遺言については、どこに相談すればよいのでしょうか。
遺言を残そうと思っても、本当にその通りに相続をしてもらう保証がないことに不安を抱く方は少なくないと思います。
無駄に争って欲しくない気持ちがある一方、最後の気持ちを示したい、遺言はとても気を遣うものでもあるでしょう。
そんなときは、やはり専門家へ相談しながら記載するのがオススメです。
ところで、「相続させる」と「遺贈する」の違いをご存知ですか?(※)
実はこんな言葉づかいについても、本来は専門家のアドバイスが必要なのです。
今回は、
- 遺言を専門家に相談すべきケース
- 遺言作成の注意ポイント
- 遺言作成の相談先
についてご紹介していきます。ご参考になれば幸いです。
※一般に「相続させる」といえば、法定相続人に相続させることです。「遺贈する」は法定相続人以外の人に相続財産を無償で譲ることです。
相続の相談について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
1、遺言作成を相談すべきケース
遺言がなければ、原則、相続財産は相続人に法定相続分に従って承継されます。
遺言を作っておくべきなのはどんな場合でしょうか。
本項では、代表的な事例をご紹介します。
(1)法定相続分と異なる相続を望む場合
「この財産は是非あの人に相続させたい」「世話になった長男に法定相続分より多めに相続させたい」などという場合です。
遺言がなければ、思うように相続をコントロールすることはできません。
遺言書でしっかり書きこんで誤解・曲解されないようにすべきです。
①特定の財産を特定の人に相続させたい場合
「自宅は妻に残して、住み慣れた場所で過ごしてほしい。子供たちには預金や有価証券を渡すことにしたい。」といったお気持ちなら、遺言で明確にしておくべきです。
なお、不動産の表示を正確に記載することも紛争防止に必須です。
自分ではわかっている、相続人もみんな知っている、などと、安易な記載をすると遺言の効力に問題が生じます。
②特定の相続人に法定相続分以上に相続させたい(または法定相続分以下にしたい)
長男夫婦には同居して長く世話になった。
特に嫁にはお世話になった。
長男の相続分を多くして嫁に報いてやりたいなどという場合です。
後述の遺留分や特別受益などとの関係も考慮し、どのように記載するか、なども専門家のアドバイスを受けるべきでしょう。
(2)法定相続人以外に遺贈したい場合
同居して尽くしてくれた長男の嫁に遺産を残したいなどという場合です。
ご長男が存命ならご長男の相続分を増やせば対応できるかもしれません。
ご長男が他界されていると、そのままではご長男の法定相続分は代襲相続として長男の子(お孫さん)に相続されたり、また長男に子供がないと他の子供たち等に相続され、お嫁さんの分として遺産を残してあげることができません。
また、それ以外にも、内縁の妻や、親しい友人に残したい、お世話になった病院に寄付したい、母校に寄付したい、公益事業に寄付したい等様々なニーズもあるでしょう。
遺言で誰に何を残すのか(遺贈)を明確にしておく必要があります。
(3)これまで生前贈与をしてきた場合・特定者に生命保険がおりる場合(特別受益)
①特別受益とは何か
法定相続人に生前贈与をしてきたとか、特定の相続人に生命保険金が支払われる場合などの問題です。
特別受益とは、亡くなった方(被相続人)から相続人が生前に贈与を受けるなどした利益(死後に受けた贈与も含みます)があった場合に、利益を受けた相続人とそうでない相続人の間の不平等を是正するものです。
例えば、兄弟2人が相続人、相続財産が1億円、兄が被相続人の生前に1千万円の贈与を受けていたとします。
この場合、1億円+1千万円を相続財産として扱います。
この生前贈与の1千万円を相続財産に繰り入れる扱いを「特別受益の持ち戻し」といいます。
兄・弟ともに法定相続分に従って半額ずつ5千5百万円を相続する場合、兄はすでに1千万円をもらっていますので、兄に4千5百万円、弟に5千5百万円相続する、という扱いになります。
なお、生命保険の保険金は保険金受取人の「固有の権利」であり、相続財産に含めず(持ち戻しをせず)、保険金受取人についても特別受益者としないのが通例です。
ただし、これも例外があります。専門家のアドバイスを受けておくことをお勧めします。
②特別受益の持ち戻しをさせたくない場合の対応
遺言により「持ち戻しの免除」をあらかじめ定めておくことができます。
例えば、被相続人の意思として、長男は自分の事業の後継者として、特別の教育経験を積ませたかったから学資を出した、等といった場合であれば、「生前贈与があったとしても、その分は特別受益の計算を行わない」という扱いを遺言で定めておくことが可能です。
ただし、遺言書にどのように記載するか、また持ち戻しの免除で遺留分を侵害することがないか等、専門的な検討が必要です。
特別受益について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(4)これまで特定の方のお世話になってきた場合
被相続人の事業に貢献したとか、療養看護に尽くしてきた方などについてちゃんと報いたい、という場合にも遺言で明記することが役に立ちます。
