モラハラする夫(妻)と離婚する場合、どのような点に気を付ければよいのでしょうか。
モラルハラスメントとは、身体的な暴力ではなく、精神的な攻撃による嫌がらせのことをいいますが、程度によってはモラハラを理由として離婚することも可能です。
もっとも、配偶者によるモラハラに悩みつつ、「本当は優しい人だから」「子どものために」などと考えて離婚に踏み切れない方も少なくないことでしょう。
しかし、夫婦間であってもモラハラは許されることではありませんし、時にはDVに発展してしまうこともあります。我慢を重ねているとあなたの心身が病んでしまう原因に。。。
また、モラハラ夫(妻)に離婚を切り出すと難色を示されたり、逆に態度を翻して「反省している。やり直してほしい」とすがって交渉してくるケースも多々あります。
そのため、離婚したくてもモラハラ夫(妻)から離れられずに苦しみ続けている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、
- モラハラ夫(妻)と離婚はできるのか
- モラハラ夫(妻)と離婚するために準備すべきこと
- モラハラ夫(妻)との離婚を成功させる方法
などを中心に、モラハラ夫(妻)との離婚について知っておいていただきたい7つのことを解説していきます。
配偶者によるモラハラから逃れて平和な生活を取り戻すために、ぜひ参考になさってください。
目次
1、モラハラ夫(妻)とは離婚すべき?
モラハラ夫(妻)はひどい言葉を投げかけてくる反面、すごく優しいときもあります。
モラハラの被害者自身も「自分が悪い」「自分がいなければ相手がダメになってしまう」などと考えてしまう傾向があります。そのため、いったんは離婚したいと考えても、気持ちが揺れ動いて決断できない人も多いものです。
しかし、悩んでいるだけでは何も解決しません。
ここでは、モラハラ夫(妻)との離婚について、どのように考えるべきかをご説明します。
(1)モラハラは命を落としてしまう原因にも。。。
モラハラは、身体的な暴力のように物理的な怪我を負わせるものではありません。
しかも、モラハラ行為を一つひとつ取り上げて見ると、それほど悪質でもなく、些細といえば些細なことも多いものです。
しかし、モラハラは目には見えなくても、立派な精神的暴力です。
些細なモラハラ行為の積み重ねによって徐々に洗脳されてしまい、自分に対する自信が失われ、無力感に支配されるようになっていきます。やがて相手に服従するようになり、一切の抵抗ができなくなってしまいます。
このような状態が長期間にわたって続くと心身に不調をきたし、うつ病になったり、ストレスからくる肉体的疾患を発症することもあります。最悪の場合は、自殺してしまう人も実際にいます。
そう考えると、モラハラによる被害はある意味で身体的暴力を伴うDVよりも深刻な問題ともいえます。
(2)モラハラは治らない?
モラハラは絶対に治らないというわけではありませんが、このまま夫婦生活を続けていても相手のモラハラが治る可能性は非常に低いでしょう。なぜなら、モラハラ夫(妻)との夫婦生活をある程度続けていると、お互いに依存し合う「共依存」の関係ができ上がってしまっているからです。
モラハラ夫(妻)は、相手を攻撃することでストレスを発散するとともに、相手を支配しているという精神的な満足感も味わっています。それに対してモラハラ被害者の方も、相手に服従することに自分の存在意義を見出しているところがあります。
このような2人が夫婦関係を続けても、モラハラがエスカレートすることはあっても、自然に治ることはほとんどありません。
本気でモラハラを治すためには、専門のカウンセラーや精神科医による治療を受けることが必要ですが、それでも完全に治すことは容易ではありません。
(3)離婚を検討した方がお互いのためになる
モラハラ夫(妻)といえども、すべての人に対してモラハラ行為をしているわけではありません。ほとんどの場合、モラハラ行為をする相手は配偶者だけであり、他の人に対して温厚で礼儀正しく、信頼の置ける人であることも多いものです。
このように、モラハラ行為は相手によって出たり出なかったりします。ということは、モラハラを解消するためのベストな方法は、ターゲットとされているあなたが相手と離れることであるということができます。相手にとっても、ターゲットがいなくなることでモラハラ行為をしなくてよくなるという面があることを知っておきましょう。
また、子どもがいる場合、両親の間でモラハラが行われていることは子どもの健全な成長にとっても良いことではありません。
何よりも、あなた自身の心身が壊れる前に根本的な解決法をとらなければなりません。
結局、ほとんどの場合、モラハラ夫(妻)とは離婚する方向で検討した方がお互いのためになるといえます。
2、モラハラを理由に離婚することはできる?
それでは、モラハラを理由として、離婚することはできるのでしょうか?
