客観的な証拠は以下のものです。
- 生活費が渡されていないことがわかる預金通帳
- 配偶者が浮気相手と借りている賃貸契約書
- 仕事を辞めた記録
家を出た後の住居がわかるような契約書を確保することは簡単ではないでしょう。
そんな時も、日記に配偶者が家を出た日付や家にいない日数など出来る限り詳しく記載しておきましょう。
証拠がないことに比べれば、日記等の記録があるほうがずっと裁判が有利になります。
3、慰謝料を請求できないケース
一方で、どのようなケースは慰謝料が請求できないのでしょうか。
それは、相手に非がないケースです。
「非がある」とは、客観的な「非」でなければなりません。
つまり、「性格が合わない」というような、どちらが悪いのかがはっきりとしないような理由では、基本的に慰謝料は発生することはありません。
しかし、「家事をしない(料理をしない等)妻」は「非」なのかどうか、「相手から殴られたけれど自分も不貞行為をした」というようなお互いに非がある場合はどうなのかなど、一筋縄ではいかないのが離婚事由。
こんな場合はどうだろう?というときは、迷わず弁護士に相談してみましょう。
4、過去の不倫、DV、遺棄でも慰謝料を請求できるのか?
熟年離婚の場合、「2」でご紹介した事由がすでに「過去」である、という場合も多いでしょう。
過去に浮気・不倫があったものの、実はずっと子供のために我慢して離婚ができなかった、というようなケースです。
慰謝料請求権には時効があり、基本的に、当該行為に対する慰謝料請求は、当該行為(浮気、DV、遺棄等)を知ってから3年以内にしかできません。
しかし、当該行為に対する慰謝料ではなく、「離婚」自体に対する慰謝料というものもあります。
つまり、離婚などしたくなかったのに相手のせいで離婚せざるを得ない、その精神的苦痛への慰謝料というものもあるのです。
この「離婚」自体への慰謝料については、時効は離婚から3年です。
ですので、離婚から3年以内であれば、過去の行為が原因で離婚をする場合も慰謝料の請求は可能です。
ただ、ここで問題なのは、過去の当該行為について、どれだけ証拠があるかどうかです。
現実問題として、過去であればあるほど証拠と言えるものは、なかなか残っているものではありません。
確かに残っているのは、あなたの気持ちだけです。
その気持ちを聞き、引き出せるのは弁護士だけ。
ぜひ弁護士に溜まった気持ちを吐き出しましょう。
弁護士はあなたの気持ちを受け止め、証拠化して慰謝料の交渉に望みます。
今もなお配偶者の不倫等に悩んでいるという方はもちろん、過去の不倫、DV、遺棄等を原因として熟年離婚せざるを得ず、慰謝料をもらいたいという場合も、ぜひ弁護士にご相談ください。
5、熟年離婚では慰謝料よりも「財産分与」に着目しよう
慰謝料の相場が数十万~300万程度であることを考えると、慰謝料だけで離婚前の生活水準で暮らしていくことは難しいかもしれません。
またそもそも慰謝料は、原則として法定離婚事由を相手が作った場合にしかみとめられません。
そのため、離婚時でもっとも大切なお金のこと、「財産分与」について、以下ご説明してまいります。
(1)財産分与とは
離婚時のお金で忘れてはいけないのが「財産分与」です。
財産分与とは、夫婦がともに築き上げてきた財産を分割することを指します。
「専業主婦で私は財産を築いていない」などと考えるのは間違いです。
共働きであれ専業主婦であれ、婚姻生活において得た財産は、夫婦がともに築き上げた財産とみなされます。
財産分与の対象になる代表的なものは以下のものです。
- 預貯金(結婚後に貯めたもの)
- 不動産や有価証券
- 家具・家電
- 借金
財産分与の対象になるかの基準は「夫婦が共同生活で培ったものかどうか」です。
一方が個人的に買った株や、ギャンブルなどで生じた借金は財産分与の対象にはなりません。
借金について対象になるという意味は、二人で返していくということではなく、マイナスの要素として考慮するということです。
例えば、預貯金が3,000万円あり、借金が500万円あるときは、差し引き2,500万円をふたりでわけるという具合です。
財産分与の対象になるのかどうかを決めることは重要であるため、わからないときや不安なときは弁護士に一度相談したほうが良いでしょう。
(2)将来の夫の退職金や年金も対象
将来の夫の退職金や厚生年金保険も、夫婦の共有財産とされます。
退職金については概ね次のような計算方法で考えることが多いでしょう。
退職金の総額×婚姻期間÷その会社で働いていた期間×妻寄与分(通常は2分の1)
こちらの式で出た割合が、配偶者が受け取れる退職金の割合となります。
ここで注意が必要なのは、すでに退職金をローン等で全額使っていた場合は請求できません。
厚生年金については「年金分割」を行います。
年金分割についての詳細は、こちらの記事をご覧ください。
まとめ
男性が偉いと信じて疑わなかった結婚当初から、時代は変わりました。
それと同時に、夫の行為に我慢し続けてきた自分を発見し、これ以上我慢できないと、新しい人生を歩むべく熟年離婚を選んだことでしょう。
わがままだった夫は、修正はもはや不可能でしょうか。
そのような状態であれば、離婚のときには、慰謝料を心を込めて支払うべきです。
慰謝料の請求には「証拠」が必要ですが、もしも客観的な証拠がなくとも、弁護士は、今確実に残っているあなたの気持ちを拠り所として慰謝料の交渉に挑みます。
また、財産分与の有利な進め方、年金分割の仕方など丁寧にアドバイスし、あなたの今後の経済面もサポート。
安心して熟年離婚を進め、あなたの人生を取り戻すための強力な味方となっていくことでしょう。
熟年離婚でお困りの際は、どうぞ弁護士にご相談ください。