民法では法定相続人の「寄与分」とか法定相続人以外の「特別寄与料」という制度で明記されていますが、詳しく知っている人は少ないでしょう。
法律の制度を確認したうえで、被相続人の意思として遺言に明記しておくことをお勧めします。
専門家のアドバイスを受けてください。
①共同相続人の「寄与分」
例えば、次のようなケースです。
長男が被相続人の事業を手伝ってきた、次男が被相続人の事業に資金を提供していた、長女が仕事をやめて入院中の世話に尽くしてくれた。
相続人間の協議で、寄与分はその人の相続財産に加えることができます(共同相続の財産から寄与分は除いて計算し、当該相続人が寄与分を相続します。民法904条の2)。
遺言で寄与分の指定も可能です。
②共同相続人以外の親族の「特別寄与料」
共同相続人でなくても、親族で被相続人の事業に貢献したとか、療養看護に尽くしてきた方については、「特別寄与料」の支払いを相続人に請求できるようになりました(民法1050条)。
これも、遺言で明記しておけば、相続人の協議より優先します。
お世話になった親族に確実に報いることができます。
③親族以外の方への遺贈
「寄与分」は法定相続人、「特別寄与料」は法定相続人以外の親族についての制度ですが、このような方以外でも、お世話になった方に遺言で相続財産を遺贈することはもちろん可能です。
(5)遺言で認知したい場合
結婚していない女性との間で子供ができたが、妻や家族などのトラブルなどを恐れて生前には認知できなかった、という場合などでは、遺言により認知することができます(遺言認知)。
これによりその子供は晴れて子となり、相続権も発生します。
ただし、認知される子供の承諾が必要です(子供が未成年の場合には母親の承諾)。
また遺言執行者を定めておくことも必要です。
必ず専門家のアドバイスを受けておくべきです。
(6)遺言で相続人を廃除したい場合
相続人による虐待や重大な侮辱行為がある場合に、こんな相続人には相続させたくない、ということもあるでしょう。
遺言で特定の相続人を相続人から外す「廃除」という方法が認められています(民法893条)。
遺言執行者が相続開始後に家庭裁判所に廃除の請求をして、認められればその相続人は廃除されます。
廃除ができる要件も手続きも厳格に定められています。
専門家の助言を得て対応してください。
なお、この他に被相続人に対する犯罪行為などで「相続欠格」として法定相続の権利が剥奪されることもあります(民法891条)。
仮に該当しそうなケースがあれば、専門家に相談しておくべきです。
(7)記載方法に自信がない場合
ここまででもお分かりの通り、遺言書はちょっとした記載の違いで効力に問題が生じます。
遺言には厳格な様式が定められており、これに従っていないと無効になってしまいます。
決して独りよがりで書いてはいけないものなのです。
一般に用いられている遺言の種類と、注意点に触れておきます。
①自筆証書遺言
全文自筆で書くやり方です(ワープロなどはだめです)。
日付や署名押印なども必須です。
誰にも知られずに書くことができますが、逆に間違いを起こしやすいものです。
書き方などの注意点は次の記事を参照してください。
②公正証書遺言
公証人の面前で2人の承認に立ち会ってもらって、遺言者が公証人に遺言の趣旨を口頭で説明(口授)、公証人に遺言書を作ってもらうやり方です。
法律の専門家である公証人が作ってくれるので、内容・形式の不備はまずありえません。
しかも、遺言書は公証人役場で保管してくれます。多少の費用は掛かりますが安全確実なやり方です。
詳細は次の記事を参照してください。
このほかに「秘密証書遺言」等もありますが、一般的ではないので説明は省略します。
(8)適切な保管ができない場合
遺言書は相続人には見られたくないし、知られたくないでしょう。
とはいえ、自分だけが分かる場所に保管していると、いざ相続発生時に法定相続人など関係者が遺言書を見つけられない、作ったのに役立たない、ということになりかねません。
また、紛失・毀損といったおそれもあります。
公正証書遺言がその点ではお勧めですが、公証人にも2人の証人にも内容が知られてしまうのを嫌がる人もいるかもしれません。
どの様式の遺言を作り、どのように保管するか、ということも専門家のアドバイスを受けておくべきです。
2、遺言書に書くことのまとめ
以上も踏まえて、遺言書に書くべき代表的な事項をまとめておきましょう。
(1)身分関係
- 相続人の廃除・欠格
- 子の認知
これらは遺言執行者によって家庭裁判所に申し立ててもらって初めて効力が生じます。
(2)相続分の指定(民法902条)
法定相続分にかかわらず、遺産の取り分を、遺言者が自由に決定することも可能です。
たとえば、妻に少し多めに、疎遠な子供たちは少なめに、などといったことです。
(3)遺産分割方法の指定・分割の禁止(民法908条)
遺産の分割方法を指定したり(居宅は妻に相続させるなど)、分割方法を第三者に委託するといったことも可能です。
また、相続時のもめごとを避けたいといった事情で、相続開始から5年を超えない期間で、遺産分割を禁ずることもできます。