離婚できる場合とできない場合に分けて、解説します。
(1)離婚できる場合
まず、相手の同意があれば、モラハラで離婚することができます。離婚はお互いの同意さえあれば、自由にできるからです。
話し合いでお互いが同意すれば、協議離婚が成立します。同意が無い場合には、「法律上の離婚原因」があれば最終的には離婚できます。
モラハラの場合「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかどうかが問題となります(民法770条1項5号)。モラハラの程度が酷く、きちんとこれを証明できる証拠が揃っていたら、モラハラを理由として、裁判で離婚を認めてもらうことができるでしょう。
また、相手が同意していなくて、法律上の離婚原因がない場合や微妙な場合でも、調停をすると、調停委員が相手を説得してくれることがあります。
それにより、相手の気が変わり離婚に同意してくれれば、調停でも離婚することができます。
(2)離婚できない場合
離婚できない場合は、相手が離婚に同意しておらず、モラハラの程度が低い場合やモラハラの証拠がない場合です。
相手が離婚に同意していない以上、協議離婚や調停離婚はできませんし、裁判では証拠があることしか認められないので、モラハラの証拠がなかったら、裁判官は離婚を認めてくれないからです。実際には、モラハラをする人は、離婚を拒絶することが多いです。
そこで、モラハラを理由に離婚したいなら、きっちりモラハラの証拠を集めておくことが非常に重要となります。
(3)できる限り協議離婚をするのが得策
モラハラ夫(妻)と裁判で離婚する方法や、そのための証拠を集める方法についてはこの後ご説明しますが、できる限り話し合いによって協議離婚をするのが得策といえます。
なぜなら、モラハラの事実があったとしても法定離婚原因に該当するとまではいいがたいケースも多いからです。
また、目に見えないモラハラの証拠を集めるのは難しく、証拠があったとしても証明力が弱いことが多いからでもあります。
慰謝料についても、裁判でルールに従って決めてもらうよりも、話し合いで決める方が高額になる可能性があります。
何よりも、既に精神的に傷つけられているあなたにとっては、裁判で時間と労力を消費するよりも、話し合いで早期に解決できるに越したことはありません。
話し合いがまとまらない場合は躊躇なく裁判すべきですが、丁寧に話し合うことによって協議離婚を成立させる方が望ましいということも知っておきましょう。
3、モラハラ夫(妻)と離婚するために準備すべきこと
モラハラ夫(妻)は、離婚に反対することが多いものです。
離婚を切り出すと、モラハラがエスカレートする可能性も高いです。
そのため、離婚を切り出す前に準備をしっかりとしておくことが大切です。
モラハラ夫(妻)と確実に離婚するためには、以下の3つの準備を欠かすことはできません。
(1)証拠を集める
モラハラ夫(妻)が離婚に同意しない場合には、裁判に備えて証拠を集めておく必要があります。
離婚訴訟だけではなく、離婚調停においても証拠は重要です。
モラハラ夫(妻)は外面が良いことが多いので、家庭裁判所の調停委員もモラハラ夫(妻)の言うことを信用してしまい、やり直すように説得してくることがあるからです。
訴訟では、証拠のない言い分は一切通りません。
モラハラの証拠になるものとしては、以下のようなものが中心になります。
- 日記
- 相手の発言を録音したデータ
- 第三者の証言
- 診断書
モラハラは目に見えないものであるだけに、一発で裁判に勝てるような決定的な証拠をつかめることは、あまりありません。
日常生活の中で相手がどのような言動をして、それによってご自身がどのような被害を受けたのかを丹念に記録していくことが重要です。そのために、日記を継続的に書いていくことが基本になります。
相手の発言をボイスレコーダーやスマホを使って録音するのも有効ですが、一つや二つの発言を録音したところで、あまり意味のないことが多いです。
やはり、継続的に数多くの発言を録音していくことが大切です。録音した日時も記録しておきましょう。
それから、モラハラで悩んでいることを第三者に相談していた場合は、その人の証言も一つの証拠として使用できます。
また、モラハラによって心身に不調をきたし、心療内科や精神科などに通院した場合は、診断書を発行してもらいましょう。診断書もモラハラの被害を受けたことの証拠になります。
(2)別居する
モラハラ夫(妻)との離婚を決意したなら、別居した方がよいでしょう。
同居したままでは支配・服従の関係が続いてしまい、その状態で離婚を切り出しても建設的な話し合いができる可能性は低いです。
また、離婚を切り出した途端、モラハラがエスカレートして身に危険が及ぶおそれもあります。
ご自身の精神状態を健全に回復させるためにも、お早めに別居する方が望ましいといえます。
別居することで、本気で離婚を考えていることを相手に示すことにもなります。
(3)第三者に相談する
長期間にわたってモラハラの被害にあっていると、正常な思考力が損なわれている可能性もあります。その状態では、正しい対処法を考えることも難しいですし、そもそも離婚するかどうかを正しく判断できないかもしれません。
