遺産分割協議とは、相続人による遺産の分割方法に関する協議のことです。
遺産分割協議において、具体的な相続分や、どの財産を誰がどのように引き継ぐのかを決めます。
この遺産分割協議の前に確認しておくこと、実際の遺産分割協議を進める際に注意すべきことがあります。
今回は、
- 遺産分割協議とはそもそも何か
- 遺産分割協議の前提としての相続の基本事項(相続人・相続財産・遺言など)
- 遺産分割協議で特に注意すべき点
- 遺産分割協議書の実際の作成方法
について弁護士がわかりやすく解説します。
遺産分割協議を軸にして考えれば、相続全体の流れと注意ポイントをすっきり理解いただけるでしょう。リーガルモールの参考記事も多数紹介していますのでご活用ください。
本記事が相続のときにお役に立つことを願っています。
目次
1、遺産分割協議とは
相続が発生すると、一つ一つの相続財産が法定相続人の共有になります。このままでは管理にも処分にも支障が生じかねません。
そこで、法定相続人で、誰が、どの財産を、どのように承継するか、話し合って決める必要があります。
これが「遺産分割協議」です。
相続人のほか、割合的な包括遺贈を受けた者も参加します。
2、遺産分割協議に入る前に〜相続の手続き全体を総覧
実際の遺産分割協議に入る前に、相続の手続き全体を簡単に見てみましょう。
(1)遺言書の確認
遺言書は、被相続人の最後の意思表示です。遺言書が有効なものであれば、基本的には遺言書に沿って相続は進められます。
そこで、まずは、遺言書の有無を確認する必要があります。
公正証書遺言ならば公証人役場で保管されていますので、必要書類を持ってお近くの公証役場で調べてもらえば、全国どこの公証役場で保管されていても発見できます。
必要書類については、事前に電話などで確認するとよいでしょう。
自筆証書遺言なら、ご自宅や銀行の貸金庫など探してみましょう。
自筆証書遺言は、家庭裁判所で検認という手続きを経る必要がありますので、見つけても勝手に開封しないように気を付けましょう。
2020年7月1日から、自筆証書遺言を法務局で保管してもらう手続きも開始されました。被相続人がこの制度を利用しているか(自筆証書遺言が預けられているか)を確認するためには、法務局に遺言書保管事実証明書の交付を請求します。
この自筆証書遺言保管制度を利用している場合には、家庭裁判所での検認の手続きは不要です。この制度により、今後は、遺言書の紛失や隠蔽といった問題が少なくなることが期待されています。
(2)相続財産の確認
相続財産としてどのようなものがあるかを確認する必要があります。
現預金、不動産、有価證券などのほか、借金などマイナスの財産も相続で承継されます。
遺言書がある場合も、遺言書ですべての相続財産に触れられているとは限りませんので、相続財産の確認は必要です。
詳細は次の記事を参照してください。
(3)相続人の確定
前述のとおり、相続が発生すると、一つ一つの相続財産が法定相続人の共有になります。
法定相続人が誰なのかを確認しないと、遺産分割協議もできません。
誰が法定相続人であり、どのように調査するかは、次の記事で確認してください。
(4)遺産分割協議
相続財産も法定相続人もはっきりすれば、遺産分割協議を行います。
遺言書があったとしても、法定相続人全員の合意で遺言と異なる遺産分割をすることも可能です。
とはいえ、遺言で法定相続人以外に受遺者がいれば、その権利を侵害する事は原則としてできません。
詳細は次の記事を参照してください。
3、遺産分割協議の基本
ではいよいよ、遺産分割協議を進める上で、知っておくべき基本を解説していきます。
(1)誰が、何をどれだけ相談するか決める基準(法定相続人・法定相続分)
①誰がどれくらいの相続分をもらうかを決める
遺産分割協議では、誰が何をどれだけ相続するかを決めますが、その前提として法定相続人の法定相続分はどれだけなのか確認しておきましょう。
法定相続人は、配偶者と一定範囲の血族です。
配偶者は常に相続人です。血族相続人については、次のように順位が決まっています。
第1順位:子(相続時に亡くなっていれば、孫が代襲相続、孫も既に亡くなっていればひ孫が再代襲相続)
第2順位:直系尊属(父母。養親を含む。亡くなっていれば祖父母)
第3順位:兄弟姉妹(相続時に亡くなっていれば、甥姪が代襲相続)
法定相続分は、配偶者とそれ以外の相続人のいる場合は、次のとおりです。
配偶者 (常に相続人) | 血族 | 法定相続分 | |
配偶者 | 配偶者以外の相続人 | ||