(4)遺贈などの相続財産の処分に関すること(民法964条)
相続人以外の人への相続財産の遺贈を定めることができます。
(5)遺言執行者の指定または指定の委託
遺言執行者は、預貯金の名義変更や土地の変更登記のような手続を執行してくれる人です。
前述の廃除や認知などもこれらの手続きの一つです。
遺言で遺言執行者を指定したり、第三者に指定を委任することが出来ます。
3、遺言作成で注意すべきポイント
では、実際に遺言を作成していく上での注意ポイントを時系列で確認しておきましょう。
遺言は被相続人の最終の意思であり、最大限尊重されますが、それでも一定の制約もあります。
「遺言の通りにならない」ということを回避するポイント、としてご一読ください。
(1)まず財産を整理する
これは何よりのポイントであり、真っ先に取り組むべきことです。
ここで間違っていると、後で相続人間のもめごとになりかねません。
(2)法定相続人を確認し、廃除したい者は明確に
法定相続人を取り違えていると、遺産分割の前提が崩れてしまいます。
相続開始後に隠れ相続人が出てきたら、相続人間でまとまっていた遺産分割協議も無効になってしまいます。
逆に、廃除したい相続人がいるなら、これも明確にしておく必要があります。
また、前述の特別受益や特別寄与者等の注意すべき相手を把握しておくことも必要です。
繰り返しですが、必ず専門家のアドバイスを受けてください。
(3)遺留分を考慮する(民法1042条)
遺言でも、法定相続人の遺留分を侵害することはできません。
遺留分は、一定の範囲の法定相続人に認められている最低限の遺産取得分です。
単純にいえば、兄弟姉妹以外の法定相続人について、法定相続分の半分の遺留分が認められているとお考えください。
2人の子供のうち、1人に全額を相続させ、もう一人には1銭も相続させない、といった乱暴な遺言を残した場合、相続させた子供が相続させなかった子供から遺留分侵害額請求を受ける可能性があり、兄弟間の争いのもとになってしまうかもしれません。
遺言での相続分や遺産分割方法の指定、遺贈などについて、遺留分を侵害しないように定めることが望ましいでしょう。専門家のアドバイスがここでも必要です。
遺留分の詳細は次の記事をご覧ください。
(4)遺言執行者を選任する
遺言を実際に執行する事務手続きの担当者です。
遺言執行者の候補者に依頼をして承諾を得ておいてください。
また、遺言執行者の指定をどなたかに委託したいのなら、その方の承諾を得ておいてください。
(5)遺言の趣旨は付言として残す
どのような趣旨でこのような遺言にしたのか、趣旨を書いておきます。
万一不明なことがあった場合などに解釈のよりどころになります。
(6)定期的な見直し
一度遺言を作っても、その後ご自身の気持ちが変化したり、あるいは相続人の事情の変化から別途配慮したくなることも出てくるでしょう(例えば、孫が生まれた、など)。
相続財産の価値が変動することもあるでしょう。
遺言は定期的に見直すべきです。
4、遺言書作成の相談先
遺言書作成については、様々な専門士業者が関与してくれます。
その特徴をまとめてみました。
(1)行政書士
主に「書面」を作成する専門家です。
遺言書や遺産分割協議書の作成を依頼することが可能ですし、戸籍謄本の取り寄せや、相続による名義変更手続きも代行してくれるでしょう。
身近な専門家ですが、業務の範囲は限定されています。
(2)司法書士
主に「登記」について代行する業務です。
不動産の所有権移転登記を主に代行してくれます。
なお、行政書士の行う業務は司法書士でも対応可能です。
(3)税理士
税理士は主に「相続税」の専門家です。
相続税額の算出、土地・家屋の財産調査、相続税の節税に関するアドバイスもしてくれるでしょう。
遺産分割や遺言書作成に関するアドバイスも頼めるでしょう。
最終的な相続税の申告・納付も税理士の専門分野です。
ただし、全ての税理士が相続に強いわけではありません。
後述の参考記事で、相続に強い税理士の選び方も解説していますのでご覧ください。
(4)弁護士
相続の問題は相続税だけではありません。
相続人の確定、遺言書形式などの不備や内容の解釈、遺産分割をめぐる争いなど、さまざまな法律問題が引き起こされます。
このような時は法律の専門家である弁護士の出番です。
以上を考えるなら、トータルでのサポートが可能なのは税理士や司法書士も所属している法律事務所、ということになるでしょう。
もちろん、もめごとがない単純な相続・遺言ならば行政書士や司法書士で足りるかもしれませんし、費用も安くつくでしょう。
トラブルの懸念があったり、内容が複雑ならば、トータルサポート可能な法律事務所を選択すべきです。
まとめ
以上でまとめたのは、遺言書作成にあたってのごく基本的な注意事項です。
財産の状況や相続人、他の関係者の状況により、遺言作成の注意事項はさらに広範なものになります。
この記事を一つの手がかりにして、相続発生が見込まれるなら、ともかく早め早めに弁護士など専門家に相談してください。
早めの準備が、後の紛争を避けるための一番の道です。
ご自身の思いを確実に遺すために、この記事が少しでもお役にたつことを願っています。