そこで、第三者に相談して、冷静な意見をもらうとともに、励ましてもらうとよいでしょう。
ただし、モラハラ夫(妻)には外面が良いという特徴がありますので、相談する相手によっては実情を理解してもらえず、「考え直しなさい」と言われてしまうことがあります。これではご自身がかえって傷ついてしまいますので、本当にあなたのことを考えてくれる人や、弁護士・医師などの専門家に相談するのがおすすめです。
4、モラハラで離婚が成立するまでの流れ
では、実際に相手と離婚するためには、どのような流れで進めていけばよいのでしょうか。
以下で、順序立てて流れをご説明します。
(1)別居する
先ほどもご説明しましたが、離婚を切り出す前に別居を始めた方がよいです。
ただし、別居後はモラハラの証拠を集めることが難しくなりますので、証拠は別居を開始する前に確保しておきましょう。
(2)話し合いをする
別居して落ち着いたら、本格的に離婚を切り出し、相手と話し合いましょう。
ご自身で直接話し合うことは難しいことも多いかと思いますが、その場合は信頼できる第三者や弁護士などの専門家を間に入れて話し合うことです。
こうすることで、相手によっては、配偶者の離婚意思が固いことを理解して、離婚に応じることがあります。
ただ、離婚すること自体には合意ができても、離婚条件の点で合意ができないこともよくあります。
その場合、話し合いによる協議離婚は難しくなります。
離婚を持ちかけると相手が切れたりする等の理由で話し合いが不可能なケースでは、このステップを飛ばして次のステップに進んでもかまいません。
(3)離婚調停
話し合いがスムーズに進まない場合や、話し合いが不可能な場合は、家庭裁判所へ離婚調停を申し立てましょう。
調停では、相手方とは顔を合わせずに、調停委員が間に入って話し合いを進めてくれます。
どのような酷いモラハラがあったかを調停委員に説明して理解してもらい、相手を説得してもらいましょう。
ただし、残念ながら調停委員も相手方の外面を信用してしまい、あなたの言い分を理解してくれない場合もあります。
そのため、調停委員に証拠を示しながら、実情を具体的かつ説得的に伝えることが大切です。
また、別居中は離婚が成立するまでの間、相手方から生活費の一部を支払ってもらうことができます。
相手方に直接請求しても支払ってもらえない場合は、家庭裁判所へ「婚姻費用分担請求調停」も申し立てましょう。
(4)離婚訴訟をする
調停でも相手がどうしても離婚に応じない場合には、離婚訴訟を起こしましょう。
きっちりモラハラの証拠があり、夫婦間の関係が完全に破綻していると認定されたら、判決で離婚を認めてもらうことができます。
また、判決に至るまでに和解の話をすることがほとんどなので、裁判所が間に入ることにより、話し合いによって離婚できる可能性もあります。
5、モラハラ夫(妻)との離婚で慰謝料をもらうことはできる?
モラハラに苦しむ方は、相手から「慰謝料」をもらうことができるのか、関心をお持ちのことが多いでしょう。
結論から言うと、モラハラを理由に慰謝料請求することは可能ですが、すべてのケースで慰謝料がもらえるわけではありませんので、注意が必要です。
(1)慰謝料がもらえる場合
そもそも慰謝料とは、相手の不法行為によって受けた精神的損害に対して支払われる損害賠償金のことです。
慰謝料が認められるためには、ある程度は強度の不法行為が行われたことが必要です。
モラハラの場合は、それなりに酷い行為をある程度の期間、継続して受けた場合でなければなりません。
通常の夫婦喧嘩に毛が生えた程度のモラハラや、多少言い方がきつい、感情の起伏が激しい、などという程度では、慰謝料は発生しません。
一度説教を始めると延々3時間4時間、深夜でもおかまいましで、束縛も異常、わめきだしたら止まらない、そのようなことが週に何度もある、というようなケースで慰謝料が発生すると考えましょう。
なお、どのようなケースでも相手方との話し合いによって合意ができれば、慰謝料を支払ってもらうことは可能です。
しかし、相手方が任意に支払おうとしない場合には、モラハラを証明できる証拠も必要になります。
(2)慰謝料の相場
モラハラの慰謝料の金額は、だいたい数十万円程度となることが多いです。
ただし、モラハラが原因でうつ病を発症したなどの実害が発生している場合には、100万円を超える慰謝料が認められることもあります。
うつ病のために働けなくなったような場合には、逸失利益も含めてさらに高額の請求が可能となります。
(3)慰謝料を増額するコツ
少しでも慰謝料を増額するためには、相手方のモラハラ行為と、ご自身が受けた損害を具体的に立証することです。
幸せな夫婦生活・家庭生活を期待していたのに、相手方のモラハラ行為によってその夢が絶たれたことも主張するとよいでしょう。
それと、実害が発生した場合は、その事実も具体的に立証することです。
うつ病になってしまった場合は、原因や病状、今後に予想される経過などについて、医師に詳しい診断書を書いてもらうとよいでしょう。
6、その他離婚時に決めるべき条件は?