配偶者 (事実婚は含まず) | 第1順位 子(養子も含む) 子が亡くなっていれば孫が代襲相続 | 2分の1 | 2分の1 |
第2順位 直系尊属(父母、養父母) 父母、養父母が亡くなっていれば、祖父母 | 3分の2 | 3分の1 | |
第3順位 兄弟姉妹 兄弟姉妹が亡くなっていれば、甥、姪が代襲相続 | 4分の3 | 4分の1 |
②相続財産の評価
法定相続分を考慮して相続人の協議で相続財産を分けるという場合、そもそも相続財産はどのように評価されるかを把握しておく必要があります。
例えば、相続財産に、現金のほか不動産と株式があったとしましょう。現金については金額が数値化されていますから2分の1や3分の1がいくらになるのかわかりやすいですが、不動産や株式について、2分の1と言われても、物理的に切り分けるわけにはいきませんので、それがどのくらいになるのかすぐには把握できないと思います。
このように、現金など金額が数値化されているもの以外については、それがいくらになるのかについて「評価」を行わなければ、公平な分配ができないことがお分かりいただけると思います。
また、相続財産の評価額は、相続の際に納める相続税の申告の際にも必要になります。不動産などについては、相続税の計算においては、一般に取引される市場の価格とは計算の仕方が異なります。
株式等の価格変動があるものについては、相続税の申告に当たってはどのように評価するかも定められています。
相続財産評価の詳しい内容は、次の記事を参照してください。
(2)被相続人・相続人等の相続前の行為を受けて調整する
相続は、相続開始時(被相続人が他界した時)の財産をベースに遺産分割をするのが基本です。
しかし、被相続人の生前に、被相続人や相続人等について、以下のような行為があった場合には、一定の調整が必要な場合もあります。
①特別受益
被相続人が、生前に、特定の相続人に対して資産を贈与していたり、遺言によって遺贈している場合があります。
これらを「特別受益」と言い、法定相続人間の公平を図るために、このような特別受益は、その財産を計算上相続財産に含めて相続分を算定します(特別受益の持ち戻し)。これは、生前贈与や遺贈により利益を得た相続人が損をしないための制度です。
詳細は次の記事をご覧ください。
②被相続人に尽くした人への配慮(寄与分・特別寄与料)
共同相続人の中で、被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした人がいる場合があります。たとえば、通常であれば老人ホーム等に入所して介護を受ける状態であるところ、相続人のうち1人が同居して、介護を行ったために、老人ホーム代などの支出をせずにすんだという場合をご想定ください。
その場合は、その寄与分を金銭的に評価した額を控除したものを相続財産とみなして、相続分を算定し、寄与者は相続分に加えて寄与分を受け取ることができ、共同相続人間の公平を図られます。
また、共同相続人以外でも、例えば、長男のお嫁さんが被相続人の看護介護に献身的に尽くしたような場合には、それにみあって「特別寄与料」として相当な金額を受け取れる制度も創設されました。詳細は次の記事を参照してください。
(3)相続人の中に「配偶者」がいる場合は配偶者居住権を検討
相続人の中に、被相続人の配偶者がいた場合、相続の後も自宅に住み続けることができるよう、特別な制度が設けられています。
1つは、配偶者長期居住権です。仮に持ち家の所有権がなくても、亡くなるまで無償で被相続人の持ち家だった家に居住できる権利です。これにより、現金など、自宅以外の相続財産を受け取れる可能性が増えました。
これは、被相続人が遺言によって配偶者に遺贈するか、遺産分割協議において共同相続人全員が同意する必要があります。
また、遺産分割や遺贈でこの配偶者長期居住権を取得できなかった場合も、「配偶者短期居住権」で、遺産分割の終了か相続開始から6ヶ月間のどちらか遅い方まで無償で居住できます。詳細は次の記事を参照してください。
(4)遺産分割協議は全員の合意が必要
遺産分割協議は、共同相続人全員の合意があって初めて成立します。1人の反対者がいても成立しません。
前述の通り、相続により相続財産は全相続人の共有の状態になっているためです。
なお、遺産分割協議は一旦成立すると、原則としてやり直しはできませんが、例外的に、全員の合意があればやり直しが可能です。
現実には、遺産分割協議がどうしても成立しないこともあります。相続人間の確執といったことだけでなく、相続財産が自宅だけで分割方法が決まらないとか、多額の借金があって対応の仕方について意見が割れるなど、遺産分割協議が成立しないことには、様々な場合があります。
このような場合は、最終的には家庭裁判所の調停や審判を利用することが可能です。調停は、話し合いの手続きであるという点は遺産分割協議と同様ですが、裁判所が指揮してくれますので、話し合いが進みやすくなることも多いです。
遺産分割調停・審判は、専門知識が必要となる場面も多いですから、事前に弁護士と相談し、実践的な解決策を探ることをお勧めします。詳細は次の記事を参照してください。
4、遺産分割協議の進め方
では、いよいよ遺産分割協議を進めていきましょう。実務的な注意点を確認しておきましょう。
(1)全員の合意を取り付ける
法定相続人全員が一堂に会して協議するのが原則的なやり方ですが、最終的に全員の合意が得られれば良いので、原案を作成して、個別の意見を聞いていくというやり方でも差し支えありません。最近では、ZOOM などで遠隔地の相続人と打ち合わせるということでも構いません。大切なのは全員が遺産分割の内容に合意していることです。
(2)分割の仕方は自由・様々な要素を総合考慮する
遺産分割協議において、誰がどの財産をどのように承継するかを話し合うにあたっては、一般的には、前述の法定相続分のほか、特別受益、寄与分などを考慮して話し合いが進められます。相続人に配偶者がいる場合には、配偶者居住権を検討してもよいでしょう。
もっとも、全員の合意が得られるのであれば、遺産分割でどの財産をどのように承継するかは自由に決めることができます。
したがって、事業を引き継いだ長男に多くの配分をする、経済的に困っている相続人に配慮するなど、全員の合意が得られるのであれば、法定相続分にこだわる必要はありません。
また、マイナスの財産、すなわち借金などがある場合、相続人間でどのように負担するかはしっかり決めるべきです。ただし、借金(債務)について、相続人間で負担割合を決めたとしても、それを債権者に対抗することはできません。債権者との関係では、法定相続分に応じて債務を引き継いでいることになります。
マイナスの財産があまりにも多い場合には、相続放棄や限定承認といった方法で負担を免れることも検討する必要があるでしょう。相続放棄は全員で合意する必要はなく、1人でも行うことが可能です。限定承認は共同相続人全員の合意が必要です。いずれにせよ、自らのために相続が開始されたことを知った時から3か月以内に行わなければなりませんので、早めに決断する必要があります。
さらに、生命保険金や死亡退職金など、相続財産以外で相続に起因して相続人の誰かが受け取ったものがある場合、遺産分割協議においては、その分も考慮して具体的な相続分を合意することもあります。
これらについては、次の記事を参照してください。
5、遺産分割協議がまとまったら遺産分割協議書を作成
(1)遺産分割協議書を作成しよう
遺産分割協議がまとまったら、遺産分割協議書を作成します。
一堂に会して作成することはもちろん、原案を作成して、郵送で持ち回して署名押印する方法でも構いません。
遺産分割協議書は、法定相続人全員の署名押印がなければ有効にはなりません。押印は実印で行い、印鑑証明書を添付します。
通常は、相続人の一部が遠隔地に住んでいる場合も、1枚の遺産分割協議書を順番に郵送して回していき、1枚の遺産分割協議書に順番に署名押印していきます。
それも難しいという場合には、「遺産分割協議証明書」という書式で相続人1人ひとりに署名押印してもらう、という方法も可能です。
(2)遺産分割協議書の記載内容・形式など
ポイントは次の4つです。参考記事で雛形も示していますのでご確認ください。
①誰が何を取得するのか明記すること
遺産分割協議書は、その後に法務局での登記や銀行での払戻し手続きをするのに使いますので、具体的な記載内容で手続きが進められるかについて注意する必要があります。
②財産・債務は、もれなく具体的に明記すること
例えば、不動産については、登記事項証明書の通りに正確に記載しなければなりません。また、銀行の預金については銀行名・支店名・種別・口座番号・名義などを正確に記載します。
なお、前述の通り生命保険金・死亡保険金は受取人が固有の財産として直接取得するため、原則として遺産分割の対象ではありません。したがって、遺産分割協議書には記載しません。受取人が「相続人」となっている場合など、相続財産となる場合には、遺産分割協議書に記載が必要です。
③遺産分割協議後に相続財産が判明した場合の取り扱いを記載すること