モラハラを理由として離婚するときには、慰謝料以外にもさまざまな条件を取り決めなければなりません。
以下の4つは忘れないように取り決めるか、裁判で請求しましょう。
(1)財産分与
まず、夫婦の共有財産を分与してもらうことができます。
財産分与の対象になるのは、名義のいかんを問わず夫婦の共有財産と評価できる預貯金や生命保険、不動産や車、投資信託や株券、積立金などのすべての資産です。
ただし、相続で得た財産や婚姻前から持っていた財産などの特有財産は対象になりません。
財産分与を計算するときには、上記のような資産を原則2分の1ずつとして分け合います。
財産分与について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(2)婚姻費用
前述したように、離婚前に別居をするときには、相手に婚姻費用を請求することができます。
婚姻費用とは、いわゆる生活費のことです。
適正な婚姻費用の金額は、夫婦のお互いの収入によって決まります。
家庭裁判所の定める婚姻費用の算定表によって、計算しましょう。
婚姻費用について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(3)子どもの親権
相手方がモラハラをしていたからといっても、必ずしもご自身が子どもの親権者になれるとは限りません。
親権者になる方法としては、女性と男性の場合で少し異なる対応が必要です。
①女性のケース
女性の場合、比較的親権を取得しやすいです。
ただ、そのためには、別居時に子どもと離れず、必ず一緒に家を出ることが重要です。
子どもを置いていくと、モラハラ夫にとられる可能性が高まります。
別居後、子どもとなるべく一緒に過ごす時間を作り、子どもが新しい環境になじむことができたら、たいていは女性に親権が認められます。
②男性のケース
男性の場合、モラハラ被害を受けていたとしても、比較的親権をとりにくいです。
特に、働いていて、自分で子どもを見ることができない場合、親権が認められにくい傾向があります。
もし、妻と別居をするなら、絶対に子どもと離れないようにしましょう。
また、仕事を減らしたり時短にしたり、休日は絶対に休むようにして、子どもと一緒に過ごせる時間を増やしましょう。
自分の母親にお願いして同居してもらい、子どもを見てもらうのも良いです。
男性がどうしても親権をとりたいなら、離婚話を持ちかける前に、当初から弁護士とよく相談しながら進めましょう。
(4)養育費
離婚後に未成年の子どもを引き取るときには、相手に対して養育費の請求をすることができます。
養育費の金額も、婚姻費用と同様に、夫婦それぞれの収入によって決定されます。
家庭裁判所の定める養育費の算定表に従って計算すると良いでしょう。
養育費の計算方法について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
モラハラでの離婚に関するQ&A
Q1.モラハラ夫(妻)とは離婚すべき?
以下のような理由からモラハラを受けている場合は離婚を選択肢の1つとして考える必要があります。
- モラハラは命を落としてしまう原因にもなる
- モラハラが治る可能性は低い
- モラハラ行為をする相手は配偶者だけのことが多く、離婚をすることで相手のモラハラが解消されるケースがある
Q2.モラハラ夫(妻)と離婚するために準備すべきことは?
モラハラ夫(妻)と確実に離婚するためには、以下の3つの準備を欠かすことはできません。
- 証拠を集める
- 別居する
- 第三者に相談する
Q3.モラハラ夫(妻)との離婚で慰謝料をもらうことはできる?
慰謝料が認められるためには、ある程度は強度の不法行為が行われたことが必要です。
モラハラの場合は、それなりに酷い行為をある程度の期間、継続して受けた場合でなければなりません。
通常の夫婦喧嘩に毛が生えた程度のモラハラや、多少言い方がきつい、感情の起伏が激しい、などという程度では、慰謝料は発生しません。
一度説教を始めると延々3時間4時間、深夜でもおかまいましで、束縛も異常、わめきだしたら止まらない、そのようなことが週に何度もある、というようなケースで慰謝料が発生すると考えましょう。
まとめ
モラハラ夫(妻)との離婚をいったんは考えても、気持ちが揺れ動いて、どうすればいいのか分からなくなっている方も多いかと思います。
そんな方は、この記事をご参考に、何がお互いにとって最善の選択なのかを理性的に考えるようになさってみてください。
そして、離婚を決意したなら、しっかりと準備を整えて万全の対処をする必要があります。
困ったときや迷ったときには、離婚問題に強い弁護士に相談しましょう。