遺産分割協議後に判明した遺産があった場合を想定して「上記記載以外の財産は、別途協議する。」といった記載を入れておくと、協議後に相続財産が判明した場合の取扱いがはっきりします。
④ページ数が複数にわたる場合の割印など細かな形式にも注意すること
細かな形式をしっかり守らないと、不動産登記や銀行の手続きなどができないといった問題が生じることがあります。細部にも気を使って完成させましょう。
以上については、次の記事で雛形なども掲載していますのでご確認ください。
(3)遺産分割協議書を公正証書にすることも検討
遺産分割協議書は公正証書にしなければならないわけではありませんが、公正証書にすることで得られるメリットがあります。手間と費用はかかりますが、財産内容や協議の過程でもめていたかどうかなどに応じてご検討ください。
公正証書とすることのメリットとしては、
①公証人の関与で必要書類を整理できること
②公証人が作成するので信用力が高く、20年間保存されること
③遺産分割協議後に紛争が起こった場合、強制執行認諾文言をつけておけば、直ちに強制執行が可能であること
が挙げられます。
公正証書を作成するにあたっては、公証役場で公証人の指示に従って対応します。
一般には、次のような資料を整えて(これ以外にも公証人の指示があれば必要な書類を準備します)、公証役場で公正証書を作成してもらいます。
- 公正証書作成の基礎となる資料:遺産分割協議書の案、メモ書き程度のものでも足りることもあります。
- 被相続人の戸籍謄本等:誕生~死亡までの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本など
- 相続人の戸籍謄本
- 相続人の印鑑登録証明書・実印
- 不動産についての証明書類:固定資産評価証明書、登記事項証明書等
- 金融資産についての証明書類:預金通帳、有価証券の残高証明書等
- 負債についての証明書類:借入先の残高証明書等
また、公証人に手数料を支払います。遺産分割協議書は法律行為にかかる書類であり、その手数料は公証人手数料令で定められています。
遺産の価格が100万円以下なら一律5,000円、100万円超200万円以下なら7,000円などと定められており、5,000万円超1億円以下なら43,000円となります。
6、遺産分割協議がまとまらない場合の対処法
(1)相続人その他関係者が多い場合は早期に弁護士にご相談を
相続人、受遺者、特別な寄与をした人など関係者が多い場合には、遺産分割協議がまとまらないこともままあります。
仲がよかった親子兄弟でも、多額の相続財産が降って湧いたように現れると、冷静さを失うことがあります。相続人そのものでなく、その配偶者が乗り出してきて、できる限り多額の財産を得ようとして紛争になることも少なくありません。
相続人など関係者だけの冷静な話し合いでは解決できないことも、しばしば起こります。
そのようなときは、相続関係に詳しい弁護士に早期にご相談され、場合によっては、協議について代理人として参加してもらうことが良いでしょう。
相続に関しては、協議で合意できないときは、早期に調停や審判に移行した方が良い場合も多く、その場合も、弁護士にご相談、ご依頼されれば適切に対応してもらえます。
(2)遺産分割協議がまとまらない場合は調停を検討
一部の相続人の理不尽な要求がある等理由は様々ですが、どうしても協議がまとまらないことはあります。
そのような場合には、家庭裁判所での調停・審判をご検討ください。
裁判所を利用することに抵抗のある方もいらっしゃることと思います。
しかし、調停を利用することで、話が前に進むということもありますので、遺産分割協議がまとまらないという場合には、調停を利用することもぜひご検討ください。
その際には、弁護士にご相談されることをお勧めします。
対応については、次の記事を参考にしてください。
まとめ
遺産分割協議が成立することで、ようやく財産を取得することができます。
相続人や相続財産の確定、確定した相続財産をどの割合でどのように分けるかなど、話し合うべきことが多く、悩まれることも多いと思います。
そんなときに、この記事が参考になりますと幸いです。
また、実際に遺産分割協議を進める中で、不安な点や疑問に思われる点がある場合や、どうしても合意できないという場合には、早期に弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
ご納得のいく遺産分割協議とするための助けになりましたら幸いです。